月: 2016年12月

管弦楽曲名盤試聴記

チャイコフスキー 序曲「1812年」 ムソルグスキー 交響詩「はげ山の一夜」 リムスキー=コルサコフ 「スペイン奇想曲」 リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」 R・シュトラウス 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 R・シュトラウス 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」 シベリウス 交響詩「フィンランディア」 ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」 ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」 レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」 ホルスト 組曲「惑星」 ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」(ラヴェル編) レスピーギ 交響詩「ローマの松」 コダーイ 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」 レスピーギ 交響詩「ローマの祭り」

マーラー 交響曲第9番

マーラー:交響曲第9番ベスト盤アンケート

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、残響に乏しい音場に孤立感があります。ちょっと不安定なホルン。すこし速めの第一主題。僅かに控え目な第二主題。金管の見事なアンサンブル。シンコペーションがとても強調されていて、裏で動く金管もとても克明です。荒れ狂うようなことは無く、整然とした演奏です。ベルリンpoも余裕を持って美しい演奏を続けています。消え入るような最弱音に引き込まれます。色彩感もとても豊かです。強烈なエネルギーの銅鑼の一撃に続いてこれまた強烈なトロンボーンのシンコペーション。色んな楽器が交錯して行くところをとても立体的に表現します。すばらしい表現力です。弱音部で演奏されるソロ楽器がそれぞれしっかりと立っていて、強い存在感を主張します。柔らかく美しい楽器が連なったコーダでした。

二楽章、くっきりと立ったクラリネット、穏やかなホルン。活発な弦。ホルンがトリルをたまにクレッシェンドします。しっとりとした弦の響きがとても美しい。Bへ入っても急激なテンポの変化がなくすんなりと入りました。金管楽器は若干抑え目で、弦を主体に音楽が作られて行きます。穏やかなC、木管楽器が生き生きと演奏します。二度目のBは一度目よりも速いテンポでスピード感があります。造形が整っていてとても美しい構造の演奏です。Aの再現はとてもゆったりとしたテンポで始まりました。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。Bが再現するあたりからホルンの低い音が強烈に響きます。次第にテンポを上げてかなり早くなったところでAが再現します。どの楽器も極上の響きで登場するあたりはさすがにベルリンpoと思わせる演奏です。最後は少しテンポを落として終りました。

三楽章、明快な金管。活発な動きで生き生きとした音楽です。彫りの深い音楽で、とても克明に描かれています。金管はかなり強奏しますが、理性の及ぶ範囲にとどまっています。Bも豊かな色彩です。美しい造形を保ちながら深い彫琢の音楽が繰り広げられます。最後はベルリンpoの上手さを見せ付けるように豪華絢爛な響きで終りました。

四楽章、緊張から穏やかで安堵感のある音楽に移行する弦の第一のエピソード。すごく弱く演奏されたファゴット。控え目なホルン。ヴァイオリン独奏などの弱音部に凄いエネルギーが込められています。弦楽合奏も凄いアンサンブルの精度で、他にも重なり合う管楽器も有機的で、カラヤンの見事な統率が伺えます。弱音に込められるエネルギーと言うか魂とでも言えば良いのか、凄い雰囲気です。第二のエピソードでも弱音で木管の発するメッセージの強さと美しさの引力に引き込まれそうになります。クライマックスでの伸びやかなトランペットもすばらしい。次第に惜別の悲しさを訴えて来ます。この世のものとは思えないような美しいコーダ。別れ際にそっと抱きしめられるような別れです。

これほど有機的な演奏に出会うことはめったに無いと思います。すばらしい演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

マ>icon★★★★★
一楽章、ゆったりとしたテンポで暗闇に浮かび上がる楽器が神秘的です。とても感情のこもってたっぷりとした表情で穏やかな第一主題です。ホルンの二度下降動機から暗転します。金管もかなり強奏します。凄い金管の咆哮。音楽の振幅がものすごく激しいです。くっきりとしたくま取りで積極的に表現します。同じベルリンpoでもカラヤンの演奏とはかなり違った作品への没入です。作品と一体になったバーンスタインが強いエネルギーを発散しています。一音一音に意味を持たせたような生命感に溢れる演奏です。コーダの前のホルンも美しい。コーダのヴァイオリン独奏も柔らかく美しい。

二楽章、快速なテンポで抜けの良いクラリネット。とても積極的で表情豊かで生き生きした演奏です。途中から入ってくる楽器が思いっ切り良く入って来ます。Bからもにぎやかで活気に満ちています。Cは少しテンポを落として穏やかな表現ですが時折顔を出すAの要素はとても活気に溢れています。とにかく生き物のように音楽が動き回ります。再び入るCへはゆっくりと入りました。音一つ一つに強いエネルギーがあって、この時の演奏の集中度の高さを感じさせます。

三楽章、トランペット、弦、ホルンの入りに独特の間があります。トランペットとホルンの間に入る弦がもの凄い勢いとエネルギーでした。とても積極的な表現で、入ってくる楽器が思い切って強く入りますのでとても色彩感も濃厚です。柔らかい部分と激しい部分の描き分けがとてもはっきりしています。最後は強烈に荒れ狂って終りました。

四楽章、冒頭の緊張感から穏やかで心安らぐ主要主題へと引き継がれます。非常に感情のこもった、思い入れたっぷりのメロディーが波のように押し寄せる演奏です。抑揚があって大きく歌います。すごい感情移入で、こちらも引きずり込まれます。太く艶やかなヴァイオリン独奏。一つ一つの音に強いエネルギーがあって、とても感動的です。音楽が次々と湧き上がってきてとても豊かです。第二のエピソードの前では、バーンスタインの唸り声も聞こえます。強烈に叫ぶトランペット。一つ一つの音に感情が込められていて、とても重い。コーダに入っても一つ一つの音には力があり、浮遊感はありません。別れの悲しさはあまり感じませんでした。

レナード・バーンスタイン/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ゆっくりと丁寧な冒頭。柔らかく豊かな第一主題。第二主題の分厚い響き。濃厚な色彩で描かれて行きます。非常に重い展開部冒頭。別れの切なさを切々と歌います。輝かしいブラスセクション。別れの空虚さを何度も垣間見せます。オケは気持ち良いくらいに鳴り響きます。トロンボーンのシンコペーションも凶暴です。ミュートを付けたトランペットの音がキリッと立っていて演奏の集中度の高さを感じさせます。コーダ手前のハープに導かれるホルンやクラリネットもとても美しい。寂しげなコーダ。

二楽章、くっきりと美しいクラリネット。控え目なホルン。艶やかで美しい弦。登場してくる楽器が有機的に結びついて生き物のように生き生きとした演奏です。オケがコンセルトヘボウだからと言うこともあると思いますが、とにかく色彩が豊かで、濃厚で油絵を見ているような感覚です。目の覚めるようなシンバル。ビンビン鳴り響くトロンボーン。どの楽器をとってもすばらしい!最後のAが出現するところの急激なテンポの変化(遅くなる)には驚きました。

三楽章、最初のトランペットとホルンの間に「間」がありました。少し速目のテンポで進みます。強弱の振幅が非常に大きく、とてもドラマティックな演奏です。最後は雪崩れを打って押し寄せるように終わりました。

四楽章、感情のこもった深い歌です。泉からこんこんと水が湧き出すように絶え間なく豊かに歌い続けます。不気味な雰囲気のファゴットのモノローグ、艶やかなヴァイオリン独奏。生前の幻影を見るかのように寂しげな第2エピソード。バランスのとれたクライマックス。夢見心地のようなコーダ。死に絶える人を暖かく包み込むような、悲しみの中にも暖かみのある演奏です。

ブルーノ・ワルター/コロンビア交響楽団

icon★★★★★
一楽章、暗闇の中から光が見えるような序奏。序奏の緊張を解きほぐすように柔らかく安らいだ心地の第一主題。第二主題が現れると暗雲が立ち込めるように暗転します。ティンパニの激しいクレッシェンド。とても微妙な表情付けがされています。金管も遠慮なく強奏します。オケも力強くしかも、この当時の録音を考えるととても美しい。この曲の初演者の自信なのか、作品への共感と堂々としたスケールの大きな演奏には感動させられます。うつろでさまようような表現も見事です。銅鑼の強打の響きとバランスの取れたトロンボーンのシンコペーション。音楽が立体的で生命感があってすばらしい。コーダ手前のホルンとフルートの絡みの部分のオケの響きにも独特の深みがあって、なかなか聞きものです。すばらしい第一楽章でした。

二楽章、ゆったりとしたテンポで、優雅に舞うように始まりました。響きに透明感があって、とても美しい演奏です。Bはかなり速いテンポですごく活発です。アーティキュレーションの表現にも敏感でとても生き生きしています。Cは一転して穏やかで対比が見事です。再び現れるBでもバッチリ決まる打楽器が気持ち良い。再びのCでは寂しげな雰囲気。Aの再現では暗い影が現れ荒れ模様に。最後のAに入る時にホルンが大きくリタルダンドしました。表現も色彩感もとても豊かで、コロンビア交響楽団が寄せ集めのオケだとは思えないすばらしい演奏です。

三楽章、深みのあるコントラバス。張りのある金管。どの楽器も強い音で交錯します。Bになり少し穏やかになりますが、依然として活発な楽器の動きがあります。二度目のBでも勢いのあるブラスセクション。普段は温厚で暖かい音楽を作るワルターの人が変わったような激しい演奏です。Cで穏やかな安らぎのある音楽になりました。終盤のAの緊張とCの穏やかさの対比がすばらしい。最後はかなり強烈なトゥッティでしたが、しっかりとワルターが手綱を締めていて、暴走はありません。

四楽章、大きく歌うヴァイオリンの主要主題。次から次からと旋律が湧き上がってくるような自然な音楽です。ファゴットは少し音を短めに演奏しました。第一のエピソードが高まる部分は非常に感情がこもっていて感動的です。独奏ヴァイオリンも美しい。第二のエピソードは憂鬱で孤独な感じを表しています。クライマックスの激しい金管の演奏も強烈ですが、伸びやかなものでした。暖かい別れでした。

最近の演奏からすると一時代前の演奏かも知れませんが、この作品の初演者としての自信と共感に溢れるすばらしい演奏でした。

レイフ・セーゲルスタム/デンマーク国立放送交響楽団

セーゲルスタム★★★★★
一楽章、非常にゆっくりとした冒頭。アウフタクトから強拍に繋がる表現が見事な第一主題。うごめくような第二主題。色彩感も豊かで、ダイナミックの変化の幅も大きい演奏です。展開部の手前の、分厚い響きのトゥッティ。オケのエネルギー感も相当なものです。ちょっと内側を叩いたようなベタッとしたティンパニの響き。展開部に入って暗い音楽が続き、ハープが出て第一主題の変形が現れると薄日が差すように明るい雰囲気になります。録音も良く、音が立っていて、金管も迫力があります。トロンボーンのシンコペーションはチャーバとのバランスの良い響きでした。葬送行進曲のミュートをしたトランペットのシャキッとした音。冒頭とは違い少し華やいだ再現部。穏やかで美しいコータ゜。

二楽章、ゆったりとしたテンポです。柔らかいホルンが美しい。Bは速いテンポです。Cの何とも言えないのどかで穏やかな雰囲気。音楽にどっぷりと浸ることができます。楽器一つ一つがしっかりと立っていて、しかもとても透明感が高い演奏で、聞いていて嬉しくなります。

三楽章、情報がスッキリと整理されていて、とても見通しの良い演奏です。アゴーギクを効かせたり、テンポを頻繁に動かしたりしているわけではありませんが、とても密度の高い演奏で、濃厚です。テンポを落とした部分では、一音一音心を込めるような丁寧な演奏で、力で押すような演奏ではなく、心を動かされます。最後は少しテンポを上げてにぎやかに終わりました。

四楽章、ゆっくりと感情を込めた序奏。大切なものを扱うように丁寧な主要主題はすごく感情がこもっています。控え目なファゴットのモノローグ。第一のエピソードの弱音部分はとても繊細で美しい表現です。ホルンの主要主題の後の弦の充実した響きもとても美しい。切々と語りかけるような演奏が続きます。第二のエピソードの導入部は僅かに速めのテンポです。トランペットが強いクライマックス。クライマックスを過ぎて、コーダに至るまでの間は、夕暮れを思い出させるような、切なさを感じさせる演奏でした。コーダは大切な人との別れを涙にくれながらもしみじみと味わうような温かいものでした。

非常に濃厚で深い音楽を聞かせてくれました。すばらしい演奏だったと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2004年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、深い息遣いの第一主題。騒ぎ立てずに落ち着いた第二主題。盛り上がりのエネルギーはすごいです。展開部は暗闇の中を手探りで進むような感じから次第に明るくなっ行く感じです。オケはとても良く鳴ります。自然な流れで演奏されているような感じですが、実際にはかなり細部にわたって緻密な表現がなされています。普段のハイティンクの演奏ではめったに聴かれないような、オケの限界ギリギリの咆哮で、すごいです。再現部も波がうねるように色んな楽器が絡み合って、深い表現をします。緊張から解放されたようなコーダ。穏やかな部分と激しい部分の起伏の大きな演奏でした。

二楽章、とても軽く始まりました。弦が入るところは心持ちテンポを落としました。この楽章でも起伏の激しい演奏です。底から突き上げるようなコントラバス。ほとんどテンポを変えずにBへ入りました。次第にテンポを上げて、とても生き生きとした表情です。Cも動きがあって、穏やかと言うよりも生命感があります。色彩感も濃厚です。二度目のBもとても明瞭な表現で、オケが生き物のように活発に動きます。深いところから湧き上がるような音色がとても魅力的です。ホルンが遠慮なく吹きまくります。穏やかななって終わりました。

三楽章、比較的ゆっくりの序奏からAに入ると一転して速いテンポになります。滑らかに演奏されるB。Cは少し細身のトランペットです。オケがハイティンクの音楽を献身的に表現しようとしているように感じます。最後はとても賑やかで、色彩のパレットを広げたような眩い演奏です。急激な追い込みは無く、わずかにテンポを速めて終わりました。

四楽章、内面から湧き上がるような序奏。大きく捉えて歌われた主要主題。うら寂しい第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏。川の流れのように豊かな弦楽合奏。感情のこもった高まりです。第二のエピソードは入ってくる木管が細心の注意を払って入って来ます。夕暮れの寂しさのような感じがしました。音の洪水のようなものすごいクライマックスです。消える寸前のロウソクが強い光を放つように、金管が音を放ちます。そして、死へ向かって次第に衰えて行きます。雪が降る寒い夕暮れの別れです。心が抉られるような深い音楽です。

とても起伏の激しい演奏でした。生命感に溢れた生き物のような音楽から、次第に力が衰えて悲しい別れに至るまでを見事に表現しました。とても感動的なすばらしい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★★
一楽章、暗闇の中で探るような冒頭部分。ゆっくりと美しい第一主題。バランスの良い金管。ライヴならではの熱気も感じられます。穏やかな部分ではもっとゆったりとたっぷりと演奏して欲しい部分もありますが、速めであっさりと進みます。第三主題のクライマックスも爆発することは無く控え目でした。金管には熱気とともに感情のこもった強い響きがあります。コーダの手前のホルンは筋肉質でライヴとは思えない良いバランスです。コーダのヴァイオリン独奏は枯れた響きで黄昏感があります。

二楽章、抜けの良いクラリネット。締まりあって活発な表現です。Bへ入ってもあまりテンポは変わりません。積極的な表現で訴えかけて来ます。色彩の変化も見事に表現しています。最後のBではテンポをかなり速めます。

三楽章、ミュートを付けた金管が激しい。ライブでありながらキチッと整ったアンサンブルを聞かせるオケはさすがです。別れの寂しさを予感させるトランペット。最後のホルンやトランペットの強奏はなかなかでした。

四楽章、暖かみがあり感動的な主要主題。ホルンの主要主題も感情がこめられて深みがあります。寂しげなヴァイオリン独奏。寂しさはありますが、感情が込められて暖かい響きです。第二のエピソードも物悲しいですが、響きには力があって、熱気を感じます。クライマックスで強力なトランペットやホルンが情感豊かに演奏します。寒々としたコーダ。こんなに同じ曲で温度感を変えるとはすごいことです。ゆっくりと歩いて去っていくような別れでした。

ライヴならではの熱気のこもった演奏で感情をこめた深みのある表現もとても良かったですが、四楽章コーダの寒々とした表現は同じ曲の中でこれだけ温度感を変えることができるなんてとても驚きでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、とてもゆったりとしたテンポで始まりました。ショルティと同じオケとは思えないような柔らかい音です。とても優しい表情の演奏です。金管も余力を残した上にバランスを重視した美しいハーモニーです。どことなく寂しげな表情が「別れ」の切なさを感じさせます。ミュートをつけたトロンボーンの見事なアンサンブル。どのパートも絶妙なアンサンブルを聞かせます。そして、この演奏が持っている独特の寂しさ切なさは特筆に価します。鐘も柔らかい響きです。これだけ悲しい陰を引きずりながら聴き手の心を揺さぶる演奏はすばらしいです。コーダからもとても切ない。

二楽章、ゆったりとしたテンポでふくよかな響きです。テンポの変化は僅かで流れが良いです。ショルティ/シカゴsoのようなしゃかりきになって演奏しているような雰囲気はなく、とても柔らかい音色で心なごむ演奏です。細かなことは考えずにジュリーニの音楽に身を任せて流れていく音楽にどっぷりと浸っていたいように気持ちにさせる演奏です。音楽を聴く喜びを心から感じさせてくれる演奏だと思います。木管楽器もとても美しく生き生きとした表情です。

三楽章、豊かにホールに音が広がります。この楽章もゆったりとしたテンポで確実な足取りです。トロンボーンは低音が一体になっているところはとても重量感ある音です。後半、少し動きが少ない部分ではとても雄大なクライマックスでした。最後も力みのない終結でした。

四楽章、祈るような冒頭。惜別の思いが込み上げてくるような主要主題です。天国から聞こえてくるよあなホルンの主要主題。一つ目の山に向かって語りかけるように感動的な演奏をする弦楽。艶やかな独奏ヴァイオリンと潤いのある木管がとても美しい。抑え気味のクライマックスでした。とても幻想的な雰囲気のコーダ。

一楽章のすばらしい出来に続く楽章がいまひとつだったのはとても残念です。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、断片的に登場する楽器が浮き上がります。穏やかな雰囲気の第一主題。不安を掻き立てるかのような第二主題。金管の緊張感と弦の開放感が上手く演出されています。展開部の抑えぎみのトロンボーン。印象的なハープの響き。ミュートをしたトロンボーンのすばらしいアンサンブル。クライマックスでも各パートが溶け合った力強い響き。鐘が演奏される前のミュートを付けたトランペットがホールの残響を伴って浮かび上がりました。鐘は柔らかい響きです。コーダの前のホルンとフルートの掛け合いも美しく、オケの実力の高さを伺わせます。コーダの独奏ヴァイオリンと木管、ホルンも淡い色彩でとても美しい演奏でした。

二楽章、軽快なテンポで始まりましたが、弦の入りで一旦テンポを落としてまたテンポを戻しました。テンポが上がってトロンボーンの強奏は分厚い響きで見事でした。ホルンの速いパッセージを活気溢れる演奏で盛り上げます。強いグロッケンがカチーンと来ました。フルートのフラッターが良く聞こえます。テンポは微妙に動きます。

三楽章、直接音と直接音の間をホール内に飛んでゆく音が豊かに響きます。いろんな音が乱れ飛ぶように激しい演奏です。がっちりとした骨格の上に音楽が作られているような安定感と精度の高さを感じます。激しい演奏ではありますが、オケは常に余力を残して美しい音の範囲で演奏しています。気持ちよく鳴り渡るホルン。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。最後はそんなにテンポを上げることはありませんでした。

四楽章、必要以上の感情移入を避け、作品の本質に迫ろうとするような演奏です。大河の流れのようにとうとうと流れる弦楽合奏。自然な音楽の流れに身を任せているととても心地よい気分です。木管の寂しげなメロディはこの世との別れを惜しんでいるかのようです。クライマックスでの金管のパワーも凄い!コーダは静寂の中に弦楽合奏が浮かび上がります。死に行く者の体をそっとさするように大切に大切に、そして消え入るように演奏されています。マーラーの指示通りに死に絶えるように消えて行きました。

見事な構成力でダイナミックな最強音から消え入るような最弱音まで幅広い音楽を聴かせてくれました。すばらしい演奏でしたが、もっと感情の吐露があっても良かったのではないかと思いました。

クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、深く刻むハープ、ビーンと長く尾を引くホルン。柔らかい響きの第一主題。どれもとても美しい。深みのあるティンパニ。音楽のコントラストがはっきりしていて、濃淡や明暗の変化がとても分かり易い演奏です。テンポはどちらかと言うと速めのテンポでどんどん進んで行きます。トロンボーンのシンコペーションは強烈でした。全体の響きは透明感があり美しいです。太く豪快な線はありませんが、繊細でエレガントな美しさがこの演奏の特徴のようです。

二楽章、ファゴットの後の弦を一旦大きくテンポを落としてから入りました。深々とした厚い響きがすばらしいです。テンポは何度か変化します。Bはかなりれ速めのテンポです。品良くくどくならない程度に歌っています。Cでゆったりとテンポを落として豊かな響きです。オケはとても良く鳴り聞いていて気持ち良い響きです。再現するBはかなり速いです。

三楽章、コントラバスの豊かな響きが全体の響きに厚みを持たせ大きく広がります。深い感情移入をするようなタイプの演奏ではありませんし、スケールの大きな演奏でもありませんが、非常に美しくスタイリッシュな演奏です。

四楽章、暖かく包み込まれるような主要主題。第1のエピソードの部分では、弦が重なりあって盛り上がりますが、深く感情移入することはありません。第2のエピソードでも寂しさを強調するような表現はありません。作品を強調することは無く、作品をありのままに表現しているようです。オケの能力をフルに発揮した輝かしいクライマックスです。コーダへ向かって黄昏て行く雰囲気はなかなか良く、次第に力を失って行くような感じが出ています。コーダは消え入るような弱音で、寒さの中での別れのような雰囲気でした。

作品に没入して感情表現するような演奏ではありませんでしたが、作品そのものに語らせるような演奏で、それを実現するために世界中から名手を集めたオケで、すばらしく美しい演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、ゆっくりと非常に注意深く開始される序奏。大きな息遣いの第一主題。波が寄せては返すような自然な揺れがとても心地よい演奏です。凝縮された濃密な音楽です。トゥッティで少し歪みます。展開部でチューバの響きがとても効果的に使われています。オケの響きも濃厚で色彩感豊かです。トロンボーンのシンコペーションは非常に強烈でした。続くティンパニもかなりの強打でした。音楽に常に動きがあって、生命観に満ちています。とても充実した音楽です。とても良く響くフルート。どのパートも伸び伸びと良く鳴ります。夕日を思わせるホルン。すばらしい精緻な演奏でした。

二楽章、ファゴットよりも弦の方が聞こえる冒頭。フランス的なクラリネット。少し野暮ったく演奏されるB。トロンボーンの旋律の部分で急にテンポを速めました。Cに入っても何かせかされているような感じで、あまり穏やかな雰囲気にはなりません。音の密度は非常に高い演奏です。マーラーの指定の「きわめて粗野に」の通り色んな楽器が次々に飛び出してくるような演奏でした。

三楽章、軽く吹かれるトランペットとは対照的に強奏されるホルン。複雑に絡むオーケストラを見事に統率しています。とても厳しい雰囲気が漂う演奏です。集中力は非常に高いです。最後はあんまり急な追い込みはありませんでした。

四楽章、緊張感の高い主要主題。内へ内へと凝縮されて行く音楽。聞いていて緊張を強いられるように感じます。重く響く金管や、深く切れ込んでくる現など、この演奏では、別れが辛く厳しいもののように描かれているような感じです。達観したようなおおらかさは全く無く、深刻な悲しさがあります。コーダの前ではうつろになって来ます。最後は悟りの境地か、穏やかな別れになりました。

この演奏をどう評価して良いのか分かりません。非常に密度の高い音楽でしたし、オケの集中力も素晴らしい演奏でした。しかし、四楽章のあまりにも悲痛で厳しい表現を心地よいものとは感じることができませんでした。演奏の水準は文句なく第一級のものだと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2011ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、とても穏やかな第一主題。第二主題も力みの無い穏やかな演奏です。少しoffぎみの録音で、いつものコンセルトヘボウの濃厚な色彩感はありませんが、水彩画のような淡い色彩はあります。ダイナミックレンジが圧縮されたような強弱の音量差の少ない録音。展開部に入って美しいホルン。ミュートを付けたトランペットの激しい演奏。影で動くパートの表情が大きくうねります。トロンボーンのシンコペーションの前に出るトランペットが強烈でした。葬送行進曲でもミュートしたトランペットが高らかに鳴り響きます。柔らかい響きの再現部冒頭。柔らかいホルン。深みのあるオケの響きはさすがです。味わい深いコーダ。

二楽章、ハイティンクに関してよく言われる中庸がこの楽章でも当てはまります。テンポ、表現、どこを取っても中庸です。大げさな表現は無く、普通に過ぎて行きます。Bも大きなテンポの変化は無く、自然に入って行きました。抑えぎみで柔らかいトロンボーン。ゆったりと穏やかなC。しかし、この中庸が、一定のクォリティを保証してくれるのが、ハイティンクのハイティンクたるゆえんで、オケの精度や深い響きなどはハイティンクじゃないと出来ない演奏です。二度目のBへの入りはゆっくり変わりました。

三楽章、絶対に踏み外さない安定感。オケも咆哮することは無く、とても抑制の効いた演奏で穏やかで静かな演奏です。最後は時間をかけて少しずつテンポを速め、最後まで同じように速めて(急加速せず)終わりました。

四楽章、すごく感情の込められた序奏は間を取ってたっぷりと演奏されます。続いてとても暖かみのある主要主題。内側から込み上げてくるような演奏です。ブルックナーを聴くような神聖なホルンの主要主題。第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏はうつろな寂しさがありました。第二のエピソードの導入部ではあまり寂しさを感じさせるものではありません。淡々と演奏されました。巨大なクライマックスも絶叫もありませんでした。コーダは暖かい響きで、内側からジワーッと別れの悲しみを感じさせる演奏でした。

安定感抜群の演奏で、大げさな表現などは皆無で、純粋に楽譜に書かれていることを音にしていますが、内面から滲み出すような別れの悲しみの表現は見事でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、闇の中に現れる緊張感から、第一主題で開放されます。細い糸を紡いで行くように複雑に音楽が絡み合って行きます。展開部の重い響きが印象的です。クライマックスでも咆哮するようなことはなく、極めて冷静に音楽が進んで行きます。銅鑼とともに現れるトロンボーンのシンコペーションも余力を残して、制御されています。マーラーが楽譜に記した細かい書き込みはほとんど無視したと言われるクレンペラーの演奏ですが、その分演奏の流れはとても良く、自然に身を任せることができます。コーダはとても柔らかく美しいものでした。

二楽章、この楽章はオケによって色んな色彩感を聞くことができるので楽しい。ふくよかなホルン。ちょっとだけ金属的な弦。トライアングルが異様に近いところで演奏しているような録音です。テンポの変化は自然です。金物打楽器のレベルを高めに録っているのか、突然のシンバルに全体をマスクされます。次第に迫ってくる暗い影が自然に表現されています。

三楽章、落ち着いたテンポで、とりたてて騒ぎ立てることもなく、また深く感情移入することもなく、自然に淡々と音楽が進みます。大太鼓の弱音のトレモロが入った後も堂々とした落ち着いたテンポでスケールの大きさを感じさせます。最後も大きくテンポを煽ることはなく、着実な足取りでした。

四楽章、緊張感のあるヴァイオリンから弦楽合奏に移り凄く安堵感を与えてくれます。しかしすぐに哀しみを含んだ音楽になって行きます。テンポが動いたり大きく歌うこともなく自然な流れです。ハープの上に乗って演奏される木管がとても悲しそうです。クライマックスのトロンボーンは強烈でした。この曲で初めてフルパワーだったのではないか?コーダからの表現も客観的で自らの別れの悲しさと言うよりは、自分とは別の人の別れを見ているような演奏でした。

自然な流れで、感情を抉り出すような演奏ではありませんが、安定感のある演奏でした。

リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

シャイー★★★★
一楽章、サーッと言うヒスノイズのような音の中から演奏が聞こえます。非常にゆっくりとしたテンポで演奏されます。まさにため息のような第1主題。柔らかく美しい響きです。テンポは遅いのですが、音の密度はあまり高くなく、ふわっとしています。クライマックスで音が混濁して、色彩感があまり分かりませんでした。テンポは遅いですが、感情移入することは無く演奏自体は淡々と進んでいます。

二楽章、この楽章もゆっくり目のテンポです。コンセルトヘボウ独特の濃厚な色彩はあまり感じませんが、まろやかな響きです。Bに入って、最初はそんなには速くない感じがしましたが、実際にはかなり速くなっています。Cに入ってから次第にテンポを落とし、のどかな雰囲気です。ここのBも、入りはゆっくりですぐに速くなりました。テンポはよく動いて表情も多彩です。

三楽章、軽いトランペットの序奏に続く力強いA。豪快にホールに響くティンパニ。深い響きのコントラバス。オケはいつものように美しく鳴っているのだろうけれど、off気味の録音で色彩感に乏しいのが残念なところです。柔らかい表情のB。ノイズのせいなのか、弱音での緊張感があまりありませんし、音 の密度もやはり高いとは言えない感じで、漠然と演奏されているように感じてしまいます。あまりテンポを上げずに終わりました。

四楽章、厚みがあり暖かい主要主題。意図的に歌うことは無く、自然に任せているようです。第一のエピソードでは別れを迎えるう つろな雰囲気をうまく表現しています。ホルンに現れる主要主題も寂しさを感じさせるものでした。第二のエピソードも別れを強く印象付けるものです。コーダ もすばらしい演奏でした。

三楽章までは、散漫で何をしたいのか正直分からないような演奏でしたが、四楽章では、意図的な解釈を加えないことで、作品からにじみ出るような別れの寂しさを見事に表現しました。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、ふわっと柔らかい第一主題。この録音も低域が薄く厚みに乏しい響きです。また、奥行き感もあまりありません。微妙なテンポの動きによって濃厚な表情が付けられて行きます。揺り篭に揺られるような音楽。衝撃音だけのシンバル。一時の穏やかな安らぎ。展開部の前の頂点は、そんなに大きな頂点ではありませんでした。トロンボーンのシンコペーションもあまり強烈ではありませんでした。晩年のライヴ録音では、濃厚なコントラストで強烈な主張を展開しましたが、この頃の音楽はそれほど強い主張は無く、色彩も淡い感じです。コーダは独奏ヴァイオリンと木管の絡みがかなりはっきりと演奏されます。

二楽章、頭の音を強く演奏するファゴット。響きが薄く、残響成分も少ないので、豊かさもありません。Bはかなり速く感じます。表現は積極的ですが、ちょっと雑な演奏のような感じで、バーンスタインのニューヨーク時代をイメージさせます。Cはゆったりとして落ち着いた雰囲気です。再び現れるBがやはり落ち着きが無い。再度のCはゆったりと歌います。Aは前のCから引き継いでゆったりとしたテンポで、始まり次第にテンポを速めますが、ここでは雑な感じはありません。むしろマーラーのオーケストレーションを見事に再現しています。途中で大きくテンポを落として、一瞬止まるような部分もありました。なかなか豊かで大胆な表現です。

三楽章、トランペットと弦。ホルンと弦のそれぞれの間を少し空けて重々しく始まりました。その後急加速して、生命観に溢れる生き生きとした表現です。この躍動感はバーンスタインの若い頃の特質を思い起こさせます。各楽器の動きがとても克明ですが、響きの薄さと奥行き感の無さがとても残念です。

四楽章、暖かみがあって深い主要主題は非常に感情が込められてうねりのような音楽になっています。登場する楽器が大変明快に現れます。弦が重層的に重なって押し寄せてくる部分は勢いもありなかなか良い演奏でした。そこから静まるところの引きも良い表現でした。第2のエピソードのうつろな寂しさもとても良く表現されています。クライマックスは少し薄い感じがしました。コーダはあまり別れを感じさせる演奏ではありませんでした。

バーンスタインの音楽が完熟する前の過渡期の演奏だったのではないかと感じました。濃厚な表現や躍動があるかと思えば、とてもあっさりとした部分もあり、まだ定まっていないような感じがありました。
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ワレリー・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、静かで控えめな第一主題。第二主題も騒然とすることは無く、穏やかです。残響感に乏しく、狭い空間で演奏しているような感じを受けます。展開部に入る前の頂点も狭い印象を拭うことはできず、スケールの小さい演奏に感じました。展開部冒頭は速めのテンポです。展開部は全体的に速めのテンポですが、マーラーの複雑なオーケストレーションはあまり表現されず、主旋律に重きが置かれ、他のパートは削ぎ落とされているような感じの響きです。トロンボーンのシンコペーションも全開ではありません。葬送行進曲も速いテンポで重さはありません。再現部に入って、ハープに導かれて出るホルンの響きも浅く、この演奏を象徴しているような感じがします。

二楽章、四つの音の初めの音に軽くアクセントを入れた冒頭。美しい音で抜けて来るクラリネット。弦の最初は少し遅くなりました。とても生き生きとした音楽です。Bも活発な動きです。音の強弱が明瞭で躍動感があります。Cはテンポが動いて歌います。途中で顔を出すAはテンポを上げて活発に動きました。再び現れるBも活発に動きます。シンバルが豪快に鳴ります。最後のBはとても速かったです。

三楽章、分厚い弦の響き。この楽章でも積極的な音楽が続きます。トランペットのソロは柔らかいと言うよりも細い感じです。オケは絶対に全開にはならず、常に制御されています。最後は色彩のパレットをいっぱいに広げて、狂ったように終りました。

四楽章、ゆったりとたっぷり演奏される序奏。感情の込められた主要主題。ホルンの主要主題が間接音をあまり含まないので、とても浅く聞こえます。第一のエピソードは速いテンポで淡々と進みます。第二のエピソードはすごく速いテンポです。ゲルギエフは感情の入り込む余地を無くそうとしているかのようです。ここでのクライマックスが初めて全開になった感じですごいエネルギー感でした。コーダもテンポは速いですが、寂しい冷たい空気を感じさせます。

二楽章と三楽章の躍動感を強調することで、四楽章の静を演出したようです。とても個性的なテンポ設定で、この曲の違った面を聴かせてくれたようにも感じました。
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サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★
一楽章、とても明快な音でしっかりとした演奏です。さらりとした第一主題。テュッティの何とも言えない暗闇に突入するような雰囲気は独特のものです。展開部でもホルンがキリッと浮かび上がります。第三主題の頂点は全開です。弱音と強音が明快に区別されていて、onとoffのように単純な音楽のような錯覚に陥りそうです。主役がすごく強調されていて、その裏で動いているパートがあまり聞こえないので、複雑な構造が分からず薄い音楽に感じてしまいます。「最大の暴力で」と指示されたトロンボーンはその通り強烈でした。鐘はチューブラベルです。コーダの前のホルンはとても美しく、他のパートもすごく幻想的な雰囲気でした。

二楽章、ゆっくりとしたテンポです。弦は弓を跳ねさせているように強いアタックでした。ゆったりとしたテンポからテンポを上げるところの変化が大きくて全く別の曲を聴いているような感覚に襲われます。穏やかな部分はとても安堵感のある良い演奏です。また、テンポを上げるところが違和感があるんですよね。終わりに向けても弦は弓を跳ねるような演奏でした。

三楽章、少し抑えぎみのトランペットから開始しました。しばらくするといつものように全開になります。金管も抑えるところは抑えているのですが、強奏部分では弦もしゃかりきになって演奏しているように聞こえて、onとoffがはっきりしているような演奏です。ホルンなども間接音よりも直接音が強調されて音楽に奥行きを与えません。これは録音の問題もあるのかも知れませんが、全ての音が前へ出てくるので、全てさらけ出したような、あられもない姿になっているように感じます。

四楽章、とても安らかで安堵感のある主要主題。僅かに硬質なホルン。分厚い弦楽合奏。弦楽によってマーラーの人生への惜別の思いが切々と語られて行きます。孤独と寂しさを訴える木管。クライマックスで金管が登場すると全開。まさにopenになってしまって、そこまで貯めてきた感情を全て放出してしまい、ちょっと興ざめします。コーダからも直接音が強く、フワッとした羽毛のような柔らかさがありません。「死に絶えるように」と書かれている最後の表現としては、音の力があり過ぎだと思います。

これはシカゴのオーケストラホールの音響特性にもよるのだと思いますが、間接音が少な過ぎで、とても強い音が全体を支配しています。この曲の持っているメッセージとは相容れないオケの特性だと思います。

ジェームズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★
一楽章、暖かいハープの調べ。第一主題も暖かい。テュッティは何かが崩れるような巨大な響きです。すごい情報量で音の洪水が押し寄せてきます。レヴァインの演奏に共通するティンパニの強打。弱音部でも暖かく、ピーンと張り詰めたような緊張感はありません。そして、色彩感がモノトーンのように淡白なのもレヴァインのマーラーの特徴です。濃厚な表情は付けられていないので、音楽自体は淡々と進む感じです。金管もかなり強奏されますが、一音一音に重さは感じません。とても心地よい響きで音楽が進んで行くのですが、この作品がこれで良いのか、ちょっと疑問に感じます。コーダは柔らかい独奏ヴァイオリンと木管が美しかった。

二楽章、抜けが良く生き生きとしたクラリネット。弦楽器はゆっくりと演奏をはじめました。Bはかなりテンポを上げました。付点のリズムが正確に演奏できないくらい速いテンポです。金管は遠慮なく強奏します。とても気持ちの良い演奏です。狂乱も見事に再現されています。演奏自体はとても上手いのですが、感情的に何も迫ってくるものが無いのが、これで良いのか、疑問です。レヴァインはこの作品を音響として捉えているようで、その意味では見事ですばらしい音響空間を再現しています。

三楽章、軽く演奏された冒頭のトランペット。相変わらずティンパニは思いきり良く入って来ます。金管は強奏されるのですが、色彩感はありません。マーラーの複雑なオーケストレーションを表現しているとは言えないようです。ただ、アンサンブルの精度などは非常に高く、精緻な演奏ではあります。

四楽章、かなり思いっきり演奏された冒頭でした。すごく感情が込められたように感じます。分厚い弦が歌います。寂しげな独奏ヴァイオリンが別れの悲しさを歌います。第一のエピソードの高まったところでレヴァインの声も録音されています。これまでの楽章とは一転して良く歌います。一つ一つの音に感情が込められています。コーダは特に感情が篭った演奏ではありませんでした。

総じて、あっけらかんとした演奏でした。

ウイン・モリス/ロンドン交響楽団

モリス★★★
一楽章、予想したほど遅くは無く、普通のテンポで始まりました。第一主題も目立った表情付けはされていません。響きが浅く、テンポの動きもほとんど無く、機械が一定に刻んでいるような感覚です。展開部に入る前の頂点でもテンポは動かず、ゆっくりのままで、とても無機的に感じました。金管を激しく吹き鳴らせますが、内面を抉るような音楽にはなっていません。トロンボーンのシンコペーションの部分でも、あまりにもきっちりとテンポを刻むので、聞いていて堅苦しく感じました。

二楽章、暖かい響きです。この楽章もスタートから全くテンポが動きません。Bは速めのテンポです。ここで初めて動きのある音楽が聞けました。Cはテンポも動いて自然です。二度目のCはすごく遅かったです。

三楽章、あまりにもカッチリと2拍子を刻むので、音楽が縦に振れているようで、横へ揺れるような曖昧な動きが無いので、とても硬いです。音楽が前に進もうとする力が無いので、とても遅く感じます。最後はものすごく遅いテンポから時間をかけて僅かにテンポを速めて終わりました。

四楽章、この楽章もゆっくりですが、感情のこもった主要主題です。ファゴットのモノローグは消え入るような弱い音量でした。ヴァイオリンの弱音が羽毛のようなフワッとした柔らかい肌触りでとても美しい。この楽章は、これまでと打って変わって、とても感動的な演奏です。三楽章までは、遅さが音楽を停滞させていたような感じがありましたが、この楽章では、そのテンポの遅さが音楽をとても深いものにしています。聞き手を引き込むような集中力。三楽章までの演奏が嘘のようです。切々と別れを告げるコーダも感動的でした。

四楽章だけなら満点の演奏でしたが、そこに至るまでがあまりにも不自然な動きだったのが残念です。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団 1966年

ホーレンシュタイン★★★
一楽章、独特の音の切り方をする第一主題。かなりストレートに感情をぶつけてくる演奏で、頂点では絶叫します。録音は古く常にノイズが付きまといますが、音には力があり、濃厚な演奏です。強烈なトロンボーンのシンコペーションの後のティンパニもかなり強打します。葬送行進曲の鐘がくっきりと浮かび上がります。とても激しく起伏に富んだ演奏です。コーダは一転して柔らかいヴァイオリン独奏です。

二楽章、明るいクラリネットと少しこもったホルン。ゆっくりとしたテンポですが、テンポは揺れ動きます。大きくテンポを落とす部分もあります。ぐっと早まるB。メリハリがあって躍動感があります。Cは音が痩せぎみなので、穏やかさはあまり感じません。二度目のBへの切り替わりはゆっくりから入りました。テンポはよく動きます。最後のAでは下品なくらいに大きくホルンが吹きましたし、とても遅いテンポです。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。途中でテンポを落として強く濃厚な表現です。ここまで管楽器の小さいミスはたくさんあります。録音は古いですが、色彩感は濃厚です。とても情熱的で熱気を感じさせます。

四楽章、音楽を大きくくくって歌った第一主題。第二のエピソードでは登場する木管が唐突で淋しさは感じませんでした。テンポは速めでグイグイと進む力強さがあります。クライマックスで突き抜けるトランペット。コーダは暖かく、あまり別れの寂しさは感じませんでした。

個性的な演奏で、聞かせどころもたくさんありました。最新の録音で聞いてみたい演奏でした。
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ラファエル・クーベリック/ニューヨーク・フィルハーモニック 1978年

クーベリック★★★
一楽章、あまり抑揚の無い第一主題ですが、かえって脱力感が伝わってきます。第二主題もあまり表情は付けられていません。トゥッティはかなりのエネルギー感でした。展開部に入って、ミュートした金管が強烈に演奏します。金管やティンパニが強烈です。全体に金管が強めに演奏されるので、濃厚な色彩感です。決して美しい演奏ではありませんが、力があって生き生きとした演奏です。

二楽章、サラッと流れの良い演奏で引っかかるところがありませんが、音楽には活気があって生命感に溢れています。Bに入っても大きくテンポを速めることはありませんでした。この楽章でも金管が強い感じです。Cがあまり美しくないのが、この頃のニューヨークpoらしいところです。美しくはありませんが、躍動感や生命感など人間臭い演奏で、嫌いな演奏てせはありません。クライマックスではテンポを速めて、シンバルも炸裂しました。その後は大きくテンポを落として黄昏るように終わるかと思っていましたが、オケは元気なままです。

三楽章、金管に比べると弱い弦。一音一音刻み込むような強い音です。管楽器は生き生きとしていて色彩感も濃厚です。中間部の穏やかな部分でも、生き生きとした表情は変わらず、血の気が多い感じがします。これはこの頃のニューヨークpoの特徴か?積極的な音楽なのですが、ちょっと雑な感じもします。

四楽章、浅く深みの感じられない主要主題。注意深く進む第一のエピソードですが、美しさはあまりありません。弦が主体になると音楽が淡泊になって、サラサラと流れて行きます。第二のエピソードでは木管が踏み込んだ表現をしますが強く訴えてくるような表現ではありません。コーダに柔らかさや深みが感じられません。

管楽器主体の部分では生命感に溢れた生き生きとした演奏でしたが、少し雑な印象がありました。弦主体になると表現が浅く深みの無い音楽になってしまい、四楽章のコーダでも心動かされることはありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第9番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団 1969年

セル★★☆
一楽章、非常にあっさりと演奏される第一主題。ほとんど抑揚もなくさらりと流れる第二主題。ためなともなくひっかかるところが無くすんなりと音楽がすすんで行きます。セル好みの締まったホルンの響き。テンポも速めで感情移入などは全く無いように感じます。縦の線がきっちりしていて、とてもシンプルに聞こえます。力で押すようなこともありません。オケは余裕を持って演奏しています。情に流されるような演奏ではなく、理詰めで音楽が構築されていて、こちらも感情が動くことはありません。

二楽章、ホルンのトリルが強調される以外は、特に目立った表現は無く、流れて行きます。Bに入ってもテンポは僅かに速くなりました。トロンボーンも大きく叫ぶことはありません。最後のBはとても速いテンポでした。最後のAはゆっくりですが、やはり感情を込めるような演奏ではありません。

三楽章、

四楽章、全く抑揚なく演奏される序奏。同様に全く思い入れが無いかのように演奏される主要主題。第一のエピソードも速めのテンポで淡々と進みます。タメやねばったり、うなったりすることは無く、この曲をとてもシンプルにストレートに伝えているようです。第二のエピソードも感情移入されていないので、こちらの感情が動くこともありません。消え入るような弱音で演奏されるコーダ。すごい透明感で美しいです。

非常に透明感が高く美しいコーダにはグッと来ました。しかし、そこまでの音楽の運びがあまりにもシンプルで、私には肩すかしのような感じが残ってしまいました。
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ケント・ナガノ/ハレ管弦楽団 1996年5月 東京

ナガノ★★
一楽章、非常に録音レベルが低く最初はかなり聞き取りにくい状態でした。あまり思い入れの無いような第一主題。作品に込められたメッセージは全く関係ないかのように淡々と進められます。第二主題から高まったトゥッティも巨大な響きではありませんでした。展開部の前はかなりテンポを煽ったのは迫力がありました。音色は暖色系で、あまり密度の高い響きではありません。少し緩い雰囲気さえありますので、陰鬱な部分の落ち込みがあまり無く、浅い感じが常にあります。トロンボーンのシンコペーションもトロンボーンよりもチューバの響きが強く、強烈な印象はありません。コーダの前のフルートも静寂感や緊張感は伝わって来ません。

二楽章、暖かいホルン。温度感があり厳しさは感じません。Bは速めのテンポであっさりと演奏されます。Cは暖色系の音色が幸いして、穏やかで温かい演奏です。最後のBはかなり速いです。

三楽章、この楽章は遅めのテンポで非常に落ち着いた演奏です。感情移入などは全く無く、ずっと淡々と進んでいます。オケも咆哮することも無く、とても制御されています。最後のテンポの追い込みもあんまり激しくありませんでした。

四楽章、ほとんど歌わない主要主題。ファゴットのモノローグはとても弱く消え入るようでした。あまりにも素っ気ないこの演奏が私には、ただ演奏しているだけにしか聞こえません。感情的に沈んだり、高まったりすることが無いのです。第二のエピソードもテンポが速く、淋しさも感じられません。

ナガノはこの演奏で何を表現したかったのか、私には分かりませんでした。
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ミヒャエル・ギーレン/北ドイツ放送交響楽団 2010年ライヴ

ギーレン★★
一楽章、ミュートしたホルンが少し長めに尾を引く冒頭。穏やかな第一主題。流れるような第二主題。頂点でも絶叫することは無く、良くコントロールされています。暗闇の中に落とされたような展開部。ずっと暗闇が広がっているような感じです。ハープの動きが強調されています。トロンボーンのシンコペーションはとても長く吹き伸ばされた印象で、ゆっくりしたテンポになっています。色彩感は豊かです。柔らかく美しいコーダ。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで暖かいファゴットと弦。冷たく突き抜けるクラリネットが対照的。舞踊風な音楽と言うよりも、しっかりと足を踏みしめるような確実さがあります。Bは流れを損なわない程度に速くなりました。トロンボーンにメロディーが出る頃にはかなり速くなっています。Cはあまり穏やかさを感じません。二度目のCはすごくゆっくりとした演奏です。最後のAもすごくゆっくりですすが、終わりに向けて脱力いるようにさらにテンポを落とします。

三楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポで始まりました。Bもゆっくりなので、おどけたような雰囲気はありません。二度目のAは引きずるような感じがします。二度目のBは幾分明るい表現になりました。細いトランペット。どうも音楽がチグハグしているような感じがして、しっくり来ません。ハープが出る部分も非常に遅いです。最後もテンポは僅かに上げますが、とても落ち着いています。

四楽章、感情を込めずに無機的に演奏される主要主題。浅い響きのホルン。感情が込められることはほとんど無く、無表情に音楽は進みます。ただ、弦の厚みのある柔らかい響きは魅力的です。第二のエピソードも寂しさはほとんど感じません。なかなか壮大なクライマックス。冷たい冬の別れです。

ほとんど感情移入を断ち切ったマーラーの9番の演奏は、解釈の一つとして認めますが、やはり聞いていて共感できませんでした。
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ディミトリ・ミトロプーロス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1960年

ミトロプーロス★★
一楽章、チリチリと言うスクラッチノイズの中から音楽が聞こえます。倍音成分がほとんど無く、硬い響きです。浮遊感のある第一主題。かなりキツイ響きのトゥッティ。頂点ではかなり激しく動きも大きい演奏です。かなり情熱的な演奏のように感じます。再現部に入っても金管がかなり激しく演奏しています。色んな楽器が活発に動いています。一転して穏やかになるコーダ。

二楽章、この当時の演奏としては、非常に整っていると思います。なかなかスタイリッシュです。もっと良い録音で聞きたかったですね。最後のAはゆっくりとしたテンポになりますが、楽器の動きは克明で抉り出すような表現です。

三楽章、トランペットとホルンの間に演奏される弦が壮絶な響きでした。遅めのテンポで進むが、途中で一旦テンポを落としたりします。危なっかしいトランペットのソロ。最後までほとんどテンポを上げませんでした。

四楽章、ゆっくりと演奏される主要主題ですが、あまり感情移入はしていないようです。第一のエピソードの二回のヴァイオリン独奏の間の弦楽合奏も動きがあって素晴らしかった。第二のエピソードは速いテンポで始まりました。ここでも感情移入はほとんど無いように感じます。クライマックスのエネルギー感はすごいです。

とても客観的な演奏だったように感じましたが、頂点では遠慮なくドカーンと来るところの対比が面白い演奏でした。ただ、やはり録音の古さがいかんともしがたい。
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アンドレ・プレヴィン/ケルン放送交響楽団 2001年

プレヴィン★★
一楽章、力が抜けて穏やかで美しい第一主題。第一主題の途中でひっくり返るホルン。テンポが動いたり、オケが咆哮することも、大きく歌ったりすることは無く、作品を客観的に見ているような演奏です。ティンパニは硬質で非常に軽い響きです。トロンボーンのシンコペーションの前もシルキーで滑らかです。トロンボーンのシンコペーションは何かを発散するようなパワーがありました。葬送行進曲のトランペットのファンファーレも整然としていて、美しい演奏です。

二楽章、Bへの変化も大きなテンポの変化は無く、滑らかに音楽が進んでいます。トロンボーンも抑えた演奏で、マーラーが「きわめて粗野に」と指定したのとはかなり離れた演奏のようです。Cの中にAが現れる前はテンポを落としてAを導きました。

三楽章、深く刻み込まれるような演奏ではなく、とても軽い演奏で、その分流れがスムーズで美しいものとなっています。Bも大げさな表現は無く、軽い演奏です。Aが戻っても決して重くはなりません。再びBが再現した部分では、Ebクラリネットが楽しそうです。Cは滑らかなトランペット。最後は僅かにテンポを速めた程度でした。音楽的な興奮よりも、造形的な美しさを優先していねのでしょうか。

四楽章、ほとんど抑揚の無い主要主題。第一のエピソードのヴァイオリン独奏も何かを表現しようとはしていないようで、淡々と音符を音にしている感じです。こんな演奏なので、聞いていても心が動かされるようなことは無く、作品と共感しようとしても拒絶されるようで、できません。丁寧には演奏されているのですが、内面に訴えて来るものが無いです。クライマックスでも美しくすがすがしいトランペット。コーダも浮遊感のある美しい演奏でしたが、別れの悲しさなど内面に届くことはありませんでした。

プレヴィンはつくづくマーラー指揮者じゃないという事を感じさせられました。
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ヤンスク・カヒッゼ/トビリシ交響楽団

カヒッゼ
一楽章、かなりはっきりとしたチェロとホルン。ゆっくりとした第一主題ですが、どこか安っぽい音がしています。トランペットの高音が突き抜けて来るかと思えば、所々で金管が弱い部分もあり、一般的なこの曲の印象と違います。こんな曲だったっけ?と思うような部分がいくつもあり、不思議な感覚です。演奏するだけで精一杯と言う感じで、表現がどうとか、楽譜に書かれていることを正確に音にするとか言う次元ではありません。トロンボーンのシンコペーションも厚みの無い響きでした。ホルンにビブラートを掛けるのも旧ソビエトの名残でしょうか。コーダも潤いの無い音で味わいもありませんでした。

二楽章、透明感の無いクラレネット。潤いが無くささくれ立ったような弦。Bへの切り替わり時にオケのメンバーが迷ったような怪しい変化でした。トロ ンボーンの旋律がほとんど聞こえません。トランペットのミュートを付けた細かいパッセージも怪しい。管楽器は吹きやすいように吹いているような感じがしま す。音程も怪しいところが随所にあります。

三楽章、トランペットに比べると弱いホルン。かなり頼りない演奏で、聞いていてハラハラします。この曲はこのオケには技術的にかなり無理があるようです。バランスもおかしいところがたくさんあります。

四楽章、テンポを動かして感情移入しようとするカヒッゼですが、音楽は浅く深まることはありません。粗暴な金管が容赦なく吹かれます。トランペットだけが大きく突き抜けるクライマックス。特に何の感慨も無く終わりました。

演奏するので精一杯と言う感じのコンサートで、何かを表現したとか訴えたとかと言う次元ではありませんでした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第9番の名盤を試聴したレビュー

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エドゥアルド・マータ/ロンドン交響楽団

マータ★★★★★
マータのデビュー作です。メキシコ人らしい情熱的で色彩感豊かな名演です。
オケの爆発も尋常ではありません。私にとっては、青春時代のベストCDです。1978年の録音

第一部:大地礼賛
序奏、ビブラートとクレッシェンドして開始するファゴット、音が変わる瞬間に空気が変わります。冒頭から尋常でない雰囲気を伴っています。静寂感の中から浮き出てくるファゴットの演出はすばらしい。始まってすぐに感じる濃厚な色彩。ねばった表現のバス・クラリネット。鋭く突き刺さるトランペット。
それぞれの楽器のカラーが鮮明で、一つ一つの音が立っています。
春のきざし、全開の弦とホルン。すごいエネルギーをぶつけてきます。トランペットの咆哮も他の演奏とは比べ物にならないくらいの絶叫です。弦のボーイングも叩きつけるような激しさです。
リズム感もとても良いです。ラテンのリズム感なのだろうか。全体のリズムを引き締めるのにティンパニと大太鼓の絶妙なアンサンブルと一体感が必要だと思うのですが、この演奏はすばらしいです。
誘拐、ティンパニのリズムにタメがあって独特です。ティンパニや大太鼓が強烈でダイナミックです。
春のロンド、静かなメロディから硬質な音のティンパニ、そしてタフな金管の伸びのある咆哮と、次々に襲い掛かってきます。
敵対する二つの部族の戯れ、ティンパニが目の前で動きます。色彩が濃厚で原色で描かれているような、すごく鮮やかでそれが美しい!
賢者の行列、ホルンはあまり音量を落とさずに演奏します。ここのトランペットもすごいし、小物打楽器の動きも鮮明!
大地の踊り、強烈な咆哮ですが、アンサンブルは見事に整っています。ラッパのベルがひび割れするんじゃないかと思うくらいの第一部でした。

第二部:いけにえ
強烈な咆哮がありながら、弱音部では細部にわたって緩みなくキッチリアンサンブルしているし、表情もあります。
序奏、大太鼓が入ると崩れ落ちるような表現です。繊細なヴァイオリン。極端に音量を落とすことの無いミュートをしたトランペット。神秘的なホルン。
乙女たちの神秘的な集い、美しいビオラ。木管が粒立っていて美しいです。表現が引き締まっていてダレることがないので、聴いていて気持ちが良い。色彩はここでもとても濃厚です。ダイナミックな11拍子。
選ばれた乙女への賛美、いやぁもう人間技でここまでできるのか!ともう参りました。地を揺らすような大太鼓。締まった硬質なティンパニ。
祖先の呼び出し、三つの音を離して演奏するティンパニ。
祖先の儀式、咆哮するホルン。やはりここでもコントラストがはっきりしていて、楽器が鳴り切るので爽快感でいっぱいになります。
いけにえの踊り、鋭い音で鳴りきるトランペット。ティンパニのリズムに乗ってかなり強く入ってくるトロンボーン、ホルン、大太鼓。

やはり、凄かったです。これだけの絶叫をしても暴走しないロンドンsoの技術の高さにも驚かされますし、ここまで要求したマータにも脱帽です。ストレス発散したけりゃこれを聴け!このCDはタワーレコードの企画ディスクです。

ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

メータ★★★★★
メータのニューヨーク時代の特徴でもあるグラマラスな春の祭典です。
1990年の録音。ニューヨークを去る直前の録音になります。

第一部:大地礼賛
序奏、細身のファゴット、弱音にかなり気を使っている木管。ゆっくりと丁寧に演奏しているのが伝わってきます。とても静かです。バスクラはあまり強調されていません。マイルドであまり刺激的な音はありません。ミュートしトランペットは鋭い音でした。
春のきざし、ブレンドされて一体感のある弦。控えめなトランペットやホルン。ホルンも細身の音です。
誘拐、ここでもホルンは弱い感じがします。ホルンはニューヨークの弱点ですね。大太鼓が硬い撥でドンと入ってきて驚かされます。
春の踊り、連続する弦に続く木管の表情が印象的です。大太鼓を底辺にトゥッティの野太い響きは凄い厚みをもって迫ってきます。
敵の都の人々の戯れ、木管や弦の厚みのある響きがとても良いです。残響が豊かで楽器が分離して聞えることはありませんが、一体感はあります。
賢者の行列、強烈な咆哮はありませんが、厚みのある響きはなかなか良いです。
大地の踊り、金管の一体になったパワー感が欲しい気もします。最後のテューバは凄い!

第二部:いけにえ
序奏、しっかりと地に足が着いた木管。大太鼓がフワーッと柔らかく尾を引きます。トランペットがとても小さな音で演奏します。
乙女たちの神秘的なつどい、マットなビオラ。ここでもホルンはふくよかな音ではなく細身です。木管と弦のアンサンブルはとても良いです。少しoffぎみで美しい弦。
いけにえの賛美、ティンパニと大太鼓のクレッシェンドが大太鼓の低域を伴って音圧として届きます。金管も抑えるところは抑えてメータも大人になったんだと思わせます。
祖先の儀式、ここでもホルンは絶叫しません、ふくよかな響きを保っています。絶叫していてもホールがそのように聞こえないホールなのかも知れません。
いけにえの踊り、いろんな楽器といろんなリズムが交錯しますが、わりと冷静。トランペットのフラッターも綺麗です。大太鼓とティンパニが一つの楽器のように有機的に結びついていて、とても良い役割を果たしています。

決して、爆演ではありませんでしたが、豊かな残響を伴った一体感のある分厚い響きで、抑制する部分と突き刺さってくるところのコントラストがあって良い演奏だったと思います。

ワレリー・ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管弦楽団

icon★★★★★
驚愕の終結が待っています。1999年の録音。

第一部:大地礼賛
序奏、冒頭から静寂感があります。粘っこく表現いるファゴット。いろんな音が聞こえてきます。奥まってあまり鋭くないトランペット。
春のきざし、猛烈な弦。ホルンは咆哮しません。デッドな録音のようで、それぞれの楽器の動きが良く分かります。とにかくいろんな音が聞こえてきます。バチーンと硬い撥で強打する大太鼓。まさに踊りのように自由に舞うピッコロ。
誘拐、これまで聞いた春の祭典とは一味も二味も違います。バランスもテンポも!それでも違和感を感じさせないところが、ゲルギエフの凄いところなのでしょうか。トロンボーンが突然突き刺さって来ます。
春の踊り、コントラバスの弦の振れ具合まで分かります。独特のアゴーギク。速いところはもの凄く速いテンポで演奏しています。他の部分とのコントラストの上でも効果的です。金管のポルタメントも特にトロンボーンが強烈です。
敵対する町の遊戯、中央付近を叩いているような音のするティンパニ。通常はテヌートされない部分をテヌートで演奏したり、新発見の連続で聴いていて飽きさせない。しかも、絶叫するわけでもなく。もちろん過不足なく、強烈です。
賢者の行列、ホルンとチューバが強烈でした。
大地の踊り、とにかく「春の祭典」の既成概念をぶち壊されます。それが十分に成立しているから凄いです。

第二部:いけにえ
何かが深いところへ崩れ落ちていくような印象を与える序奏。ストレートミュートでは無いトランペット。いままで、旋律だと思っていた楽器を抑えて、別のパートをクローズアップして聴かせたり、いろんなことが起こります。ロシアのオケからこんなに柔軟な演奏を引き出すのも驚きです。この演奏は洗練されています。
乙女たちの神秘なつどい、加速して物凄く強い11拍子。
いけにえの賛美、ピッコロがこんな旋律を吹いていたのかとまた、新たな発見。
祖先の呼び出し、強いトランペット。ちょっとダサいティンパニ。やはり中心付近を叩いているような感じの音です。
祖先の儀式、アルトフルートが表情豊かに歌います、バックのミュートをした金管がテヌートで演奏しています。シンバルが安っぽいppの音を出しています。このオケには不釣合いな感じです。とても粘って豊かな歌のバスクラリネット。
いけにえの踊り、テンポが一瞬止まったり、アーティキュレーションの表現を誇張したり、終始「なんじゃこりゃ~!」の連続です。そして、最後に信じられないような瞬間が訪れる!

参りました。凄かった。でも、この感動は今までの一般的な「春の祭典」の演奏を知っていないと理解できないですね。いくつか聴いてからこのCDにしてください。お勧めです。

エドゥアルド・マータ/ダラス交響楽団

icon★★★★★
マータの再録音です。前作の血沸き肉踊る爆演は影を潜め、ゆったりとしたテンポの運びで細部まで克明に描いた演奏。1991年の録音

第一部:大地礼賛
序奏、クレッシェンドして入ったファゴット。ホールトーンを適度に取入れた録音、自然な音が特徴です。ゆったりとしたテンポ、オケに厚みがない分、細部まで見通せる良さがある。あまりキンキン響かないトランペット。
春のきざし、ゆっくりと踏みしめるような弦。金管は全体に抑えていると言うか、鳴らないのか、極めて静かな春の祭典です。大太鼓は強烈です。遅いテンポですが、ダレることなく丁寧に演奏しています。
誘拐、ロンドンsoとのデビューCDとは正反対の演奏になっているところが、どのような心境の変化なのか?
全く絶叫しないのですが、テンポが全体に遅いので、変に肩透かしを食ったような感覚はなくて、意外と自然に聴くことができます。全体に静かなのですが、大太鼓だけは強烈に入って来ます。
春の踊り、ホルンが大きく歌います。楽器の音はとても綺麗に録音されています。マータは爆演にしないことで、細部を描き出そうとしているのか。数ある春の祭典の中でも異質な存在です。こんなに静かな春の祭典は初めてです。金管のホルタメントも強く押しません。
敵の都の人々の戯れ、全く咆哮しませんが、楽器の質感はとても良く伝わって来ます。
賢者の行列、ホルンも抑え気味です。打楽器は存在感があります。
大地の踊り、原色の濃厚さは無く、むしろ爽やかな演奏です。デュトワやカラヤンのスタジオ録音のように上品に演奏しようとして大失敗になった例も多くありますが、これは静かにゆっくり演奏した数少ない成功例ではないかと思います。

第二部:いけにえ
序奏、冒頭からぶつかり合う音がします。ここでも、ゆっくり静かにを通しています。オケは決して下手なわけではありませんね。伸びのある音で録られています。
乙女たちの神秘なつどい、少し細いですが、美しいビオラ。ゆっくりと作品を噛み締めるようです。
いけにえの賛美、トランペットなどの咆哮はありませんが、艶やかで美しいです。ここでも大太鼓は強烈です。
祖先の呼び出し、ファゴットはテヌートで美しいです。
祖先の儀式、無表情に演奏されるアルトフルート。ミュートしたトランペットとバストランペットはスタッカートぎみの演奏でした。
いけにえの踊り、質感が良く美しいです。ティパニと大太鼓のリズムも軽いですが、ここ一発の大太鼓はやはり強烈です。この曲をこのテンポで破綻をきたさずに音楽にする能力は非常に高いと思います。一つ一つ登場する楽器の音が美しい。

これまでの春の祭典の概念を覆すような演奏に仕上がっています。
私にとって、「春の祭典は爆演ならそれで良し!」だったのですが、この演奏には完全にやられました。これほど力まず美しい音を追求し、しかも細部まで見通せる演奏をした、マータ/ダラスsoに拍手です。ブラヴォー!!!!!
これはすばらしい。マータが飛行機事故で若くしてこの世を去ったのが悔やまれます。

ウラジミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

フェドセーエフ★★★★★
泥臭い原色の春の祭典です。オケも大健闘!

第一部:大地礼賛
序奏、ビブラートをかけた細身のファゴットから開始。一つ一つの音を紡ぐようにゆっくりと丁寧な演奏です。バスクラがすごく粘るような演奏で、存在を主張します。鋭いミュートのトランペット。
春のきざし、ガリガリと、でも一体感のある弦、遠くで尾を引いて響くホルン。短くスタッカートぎみに演奏するトロンボーン。大太鼓は餅つきのようなベタッとした音でしたが強烈でした。細身で明るいホルン。乙女たちの踊りはまさに踊っているかのような多彩で乗りの良い演奏でした。
誘拐、木管が克明に録音されている割にはホルンが遠い。残響成分も含まれて良い効果もありますが、ちょっと遠すぎるような感じがします。
春の踊り、木管が今まで聴いたことのない旋律を浮き彫りにしてくれます。ホルンはテヌートで演奏します。ちょっと詰まった感じの音をさせるティンパニ。大太鼓はここでも硬質で強烈です。金管はそれ程咆哮はしません。
敵の都の人々の戯れ、スピート感があってなかなか面白い。
賢者の行列、地を揺らすような大太鼓。次々と音が溢れ出します。
大地への口づけ、
大地の踊り、最後のティンパニが凄い!

第二部:いけにえ
序奏、ここは柔らかいマレットの大太鼓。表情豊かなトランペット。ゆっくりと進みます。
乙女たちの神秘なつどい、ここもゆっくりとした演奏です。濃厚な色彩と濃い表現です。11拍子の前をすごくゆっくりと演奏し、11入る直前にテンポがさらに大きく動いた、かなり効果的!フェドセーエフもなかなか強烈な主張をします。オケも見事なアンサンブルをしていますし、音色もロシアそのものだから作品には合っているし、この演奏は良いです。
復活がどうしてあんなに変な演奏だったんだろう?
いけにえの賛美、ここもゆっくりと強烈な原色の色彩です。木管のアンサンブルの良さが特に印象的でした。
祖先の呼び出し、かなりクレッシェンドするティンパニと大太鼓。ファゴットはテヌート気味です。
祖先の儀式、ズシンと思い刻み。ミュートしたトランペットとトロンポーンはテヌート気味です。ホルンも咆哮します。シンバルと大太鼓がかなり強烈です。バストランペットも強く下品です。
いけにえの踊り、気持ち良いティンパニ。最後は、ロシアンサウンド炸裂!原色の音の洪水状態です。ティンパニと大太鼓が一体になった原始的なリズム。トランペットやトロンボーンは短めに演奏します。最後の一撃も強烈でした。

強烈な演奏でした。なかなかの好演です。やはり春の祭典は枯れた老人が指揮してもダメですね。まだまだ脂ぎった人が指揮しないと面白い演奏は生まれてこないと思いました。

ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

バレンボイム★★★★★
第一部:大地礼賛
序奏、豊かな残響でとても雰囲気のあるファゴット。他の楽器も克明に浮き上がります。バスクラもはっきりとしています。ハーセスのトランペットも鋭いです。
春のきざし、豪快に鳴り響く弦。ホルンもトランペットも咆哮します。非常に濃厚な色彩。原色で彩られた演奏です。シカゴsoのパワー炸裂です。
誘拐、ズシンと響く大太鼓。金管の咆哮はかなり凄いです。豊かな残響も影響していると思いますがビンビンに響きます。
春の踊り、かなり膨らむコントラバス。金管の強烈さは尋常ではありません。ゆっくりとしたEbクラとフルート。
敵の都の人々の戯れ、容赦なく吹きまくる金管。弦もサクサクと気持ち良い響きです。
賢者の行列、大太鼓がかなり低い響きを伴っています。ギロもしっかり響きますが、金管の咆哮は凄いです。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、ホールの残響も伴っているからだと思いますが、トランペットなどは物凄く鋭く突き刺さって来るようで猛烈です。

第二部:いけにえ
序奏、とても表現の振幅が大きいです。大太鼓が入る部分も大きく膨らみます。
乙女たちの神秘なつどい、少しザラついたビオラ。豊かな響きで表現もあるアルトフルート。盛大になるヴァイオリン。爆発するような11拍子。
いけにえの賛美、怒涛のエネルギーです。遠慮なく吹きまくる金管。
祖先の呼び出し、大太鼓の超低音が長く尾を引きます。
祖先の儀式、残響が長いので、静寂感は全くありません。強烈なホルンの咆哮。トゥッティはシカゴsoのパワー炸裂です。物凄い音の洪水状態です。
いけにえの踊り、強烈な金管の咆哮。遠慮の無いティンパニの強打。

残響の長いホールでの演奏で、大太鼓などは長く尾を引いていました。金管の強烈な咆哮とティンパニの強打は胸がスカッとするような感じでした。ライブでこれだけ強烈な演奏が聞けた聴衆は幸せだったと思います。
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ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」2

たいこ叩きのストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」名盤試聴記

コリン・テイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★☆
重量級の春の祭典です。コンセルトヘボウの濃密な音色も生かされた演奏です。
第一部、冒頭からコンセルトヘボウの美しいホールトーンを伴った木管楽器の響きに魅了されます。とても伸びやかな柔らかい響きがたまらない。
春のきざし、とても重い弦です。ふくよかなホルン。豊かな響きです。フィンガーシンバルも鮮明に録れています。どの楽器も明快に録れています。豊かな響きがありながら細部まで聞こえるとても良い録音です。
音の一つ一つに力があって、リズムのキレが悪いことは決してないのですが、力があって重いです。
春のロンド、テンポは遅く大太鼓の音もものすごく重い。ドラは金属系の撥で叩いているような音がします。強烈です。
敵の都の人々の戯れ、ここでも登場する一つ一つの楽器の存在感が抜群です。音に力があるのです。また、このオケのアンサンブル能力の高さもすごい。
大地の踊り、リアルな音で、オケが一体になって迫ってきます。重い音なのですごいエネルギー感です。

第二部、濃厚、春の祭典には音が重すぎるかもしれません。この音で「ペトルーシュカ」は考えにくいです。「火の鳥」だったら深みのある良い演奏になると思います。
いずれにしても、尋常な音で演奏されてはいません。かなりショッキングな春の祭典が展開されています。
色彩感がとても豊かですがホールトーンも伴っているので、原色のキツイ色合いではない。
11拍子からかなりテンポが速くなりました。スピード感もオケが一体になっているので見事!
祖先の呼び出しも速いテンポで小気味良い。
同じ曲でも、指揮者が違うと、どうしてこんなにも空気を変えることができるのでしょうか。不思議なくらい違いがあります。

デイヴィスの指揮の場合でもオケの集中力をすごく引き出していて、緊張の糸がピーンと張り詰めています。ですから、静寂感と少し冷たい空気を感じることができます。団員の気持ちが緩んでいると絶対に感じることができない空気感です。
これほど重い春の祭典は、誰にでもお勧めできる演奏ではありませんが、いくつかの演奏を聴いた人には絶対に聞いてほしい一枚です。

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、かなり締まったファゴット。とても静まった空気感です。克明に動く各々の楽器がマルチ録音を印象付けます。
春のきざし、バネのように弾む弦。短く強いホルン。ティンパニもバネがあります。とにかく色んな楽器が手に取るように分かる克明な演奏です。金管は激しく咆哮することは無く、案外冷静です。
誘拐、容赦なく咆哮するホルン。トロンボーンも強烈です。
春の踊り、重く尾を引くコントラバス。速めのテンポでさっさと進みます。元気の良い演奏です。ティンパニは三つの音をはっきりと分けて演奏しています。ピッコロの後もスピード感のある演奏です。
敵の都の人々の戯れ、屈託無く伸び伸びと鳴り響く金管。木管も統率が取れていて見事なアンサンブルです。
賢者の行列、本来なら音量が落ちるはずのホルンが全く音量を落とさずに演奏します。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、全ての音が前に出で来て色彩のパレットを広げたようです。

第二部:いけにえ
序奏、大太鼓が入ると崩れ落ちるように重くなります。いろんな楽器の動きが明快に分かります。
乙女たちの神秘なつどい、艶やかで色気のあるビオラ。アルトフルートからは速めのテンポでさっさと進みます。引き締まったホルン。ゆっくりと重い11拍子。
いけにえの賛美、色彩が豊かでバネのように弾むリズム。
祖先の呼び出し、ティンパニはあまり激しくありません。ファゴットもあっさりとしています。
祖先の儀式、弱奏と強奏の差がとても大きいです。トゥッティのエネルギーは巨大です。
いけにえの踊り、ティンパニがミュートされているのでリズムがとても先鋭です。研ぎ澄まされたトロンボーン。

マルチマイクでいろんなパートがとても鮮明で、とても元気な演奏でした。色彩感も豊かで、シカゴsoのパワーもさすがでした。

ピエール・ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団

ブーレーズ★★★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、ブーレーズの演奏だと無機的な感じがしますが、思った以上に音楽的でメロディも美しいですし豊かな表現です。奥から鋭いトランペット。
春のきざし、あまり密度が濃く無い弦。トランペットは凄く鋭いです。とても冷静で狂気のような感じはありません。
誘拐、金管はとても良く鳴っています。
春の踊り、ゆっくりと引きずるような弦。大きく歌うホルン。鋭利な刃物のように鋭い演奏で、温度感も冷たい感じです。
敵の都の人々の戯れ、ゆったりと大きく構えた余裕さえ感じる演奏です。弦もトランペットも余裕しゃくしゃくで演奏しています。
賢者の行列、ホルンはあまり音量を落とさずそのまま演奏しています。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、ここもゆっくりとしたテンポで鋭いトランペットが鳴りますが、堂々としています。

第二部:いけにえ
序奏、第一部の序奏のようにとても豊かな表現です。くっきりと浮かぶクラリネット。
乙女たちの神秘なつどい、ささくれ立ったようで美しくないビオラ。僅かに金属的な響きのヴァイオリン。かなりの勢いで演奏される11拍子。
いけにえの賛美、鋭くはじけるトランペット。途中でテンポが遅くなりました。
祖先の呼び出し、颯爽とした金管。ティンパニはあまり激しくありません。
祖先の儀式、緊張感のあるヴァイオリン。あまり激しくないホルン。
いけにえの踊り、鋭い響きとリズムも切れのある鋭い演奏です。容赦なく立ち上がる金管のザクザクとした響き。

鋭い響きで、突き刺さるような演奏でしたが、歌うところはしっかりとした表現で、メリハリのある良い演奏でした。ただ、ブーレーズは常に完璧にコントロールしているので、オケが突き抜けて来るようなことは全くありませんでした。
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アンドレス・オロスコ=エストラーダ/hr交響楽団

エストラーダ★★★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、ゆっくりとしたテンポで豊かな表情で歌うファゴット。Ebクラもメリハリの効いた表現です。
春のきざし、短く重い弦。鋭いトランペット。ティンパニは軽いです。明るいホルン。内声部の旋律が浮かび上がります。
誘拐、バランスの良い充実した響きです。ここぞと言うところで金管が突き抜けてきます。大太鼓もズシンと響きます。
春の踊り、木管から弦に移るところでテンポを落としました。マスの響きの一体感もとても良いです。最後でテンポを落としました。
敵の都の人々の戯れ、ティンパニはやはり軽いです。とても落ち着いていて熱狂するような咆哮はありません。
賢者の行列、抑えたホルン。チューバの方が強いです。ギロが強く響きます。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、とても堅実で安定した演奏で危なげなところが全くありません。

第二部:いけにえ
序奏、柔らかく繊細な表現。
乙女たちの神秘なつどい、一つ一つの楽器の密度が高くね透明感も高い響きでとても美しいです。大太鼓の重量感のある響きを伴った11拍子。
いけにえの賛美、凄い躍動感ど情報量です。音楽にも勢いがあって力強いです。
祖先の呼び出し、ティンパニの頂点でズシンと来ます。ファゴットはテヌートでした。
祖先の儀式、伸びやかで色彩感も豊かです。強く咆哮するホルン。
いけにえの踊り、情熱的で、オケも献身的に表現しています。最後のクレッシェンドは凄かったです。

強烈な咆哮はありませんでしたが、かなり積極的な表現で、密度の濃い演奏を聞かせてくれました。オケも上手く安定感もあって良い演奏でした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ミネソタ管弦楽団

スクロヴァチェフスキ★★★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、離れたところから柔らかく響くファゴット。ゆったりとしたテンポで伸びやかな演奏です。艶やかなEbクラ。ビリビリとしたトランペット。
春のきざし、重量感のある弦。落ち着いたテンポです。トランペットは軽く演奏しています。ティンパニも軽いです。激しい咆哮はありません。
誘拐、響きが引き締まっていて、見通しが良く色んな音が聞えてくる感じがします。
春の踊り、速いテンポの弦。ティンパニが入った部分では、普通聞えないビーと言う響きが聞えます。
敵の都の人々の戯れ、弾むようなホルン。弦もティンパニも弾みます。トランペットのフラッターが強調されます。
賢者の行列、ホルンはかなり抑えています。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、トランペットが鋭く、その間にホルンが浮き出てきます。

第二部:いけにえ
序奏、美しい弦。ふくよかなホルンと色彩感も豊かです。
乙女たちの神秘なつどい、細身で艶やかなビオラ。速めのテンポであっさりと進むアルトフルート。文字通り叩きつけるような11拍子。
いけにえの賛美、オケはスクロヴァチェフスキに鍛えられたのかかなり上手いです。
祖先の呼び出し、速いテンポで、ティンパニはあまりクレッシェンドしません。シャープで鋭い金管の響きは心地良いものです。
祖先の儀式、あまり強くないホルン。弱音部分は静寂感があります。
いけにえの踊り、鋭い金管と硬い音のティンパニが演奏を引き締めています。

鋭くシャープな演奏で、贅肉を削ぎ落としたような演奏はとても心地良いものでした。ミネソタoもかなり鍛えられていて上手かったです。
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ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」3

たいこ叩きのストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」名盤試聴記

レナード・バーンスタイン/ロンドン交響楽団

icon★★★★
LPの当時は4チャンネル録音だったと思います。残響成分が多すぎて細部が分からないような録音でしたが、CDになって余分な成分をカットしたようで、聞きやすくなりました。
春の祭典を音楽的に聴かせてくれています。1974年の録音

第一部:大地礼賛
比較的速いテンポであっさりとした序奏です。かなり奥まったところから鋭い音のトランペット。
春のきざし、録音のせいか密度の薄い弦。ホルンはバリバリとした音です。録音が捉えきっていないだけで、かなり強烈なffを吹いているのは伝わってきます。ダイナミックレンジは狭い録音です。ティンパニも大太鼓も流れているようであまり強烈ではありません。ふくよかなホルン、シャープなトランペット。これも録音のせいか?ズレて聞こえるところもありますが・・・・・・・・・。
誘拐、かなり強烈に演奏しているようなのですが、録音がライヴ過ぎて角が取れてしまっています。
春の踊り、コントラバスが強いですが、重量感はありません。金管のホルタメントも強調されていますが、突き抜けては来ません。
敵の都の人々の戯れ、抉るように激しいホルン。ティンパニも凄いです。
賢者の行列、トランペットも強烈になりました。
大地の踊り、いろんな楽器が入り混じって混濁します。元々の録音の狙いもあったのか、リズムよりもメロディを歌うことに重点を置いているような演奏に感じます。残響成分が多いので、リズムのキレはどうしても悪くなってしまうので、激しいリズムの隙間にあるメロディを感情込めて歌っている演奏です。春の祭典がこんなにメロディアスな作品だったのかと驚かされます。

第二部:いけにえ
序奏、冒頭は速めであっさりしています。聞こえないほど遠くにいるトランペット。特に第二部ではアゴーギクも効かせて表情豊かです。残響成分が多いので金管の響きも気持ちいいし、メロディも歌うので、心地よい演奏になっています。
惜しむらくは、録音がもう少し良ければ、もっと評価された演奏だったと思います。
乙女たちの神秘なつどい、美しく歌うビオラ。色彩感もかなり鮮明です。ホルンもオーボエも歌います。勢いのある11拍子ですが、重量感はありません。
いけにえの賛美、スピード感のある演奏です。かなり乗って演奏している感じで楽しそうです。
祖先の呼び出し、ファゴットのメロディも哀愁に満ちて泣かせるほどです。無機的に演奏されることが多い春の祭典ではありえないことだと思いますが、それをやってのけたバーンスタインも凄いです。
祖先の儀式、打楽器を伴ったホルンはかなり強く演奏しています。
いけにえの踊りでは、ティンパニも思いっきり引っ叩いていますし、金管も吹きまくっているようですが、聞き手側に音が届いてこないので、凶暴な演奏には聞こえません。

録音の仕方によっては全く違う印象になったかも知れませんが、私にとっては、良い演奏でした。

イゴール・マルケヴィッチ/スイス・ロマンド管弦楽団

マルケヴィッチ★★★★
1982年のライブ録音

第一部、ライブとは思えない静寂感。虚飾を取り去ったようなシャープな演奏で、実に整然としています。
金管がかなり控えめな録音で、春のきざしのトランペットやホルンは、遥かかなたにいるようです。
ティンパニは近い。ドラは薄いものを使っている。
ゴージャスな響きはなく、むしろ簡素で作品の素の部分を聞かせてくれているようです。
金管がかぶってこないので、ffでも他のパートの動きも分かる。ライブでこれだけのバランスを保って演奏する能力は凄く高いものだと思います。
春の祭典の狂ったような高揚感もありません。しかし、これだけ複雑な音楽を整然と演奏されるとア然としますね。

第二部、速めのテンポであっさり。とにかくムダな表現をあえて極力避けているようです。
金管の咆哮も感じとしては十分伝わってくるのですが、音圧としては来ないので、ダイナミックレンジが狭い感じで、春の祭典のCDとしては、聴き易いです。
「無駄なものを削ぎ落とすとこんな作りになっているのか」と、今まで聞いていたグラマラスな春の祭典は何だったんだろうと考えさせられます。
ん~。何なんだろう。春の祭典に爆発するエネルギーや豪快に鳴る抜群に上手いオケの演奏を聴きたい人にはお勧めできません。

春の祭典を聞きあさっている人には一度聞いてみて欲しい演奏です。

マイケル・ティルソン・トーマス/ボストン交響楽団

icon★★★★
贅肉を削ぎ落とした、筋肉質でシャープな春の祭典です。若きトーマスの意欲作!

第一部、暗闇の中からロウソクの炎の立ちのぼるようなファゴットの美しいソロ。やはり良い演奏には静寂感があります。ピリッとした緊張感が漂っています。
春のきざし、一体になって締まった弦楽器。暴発しない金管が演奏をさらに引き締めている。大太鼓ももやもやした響きは残さない。小さめの楽器を使っているのでしょうか。
春のロンド、ここで少し穏やかな雰囲気になります。でも、ホルンは細身の音です。ティンパニが強烈に叩きつける部分もありますし、金管の咆哮もありますが、きちんとコントロールされていて、暴走は有り得ません。このあたりは、指揮者の能力の高さをうかがわせます。

第二部、とても繊細な弦楽器の演奏です。整然と整った演奏。この曲を混濁させることなく、聴かせる事ができる指揮者はそう多くはいないと思います。その意味では、マイケル・ティルソン・トーマスの能力の高さは凄いと思います。
極端に突出する部分もないので、この演奏がすごく印象に残るものにはなりにくいかもしれませんが、春の祭典を見事に整理して整然と演奏したことは、実はもの凄いことなのだと思います。

デッドなホールで奏者もあまり音を長く残さずに演奏して、モヤモヤするのを極力排除して、曲の構成を突きつけてきたような演奏でした。ボストンsoはそんなに上手いとは思いませんが、かなり頑張って演奏しています。

ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

メータ/1978★★★★
メータが颯爽とニューヨークへ乗り込んで最初の録音です。

第一部、若干クレッシェンドぎみに入るファゴット。静寂感があって、この先を期待させる序奏です。
登場する楽器それぞれがとても表情豊かです。
トランペットが変わったミュートをつけているような音です。
弦がコントラバスの重い音も伴って力強い音です。ホルンが鳴りきらないような変な音。
トランペット、トロンボーンは強力です。ティンパニも良い音で切り込んできます。テューバも含めた金管が炸裂します。打楽器も躊躇無く来ます。
緩い部分はゆったりとしたテンポでメリハリもあり聞けます。
いろんな打楽器が聞こえて凄い最後。やはり、これぐらい鳴り切らないと面白くないです。

第二部、少し音が粗いかもしれません。繊細な弦を聴くことはできないです。でも、場面場面の表現は上手くできているので、聞き入ることができます。オケのメンバーの集中力も高いようで、ピリッとした空気感を感じることができます。
私は、評論家がどんな評価をしようが、無音時に、このピリッとしてちょっと冷たい空気感が無い演奏は良い演奏だとは思えません。CDであっても、その場のメンバーが作り出す空気がピリッとしていたり、なんとなくザワついていたりすることがあります。
オケのメンバーが集中して、一つのことを成し遂げようとする空気はCDにも収録されるものです。
その面では、この演奏には十分な集中力があるし、実際オケの発する音にも方向性が感じられます。
ホルンは全体を通して独特の音です。ビーっと言う感じの鳴り方ではありません。割った音ではなく、太い音がします。
ティンパニが締まった良い音で気持ちが良い!この演奏では、テューバが随所で良い役割を果たしています。
ホールが少し金属的な響きを持っているようで、木質の柔らかい残響ではありません。

この演奏は、メータとニューヨーク・フィルが新たな門出に期待を込めて、お互いの力を出し尽くした演奏だと思います。

マイケル・ティルソン・トーマス/サンフランシスコ交響楽団

トーマス★★★★
第一部:大地礼賛
序奏、クレッシェンドして始まるファゴット。ゆっくりとしたテンポでねっとりとした表現です。Ebクラがスタッカードぎみです。鋭く突き刺さるトランペット。
春のきざし、フワッとしていて奥まって静かな印象の弦。テヌートぎみに演奏する部分がありました。キリキリと鋭く響くトランペット。
誘拐、とても軽く演奏している感じで、力を振り絞るような感じはあまりありませんが、ここぞと言うところでは絶叫します。
春の踊り、速めのテンポであっさりと進む弦。ここでも金管の絶叫はかなり凄いです。
敵の都の人々の戯れ、軽いティンパニ。トランペットは鋭く響きますが、他のパートはそんなに強くはありません。
賢者の行列、トランペットは強烈です。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、軽いですが、鋭くシャープな演奏です。怒涛のようなエネルギーはありません。最後大太鼓が大きくクレッシェンドしました。

第二部:いけにえ
序奏、繊細な表現。重い大太鼓。とても少ない人数で演奏しているように小さくなります。トランペットはすごく弱いです。
乙女たちの神秘なつどい、離れたところでサラサラとした響きのビオラ。オフぎみで淡白な響き。大太鼓のバネのように弾む11拍子。
いけにえの賛美、大太鼓がとても強調されている感じです。
祖先の呼び出し、速めのテンポでファゴットも弾みます。
祖先の儀式、遠くて静かです。アルトフルートは歌いました。硬いシンバルが強い中ホルンが響きます。
いけにえの踊り、ミニチュアのように小さい音場感ですが、ティンパニが強烈にリズムを刻みドラも金属的な響きで入って来ます。トランペットも強烈です。ティンパニの音色は抜群に良いです。弦は控えめですが、金管はかなり強いです。最後のティンパニが独特なリズムを刻む部分の音色や金管の突き刺さるような演奏はとても良いです。

とても小さい音場感でした。ほとんどは抑え気味が軽く演奏されましたが、ここぞと言うところでは強烈な表現もありました。ただ、都会的でシャープな感じは常にありました。
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ヴァレリー・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団

ゲルギエフ★★★★
第一部:大地礼賛
序奏、凝った表現のファゴット。あまり強くないトランペット。春のきざしへ向けて加速します。
春のきざし、そのままの勢いで入ります。テンポが速いので、弦は小じんまりしています。ティンパニもあまり強く叩きません。速いテンポで慌ただしいです。
誘拐、速いテンポでオケが全開になることはありません。
春の踊り、オーボエはたっぷりとテンポを落としてねっとりと演奏されます。ドラはとても軽い音です。リミッターがかかったように金管が奥まっています。
敵の都の人々の戯れ、濃厚な色彩ですが、金管の咆哮はありません。
賢者の行列、金管は強く演奏しているようですが、録音の問題か、あまり突き抜けて来ません。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、ドラがとても軽いので、重量感を感じません。

第二部:いけにえ
序奏、ゆらゆらと揺れ動きながらとても静かな演奏です。トランペットが入る前に長い間がありました。トランペットは弱いです。
乙女たちの神秘なつどい、ゆっくりと演奏されるアルトフルート。詰まったように重量感の無い11拍子。
いけにえの賛美、バチッと入る大太鼓。
祖先の呼び出し、テヌート演奏が続きます。ファゴットは豊かな表現です。
祖先の儀式、
いけにえの踊り、テヌートぎみで柔らかく演奏されるトロンボーン。間があったりしました。トロクボーンのグリッサンドをゆっくり演奏しました。最後の音はキーロフとの録音と同じように長く演奏しました。

独自の表現が散りばめられた演奏でした。ただ、キーロフとの録音のような衝撃はありませんでした。
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フランソワ=グザヴィエ・ロト/レ・シエクル

ロト★★★★
第一部:大地礼賛
序奏、僅かに細い響きのファゴット。トランペットはあまり聞えません。
春のきざし、細く軽い弦とそれに一体となったホルン。ファゴットの合間の弦はかなり音量を落として演奏しました。トランペットやホルンもあまり突き抜けては来ません。
誘拐、ホルンは今の楽器のように豊かにビリビリとは鳴りません。弦の強弱の変化はとても統率が取れていて見事です。
春の踊り、鋭く抉るような金管。リピートがあるのでしょうか?普通は通り過ぎる部分でリピートがありました。
敵の都の人々の戯れ、
賢者の行列、ホルンはかなり弱く演奏しています。トランペットも独特の音色です。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、古楽器による演奏ですが、現代の楽器との演奏と大きな違いは感じません。

第二部:いけにえ
序奏、ヴァイオリンのソロがあまり聞き取れません。暗闇と緊張感を感じさせる演奏です。
乙女たちの神秘なつどい、とてもソフトなアルトフルート。11拍子の前で大きな間を空けて、ティンパニ中心の11拍子でした。
いけにえの賛美、凄いスピード感です。
祖先の呼び出し、ここも速いです。とても歯切れの良い金管。
祖先の儀式、とても静かです。
いけにえの踊り、間をあける部分がありました。

初演当時の楽器での演奏とのことでしたが、ベートーヴェンからの100年の進歩は大きく、現在の楽器と大きな違いは感じませんでした。見た目ではホルンがロータリーではなくピストンなくらいです。間を空けることが何度もありロトならではの研究の成果なのかも知れません。全体としては爆発するような強いエネルギーはありませんでしたが、整った演奏だったと思います。
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ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」4

たいこ叩きのストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」名盤試聴記

ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン/オランダ放送室内フィルハーモニー管弦楽団

ズヴェーデン★★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、ショルティの演奏に比べるとかなりマイルドで溶け合った楽器。鋭いトランペット。少し静寂があってからファゴットが入りました。
春のきざし、あまり激しさは感じない弦。トランペットも抑えています。マルチマイクの克明な演奏に比べるととてもマイルドで平板な感じがします。金管はあまり強いエネルギーはありません。
誘拐、録音によるものなのかも知れませんが、あまり激しい咆哮は無く大人しい感じです。
春の踊り、ゆっくり目の弦。大暴れすることなく落ち着いて整った演奏です。
敵の都の人々の戯れ、オフな録音のためかも知れませんが、限界まで演奏するような必死な演奏ではありません。
賢者の行列、やはり冷静です。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、きれいなタンギングのトランペット。

第二部:いけにえ
序奏、丁寧に表現が付けられています。トゥッティの爆発はありませんでしたが、弱音の表現はなかなかです。
乙女たちの神秘なつどい、濃厚ではありませんが、色彩の変化がとても良いです。ヴァイオリンもホルンも美しい。ティンパニが目立つ11拍子。
いけにえの賛美、ブレンドされた響きなのですが、その分原色の濃厚な色彩はありません。
祖先の呼び出し、ティンパニはあまり強打しません。
祖先の儀式、静寂感のあるピイツィカート。ホルンの激しい咆哮。
いけにえの踊り、ブレンドされた響きはとても良いものです。ティンパニも硬めで強い音です。

ブレンドされた美しい響きでマイルドな演奏でした。オケは限界まで咆哮することは無く、落ち着いた演奏で、強烈な個性も感じませんでした。
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ゲンナジ・ロジェストヴェンスキー/ロンドン交響楽団

icon★★★
一部、極めて常識的な出だし。ゆっくりな春の兆しです。予想したような爆演ではありません。全体的にゆっくりとしたテンポで音楽が進んで行きます。
金管の咆哮も録音のせいか控え目に響きます。整った演奏です。ロンドンsoはそつなく演奏しています。ロジェベンがオケに限界を要求するような場面はありませんでした。

二部、冒頭はあまり静寂間はありません。
淡々と音楽が進んで行きます。可も無く不可もなくというような演奏です。
11拍子はゆっくりでした。テンポが全体にゆったり目だった他は、そんなに特徴のある演奏ではないような感じがしました。

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ドレスデン

icon★★★
第一部、すごく雰囲気のあるファゴットです。ゆったりとした弦のピチカート続く弦は一音一音克明に刻みます。作品にふさわしくエネルギッシュですが、折り目正しく端正な演奏はスゥイトナーらしいです。とてもアンサンブルが整っていて整然としています。しかし、ここぞと言う場面での咆哮はすさまじいものがあります。硬質なティンパニが響きにモヤモヤしたものを残さず演奏を引き締めています。

第二部、比較的大きめ極端に絞った印象のない音で開始しました。アルトフルートがホールの響く音がとても良い雰囲気です。11拍子の前のミュートしたホルンとトランペットはすごく弱く演奏しました。11拍子へ入る前に間を置きました。ティパニが刻むリズムがとても克明です。ここでもファゴットがとても良い響きです。

この時代にこれだけ整然とした演奏ができていたことに驚きます。

クラウディオ・アバド/ロンドン交響楽団

アバド★★★
第一部:大地礼賛
序奏、豊かな残響で柔らかいファゴット。バスクラが強調されることも無く、とても自然なバランスです。
春のきざし、左右いっぱいに広がる弦。ショルティの演奏ほど克明ではありませんが、楽器の動きは良く分かります。美しいホルン。トランペットは突き抜けて来ません。
誘拐、ここぞと言うところでエネルギーの爆発が無くて拍子抜けします。
春の踊り、ティンパニが柔らかい音でリズムがはっきりと聞えて来ません。
敵の都の人々の戯れ、ホルンやトランペットが膜を突き破ってくるように鮮明に響きます。すっきりと爽やかな響きです。
賢者の行列、ギロがはっきり聞えます。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、かなり強くは演奏していますが、限界近い咆哮はありません。

第二部:いけにえ
序奏、豊かで伸びやかで、緊張感はありません。
乙女たちの神秘なつどい、豊かに歌うビオラ。11拍子の前のドラが強く入りました。
いけにえの賛美、濃厚な色彩と強烈なトランペット。
祖先の呼び出し、大きなクレッシェンドはしないティンパニ。静かなファゴット。
祖先の儀式、速めのテンポで前へ前へと進みます。良く動いて豊かな表情です。強弱の振幅が大きいホルン。
いけにえの踊り、ティンパニが柔らかく、全体の印象をソフトにしているように感じます。

柔らかいティンパニが象徴するように全体に柔らかくふくよかな演奏で筋肉質で贅肉をそぎ落としたような精悍な演奏ではありませんでした。
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イゴール・マルケヴィッチ/日本フィルハーモニー交響楽団

マルケヴィチ★★☆
第一部:大地礼賛
序奏、Ebクラの登場あたりから少しテンポが遅くなっていますが、表現はあまりありません。デッド近いトランペット。
春のきざし、かなりデッドで薄い響きです。トランペットが不協和音でぶつかり合うのも良く分かります。大太鼓は強烈に叩きました。オケはかなり頑張っています。
誘拐、ベタッとした大太鼓。奥行き感があまり無く、楽器の動きは克明に分かります。
春の踊り、少し速めの弦。金管はかなり頑張っているようですが、デッドなので、響きがマットで輝きがありません。
敵の都の人々の戯れ、デッドなので、楽器の動きはとても良く分かるのですが、全体の響きが融合しないのと響きを伴った大きな感じが無いのが残念です。
賢者の行列、チューバがかなり強いです。ドラも強烈です。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、金管が吠えると弦が聞えなくなります。大太鼓が最後に大きくクレッシェンドしました。

第二部:いけにえ
序奏、冒頭からトランペットが聞えます。弱音部分は音が太らないので、細部まで克明です。
乙女たちの神秘なつどい、サラッとしていて艶やかさの無いビオラ。ピツィカートに入る手前で大きくテンポを落としました。硬い打撃の11拍子。
いけにえの賛美、デッドなので騒々しいです。
祖先の呼び出し、しっかりクレッシェンドするティンパニ。
祖先の儀式、速めのテンポでデッドな響きをカバーするような演奏。アルトフルートも速いテンポです。金管の短い音が残響が少ないので、とても短く「ヘ」をこいたような感じです。
いけにえの踊り、速いテンポですが、弦は引きずるように長い音で演奏します。ティンパニはとても良い音です。

オケはかなり頑張っていました。デッドな録音でかなり細部までさらけ出された演奏でしたが、あまりにもデッドで奥行き感の全く無い浅い音場感と残響が伴わないので、音が短く間が持たない感じもありました。
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シャルル・デュトワ/モントリオール管弦楽団

★★
序奏はすごく良い雰囲気なのですが、デュトワに荒れ狂うような演奏を求めるのはムリなのでしょうか。

第一部、とても雰囲気のある始動で、これから始まることを期待させる演奏です。色彩感豊かな音色です。
春のきざし、弾むように短めに演奏される弦。咆哮する金管。美しい音で鳴っています。
ふくよかなホルン、シャープなトランペット。なかなか良いのですが、デュトワの録音に共通する、低域のカットがなされているようで、低域が薄い感じがして、バランスが逆三角形に感じられて、腰高な印象になってしまいます。
オケは上手いのですが、都会的な春の祭典になっていて、洗練されすぎている印象です。泥臭さとは無縁の春の祭典です。
大変高度な演奏技術なのに、キンキンしていて、地鳴りのような底から湧き上がるようなエネルギーの爆発が感じられないのが、とても残念です。
すごく低い帯域まで録音はされているのですが、それよりも上の強いエネルギーを感じる部分が削がれているようで、魅力のない録音にしてしまっているようです。

第二部、弱音部分は良い雰囲気を持っています。静寂感もあるし。しかし、強奏の部分がシャープすぎる。これは、私の春の祭典に対する既成概念が強すぎるからかもしれません。
気持ちの良い音で決まるティンパニ!何も演奏には不足はないのですが、録り方が・・・・・・。
最後の部分でもティンパニと大太鼓が上手く組み合わさっているはずなのですが、大太鼓はほとんど聞こえません。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
1978年のライブ録音。

第一部、さすがに絶頂期のベルリン・フィル。どのパートもライブとは思えない上手さを見せつけます。
低域から深い響きの弦の刻み、ライブなので響きはデッドですが、その分楽器の動きが克明に表現されます。
カラヤンのスタジオ録音では有り得ないようなバストロンホーンの突出があったり、やはりライブは面白い!スピード感がすごくあります。テンポも速いのですが、それについて行く、ベルリン・フィルのメンバーの演奏のスピード感がとても良いです。
春のロンドではかなりテンポを落として、じっくり歌っています。やはりライブだと、こういったあたりの感情移入など、スタジオ録音では聞けない面を聴く事ができて、カラヤンも人間らしい演奏するんだなあと嬉しくなります。
カラヤンだから爆演にはなり得ないですが、それでも十分にオケを鳴らした気持ち良い演奏です。
あのスタジオ録音のよそ行き演奏は何だったのか。あれはひどすぎる。

第二部、艶やかなバイオリンのソロ。さすがです。11拍子はかなり遅い。
マルケヴィッチのライブのような余分な音を削ぎ落としたようなシャープさはありませんが、カラヤンらしく磨かれた演奏を聴かせてくれます。

これを聴いてしまうと、カラヤンの春の祭典に関しては、スタジオ録音は聞きたくなくなります。

ロリン・マゼール/バイエルン放送交響楽団

マゼール★★
第一部:大地礼賛
序奏、くっきりと浮かび上がるファゴット。残響が少ないのか少し寂しい感じがします。バスクラも強調されず自然です。トランペットはあまり強くありません。
春のきざし、これが自然なのかも知れませんが、柔らかく一音一音くっきりとはしない弦。ティンパニも軽く、ほとんど絶叫のような叫びはありません。とても落ち着いた演奏で静かです。ウィーンpoとの録音の引きずるような重さや濃厚さとは対照的な演奏です。
誘拐、ティンパニが凄く軽く叩きました。金管もとても軽いです。あまりにもおっとりした演奏で、作品の本来のイメージとはかなり違う演奏です。
春の踊り、音量は控えめで寂しい感じさえします。ティンパニは三つの音をはっきりと離して演奏しています。金管のポルタメントの部分で大きくテンポを落とします。
敵の都の人々の戯れ、テンポの動きがありますが、演奏はやはり軽いです。
賢者の行列、ホルンもチューバも遠くにいて近くでは鳴りません。トランペットなどは強く演奏しているようですが、音は迫って来ません。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、冷静で整ったアンサンブルです。とても静かです。

第二部:いけにえ
序奏、大太鼓が入っても軽いです。トランペットはかなり弱いです。
乙女たちの神秘なつどい、伸びやかに歌うビオラ。アルトフルートから少しテンポが速くなります。かなり締まったホルン。11拍子の前で間をあけました。11拍子はあまり重くありませんが、一つ一つしっかりとゆっくりと演奏しました。
いけにえの賛美、弦を中心に音楽が作られていて金管が飛びぬけて来るようなバランスにはなりません。
祖先の呼び出し、ゆっくりとしていますが、伸びやかではありません。
祖先の儀式、アルトフルートも遠くです。ホルンもそんなに強くはありません。
いけにえの踊り、遠いオケで、音があびせ掛けられるような演奏には全くなりません。マゼールも全く冷静に演奏している感じです。

咆哮とは程遠い演奏で、軽く冷静な演奏でした。演奏がそうだったのか、録音がそうだったのかは分かりませんが、このような演奏もありなのかも知れませんが「春の祭典」でストレスを発散したいような人には全く不向きな演奏でした。
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Olari Elts/エストニア国立交響楽団

Olari Elts★★
第一部:大地礼賛
序奏、クレッシェンドして入ったファゴット。楽器の出入りがはっきりしていて、動きが良く分かります。Ebクラはスタッカードぎみでした。トランペットはあまり強くありません。
春のきざし、勢いのある弦。トランペットが前に出てきます。危なっかしいホルン。金管の咆哮はありません。
誘拐、かなり控え目な金管。
春の踊り、硬いマレットで叩く大太鼓。
敵の都の人々の戯れ、ティンパニはあまり聞えません。ホルンも弱いです。木管がテヌートで演奏します。
賢者の行列、かなりの低域まで含んだ大太鼓。ここでもホルンは抑えています。大太鼓がズシんと響きます。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、鋭い響きのトランペット。最後、大太鼓が大きくクレッシェンドしました。

第二部:いけにえ
序奏、控えめな弦が繊細で美しいです。聞えないくらい弱いトランペット。弱音がとても味わい深いです。
乙女たちの神秘なつどい、細身ですが、とても柔らかいビオラ。弦がとても美しいです。弦のボウイングがはっきり聞える11拍子。
いけにえの賛美、荒れ狂うような咆哮も無く大人しい演奏です。
祖先の呼び出し、速めのテンポで軽く進みます。ファゴットはテヌートです。
祖先の儀式、速めで淡々と演奏されるアルトフルート。打楽器を含んだオケは凄いエネルギーですが、ホルンはそんなに強くありません。
いけにえの踊り、ここも軽い演奏でサラッと進みます。大太鼓だけが強烈です。

小さいミスは散見されましたが、全体には軽くサッと流したような演奏でした。大太鼓だけが強烈に入ってくるバランスも少し違和感がありました。
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ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」5

たいこ叩きのストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」名盤試聴記

ヨエル・レヴィ/アトランタ交響楽団

レヴィ★☆
第一部:大地礼賛
序奏、あまり小細工の無いストレートな演奏です。整然としていて編成が大きくないような感じさえします。
春のきざし、やはりすっさきりとしていて小さくまとまった感じがあります。金管も咆哮はしません。
誘拐、過不足無く金管も鳴りますが、ただ楽譜通りに演奏している感じで、特徴がありません。
春の踊り、この指揮者の没個性は「復活」の演奏でも感じましたが、教科書通りの模範演奏のようで、面白みは全くありません。
敵の都の人々の戯れ、ティンパニは強いですが、他は常識的な範囲です。
賢者の行列、全て予想の範囲内で、ワクワクするような驚きはありません。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、最後は大きくクレッシェンドしました。

第二部:いけにえ
序奏、ここも特徴らしいものは無く普通に進みます。
乙女たちの神秘なつどい、淡々と、表現も無く進みます。かなりダイナミックな11拍子。
いけにえの賛美、速いテンポですが、オケは絶対に暴走はしません。常に常識的な範囲で、私には安全運転のように感じてしまいます。
祖先の呼び出し、ティンパニはかなりクレッシェンドしました。
祖先の儀式、ダイナミックに咆哮するホルン。大太鼓も重いです。
いけにえの踊り、かなり慌てたような速いテンポ。テンポは速いですが、やはり制御されて暴走は一切しない演奏です。

全く危なげない模範演奏のようなつまらない演奏でした。レヴィの個性などは全く感じませんでした。
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ピエール・ブーレーズ/クリーブランド管弦楽団

icon
第一部、雰囲気のある序奏です。美しい音で録音されています。
バランス感覚は良いのですが、ブーレーズも歳なのか、昔のような抉り出すような鋭さは影を潜めて、丸い演奏。ドラティよりは練られているけれど・・・・・・。
面白くないレベルはあまり変わらない。

第二部、なんとなく音楽が流れて行く感じで、春の祭典を聞いているとは思えないくらいです。
ここまで、過去の作品として演奏したことに価値があるのか。

私には、分かりませんでした。

アンタル・ドラティ/デトロイト交響楽団

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第一部、とても落ち着いた序奏。巨匠の風格と言うか、微動だにしない余裕が感じられます。
大人の演奏と言う感じで狂気のような部分は皆無です。とても安心して聴けるのですが、春の祭典には何かスリルのようなものを求めてしまうのは私だけでしょうか。
ゆっくりした足取りで堅実だし、手馴れているようです。
ドラティとしては十八番でもあり、演奏回数も多いのでしょう。とても落ち着いててい、スピード感がありません。金管楽器を絶叫させるようなこともありませんし、あまりにも意外性が無さ過ぎて、ちょっとつまらない。
むしろ、変に抑えられていて、開放感がありません。私などは単純に気持ちよく爆発してくれれば、それ以上は望まないのですが・・・・・(^ ^;
ドラティはこの演奏から何を伝えようとしているのか、私には全く分かりません。

第二部、ここでも特別なことは何も起こりません。テンポを速めても乗り遅れる打楽器。
ドラティは「春の祭典」を完全に過去の作品に追いやってしまったようです。しかし、ドラティ自身がこの作品を愛しているのだろうか?

全てが、中庸で危なげない。 面白くない。全然面白くない!

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon
第一部、序奏、残響の少ないホールで速めのテンポで演奏されるファゴット。奥行き感があって、神秘的な雰囲気があります。
春のきざし、しっかりと刻まれる弦。ホルンは短く弱めです。とても整然としていて、泥臭さはありません。
誘拐、金管が咆哮するような強烈な表現はなく、カラヤンが絶対にオケを暴走させないように制御しているようです。
春の輪舞、この音楽の持つ凶暴さなどは一切出さずに、美しい演奏に終始しています。ベルリンpoも余裕で演奏しているように感じます。
敵の部族の遊戯、作品から距離を置いて、とても冷静に演奏しています。
長老の行進、ホルンは一人で演奏しているかのようにピッタリ合ったアンサンブルです。
長老の大地への口づけ、
大地の踊り、オケを爆発させることはなく、上品ですが、聴いていて熱くなるような演奏ではありません。

第二部、序奏、聴き手を引き付けるような静寂感はありません。あまりにも簡単に演奏していて、緊張感も感じません。
乙女の神秘的な踊り、アルトフルートも少し速めのテンポであっさりと演奏しました。美しい弦。
選ばれし生贄への賛美、オケはフルパワーではなく、とても軽い曲を聴いているような錯覚に陥ります。
祖先の召還、ティンパニのクレッシェンドも僅かでした。合間のファゴットもあっさりとしていました。
祖先の儀式、常に余力があり、必死に演奏しているような緊張感が感じられないのが不満になります。
生贄の踊り、ベルリンpoの分厚い響きも感じません。

ベルリンpoが余裕綽々で軽~く流して演奏したような、緊張感や必死さを感じない演奏で、ちょっと残念でした。

サー・サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団

ラトル
第一部:大地礼賛
序奏、自然な音場感ですが、普通では聞えないクラリネットが聞えたりします。トランペットはかなり奥まっています。
春のきざし、割と静かな弦。浅いホルン。トランペットは奥で音が出てきません。ティンパニも優しいです。トゥッティでも音は引っ込んでいて強弱の変化に乏しいです。
誘拐、音量も抑え気味なのか、音場感も狭く箱庭を見ているような感じです。
春の踊り、平板で淡々と進んで行きます。ドラも軽い音です。金管は全く前に出てきません。
敵の都の人々の戯れ、遠くから響いて来るような金管。とても軽くてスケールが小さい演奏に感じます。
賢者の行列、ホルンは抑えられて、チューバの方が強いです。トゥッティでも全く金管が前に出てきません。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、響きからすると金管もかなり鳴っているようなのですが、録音が全く金管を捉えていないので、演奏が小さいです。

第二部:いけにえ
序奏、漂いながら寄せては返すように強弱が変化します。トランペットはとても弱いです。
乙女たちの神秘なつどい、細かく表現が付けられています。テンポも動いて生き生きとしています。ゆっくりと、弦のボウイングが良く聞える11拍子。
いけにえの賛美、重く引きずるようなテンポです。
祖先の呼び出し、かなりクレッシェンドするティンパニ。
祖先の儀式、淡々と演奏されるアルトフルート。金管が入るととたんに奥へ引っ込んでしまいダイナミックな演奏にはなりません。どうしてここまで抑えなければいけないのか分かりません。
いけにえの踊り、ゆっくりとしたテンポで金管を抑えたバランスはここでも一緒です。ティンパニも軽いです。チューバは強いのですが、トランペットは極端に抑えたバランスです。

トランペットを極端に抑えた録音のバランスで、野生の粗野な迫力などは全く伝わって来ませんでした。
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小澤 征爾/ボストン交響楽団

小澤
第一部:大地礼賛
序奏、速めのテンポでとてもあっさりとした演奏です。バスクラなどはほとんど聞えないくらいです。トランペットはチビッたような感じです。
春のきざし、かなり低い音も伴った弦。トロンボーンもチビッたような煮え切らない感じの演奏です。思い切りオケを鳴らさないので欲求不満になりそうです。
誘拐、速いテンポで金管を思い切り鳴らさない演奏で、煮え切りません。
春の踊り、Ebクラとバスクラのメロディはゆっくりでした。ピッコロが入る前に間がありました。
敵の都の人々の戯れ、テンポが速めで雑然とした感じになりました。
賢者の行列、大太鼓はとても軽いです。チューバがとても強いです。キューっと締まったトランペット。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、大太鼓が入る部分は弦が引きずるような演奏です。埃っぽいトランペット。

第二部:いけにえ
序奏、
乙女たちの神秘なつどい、カサカサしてあまり美しくないビオラ。ホルンがゆっくり目で明るく美しい演奏でした。ゆっくりと弦のボウイングがはっきり聞える11拍子。
いけにえの賛美、色彩感はあまり濃厚ではありません。ほとんど単色のような感じさえします。
祖先の呼び出し、あまりクレッシェンドしないティンパニ。
祖先の儀式、ゆっくりと確実な歩みです。ミュートしたトランペットはかなり抑えています。
いけにえの踊り、抑えたティンパニ。ここでも中途半端に金管を鳴らす部分があって、スッキリしません。

とてもユニークな演奏でしたが、チビッたような金管の煮え切らない演奏は理解できませんでした。
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ロリス・チェクナヴォリアン/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

チェクナヴォリアン
1977年の録音
第一部、ビリビリ言うバスクラ、あまり緊張感のある出だしではなかった。Ebクラはかなり強く表情豊かに演奏されたけれど、トランペットは控えめでした。
春のきざし、ホルンが異常に近くにいてバフバフ言っています。
不思議な感覚にさせられる微妙なテンポの動きがあって、一瞬トランス状態になったような錯覚を感じました。
場面の終わりで演奏が緩むことがあって、不思議な演奏です。チェクナヴォリアンの癖なのか、フレーズの終わりや場面の終わまで、気を抜かずに演奏していないので、ダレた印象があります。
春のロンドの弦楽器のアンサンブルが乱れます。何か全体的に緊張感の乏しい演奏に感じてしまうのですが・・・・・・。

第二部、打楽器の重いロールが闇を演出するのに非常に効果的です。ゆっくりとした足取りで演奏されますが、どうも緊張感がなくて、聞き手に迫ってくるものがない。
スコアを見ていないので、厳密なところは分かりませんが、かなりアンサンブルは乱れているように聞こえます。
爆演を組み合わせたCDですが、明らかにマータに軍配が上がります。
祖先の儀式のティンパニの音色も演奏になじまない、個人的にはもっと締まった音を望みたいです。アルトフルートのブレスもはっきり分かるし、どうなっているのでしょう?
ホルンは絶叫しますが、その他のパートがバラバラで、爆演なら何でも良いわけではない。
いけにえの踊り、リズムが流れてしまっていて、オケのメンバーが拍をしっかり感じていないようで、終始締まりの無い爆演だったなあ。

ジェームズ・レヴァイン/メトロポリタン・オーケストラ

icon
第一部、トランペットの音の処理が独特です。渇き気味の音で潤いがありません。
春のきざしからは激しい演奏なのですが、雑な感じを受けます。表情もつけているのですが、音の扱いが丁寧じゃない印象を受けます。
金管の咆哮も凄いし、ティンパニの強打もすごいのですが、おもちゃ箱をひっくり返したような雑然さがあるのはナゼでしょう?
大太鼓の重低音もなかなか良い音です。個々の楽器は良い音を出しているのですが、全体としての一体感が乏しい。いろんな表現を試しているのも評価できるし、いい加減な演奏をしているわけではないと思うのですが、乱暴に聞こえてしまいます。

第二部、なんとなく吹きやすい音量で吹いている感じで静寂感は全くと言って良いほどありません。
爆演と言うにふさわしい演奏です。指揮者のコントロール下にない爆演のような気がします。みんなやりたい放題!

ちょっと聞くに堪えない演奏でした。

ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ
第一部:大地礼賛
序奏、モノラルで遠い音場感で、古臭い感じがします。バスクラはほとんど聞えません。トランペットも奥まっています。
春のきざし、かなり粗い弦。ホルンも歪んでいるようです。トランペットはとても軽いです。相当ザラついた響きで美しくありません。
誘拐、この曲でこれだけ古臭い録音は致命的です。
春の踊り、速いテンポであっさりと進む弦。続く木管やホルンもとてもあっさりとしています。ティンパニが入ってからも速いテンポでサラリと軽く進みます。
敵の都の人々の戯れ、ナローレンジでトランペットの高音も気持ちよく響きません。
賢者の行列、伸びやかさが無く、何かに押さえつけられているような感じがします。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、最後はかなり必死な演奏になりました。

第二部:いけにえ
序奏、速いテンポでほとんどインテンポで進みます。
乙女たちの神秘なつどい、金属的なビオラ。ピツィカートからも速いテンポで弾むようです。凄く速いテンポで駆け抜けた11拍子。
いけにえの賛美、とにかく古臭い録音が何とも言えません。
祖先の呼び出し、かなり速いテンポです。スタッカートぎみに演奏するトランペット。とにかく速くて落ち着きがありません。
祖先の儀式、

いけにえの踊り、古いラジオから聞えてくるような音で、作品の巨大な編成などは全く伝わって来ません。現在聞くバランスとはかなり違う演奏です。
古臭い録音が致命的で、巨大な編成からの濃厚な色彩などは全く伝わって来ませんでした。
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