カテゴリー: マーラー:交響曲第2番「復活」名盤試聴記

マーラー:交響曲第2番「復活」の名盤はたくさんありますが、まずテンシュテット/ロンドンpoの1989年ライヴ。バーンスタイン/ニューヨークpoの1987年のライヴ。テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団の1980年のライヴの3点が強烈な感情移入で感情を叩き付けて来るような名盤です。この3点の中で最も粘着質なのはバーンスタイン版です。ショルティ/ベルリンpoの1979年のライヴは完璧なシカゴsoとのスタジオ録音に感情移入も加えた名盤です。さらに、メータ/ウィーンpoの一筆書きで一気に演奏された名盤。シノーポリ/フィルハーモニアoはとてもバランスの良い演奏です。セーゲルステム/デンマーク国立soはゆったりとしたテンポで濃密な演奏です。新しいところでは、ゲルギエフ/ミュンヘンpoのYouTube動画などが挙げられます。

マーラー 交響曲第2番「復活」

マーラーは、1891年以来、ハンス・フォン・ビューローと親交を結んでいたのだが、1984年にビューローはカイロで客死する。その頃マーラーはこの交響曲の第三楽章まで書き上げていた。一楽章は「葬礼」と言う単一楽章の交響詩として発表しようとも考えていた楽章で、交響曲第一番の主人公である英雄を葬り、二楽章では、この、敬愛する死者の生涯の中の幸福な瞬間、そして枯れの青春時代や失われた純潔さへの悲しい思い出。三楽章は、世界と生とは錯乱した幻影となる。すべての存在と生成に対する嫌悪が鉄の拳をもって彼をとらえ、自暴自棄の叫喚にまで彼を追い立てる。四楽章は、純潔な親交の感動的な声が枯れの耳に響く。最終楽章をいかにまとめるかに苦労していた。同年3月、ビューローの葬儀に出席したマーラーは、式の中で児童合唱がコラールで歌うフリードリヒ・クロプシュトックの「復活」の詩を聞き、それを終楽章の歌詞にすることを思い付いた。そして原詩に自身が手を加えたものをテキストとして書き上げ、その序奏部として「子供の不思議な角笛」から取られた「原光」を付け加えて完成したのです。なおこの曲の管弦楽編成は「第8番”千人の交響曲”」に次いで大きなものとなっています。
マーラー:交響曲第2番「復活」ベスト盤アンケート

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1989年ライヴ

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1989年のライブ録音。この時期以降のテンシュテットのライブは異様な緊張感を伴った演奏が多いですが、この演奏はどうでしょうか。

一楽章、粒の揃った弦のトレモロ、確実な足取りの開始です。音色はバーンスタインのような粘着質ではなく、細かい粒子の砂のようなサラッとした感触です。遅いテンポで淡々と進む音楽。第二主題の前にリタルダンドしました。しかしすごくダイナミックです。第二主題は作品を慈しむかのように丁寧に演奏されました。さらにテンポを落として歌う場面も、そしてテンポを速めて激しい表現も。
展開部も遅いテンポで一音一音確かめるように進みます。それにしても遅いところはものすごく遅い!テンポの変化も自然です。この演奏ではロンドンpoがシャープな響きで応えています。テンポの動きが自在でテンシュテットとロンドンpoが作品と一体になっているのが良く分かります。再現部は少しテンポが速くなったのか、それとも遅いテンポに慣れてしまったのか?再現部に現れる第二主題はすごく遅いテンポで作品への共感を強く感じさせる演奏です。これだけ遅いテンポでも弛緩することなく激しくうねる演奏に引き込まれるほどの演奏です。終結に向けてさらにテンポを落として心を込めて行きます。最後の最後でもテンポが大きく動きました。

二楽章、一楽章とは打って変わって暖かい響きで始まりました。この楽章も遅いテンポでたっぷりと歌います。ここでもアゴーギクを効かせてテンポが動きます。歌に満ちた演奏です。弦楽器のセクションがデリケートな表現をします。本当によくテンポが動きますがオケも十分に理解して付いていってます。テンシュテットの内面からにじみ出る作品への共感が伝わるすばらしい歌でした。

三楽章、弦も木管も強弱の変化などすごく表情が豊かです。金管は余力を残しているような感じです。またテンポをぐっとおとして豊かに歌います。作品の隅から隅まで知り尽くしているからできるテンポの揺れです、この揺れにテンシュテットの思いがたくさん込められているように感じます。この頃になるとオケとも阿吽の呼吸でテンポの動きに対応しているようです。金管は終始余力を残しているようでした。ティンパニも強打はしますが、これもまだ余力を残しているように感じました。

四楽章、控え目な歌いだし。美しい金管のコラール。ネスの独唱も心のこもったものです。独唱の最後の音に少し余韻を残して欲しかった音が短かかったのが残念。

五楽章、冒頭から大爆発!すごく遠いバンダのホルン。豊かなホルンや木管の表情。第二主題がトロンボーン、トランペットに引き継がれた直後にホルンの激しい咆哮!ステージ上の木管に消されそうなバンダのホルンです。その後に続くすごいブラスセクションの咆哮と打楽器の活躍!強烈な打楽器郡のロールのクレッシェンド!聴き進むにしたがって手に汗をかいてきました。これほどまでに作品と同化した熱い演奏があっただろうか?しなやかな再現部。鋭い響きのバンダのトランペット。
合唱が入る前の部分はとても神聖な感じでした。ゆったりとしたテンポで静かに歌いはじめる合唱。会場内も一体になって聞き入っているような静寂感です。合唱から浮かび上がる独唱。掛け合いで入るオケもすばらしい響きでとても荘厳な感じの演奏です。遅いテンポのまま歌われる二重唱とオケとの掛け合いも見事でした。この遅いテンポでオケも合唱もよく持ちこたえるなあと感心します。北ドイツ放送交響楽団とのライブのような「爆演」とはちがう。伸び伸びと開放されたすばらしいスケール感!自由で開放されたことを表現したかったのだろうか。ここまでどちらかと言うと抑え気味だったオケをクライマックスで一気に解放!神の領域へ飛び立つのだ。この遅いテンポでの演奏は作品の内面を抉り出すには必然だったのだろう。最後の音もすさまじいものでした。全く弛緩することなく最後まで演奏しきったテンシュテットと奏者たちに惜しみない拍手を送りたい。久しぶりにもの凄い演奏に出会った。

レナード・バーンスタイン ニューヨーク・フィルハーモニック

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この演奏は、あまりにも重い。
個人的には、マーラーの枠を超えてしまっていると思うんですが・・・・・。

一楽章、十分にホールの響きをともなって重量級の出だし。テンポは遅いが遅い設定のまま進むので、わりと安心感がある。テンシュテットのような急激な変化はなく、どっしりと構えたままで、緊張感を伴う感じはあまりない。
オケもffでも節度ある演奏。と思っていたら、テンポが速いところは結構早い。しかし、遅いところが異様な遅さだ。
弱音部をゆったりとしたテンポで、ねばっこく歌う。バーンスタイン節とでも言おうか、ここまでされると「さすが!」と言いたくなる。弱音部の丁寧な歌がとても印象に残る演奏です。

二楽章、この楽章もテンポが遅い。バーンスタインが小学校の低学年に音楽の授業をしているようなほほえましい情景が浮かぶ。バーンスタインの作品に対する愛情のようなものが表出される演奏で、とてもなごやかな雰囲気を作り出している。フレーズの中での動きは少なく、テンポが遅くてもしつこい感じはなく、このテンポに違和感は感じない。

三楽章、この楽章も通常のテンポよりは遅いのだろうけど、このテンポに慣れてきたようで、普通に聞いている。
晩年のバーンスタインの演奏は、総じて異常なくらい遅いテンポの演奏でしたが、テンポを遅くして何か濃厚なものを表現したかったのだろうか?または、細部を抉り出したかったのだろうか?それとも、バーンスタインの感性のままにまかせて演奏したらこうなったのだろうか。
濃厚な表現だったら、テンシュテットの方が強烈だし、細部を抉り出すのであれば、録音の効果もあるがショルティのシカゴsoとの演奏を聴いた方が良いと思う。
この演奏はバーンスタインの心の中で鳴り響いている音楽をそのまま現実のオーケストラで再現したものなのだろうと思う。一般的な演奏からすると異様なテンポ設定で進むがバーンスタインにとっては、ごく自然なままを表出しただけなんだろう。

四楽章、極めて自然に流れる音楽。細部にわたる指示などはあまりせずに、奏者の自発性に任せているような開放感が独特。

五楽章、四楽章の静寂から一転、ニューヨーク・フィルの炸裂。ここでも、テンポ設定はバーンスタインがしているが、細部はオケに任せているような、友好的な演奏だ。バーンスタインの心の中では、オケや合唱独唱のメンバーはもちろん、マーラーも友達だったのではないか。
テンポは遅めではあるが、演奏自体は淡々と進んでいく、しかし、最後にこの遅いテンポをさらに遅くして迎える終盤は圧巻です。これは凄い!こんな結末が待っていようとは・・・・・・。このために前の90分があったのか。
この演奏はどう評価すれば良いのだろうか、私には何がなんだか分かりませんでした。この異常とも言える最後のために、すべてが設計されていたのだとすれば、バーンスタイン恐るべし!!!!。
ベームが晩年、同じように異常に遅いテンポでしかも散漫な凡演を多数残したのに対して、同じように異常に遅いテンポで多数の録音を残しているバーンスタインの演奏が高く評価されるのは、作品を大きく捕らえたがっちりとした設計があるからだろうか。

この演奏も最後は「やられたぁ!」と言う感じです。
初めて「復活」を買う人はこのCDは絶対に買わないように。

ラファエル・クーベリック バイエルン放送交響楽団

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私のクーベリックに対するイメージは「中庸」です。
特に突出する個性は感じないけれども、堅実で王道を行く実力派と言うイメージです。ただ、たくさんの演奏を聴いたわけではないし、スタジオ録音しか聞いていないので、それが正しいかは分かりません。
今回の、復活のライブはとても楽しみな一枚です。

一楽章、わりとおもむろな出だしで、、特に強調することもなくすんなりの導入。ホールの残響も適度に取り込んだ録音です。
ライブとは言え、手兵のバイエルン放送soとの演奏なので、アンサンブルも整っている。ちょっとした、タメにもオケは機敏に反応する。機能性の高い、シャープなオケのように感じる。他のオケのライブCDと比べると、細身な感じです。
最初はクールな演奏からスタートしましたが、音楽が進むにつれて熱を帯びてきました。表情も豊かになってきたし、管楽器にも火が入ったようです。クーベリックの指揮もテンポを自在に動かして生き生きとした音楽を作り出します。
それでも、アンサンブルは乱れません。速い部分はかなりテンポを上げますがオケは安定しています。伸びやかで美しい演奏です。音楽は熱気を帯びてきていますが、安定したバランスで、暴走や突出もなく、クーベリックがしっかり手綱を締めながら音楽を運んで行きます。

二楽章、テンポの揺れは自然です。恣意的な表現はなく、純音楽と言うような清廉さです。クーベリックの指揮もとても丁寧にニュアンスをオーケストラに伝えているような感じがします。金管が入ってきてもうるさくない、綺麗な音です。しっかりコントロールが行き届いた範囲で、節度を保ちながら音楽を進めて行きます。とても安心感があって好感が持てる演奏です。

三楽章、遅めの開始とデッドなティンパニ。抑えたクラリネット、冒頭部分ってこんなに静かだったっけ?と思うくらい滑らかに進められて行きます。ものすごく統率されているようですが、オケのメンバーもクーベリックの音楽に同調しています。ffでも美しい。粗雑なところが一切ありません。これは、数ある「復活」の中で異彩を放つ名演でしょう。見事な演奏。

四楽章、独唱も艶やかで美しい。ヘラクレスザールの特性もあるのかな?わりとあっさりとした運びです。

五楽章、ゆっくりとしたテンポで金管群が伸びやかで見事な美しいffを響かせる。バンダはかなり遠い。バンダの後、木管やホルンのあたりからテンポは速くなる。
コラールの扱いは独特のバランス。その後のクレッシェンド、次の小節の一拍前に入るティンパニが次の小節の頭にクラッシュシンバルと同時に入ってしまう。ここは各オーケストラの打楽器奏者にとって鬼門ですね(^ ^)
とにかく伸びやかに良く鳴るオケだ。そして、音楽も次第に熱気を帯びてくるが、アンサンブルはほとんど乱れない。
バンダはあまり聞こえないくらい遠い。その後のffでテンポが落ちる、これは効果的!
バンダが遠いので、ステージ上のオケとの対比ができない。バンダだけになる部分はなかなか良い効果なのだが・・・・。
その後の合唱も消え入るようなppで始まる。途中からの独唱も頑張らなくても十分なバランスだ。次第に盛り上がって行く音楽だが、宗教的な雰囲気にふさわしい、大聖堂へ向かう隊列のように、厳かに、しかし近づくにしたがって燃え上がる感情がどんどん込み上げてくるような、充実した響き。終結部ではテンポはかなり動く。一度も暴走することなく、見事にまとめ上げた、クーベリック渾身の名演奏です。

暴走することはないけれども、十分な頂点を作り上げているし、熱気のある演奏で、クーベリック独特の世界を垣間見たような気がしました。

ズービン・メータ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、ものすごく気合の入った冒頭。音のスピート感からして違う。克明な表現、それに呼応するウィーンpoの殺気立ったような俊敏さ。開始三分ぐらい聞いたところで、もうすでに凄いことが起きそうな予感をさせる、空気。
メーターの若いエネルギーが突進してくるような、すごい集中力!
テンポは速めに進むが、内容が凝縮されている感じで、速いことは気にならない。また、ブーレーズで聞いたウィーンpoとは全く別物のようなシャープさがある。
中間部は、一旦ぐっとテンポを落としてまた加速!とにかく激しい。終わり方も予想外の凄さ。

二楽章、洗練された表現と言うより、幼い子供達が戯れるような、少し幼稚で微笑ましいような表現。ここでも他の演奏では聞いたことがない独特の世界を作っている。テンポも速めでちょっと落ちつかないような印象も。

三楽章、表情が豊か。メータは細部の表現にもしっかりリハしたようだ。ここでもテンポはわりと速めで一気に進んで行く。細部の表現まで行き届いているのだが、それよりも一筆書きで、それも太い筆で一気に書くような豪快さを持っている演奏だ!
オケもメータの気迫に必死に食らいついているかのよう。メータはロスpo時代は、こんな凄い演奏をしていたんだよなぁ。どうして今は、鳴かず飛ばずになってしまったのか?

四楽章、安定感があって、神経質な要素は微塵もない。あまりにも線が太くて、天国的な雰囲気は少し希薄か?

五楽章、低弦の鳴りっぷりが良いので、線も太く、安定感にもつながっているんだろう。金管のコラールでもテューバが強めでさらにクレッシェンドするあたりはワーグナーを聞いているかのようだ。
ウィーンpoはffでも限界まで絶叫することはない。メータの若いパワーとウィーンpoの奥ゆかしさが相乗効果を生んでいるのかも知れない。
もしも、ロスpoで演奏していたら、狂気の「復活」になっている危険性と裏腹だったと思う。まあ、それはそれで聞いてみたかった気がしなくもないが・・・・・・。
合唱は比較的小規模か、少し人数が少なく聞こえる。それにしても、常に低音の支えはしっかりしている。本当に、若いメータをウィーンpoがしっかりサポートしていると思う。信頼関係が築かれていたんだろう。
後半、テンポも動いて大きなクライマックスを迎える。感動的な頂点!すばらしい構成力。

本当に、一気にこの大曲を演奏してしまった。すばらしい名演です。理屈抜きに感動がある演奏で、初めて「復活」を聞く人にもお勧めです。

ジュゼッペ・シノーポリ フィルハーモニア管弦楽団

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フワフワ感のある演奏です。ゴリゴリ力で押してくる演奏ではありません。
しかし、作品に語らせるような名演だと思います。
バランス感覚もすばらしい。

一楽章、冒頭から控えめな出だし。しかし、細部の動きやバランスまで徹底されている感じで、集中力も高くシノーポリの統率ぶりがうかがえる。比較的打楽器を抑えた録音になっているせいか、刺激的な部分はあまりなく、抑制の効いたバランスの良い演奏で嫌味がない。その分、狂気のような部分はスポイルされているかもしれない。色彩感も若干乏しいか。

二楽章、小気味良いマーチのような出だし。わりと速めのテンポで、ねばることもなく進む。それにしてもオケは上手い!速めのテンポながら旋律は十分歌わせていて、聞いていて心地よい。フィルハーモニアのメンバーもシノーポリとの演奏を楽しんでいるかのようだ。信頼されていたのだろう。

三楽章、ここでも冒頭のティンパニから抑え目だ。しかし、一つ一つのフレーズをとても大切に演奏しているのが伝わってくるし、歌がある。精神分析医などの側面が強調されがちなシノーポリではあるが、そのような単語から想像する演奏とはまるで違う、人間味のある暖かい音楽。
シノーポリの作品への深い共感とオケの楽員との良好なコミュニケーションがあったからこそなしえた演奏なのではないかと思う。

四楽章、作品を慈しむかのような心のこもった演奏

五楽章、冒頭の炸裂から開始するが、ここでもオケは余裕を残している。バンダも良い距離感があってステージ上のオケとの対比も見事。弱音がホールに広がっていく感じもなかなか心地よい。
7分過ぎたあたりから、オケもフルパワーに近付いてくるし、ここまで控えめだった打楽器も炸裂しはじめる。それでも丁寧な演奏には変わりは無い、決して暴走はしないところがこの演奏の特徴でもある。シノーポリもオケを煽ることもなく、どっしりとしたテンポで音楽を進めていく。
バンダのトランペットの音がステージ裏に響き渡る。音響的効果もすばらしい。
合唱が入ってからも、外へ放出ではなく、内面へ言い聞かせるように歌い始める。独唱陣も伸びやかな歌声を響かせる。弱音部の楽器の絡みのどのパートも絶妙に受け継がれていく。フィルハーモニアってこんなに上手かった?
そして、最後に輝かしいクライマックス!最後の伸ばしでトランペットがクレッシェンドするのには驚かされた。

このシノーポリの演奏には、即興性などはない、緻密に設計されたものを、正確に音に変えて行く作業なのかもしれない。マーラーの内面にあるドロドロしたものを表現できているかと言われれば、その面では弱いかもしれないが、音楽としての完成度はきわめて高い名演奏だと思う。
シノーポリのマーラーはそんなに高い評価はされていないのかも知れませんが、この演奏はすばらしいと思います。奇抜なアイデアなどもなく、正面から音楽に取り組んだ名演奏は貴重なものだと思う。最初に買うんだったらこれはお勧めです。

クラウス・テンシュテット ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

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テンシュテットの手兵ロンドンpoとの録音。
良好な信頼関係が生み出す、爆演!
オケも限界を超える!
「マエストロのためだったら俺たちは120%の力を出すんだよ」と言っていたというロンドン・フィルのメンバーたち。すごい信頼関係ができていたんだろう。

一楽章、激しい弦のトレモロそして低弦の旋律、冒頭からフルパワーが伺える。かなり遅いテンポで音楽は進む。全身全霊をかけて一音一音に命を吹き込むようにブラスも全開。とにかくテンポが遅く起伏がものすごく激しい。遅いかと思うと急激にテンポを上げたり、またものすごく遅くなったり、テンシュテットは作品と一体になっているようだ。マーラーの霊が乗り移っているかのようにも感じるくらい緩急自在で強烈な演奏。
すごい世界だ!だんだん引き込まれていく。テンシュテットは本番前には極度にナーバスになっていたと言われているが、これだけ自分の音楽をさらけ出すには、それはナーバスにもなるだろう。
これほどの作品への共感と没入は聴いたことがない。聴いているこちらも打ちのめされるような、凄いとしか言葉が出てこない。

一楽章が終わってから、最低でも五分の休憩をはさむ指定をしたマーラーだが、この演奏なら分かる。休憩しないと、きつい。恐ろしい演奏を聴き始めてしまったと言うのが偽らざる感情です。これが生演奏だったら、怖くて逃げ出すかも知れない。それほど何かにとり憑かれたような演奏だ。

二楽章、少しゆっくりめに開始、一楽章とはガラリと表情が変わる。穏やかだ。前の楽章で徹底的に打ちのめされたのを癒してくれるように、ゆりかごのようにテンポも揺れながら音楽が進んでいく。しかし、それもつかの間、また現実に引き戻される。とにかく振幅の巾が広い。

三楽章、一つのフレーズにも強弱の変化やテンポの揺れがあって息つく暇を与えてくれない。先に何が起こるか分からない。とにかく、普通に想像する以上のことが展開されて行く。ロンドン・フィルのメンバーもテンシュテットの棒によく付いて行っている。楽員たちがテンシュテットを尊敬しているんだろうなぁ。奏者にも相当の負担を強いる演奏だと思う。ただ、シノーポリとフィルハーモニアの演奏の時に感じた美しさはこの演奏にはない。テンシュテットの要求を音にするだけで精一杯なんだろう。
それでも、十分。まだ三楽章なのにオケのメンバーをねぎらってあげたい気分にさせるほど格闘しているのが伝わってくる。本当に稀な演奏だ。

四楽章、信じられないくらい遅い出だし。鳥肌が立った。とにかくテンポが動く、そして十分に感情を込めた独唱。そして天国へといざなってくれる。この楽章はあの有名なバーンスタインの演奏よりも遅い。

五楽章、冒頭から全開!!金管も打楽器も炸裂する。バンダは程よい距離、割と正攻法で進む、しかしオケは本当に120%なのかも知れない。強奏部分では、四楽章とは対照的に前へ前へと進む強い推進力。バンダとフルートの掛け合いはホールの響きも含んだ豊かな感じ。
消え入るようなppで入ってくる合唱。その合唱からろうそくの炎が立ち上るような独唱。合唱もすごい緊張感が伴っている。合唱にオケや独唱がからんでくると、また振幅が・・・・・。思わず天を仰ぎ見たくなる。ffで合唱とオケが一緒になる部分から、アインザッツが合わないところが出てくる。合唱は別録りか?バランスも合唱が強くて旋律が消えるところもある。
しかし、最後の力を振り絞ってブラスの炸裂!CDを聴いてこれほど感動することは、私にとっては珍しい体験です。それぼと強烈な何かを伝えてくる名演です。

最初に聞くCDとしてはお勧めしません。いくつか復活のCDを聴いて「復活」のイメージをある程度持っている人には絶対に聞いてほしい演奏です。ただ、聴き終わると、どっと疲れる。それほど力を持った演奏なのです。スタジオ録音でこれだけ、やりたいことを貫徹する指揮者も珍しいでしょう。
昔は、個性的な巨匠たちが群雄割拠していたんだろうけれど、最近は、音楽大学などでの教育が行き届いてしまって、このような破天荒な演奏をする人がいなくなったのは、業界にとっては大きな損失でしょう。多分、テンシュテットやバーンスタインが巨匠と呼ぶにふさわしい指揮者の最後の世代でしょう。テンシュテットが若くして病に倒れたのは慙愧に耐えない。もっと本当の音楽を残して欲しかった。

クラウス・テンシュテット 北ドイツ放送交響楽団

★★★★★
テンシュテットの本領発揮のライブ録音。1980年の録音です。
強烈な演奏です。重い。
表現の振幅もものすごく、オーケストラのアンサンブルも度々乱れます。
テンシュテットは安全運転とは無縁の指揮者ですね。オケが崩壊しそうになっても、自分がやりたい音楽を追い求めていく、名盤中の名盤だと思います。

一楽章、ライブとは思えないほど明晰な録音。もしかしたら3000Hz~4000Hzあたりにピークがあるのかもしれません。ものすごく遅く重い冒頭部分です。彫りも深く、強烈!テンシュテットは、この演奏でも、もの凄く振幅の激しい演奏をしています。遅い演奏の途中でritしたり、開始五分でもう完全にテンシュテットの世界に引きずり込まれます。
この遅さで、どうしてこれほどの緊張感なんだろう?魔力とでも言うべきか。ロンドンpo盤も凄い演奏でしたが、こちらはライブと言うこともあって、さらに上を行く壮絶な演奏です。
テンポは聞き手の想像を超えて自在に動く、緩急の変化もすごい巾があり、こんな演奏がライブで実現していたことが信じられない。
アンサンブルも乱れますがおかまい無しに前進します。テンポが早くなった部分は、もう騒乱状態のような異常な演奏です。遅いところはまた、これでもかと思いのたけをぶつけてくる、まるで狂気とでも言うべき演奏。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで開始。陰鬱な影がしのびよるような不気味さ、何かに追われているかのようにテンポを煽ったり、また極端に遅くなったり、予想外の事態の連続です。
時には乱れるものの、この異常な指揮についていくオケの上手さも特筆ものです。聞き手にも、相当な覚悟を迫ってくる演奏です。軽い気持ちででは耐えられなくなりそうです。

三楽章、スチールの18リットル缶でも叩いたような異様なティンパニの音から始まる。そして、ここでもテンポが動く動く、弦のアーティキュレーションの表現も明確。とにかくテンシュテットの主張が強く、オケは引きずり回されるような、格闘の試合のような真剣勝負です。

四楽章、ここでもテンポは遅いがロンドンpoのときほどではない。楽章終盤でがくっとテンポが落ちて、天国へ!

五楽章、全開始動!テンポ設定はロンドンpoのときとはかなり違う。無音になるところや、フレーズの終わりでテンポが落ちたり、7分過ぎたあたりで、ティンパニから一拍遅れてクラッシュシンバルのはずが、ティンパニと同時にド派手に入ってしまう、それにつられてトライアングルも全然違うところで叩きはじめる(^ ^;・・・・・こういうのはライブにはつきものですね。
その後も一小節前に入るシンバルやその他のパートもアンサンプルが乱れる。それでもテンシュテットはオケを引きずり回す。オケも立て直して、この壮絶怒涛の演奏は続けられる。
弦のアンサンブルも乱れが・・・・これだけの演奏の緊張感を維持し続けるのは並大抵のことではないだろう。テンシュテット自身も大変だろうが、オケのメンバーはすごく疲労していると思う。
テンシュテットは楽員に作品への没入を強く要求したと伝えられている。そして、そのことが楽員の不評を買い、このオケとは喧嘩別れになってしまうのだが、妥協を許さないテンシュテットと言う孤高の巨匠の置き土産だ。
合唱も内声部とのバランスも良く、それが一体となってフレーズに山を作ったり表情豊かだ。
これほどまでに、テンポを動かすところがあるのか!と思い知らされる。作品に没入して一体とならなければ、こんな演奏は絶対できないであろう。テンシュテットにとっては一曲一曲、1ステージ1ステーシ゜が真剣勝負だったんだ。
全開からさらにクレッシェンドがあり壮絶なクライマックス。まさにクライマックスだ!

恐ろしい演奏を聴いてしまった。拍手がカットされているのが残念です。
聴衆の反応はどうだったんだろうか。筆舌に尽くしがたいと言う言葉があるが、まさに私のボキャブラリーでは表現し尽せません。
ここまで、音楽に身を奉げた演奏家を私は知りません。

サー・ゲオルグ・ショルティ ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

★★★★★
ショルティがベルリン・フィルと残した珍しいライブ録音
シカゴ交響楽団とのスタジオ録音とはかなりイメージが違います。
このライブはシカゴ交響楽団とのスタジオ録音の一年前の演奏です。
まず、シカゴの録音で気になった、異常にマイク位置が近い録音とは異なり、適度に距離があるので、ホールの響きも十分に拾っています。

一楽章、最初のテンポ設定や金管を積極的に鳴らす、ショルティの演奏スタイルはこのベルリン・フィルとの演奏でも同様です。録音の関係でシカゴの演奏より自然に聞くことができますが、かなり気合の入った激しい演奏です。
しかし、そこはライブ、叙情的な部分では、じっくり味わいながら少しテンポが落ちるところが、ショルティも人間だったんだなぁと安心させられます。やはり、緩急の差はシカゴの録音以上にあります。
硬質なティンパニの強打や嵐のようなffなど、シカゴの演奏よりスリリングで聴き応え十分です。まだ、一楽章の途中ですが、ものすごく良い買い物をした気分になっています。テンポの遅い部分も、グッとテンポを落とした演奏で、じっくりと音楽を味わうことができます。すごい名演の予感がしてきました。

二楽章、やり過ぎにもならず、適度な表情付け、比較的あっさりと進む。と思わせておいて、弦の急激なクレッシェンド。また、何もなかったかのような、ゆったりとした音楽。ベルリン・フィルもこの頃が一番コンディションが良い時代だったのでは、ショルティの指揮に応えるベルリン・フィルも本当に上手い!

三楽章、基本解釈はシカゴと同じです。ライブで残響を伴うものの、テヌートやスタッカートの対比やその他のアーティキュレーションの違いも伝わってくるので、アバドのライブのような平板な感じがなくて、こちらも耳をそばだてて聴く状態にさせてくれる。これが本当の巨匠の格なのか。細かいアンサンブルの乱れはあるけれど、そんなことは全く問題にならない。
また、トゥッティの湧き上がるようなエネルギー感もシカゴの録音とはかなり感覚が違います。底から湧き上がるようなff。シカゴの場合は槍で突き刺されたようなffのイメージです。

四楽章、わりと、あっさりと進む、最後は天国的

五楽章、基本的にはシカゴとの録音と同じ解釈で進むが、オケの伝統の違いのような部分も見受けられて興味深い(トロンボーンのビブラートなど)。しかし、ライブならではの部分も。クレッシェンドしながらショルティがねばりにねばる!そして、シンバルとトライアングルは別世界へ?
ソプラノ独唱は明らかにこちらの方が良い。誰かと思ったら、ルチア・ポップだった。上手いわけだ。
最後は、さすがのベルリン・フィルもちょっとバテぎみか?それでも、すばらしい演奏だった。

「復活」の名演、名盤はたくさんあるが、これも十分な名演だった。
一夜限りのノーカットライブでこれだけの完成度の演奏ができる指揮者とオケ・独唱・合唱に惜しみない拍手を送りたい。

マーラー 交響曲第2番「復活」2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

マイケル・ティルソン・トーマス サンフランシスコ交響楽団

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一楽章、 ホールトーンを伴って深みのあるコントラバスの第一主題。ゆっくりと確実に歩みを進めるような冒頭部分です。明快で鋭いブラスセクション。響きに透明感があります。第二主題もゆったりとたっぷり歌います。展開部もゆったりと、とてもよく歌われて心地よい演奏です。ブラスセクションがとても良く鳴り表現も幅広いです。静寂な部分と最強奏の幅がものすごく広大ですごい演奏に感じます。すばらしく充実した第一楽章でした。

二楽章、中庸なテンポでの開始。フレーズ最後で少しritしたり、表情もとても豊かです。優しさに溢れる響きで、サンフランシスコsoがこれほど音色に幅を持ったオケだとは思いませんでした。うれしい驚きです。ブラスが入ってくると一転して響きが鋭くなります。場面場面の描き分けもとても良いです。アゴーギクも効かせてたっぷりの歌です。

三楽章、速めのテンポの開始です。この楽章も表情豊かです。表情は豊かですが、感情移入してドロドロになる感じはなく、むしろとても爽やかな演奏になっています。テンポもとても大きく動いています。MTTの指揮も変幻自在。

四楽章、静かに歌い始める独唱。美しい金管のコラール。オーボエのソロも歌に溢れています。独唱もこの演奏にマッチした豊かな歌です。

五楽章、大太鼓の炸裂!ブラスの咆哮と打楽器が波のように押し寄せて来ます。程よい距離感のホルンのバンダ。続くオーボエはスタッカートぎみ。美しい「復活」の動機。テンポの動きも自然で理解できるものです。展開部の前はかなりテンポが遅くなりました。展開部からも豊かに鳴り響くブラスセクション。心地よく響き渡るバンダのトランペット。静かに歌い始める合唱。合唱の中から控え目にそして次第にはっきりとした存在感を示す独唱。比較的速めのテンポで歌われた二重唱。その後大きくritして終結部へ。絶叫するような頂点ではありませんでしたが、とても爽やかで見事な演奏でした。

サイモン・ラトル ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、大らかな雰囲気の弦のトレモロに続いて底から抉り出すような第一主題。コントラバスに豊かな響きが乗っかって気持ちの良い響きです。弦の厚みなどはさすがにベルリンpoと思わせるものです。強弱の変化とテンポの動きがあってとても豊かな表情の第二主題。大切なものをそっと運ぶように丁寧にしかも弱く丁寧に演奏された、展開部の第二主題。展開部からは遅めのテンポで進みます。分厚い弦楽器に隠されるように金管は突き抜けてきません。再現部の前はゆっくりと叩きつけるような演奏でした。再び現れる第二主題はとても美しいものでした。最後のドラが強く打ち鳴らされた後の弦は4回強くアクセントで入りました。最後はすごくテンポを落として一音一音刻むように終りました。

二楽章、優しい響きがとても心地よい演奏です。いろんなところでちょっとした間を取ったりしてとても作品への共感が感じられます。突然アッチェレランドしてまたもとのテンポに戻ったりすごく自由に音楽をしています。二回目の主部はチェロの対旋律がとても良く歌って良い雰囲気です。ラトルの感情にしたがってテンポが速くなったり遅くなったりとても伸びやかで解き放たれたように自由です。こんなに自由奔放な演奏に出会ったのは初めてです。

三楽章、硬質なティンパニの強烈な打撃がホールに響きます。強弱の変化などいろんな工夫があります。この演奏を聴いていると新しい発見がたくさんあります。クラリネットは特に幅広い表現をしています。ラトルのベルリンpoのデビューCDになったマーラーの5番では何とも変てこな演奏をしていたように記憶しているのですが、オケとの信頼関係も生まれて、ラトルが自由に音楽をできるようになったんだなあとつくづく思います。この楽章でもテンポは動いています。

四楽章、祈りのようなコジェナーの独唱。続く金管のコラールはすごく遠くから響くような感じが神秘的ですばらしいです。途中でテンポを落としてたっぷりと感情を込めて歌う部分もありとても濃い演奏です。そして、天国へ。

五楽章、重いドラの一撃。分厚い弦をかろうじて突き破って金管が聞こえてきます。バンダのホルンは間接音を伴って良い距離感です。第二主題の後ろの弦のピチカートも強弱の変化がしっかりとありました。ファゴット、クラリネット、フルートとステージ上の楽器とステージ裏のホルンの対比がとても効果的な距離感でした。金管のコラールは美しくしかもずーっと音が繋がっていました。展開部から次第に音楽が熱気を帯びてきます。凄く長い打楽器のクレッシェンド。鳥肌が立つような壮絶な演奏です。再現部に入る前にまたテンポを上げました。バンダのホルンとステージ上のフルートが登場する前はすごくテンポを落としてたっぷりと豊かな表現でした。バンダのティンパニも硬質な音でとても気持ちが良い音です。柔らかくフワッと浮かび上がるような合唱がとても美しい。合唱のきれいな和音の中に浮かび上がる独唱。輝かしく「復活」を歌い上げます。さすがに超一流のメンバーで作り上げる音楽はすばらしいです。ラトルが作品に込めた思いもたくさんあったのだと思います。とても凝った表現もありましたが、オケや合唱が一体になって壮大なクライマックスを築き上げました。本当にすばらしかった。

エリアフ・インバル/東京都交響楽団

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一楽章、すごい緊張感という雰囲気でもなく、かと言って緩い感じでもなくほどほどの温度感で始まった第一主題。ホールの響きを伴って伸びやかで美しい木管。頂点で思いっきり炸裂するシンバル。すごく感情を込めて歌う第二主題。インバルの思い入れの表れたテンポの大きな動きです。展開部の第二主題は非常に遅いテンポで、すごく感情のこもったものです。陰影もすばらしい。フルートに第二主題が現れるころには速いテンポになっていました。テンポの変化も自然で全く違和感がありません。再び第一主題が出た後もすごくテンポを落としました。第二主題の再現もすばらしく美しい。オケの響きには強靭な厚みは感じませんが、とても良く鳴り美しい響きを聴かせてくれます。すばらしい第一楽章でした。

二楽章、柔らかく優しい主題。テンポも絶妙に動いて、ライヴらしい感情表出です。包み込まれるような優しい響きが一楽章とは違った表情を作っています。ピチカートに乗って控え目なピッコロ。すごく歌うわけではありませんが、奥ゆかしく程よい歌とテンポの動きに好感が持てます。

三楽章、ティンパニの良い質感。表情豊かなヴァイオリンの主題に続いてクラリネットも豊かな表情です。インバルの指揮もライヴと言うこともありフランクフルト放送soの録音のような抑制の効いた演奏とは違い、感情移入もあり、テンポも動きとても積極的な表現で、引き付けられます。

四楽章、ゆっくりとしたテンポで心のこもった独唱です。金管のコラールも神聖な雰囲気です。少し細身で清らかで澄んだ声で歌います。さいごはテンホをさらに落としてたっぷりと演奏しました。

五楽章、一転、音で溢れかえるような迫力の怒涛の第一主題。適度な距離のバンダのホルン。速めのテンポでどんどん進みます。ちょっと落ち着きが無いような感じもあります。展開部も速いテンポで力強く進みます。再現部の前は少しテンポを落としました。トランペットのバンダはかなり近いような感じです。かなり抑えた合唱の入りです。基本的には速いテンポですが、所々でテンポを落として情感たっぷりの演奏です。鳴り響く金管とその後ろに広がる合唱が力強いクライマックス。

ライヴ独特の感情の揺れとインバルの見事な統率力でこの大曲をまとめ上げた、すばらしい名演だったと思います。

チョン・ミョンフン/ ソウル・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、凄いエネルギーで厚みのある第一主題。ゆったりとした足取りで克明に描いて行きます。整ったアンサンブル。ブラスセクションも充実した響きでかなり優秀なオケのようです。第二主題に向けてテンポを落としたっぷりと歌われます。第二主題の途中で一旦テンポを落としました。伸びやかで美しい演奏です。展開部の第二主題はすごく抑えた音量で非常に美しく演奏されました。とてもゆったりとしたテンポで濃厚な表現です。ホルンも美しい。響きにも透明感があり、スケールの大きな音楽を展開しています。再び現れる第一主題の銅鑼が強烈です。続くコントラバスの部分はすごくテンポを落としています。ホルンにコラール風の旋律が現れるあたりから少しずつテンポを速めます。トライアングルが透明感の高い美しい音色です。色彩感も濃厚で感情表現も十分でなかなか良い演奏です。再現部の前も叩きつけるようにテンポを落とし直前ではさらにテンポを落としました。再現部の第二主題も非常に美しい。遅いテンポですが、流れる音楽に身をゆだねてどっぷりと音楽に浸ることができます。

二楽章、豊かな響きを伴って柔らかく伸びやかな弦の響き。アゴーギクを効かせた感情のこももった歌が聴かれます。間を空けたりテンポが揺れたりして情感たっぷりです。中間部の終盤でもテンポをritしています。主部の再現では大きくテンポが動くことはないですが、それでもたっぷりとした歌です。中間部の再現では後半にテンポを落としてたっぷりと濃厚に表現します。最後の主部の再現の前にテンポを上げてまたテンポを落として、最後の主部の再現になりました。作品への共感を感じさせる美しく歌に溢れた楽章でした。

三楽章、釜の鳴りを十分に響かせるティンパニ。表情豊かなヴァイオリン、クラリネット。チョン・ミョンフンが作品と同化しているかと思わせる深い共感ぶりです。中間部でマルカートぎみに演奏するトランペット。とても克明に表情が付けられています。ティンパニがとても良い音を響かせています。

四楽章、これも感情のこもった独唱です。あえて抑揚を付けずに演奏しているような金管のコラール。ゆっくりと切々と語りかけるような感情表現たっぷりな独唱です。透明感のあるクラリネット。少しoffに録られているヴァイオリン。そして天国へいざなってくれました。

五楽章、深い響きの大太鼓と銅鑼。圧倒的なパワー感ではありませんが、そこそこの力感を感じさせる金管。怒涛の打楽器のクレッシェンド。間接音を含んで程よい距離感のホルンのバンダ。第二主題を過ぎてバンダのホルンの前で演奏される木管は音を長めに演奏されるのがとても美しく感じました。溶け合って美しく歌われる金管のコラール。展開部の金管も美しい。そして打楽器の活躍がめざましい。再現部に入る前に大きくテンポを落としました。少しこもったようなバンダのトランペット。バンダのティンパニも遠くで響く雷のように強打されます。このオケの打楽器陣は強力です。比較的大きな音量で始まった合唱。大きな大河の流れから少しだけ顔をのぞかせる独唱。独唱も大きなオーケストレーションの一部として、すごくバランスに気を使った演奏です。合唱と一緒ではないソロでは朗々と歌います。男声合唱が音量を上げると、ホールの響きを伴ってとても美しい響きです。圧倒的な合唱のエネルギー感がすばらしい。打楽器のクレッシェンドでねばったり、演奏が進むにつれて演奏が白熱して圧倒的なエネルギーが発せられたのだと思います。

チョン・ミョンフンの感情移入がオケや合唱にすばらしい共感を生み出し最後は圧倒的なクライマックスでした。オケもアジアでトップクラスのオケでしょう。アジアのオケらしく金管のパワーは欧米のオケには及ばないとしても、その他の部分では一流オケとも遜色ない演奏でした。韓国でもこんなにすばらしいマーラーが演奏されていることに驚きます。

レイフ・セーゲルスタム デンマーク国立交響楽団

セーゲルスタム★★★★★
一楽章、第一主題の三回目のフレーズを弱く開始してクレッシェンドしました。ホールの響きを伴って美しい木管。金管の響きも美しく、オケの響きに透明感があります。ゆったりとした第二主題も大きくテンポが動いて、凄く感情が込められています。第一主題が再度現れる部分でも二回目のフレーズの最初の音に間を置いたり、独特の表現です。展開部の第二主題はさらにテンポを落として音楽に酔うようなテンポの動きです。美しい音色に惹きつけられます。弱音にも細心の注意が払われています。フルートの第二主題は一転して速くなりました。第一主題は金管炸裂。続く低弦、コールアングレ、フルートなどの部分はすごくテンポを落として陶酔しているような演奏です。トランペットの強奏部分ではテンポが速くなりました。とにかく激しくテンポが動きます。再現部の第一主題も二回目のフレーズの最初の音を長めに演奏しました。第二主題が繊細で美しい。コーダもゆったりとしたテンポで濃厚です。セーゲルスタムの感情が刻み込まれた演奏で感じるままにテンポが大きく動く演奏でした。

二楽章、最初の音を演奏してから間を置いて次の音へと移って行きました。デンマーク国立交響楽団って始めて聴くオケですが、とても美しい演奏です。とてもゆっくりとしたテンポで感情を込めて行きます。大切な物を大事に扱うような丁寧な演奏です。中間部も遅いテンポでとても情感豊かです。二回目の主部はさらにテンポを落として陶酔しているかのようにたっぷりと歌います。セーゲルスタムの風貌からは想像もつかない透明感の高い、涼しげな音色ですが、濃厚な感情が込められています。最後の主部の再現でも弦のピツィカートもとてもゆっくりした演奏です。とても安堵感のある安らいだ演奏でした。

三楽章、強烈なティンパニの一撃でした。この楽章は一転して一般的なテンポで流れます。とても緻密に表情がつけられていて、細部まで豊かな表情です。中間部の金管の主題も美しい響きでした。テンポを落としゆったりと歌うトランペット。主部が戻ってまたテンポが速くなりました。豊かな表情に生命観を感じさせる演奏です。この楽章でもテンポがよく動きました。

四楽章、柔らかく歌い始めるアルト独唱。意外と淡々とした金管のコラール。セーゲルスタムの解釈に合わせて感情の込められた独唱です。アゴーギクを効かせるヴァイオリン独奏。最後は天国へ。この楽章でもテンポが動きます。

五楽章、重い銅鑼の響き、金管の第一主題の絶叫の途中でテンポを煽りました。ホルンの動機が現れるまでの間もゆったりと濃厚な表現でした。凄く遠いバンダのホルンの動機。テンポが頻繁に動きます。第二主題部の木管は良く歌いました。トロンボーン、トランペットと引き継がれホルンが現れる部分ではテンポを大きく落としました。遠いバンダのホルンの前で木管がスタッカートぎみに演奏します。深みのある金管のコラール。展開部の壮大な響きがすばらしい。打楽器のクレッシェンドの前はテンポを速めました。打楽器の後もテンポは速いままです。テンポはよく動きまてが、オケはちゃんと付いて行っています。テンポを速めて演奏する部分では生き生きとした生命感や躍動感があります。再現部で長く尾を引くバンダのホルンとトランペット。意外と抑えることなく始まった透明感の高い清涼感のある合唱。合唱の中から次第に浮かび上がるアルト独唱。伸びやかな男声合唱。オケのパワー感が溢れるような強力なクライマックスではありませんが、十分輝かしく壮大なクライマックスでした。最後のオケだけになる部分の金管のエネルギー感はすばらしかったです。最後の伸ばす音は銅鑼もロールしていたような音がしました。

セーゲルスタムの感情のままにテンポが動く演奏は古いスタイルかも知れませんし、好き嫌いが分かれるでしょう。私には特にテンポを落としてたっぷりと表現される音楽がロマンティックでとても心に残った演奏でした。

マルクス・シュテンツ/ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

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一楽章、コントラバスの弓から松脂が飛び散るような凄味のある第一主題。ホルンも強くビーッと鳴ります。リズムの切れも良く、スコアに書かれている音符を全てさらけ出そうとするような演奏です。第二主題への移行はテンポも動かさずにすんなりと移りました。振幅の大きな音楽です。展開部はセッション録音らしく鮮明な独特の美しさです。解像度高く鮮明で美しいフルートとヴァイオリンのソロ。テンポを速めるところでは畳み掛けるように劇的でぐんぐん前へ進もうとする強い推進力があります。再現部の前はゆっくりと叩きつけるように、そして最後はさらにテンポを落としました。再現部の第二主題はあっさりと始まりましたが次第にテンポが遅くなり、こってりとした表現です。コーダはゆっくりとこの曲が葬送行進曲だったことを印象付けます。さらにテンポを落として終わりました。

二楽章、すごく歌い細かな表情が付けられた主題。押したり引いたりの揺れが心地よい演奏です。テンポも動いて豊かな表現です。中間部の三連符も繊細です。テンポの動きと強弱の変化が幅広くとても積極的な表現です。基本のテンポは速めでぐいぐいと前へ進みますが、時折テンポを落として小休止のような落ち着きを与えてくれます。弦の入りにアクセントを付けて色彩感を強調するような演奏です。

三楽章、ヴァイオリンの主題にもアクセントが付けられて、続く木管にも表情が付けられています。シュテンツはかなり細部まで表現にこだわったようです。無表情に演奏されるパートは皆無と言って良いほど無くとても生き生きとした音楽になっています。終盤で金管が炸裂します。すっきりとした明るい響きでとても心地良い響きでした。最後にテンポをグッと落としてまた加速して落ち着いたところで終わりました。

四楽章、ドラの響きが残る中から独唱が始まりました。あっさりとしたコラール。人間が歌っている自然な歌声の独唱です。感情が込められた独唱。

五楽章、重い響きのドラ。明るい金管全開の炸裂。遠くから明るい響きのホルンです。第二主題の後ろの弦のピツィカートも強弱の変化があります。ホルンのバンダは遠いですが、かなり強く吹いているようです。チューバが底辺をしっかり支える重厚な金管のコラール。展開部でも金管の充実した響きが聴かれます。初めて聴いたオケですが、かなり上手いです。打楽器のクレッシェンドにもの凄く長い時間を使いました。こんなに長いクレッシェンドは初めてです。再現部に入って、トランペットのバンダは聞き取りにくいほど遠くにいます。トゥッティの金管のマッシブなパワーも凄い力があります。ホルンのバンダとバランスの取れたトランペットのファンファーレ。比較的大きめの音量で歌い始める合唱。合唱から抜き出てくる独唱。弦が歌い次第に高揚して行きます。男声合唱が強く歌う部分でもバックで金管がしっかり鳴っています。広がりのある男声合唱。二重唱の後テンポが速くなってきました。その後大きくテンポを落としてクライマックスへ。圧倒的なパワーのクライマックスでした。

豊かな表情付けと、最後の圧倒的なクライマックスへと音楽を運ぶシュテンツの設計も見事でした。素晴らしい演奏でした。

グスターボ・ドゥダメル/ ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団

ドゥダメル★★★★★
一楽章、大勢で演奏している感じが伝わってくる響きです。ゆったりとした第一主題。注意深く表現しています。大編成の充実した響きです。第二主題もゆったりとしたテンポで作品を慈しむような表現です。若いメンバーで構成されたオケですが、その若さが溢れ出るような活気に満ちた演奏には惹かれるものがあります。展開部の第二主題はさらにテンポを落としてたっぷりと歌います。テンポは遅いですが、気持ちのこもった密度の濃い演奏です。第一主題が現れる前からテンポを上げました。南米のオーケストラらしく原色の色彩感濃厚な演奏です。第一主題の後の低弦はすごく遅いテンポです。ライヴらしく即興的に大きくテンポが動きます。コーダの葬送行進曲を予感させるように切ない第二主題。夕暮れから日没へと向かうような寂しさを感じさせます。コーダもゆっくりとしたテンポで引きずるような葬送行進曲です。深みのあるドラの響き。最後は速いテンポで一気に終わりました。

二楽章、間をあけて、ゆっくりと語りかけるようなほのぼのとした雰囲気です。同じメロディーでも強弱の変化を付けたりして、多彩な表現です。ドゥダメルは表現の引き出しをたくさん持っているようです。とてもゆったりとしたテンポで歌います。中間部はテンポも速めてかなり激しい表現で、主部とは対照的な演奏です。二回目主部が戻ると夢見心地のような音楽に身をゆだねるような気持ちにさせる見事な音楽です。二回目の中間部もテンポを上げて主部とは対照的な音楽で描き分けています。三回目のピチカートの主部も柔らかい響きでとても心地よい演奏です。最後はハープが美しく立体的にクローズアップされました。

三楽章、遠くで響くティンパニ。二楽章から一転して速めのテンポで生き生きとした表現の演奏です。煽り立てるように前へ前へと進む音楽。勢いを感じさせるクラリネット。ドラの崩れ落ちるような深い響きはこの演奏のスケール感を大きく感じさせるのにとても効果的です。とても積極的な表現をする管楽器。小さいミスはあるけれど、ユース・オーケストラとは思えない完成度です。また、ミスを恐れずに積極的に表現しようとするオケのメンバーの若さが溢れる演奏にとても好感が持てます。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポで感情のこもった独唱です。チューバの響きが弱く薄い響きの金管のコラール。豊かな表現で語りかける独唱も見事です。最後はさらにテンポを落として濃厚な表現で天国へといざなわれました。

五楽章、遠くから響く金管の第一主題。打楽器の怒涛のクレッシェンド。この楽章もゆっくりとしたテンポで丁寧に進めて行きます。柔らかく長い尾を引いて響くバンダのホルン。第二主題も表現力のある演奏で、ゆったりとしたテンポでも間延びしません。展開部でもユース・オケとは思えない充実した響き。クラッシュシンバルが豪快に、しかもとても良い音で鳴り響きます。若いオケのメンバーが高い集中力で力の限りの演奏をしている姿には感動さえ覚えます。少しくすんだ響きのバンダのトランペット。再現部へ向けてテンポを上げました。静まったところでまたテンポを落としました。柔らかい響きが溶け合うバンダのトランペット。ステージ上のフルートとバンダの演奏がすごく立体的に聞こえます。抑えた合唱で始まりました。合唱の合い間の弦楽合奏川の流れのようにとうとうと豊かな演奏でした。二回目のソプラノ独唱は一回目よりも音量を上げ、バックの合唱も次第に音量を上げてきています。圧倒的な合唱にオケがマスクされたような感じです。クライマックスでは録音の関係でオケをミキシングで絞ったような感じがしましたが、生で聴いたら凄い演奏だったろうと思います。
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サイモン・ラトル/ バーミンガム市交響楽団

ラトル★★★★★
一楽章、勢いをつけたトレモロ。深みのある第一主題。オケが一体になったバランスの良い響き。第二主題に入る前に少しテンポを落としました。感情が込められた美しい第二主題。テンポや強弱も変化します。展開部の第二主題はテンポを落としてゆったりと深く歌われます。響きもヴェールに包まれたような美しい響きです。テンポも動き、激しいホルンの咆哮もあります。再び第2主題がフルートやヴァイオリン・ソロに現れる部分ではテンポが速くなっています。感情を込めて、畳み掛けるようにテンポが速くなったり、再現部の前は凄く遅く演奏しました。再現部に入っても少し間を空けたり、表現が豊かです。感情を叩きつけるように激しい金管のトリル。再現部の終わり頃はすごくテンポを落としてたっぷりと歌います。コーダの終わり近くの弦が何度も同じ音形を演奏する部分の頭に強いアクセントを付けて演奏しました。最後は凄くテンポを落としました。

二楽章、速めのテンポですが、たっぷりと歌われる主題。弦がリズムを刻む部分も迫り来るような力があります。テンポもアッチェレランドしたりritしたり大きく動きます。強弱の変化も激しいダイナミックな演奏です。ピチカートで演奏される主題も表情が豊かに付けられています。

三楽章、強烈なティンパニの一撃。とても克明な表情が付けられた演奏です。集中力の高い演奏であることが伝わって来ます。登場する楽器が鮮明な隈取りで入って来ます。とても色彩感のはっきりした演奏です。最後のドラはかなり強めに叩きました。

四楽章、控え目に入った独唱。美しい金管のコラール。慈しむように歌う独唱です。天国へといざなわれます。

五楽章、怒涛の全開第一主題。弦が強いアクセントで入って来ます。間接音を含んで適度な距離感のバンダのホルン。一音一音魂が込められたような第二主題。対照的にテヌートぎみに演奏されるトロンボーンとトランペット。美しく表情が付けられた金管のコラール。展開部でも全開のホルン。長い打楽器のクレッシェンド。再現部へ向けては速めのテンポで進みますが途中テンポを落とす部分もありました。トランペットと打楽器のバンダは比較的近い距離にいる感じです。静かに歌い始める合唱。伸びやかな独唱。クライマックスでは合唱がオケに負けているようなバランスになります。ゆったりと壮大にクライマックスを作り上げます。バンダも総動員のラストは壮観です。

テンポを大きく動かしたり、アゴーギクを効かせたりすることはありませんが、要所要所で感情移入した表現を聞かせ、最後は壮大なクライマックスを築いたすばらしい演奏でした。
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ズービン・メータ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2000年ライヴ

メータ★★★★★
1975年のウィーンpoとの高い集中力と若いエネルギーを思いっきりぶつけた快演と、後にイスラエルpoと残した超凡演の落差に驚かされましたが、このライヴではどんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか。

一楽章、凄いスピード感のある第一主題。音楽にも強い推進力があります。第二主題も速めのテンポですが、思い入れはたっぷりです。キビキビとしたテンポで進みますが、時折大きくテンポを動かすこともあります。ウィーンpoの音色もとても美しく収録されています。展開部で第一主題が現れた後はかなりゆっくり演奏しています。盛り上がりに合わせてテンポを速めますが、再び遅くなったりかなりテンポが動きます。1975年の一筆書きのような豪快な演奏とは違う、年輪を重ねて音楽の濃淡を表現するようになったのか。基本的には速いテンポの演奏ですが、内容はかなり濃厚な演奏です。

二楽章、一音一音刻み付けるような表現もあれば、流れるようにサラサラと音楽が通り過ぎて行ったり、とても表現の幅が広いです。中間部の弦の刻みも克明です。クラリネットが落ちそうになります。音楽の起伏に富んだすばらしい演奏です。メータはニューヨークへ行ってから鳴かず飛ばずになりましたが、この演奏では、昔の輝いていた時代を思い出させるような活気のある名演です。

三楽章、表情豊かな主題。木管の後ろで動く弦の生き生きしていること。美しいトライアングル。この楽章の冒頭でも感じましたが、かなりデッドな録音で、中間部の金管も生音が突き刺さってきます。主部が戻って、再び生き生きとした表現になります。

四楽章、控え目に歌い始める独唱。この演奏の一部であることが非常に良く分かる一体感のある独唱です。

五楽章、怒涛のように押し寄せる第一主題。ホルンの動機に向けて自然に静まって行くのもとても良い感じでした。間接音を含んで適度な距離感のバンダのホルン。第二主題は速いテンポでグイグイ進みます。トロンボーン、トランペットと引き継がれた後はテンポを落としました。速いテンポですが、とても心地よい金管のコラール。勇壮で豪快に音楽は進んで行きます。色彩感も原色の濃厚な印象です。音楽の輪郭もくっきりしていて、メータの若い頃の特徴が再現されているようで、嬉しい演奏です。音量を極端に抑えているわけではないのですが、静寂感のある合唱。独唱も伸びやかな歌声でくっきりと浮かび上がります。トライアングルは全曲を通してとても美しい音で鳴っています。合唱が入ってからも速めのテンポでとてもリズミカルです。終盤でも金管が豪快に鳴り響き見事です。クライマックスへ向けての打楽器の強烈なクレッシェンド。

メータの燃え上がるような内面を見事に音楽として表出した名演でした。
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ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1995年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、強調することなく始まった弦のトレモロ。とても反応の良いオケで緊張感が伝わって来ます。第二主題へはほとんどテンポを変えずに入りました。ハイティンクの指揮ははったりをかますようなことは全くありませんが、細部にはすごくこだわった演奏をしているようです。オケの色彩感もとても濃厚で美しい演奏です。ここぞと言うところで僅かにテンポを落としたりもします。オケはとても良く鳴り、世界最高峰のオケの実力を遺憾なく発揮しています。黄昏れるような再現部の第二主題。コーダのハープの深い響き。テンポを変えずに終わりました。

二楽章、最初の音と次の音に間を空けました。オケの一体感のある見事なアンサンブルはさすがに素晴らしいです。美しい弦。ピーンと通るフルート。過去を回想するのどかな雰囲気がとても良く表現されています。細部に渡る表現の徹底ぶりはすごいです。

三楽章、軽い響きのティンパニ。弦や木管の表情がとても豊かです。オケがハイティンクの棒にしっかりと反応しています。どのパートも登場すればくっきりと浮かび上がりとても色彩感が豊かです。精密機械のように寸分の狂いも無く動くオケは見事としか表現のしようがないほどです。

四楽章、ゆったりと歌う独唱。感情の込められた金管のコラール。感情を込めて自由に揺れる独唱。

五楽章、軽~くそれでも鳴り渡る第一主題。第二主題も締まりがあって緊張感のある演奏です。静寂感と間もなかなか良いです。見事なハーモニーを聞かせる金管のコラール。展開部でも金管が気持ちよく軽々と鳴り響きます。とりたてて極端な表現などはありませんが、きちんと交通整理された見事な統率です。遠いバンダのファンファーレ。再現部へ入ってからもトランペットのバンダはすごく遠いです。合唱に入る前もかなり時間を置きました。合唱は極端に音量を落とした歌声ではありません。独唱も合唱のハーモニーの中を泳ぐような優雅な歌でした。合唱も一体感のあるとても優秀な歌唱です。合唱とオケに若干のアンサンブルの乱れがありました。盛り上がりに合わせてテンポを速めましたが、頂点の直前にritして頂点では元のテンポです。クライマックスでも合唱の表現は豊かで見事な統率です。オケも合唱もとても良いバランスでクライマックスを築きました。

極端な表現や主張はありませんが、細部まで見事な統率力で締めくくりました。感情でドロドロになることはありませんが、すごく美しく「復活」を聴かせてくれました。すばらしい演奏でした。
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エリアフ・インバル/東京都交響楽団 2012年横浜ライヴ

インバル★★★★★
一楽章、フワッと始まったトレモロ、軽いタッチの第一主題ですが、慎重な足取りです。くっきりと浮かび上がる締まった木管。感情を込めてアゴーギクも効かせる第二主題。テンポの振幅も大きく、慎重に進む部分と颯爽と進む部分の対比があります。とても濃厚です。展開部の第二主題は非常にゆっくりとしたてテンポで感情を込めた表現です。軽々と鳴り響く金管。色んな楽器がバランス良く演奏されるので、とても情報量が多いです。ライヴとは思えない透明感の高さと精緻さです。第二主題を一音一音押すようにゆっくり演奏するのが特徴的です。

二楽章、丁寧に歌われる美しい主題。テンポの動きも絶妙です。中間部の弦の刻みもとても丁寧です。乱暴や雑なところが全く無くとても高い集中力の演奏です。日本のオケらしく隅々まで神経が行き届いた良い演奏です。

三楽章、ゆったりと滑らかに上下する主題。中間部のトランペットの主題はテンポを速めて活動的ですが、すぐにテンポを落としてゆったりと濃厚な表現になります。繊細な弦、瑞々しく美しい木管もとても良いです。

四楽章、とても澄んだ空気感です。ゆっくりととても感情のこもった歌です。独唱が静かに語りかけて来ます。

五楽章、炸裂する打楽器、金管は余裕のある美しい響きですっきりと整理された主題。間接音を含んで程よい距離感のバンダのホルン。速めのテンポで淡々と演奏される第二主題。大きく歌う金管のコラール。展開部でも絶叫はしません。感情移入はありますが、きっちりと制御されていてとても緻密な演奏になっているのが印象的でインバルらしいです。再現部冒頭も冷静です。かなり音量を抑えて静かに始まる合唱。美しく壮大なクライマックスです。ここでもオケは冷静です。

感情を込めた歌もありましたが、常に冷静で緻密な演奏で、日本人らして繊細な美しさは出色のものです。パワーで圧倒するような力はありませんでしたが、素晴らしいバランスの演奏でした。
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ベルナルト・ハイティンク/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1993年ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、重量感のある第一主題。見事に統率の取れたアンサンブル。展開部の第二主題は夢見るような美しいものでした。激しいホルンの咆哮。精度の高いアンサンブルと反応の良い演奏に感服します。大きな主張はありませんが、作品の魅力を存分に引き出しているような演奏です。最後はゆっくり、そしてホルンが大きく吠えて終わりました。

二楽章、柔らかく自然な歌の舞曲です。消え入るような弱音が特徴です。二回目の主題でチェロの対旋律がある主題は羽毛で肌を撫でるような柔らかく美しい演奏でした。このような美しい弱音から金管の咆哮まで、とても振幅の大きな演奏です。

三楽章、音量を抑えながら強弱に敏感に反応する弦の主題。ハイティンクのこだわった微妙な音の扱いがあります。整然と整ったアンサンブルは見事です。

四楽章、美しくバランスの良い金管のコラール。ネスの独唱はいつも最後の音が短い。

五楽章、かなりのパワーを爆発させる第一主題。自然な歌の第二主題。展開部でも爽快に鳴り響く金管。かなりのパワーを発散していますが、力ずくではないのがハイティンクらしいところです。それにしてもベルリンpoの安定感は抜群です。バンダのホルンは残響が少なくあまり遠くにいる感じがありません。トランペットのバンダは残響を含んでいて柔らかく美しいです。静かに歌い始める合唱。独唱の部分はゆっくりです。二重唱のあたりからテンポが速くなりました。ゆったりとしたテンポで、輝かしく壮大なクライマックス。感動的で見事な演奏でした。

いつものハイティンク同様、誇張も力みも無く、自然体の演奏でしたが、金管はかなりの咆哮を聞かせました。ベルリンpoの抜群の安定感と、ハイティンクの堅実な音楽の運びで、何度でも聞ける演奏だったと思います。
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マーラー 交響曲第2番「復活」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

チョン・ミョンフン/フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

チョン・ミョンフン★★★★★
一楽章、みごもごしたような柔らかい低域を含んだ第一主題。パワフルなトランペット。たどたどしい感じに演奏される第二主題。提示部の終わりはゆっくりでした。展開部の第二主題は非常にゆっくりと夢見るように始まりました。たっぷりと歌うイングリッシュホルン。遅いテンポで美しく進みます。一旦速くなったテンポも第一主題が現れた後のコントラバスからも非常に遅いテンポです。その後の荒れ狂うようなオケ。色彩も濃厚で美しいです。コーダもゆっくりとしたテンポで進みます。

二楽章、ひきずるように脱力した主題。中間部はしっかりとリズムを刻み主部とは対比されています。濃厚で切れ込むような色彩とテンポの動きはこの楽章でもあります。

三楽章、かなり強打するティンパニ。速めのテンポで流れるような主題。すごい運動性のある演奏です。引き締まった表現で強弱がしっかりと付けられています。快速に飛ばします。フルートとヴァイオリンのアンサンブルに乱れが出ます。

四楽章、ゆっくりと丁寧に演奏されるコラール。テンポの動きもあります。柔らかいヴァイオリンのソロ。

五楽章、一気に炸裂して怒涛のように押し寄せてくる第一主題。残響の少ないバンダのホルン。フルートとイングリッシュホルンの動機でもテンポが遅くなりました。展開部もゆっくりとスケールの大きな演奏です。トランペットのハイトーンも強烈です。行進曲調になる部分でもトランペットが気持ち良く付き抜けます。再現部冒頭もかなりのエネルギーです。トランペットのバンダは残響が少なく寂しい響きです。バンダのティンパニが遅れました。静かに歌い始める合唱。コントラルトとソプラノの声の太さの違いもはっきりしています。力強い合唱と一体になったオケのパワフルな響き。圧倒するようなエネルギーは凄かったです。

大胆なテンポの動きと、濃厚な色彩と突き抜けてくるトランペットなど、とても聞き応えのある演奏でした。ソウルpoとの演奏よりも強い主張のある演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、あまり重量感の無い第一主題。第二主題はアゴーギクを効かせて豊かに歌います。展開部の第二主題は一音一音分けるようにさらにゆっくりと演奏しました。盛り上がるにつれてテンポが速まり、ホルンの激しい咆哮がありました。フルートやヴァイオリンに現れる第二主題もたっぷりと歌います。テンポの動きや強弱の振幅も広くかなり濃厚な表現の演奏です。再現部の最初は颯爽と進みます。第二主題はとても美しいです。第二主題の後はゆっくりと濃密な表現になります。

二楽章、落ち着いたテンポで確実な表現の主題です。ここでもテンポの動きはいろいろあります。間があったりして楽しげな歌です。少し強引なテンポの動きもあります。

三楽章、豊かな表情の弦とクラリネット。中間部のトランペットで僅かに加速します。表現が積極的で豊かです。

四楽章、非常にゆっくりとしたテンポでで暖かい声で静かに歌い始める独唱。コラールの方が音量が大きいですが、ここもゆっくりです。独唱は藤村実穂子できないか。遅いデンポですが、味わいのあるとても良い演奏です。

五楽章、かなりのエネルギーを炸裂させる第一主題。程よい距離ざすが残響は少なめなバンダのホルン。突然のホルンの強奏やテンポの動きもあります。伸び伸びと咆哮する展開部のホルン。長い打楽器のクレッシェンド。オケを明快に鳴らして起伏の大きな演奏です。再現部も襲い掛かるような金管の咆哮です。ゆったりとしたテンポで静まって行きます。遠くからシャープに響くバンダのトランペット。静かですが抑揚のある合唱。ソプラノ独唱にも表現があります。テンポはかなり変化します。藤村が歌う部分はかなり遅くなっています。二重唱も遅いテンポです。ゆっくりとしたテンポのまま壮大なクライマックスです。

フィラデルフィアoとの録音とはかなり違った演奏で、エッシェンバッハの感情と作品への共感が強く出された演奏だったと思います。テンポの動きや随所で歌われる歌も良かったですし、ゆったりとしたテンポの壮大なクライマックスも見事でした。
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ヴァレリー・ゲルギエフ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ゲルギエフ★★★★★
一楽章、かなり気合のこもった第一主題。相当な意気込みを感じさせる演奏の開始です。ねっとりとした濃厚な色彩。微妙な表現が付けられた第二主題。表現がとても引き締まっていてオケが機敏に反応しています。割と現実的な展開部の第二主題。打楽器がリアルで強烈に入って来ます。再現部の第一主題も凄みがあります。最後も凄い表現でした。

二楽章、一転して穏やかで揺れる主題。この楽章でも強弱のメリハリがはっきりとしていてとても締まった表現です。中間部でも切れ込むような弦の刻み。明快なトランペット。生き物のように動くオケと、作品を大きく捉えた表現。

三楽章、硬質ですが、伸びやかなティンパニ。主題はとても明快に強弱が付けられています。色彩感がとても濃厚で、しかも繊細です。ゲルギエフによってしっかりと制御された見事な表現です。

四楽章、バランス良く美しい金管のコラール。リアルな声の独唱。オーボエもテンポが動いて歌います。ヴァイオリンのソロも動いています。

五楽章、激しく炸裂する第一主題。少な目の残響で響くバンダのホルン。力強く歌う第二主題。エッジが立っていて非常に濃厚です。コントラバスもしっかりとした存在感があります。ソフトなファゴットやフルートの後でバンダのホルンがビーンと響きます。展開部も起伏が激しいです。あまり音量を抑えずしっかりと歌い始める合唱。あまり抜けて来ない最初のソプラノ。二度目は大きく抜けて来ました。後で支える合唱も大きく見事でした。合唱の声量が上がった部分もダイナミックです。クライマックスの圧倒的な合唱と、それに負けないオケも素晴らしいです。

濃厚な色彩感と引き締まった表現。強打するティンパニ。圧倒的な声量の合唱。文句無い見事な演奏でした。ロンドンsoとの録音よりもこちらの方が良かったように感じました。
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マーラー 交響曲第2番「復活」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

クラウディオ・アバド シカゴ交響楽団

マーラー 復活 アバド★★★★☆
私の青春のころの録音で、当時何度も何度も聞いた記憶があります。メータの演奏よりは細身な印象でしたが、細部まで、行き届いた演奏だったような記憶ですが、今聞きなおすとどんな印象でしょうか。

一楽章、ホールの響きを豊かに伴った冒頭です。同じシカゴsoでもショルティの演奏のようにオケが近くないので、全体を見渡すことができます。
この演奏でもアバドは特に何かを主張することもなくオケに任せているような印象です。オケもショルティの時よりも、かなり余裕をもって演奏しているようです。それでも2003年のルツェルンの演奏よりも、若い勢いのようなものが演奏にも現れていて、好感が持てます。
弱音部は美しいですが、テンポはあっさりねばることもなく、微妙なニュアンス付けがなされています。ルツェルンの演奏よりも格段に表情は豊かです。オケも統一感があって、こちらの演奏の方が私は好きです。
強奏部分でも、強い推進力があって、やはり、若いころのアバドはなかなか良い演奏をしていたんだなぁと改めて感じます。聴き進むにつれて、大きい波の中に引き込まれて行くような不思議な力を持った演奏です。メータ、ウィーンpoのような豪快さはありませんが、とても繊細で丁寧な演奏です。

二楽章、何の違和感もない中庸なテンポでの開始です。オケはとても美しい。テンポが大きく動くこともなく、安心して聴いていられる安堵感があります。そして、この演奏にはルツェルンとの演奏にはなかった歌がある。心和む良い演奏です。

三楽章、ちょっとつんのめったようなティンパニ、でも違和感は感じません。この高性能オケを余裕を持たせながら美しい響きの中で音楽が進んで行くのはとても心地よいです。マーラーの音楽が持つメッセージ性などはあまり表現していないかもしれませんが、純粋な音楽としての完成度はかなり高い演奏だと思います。

四楽章、とても、ゆっくりと心のこもった独唱、この独唱の振幅の大きな歌唱は感動的です。アバドの控えめな表現とは対照的です。すばらしい独唱でした。

五楽章、冒頭の金管が最初の三つの音をテヌートぎみに演奏したのはナゼだろう?
遠くで響くホルンのバンダも心地良い。さすがにオケは抜群に上手いです。金管群はショルティの演奏のようなフルパワーではないので、とても美しいです。とにかく、このスーパーオケの底力を思い知らされる。ffでも余裕たっぷりの美しさは、この演奏の特徴です。
アバドの指揮なので、没個性と言えば確かにそうなのだが、大きくデフォルメされた部分もないので、作品そのものを聴くには良いでしょう。余計なことは考えずに、美しい音楽が流れて行くのにどっぷりつかるのも良いかもしれません。
オケも独唱も合唱も文句のつけようがありません。

マーラーの復活を聞くと言うよりも、音響の構築物としての美しさを聴くCDだと思いました。

レナード・バーンスタイン ロンドン交響楽団

icon★★★★☆
この時代のバーンスタインの演奏はかなり良いと思っています。ニューヨーク時代の荒れた演奏から、潤いのある音楽へと変化していった時代だと思います。
同じくロンドンsoと録音したストラヴィンスキーの春の祭典も私にとっては同曲のベストの一つです。

一楽章、すごくゆっくりな出だしです。一音一音刻むようにとても堅実な足取りです。後にニューヨークpoとの録音を予感させるような、この時期から音楽への共感や没入の度合いがどんどん深くなっていったのでしょうか。
この時期の演奏がこれなら、後の常軌を逸したとも思われる演奏は進化系として納得できます。
起伏の激しさや表情の豊かさはニューヨークpoよりもこちらの演奏の方が上かも知れません。
ロンドンsoもよくついていっています。シカゴsoほどのスーパーオケの完璧さは求められませんが、いろんな指揮者の要求に応えることができる世界でも数少ないオケの一つだと思います。
この遅いテンポでも緊張感が途切れないのは、さすがです。音が散漫になることはありません。

二楽章、こちらもゆっくりな演奏ですが、テンポの揺れが絶妙です。細かな表情もあり、後の演奏よりも、こちらの方が細部まで行き届いた演奏だと思います。音楽に浸ることができる良い演奏でした。

三楽章、冒頭のティンパニの残響が長い。まったく音を止めていないのかな。テンポは一般的な範囲です。表情は豊かです。格別に音が美しいということもないのですが、ニューヨークpoとの録音の時に若干感じた鈍重さはありません。

四楽章、美しいコラールです。独唱にも細部にわたってバーンスタインが指示したのでしょう。強弱の変化などもあって、テンポも大きく動いて、なかなかの聞かせどころです。
ただ、近くにいるパートと遠くにいるパートがあって、多少不自然な録音になっているのが気になります。

五楽章、かなり短めの音の処理で始まりました。バンダは豊かな響きを伴って伸びやかです。
テンポは遅めではありますが、ニューヨークpoとの録音ほど極端な遅さではないので、普通に聴くことができます。若干アンサンブルが乱れることもありますが、それよりも積極的な表現が前面に出てきて、バーンスタインの解釈をロンドンsoも果敢に音楽にしようとしているようすが伺えて、うれしくなります。そして、次第に音楽もヒートアップしてきます。
この演奏は国内では、あまり評価されていなかったような気がするのですが、これはかなりの好演です。
バンダのシンバルがやたらとでかいのが、ちょっと・・・・・(^ ^;
クラッシュ・シンバルは全体に遅れ気味で、その上落ちているところもあって、ちょっと・・・・・・です。かなり大きいシンバルを使っているようで、すごいエネルギー感はありますが。
合唱の中から浮かび上がる独唱が、霧が次第に晴れて女神が出現するように、クレッシェンドをともなって、次第にはっきりと現れてくるのが見事です。
ホールの豊かな響きも手伝って、すごく神秘的な雰囲気を醸し出していてすばらしい。この合唱の弱音部分はこれまで、聞いた中でもベストかもしれません。
終結部はニューヨークpoの録音と同じく超スローテンポになります。ホールの響きが豊かなので、こちらの演奏のほうがスケール感があります。
最後は鳥肌が立つような、壮絶な盛り上がりで、個人的にはニューヨークpoとの録音よりもこちらの方が好きです。こちらの方が、あくまでもマーラーの作品の範疇にある演奏だと思います。

ニューヨークpoとの録音を高く評価される方には、こちらの演奏も是非聞いてみてください。
また、ニューヨークpoとの録音には、ちょっとついて行けないという方も、この録音は是非聞いてみてください。
若い頃のニューヨーク時代の荒削りな部分は影を潜め、音楽への共感が深くしかも、表情も豊かで、オケもロンドンsoなので、安定感もあります。多少の乱れはありますが、全体の出来の良さからすれば、ほとんど問題にならないでしょう。
また一つすばらしい名演奏に出会いました!

サー・ゲオルグ・ショルティ シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
ショルティ二度目の録音。
マルチ録音の典型的なオンマイクでの収録。ショルティのデッカへの録音は全て同じ傾向の録音です。
弦楽器からは松脂が飛び散り、金管楽器のベルに頭を突っ込んで聞いているような、極めて近い位置で演奏を聞いているような録音です。録音の方向としては、インバルのワンポイントを基本にした録音とは正反対。インバルの録音では、ホールの天井の高さまで分かるような全体を捉えた録音で楽器の響きもホールに響く時間軸も捉えた伸びやかな音質に対して、このショルティ盤は楽器一つ一つを聴くような録音です。
録音の影響も大きいのだと思いますが、かなり男性的で筋肉質な演奏。ゴツゴツとした力演です。

一楽章、冒頭からもの凄いスピード感ではじまる。一音一音の粒立ちがはっきりしているし、ブラスセクションも強いアタックで入ってくるので、ダイナミックレンジが広い演奏に感じる。
また、色彩感が豊かなのもこの演奏の特徴でしょう。ただ、かなりのオンマイクで録られているので、楽器の生音を聞いている感じが非常に強く、ホールに広がっていく響きは全く捉えられていない。実際のコンサートでは、絶対に聞けない音です。
スピード感と言うか、何かに追いかけられているような独特の緊張感を聞き手に与える演奏です。
スコアを顕微鏡で見ているような、楽器の動きが手に取るように分かる。音楽を聴いているというのとは、ちょっと違う、オーディオのためと割り切った録音なのか・・・・・・。
シカゴ交響楽団は抜群に上手いし、ショルティの指揮もアゴーギクを効かせて微妙な動きがあったり、世間で言われるほど無機質なものではない。

二楽章、比較的遅めのテンポで、弦の表情も豊かだが、極端なオンマイクのせいで、豊かな響きに包まれるような優しさは望めないのが残念なところです。本来なら、美しい響きに包まれて音楽に身をゆだねたいところですが、この演奏ではこの楽章でも、緊張を要求されます。

三楽章、少し速めのテンポでスタート、細かなアーティキュレーションの表現も難なくこなし、音楽が進んでいく。早いパッセージも余裕でこなす、オケの実力には脱帽!ホールトーンも含めたもう少しオフマイクで録られていれば、もっと音楽的な評価がされていたのかもしれないが、あまりにも細部の音まで聞こえてしまうので、機械が演奏するかのような無機質感を与えてしまうでしょう。とにかく、細部にわたり表情づけがなされています。

四楽章、とにかくマイクが近すぎて、コントラルトの独唱もホールの響きが伴わないので、興醒めしてしまいます。この演奏には緩むところがない。

五楽章、冒頭の低弦から松脂が飛び散るようなド迫力、しかし、バンダは程よい距離感を保っているし、弱音部の表情は豊かだ。ffでも次々と泉のように途切れることなく湧き上がってくるブラスセクション。世界中から名人を集めたルツェルンよりもこちらの方が上手かもしれない。
それくらい名人芸を難なくやってしまう、この集団は凄い!
このオケのパワーを利用してショルティの指揮もクレッシェンドして、次のフレーズへ入るときに少し間を取ったりして、音楽の高揚感をさらに高めていく。
ショルティって、もっと荒っぽい指揮者かと思っていたが、こうやって細部も聞き込んでみると、すごく音楽的で歌心のある指揮者なんだと見直してしまった。
合唱が入って、合間の弦の旋律も川の流れのようにとうとうと流れて行く、そして抑制のきいた合唱、独唱との和音もバッチリ決まる。
パイプオルガンが入ってくる最強音部も力強い。本当に良く鳴るオーケストラだ。
すばらしい演奏なのだが、オンマイクが災いして、音楽に酔うことができないのが残念。
すばらしい彫刻をほどこした柱時計をわざわざ開けて内部にギッシリ詰まった歯車を見て、「凄い!」と感動しているような何か違和感を感じてしまうのは、すごく残念です。
この録音は音響空間を捉えたステレオ録音ではなく、大量のマイクをそれぞれの楽器の前に立てて、他の楽器との干渉を避けるために衝立をたてて一つ一つの楽器をモノラルで録音したものをミキサーのパンポットで定位を決めて行く作業でスピーカーの間に楽器を配置したものです。
奥まった位置にある楽器には少し多めにエコー成分をミックスすることで奥に定位させることもできる。モノラル録音の集合体をステレオに聞こえるように操作して作り出したものなのです。だから、楽器の音は生々しく聞こえますが、空間を感じ取ることができないのです。
ショルティとデッカの録音は基本的にこの音作りで、一世を風靡したわけで、この異常とも思えるオンマイクのマルチ・モノ録音があったからこそ、ショルティは二十世紀を代表する巨匠としての地位を確立したわけでもある。
だから、この録音を否定するわけにも行かないのだが、もう少しオフで録っていてくれれば、音楽を聴くことができたと思うし、ショルティに対する評価も変わっていたのではないかと思う。再生するときにホールのエコー成分を付加する装置も売られているので、少しホールトーンを載せてやると、多少なりとも音楽を聴くことができると思います。

それでも、この演奏はスーパー・オケと巨匠が残した名盤であることには間違いない。オーケストラの機能美を聴きたい人には迷いなくお勧めします。
ホールの響きを含めた、大きい意味での音楽を聴きたい人には、このCDでは音楽に酔いしれることは困難ではないかと思います。

ミヒャエル・ギーレン バーデンバーデン・フライブルクSWR交響楽団

icon★★★★☆
ギーレンの演奏は、昔FM放送で何度か聴いたことはあるのですが、たまたま車の中とか、正対して聴くのは今回が初めてです。
一部では、冷徹の大指揮者などといわれているそうですが、どのような演奏をするのでしょうか。

一楽章、何も思い入れがないかのような導入。オケはアンサンブルもきっちり決まるし金管の音色も明るく、上手いです。
導入部は素っ気なかったのですが、独特の表現があります。他の指揮者に比べて対旋律やハーモニーの下をはっきり演奏させているので、普段聞こえてこない音も聞き取れます。
オケはかなり鍛えられているようで、マスの一体感はすばらしいです。
コントロールも行き届いていて決して暴走することはありませんし、録音の良さも手伝って、弦も繊細な響きが心地よい演奏です。
感情の表出がある演奏ではありませんが、世間で言われるような冷たい演奏だとは思いません。

二楽章、かなり速めのテンポ設定です。一つ一つのフレーズに表現をつけるような、ねちっこいタイプの指揮者ではなさそうです。かなり淡白なのかもしれませんが、とても美しい演奏です。
音の扱いがかなりテヌートっぽい部分が多い感じがします。この指揮者の特徴なのでしょうか。

三楽章、ソフトな音色のティンパニとクリアな弦と木管。確かに響き自体の温度感は低く感じるかもしれません。打楽器なども場面場面での音色も選りすぐりの最良の音色で登場してきます。
ギーレンとの長いコンビで相当鍛えられている印象をうけます。テュッティの一体感やバランスの良さは、なかなか聴けないレベルで、これだけ高水準の演奏を聞かせてくれる組み合わせも稀だと思います。
誇張することはありませんが、自然な音楽としての抑揚はもちろんありますし、無機的な演奏ではありません。
受け狙いや、大見得を切るようなところが一切ないので、印象に残りにくいので、損をしているでしょうね。

四楽章、独唱も実にクリアに録られていまて、とても美しいです。全く誇張することなく、聞き手を引き込むことができる演奏というのは、本当にすばらしいものです。

五楽章、混濁することなく、伸びやかなffです。
同じように、何もしないアバド=ルツェルンの演奏が非常に楽天的に聞こえたのに対して、こちらはかなりシリアスな印象です。
それにしても、ドイツのオーケストラって、地方都市のオケでも水準が高いのに驚かされます。うるさい音は一切出さない。
表現は決して濃くないのですが、響きの温度感が低く張り詰めた緊張感のような空気を生み出しているので、ズシリと重いものが残る演奏です。
合唱はオケとは違って発声もはっきりしているし、響きも明るい。
合唱が入ってからは割りと速めのテンポで進んでいます。合唱が抜けるまで、速いままでした。
最後のオケだけの部分は少しテンポが遅くなりましたが、バーンスタインの演奏のような壮大なクライマックスを期待すると裏切られます。

見事な演奏ではありましたが、どう評価して良いのか私には分かりません。
ん~。何だったんだろう?

ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、強いアクセントもなくおもむろな出だしでした。低弦の第一主題も強調されることもなく、とてもマイルドな響きです。同じシカゴ交響楽団でもショルティの演奏とは全く音色が違います。ゆったりとした音楽の流れが心地よく感じます。ハイティンクらしく作為的な部分を感じさせない演奏です。 第二主題への移行も自然で、いつの間にか変わったという感覚です。個々の楽器が突出して登場することが無いので色彩的には淡い感じの演奏です。展開部で現れる第一主題の後のティンパニも強打されることはありません。ドロドロすることなくサッパリとした表現に終始したとても美しい演奏でした。

二楽章、速めのテンポです。テンポが大きく動くこともなく、この楽章もあっさりとした表現です。あっさりとした表現ではありますが、とても丁寧に描かれています。

三楽章、ソフトなティンパニから始まりました。控え目な表現で、ハイティンクの主張よりも作品に語らせる演奏なのでしょうか。誇張もなくマイルドで自然な音楽の流れに身をゆだねて流れる音楽にどっぷりと浸っていられる演奏は貴重な存在だと思います。 ブラスセクションが飛び抜けてこちらに突き刺さってくるようなことも一切ありません。とてもバランスに気を使って演奏しています。

四楽章、独唱が静かに歌い始めました。余力を残した豊かな歌唱です。次第にテンポを落として天国へ!

五楽章、ここでも金管と弦がバランス良く鳴っています。良い距離を保ったホルンのバンダです。穏やかな復活の動機。展開部でも絶叫することは全くない。とても美しい。シカゴのブラスセクションとしては、相当に余裕をもって演奏しているのではないだろうか。ライヴでこれだけ抑制の効いた演奏をするのも大変なことだと思います。この演奏を制御し続けるハイティンクの力量も相当のものだと感心します。トランペットのバンダも良い距離にいます。静かに、ゆったりとしたテンポで歌い始める合唱。途中に入る独唱もゆったりとしたテンポで飛び抜けてはきません。力みのないクライマックス。広々とした広大な世界(天上界)を再現しています。シカゴ交響楽団をフルパワーで演奏させることなく、力まず誇張することもなく、自然体を貫いて、常に美しい演奏を実現しました。またここで実現した美しい造形は見事なものでした。ハイティンクの演奏の場合、繰り返して聴いて良さが分かる場合が多いので、再度聴いてみたいと思います。

小林研一郎/日本フィルハーモニー交響楽団

★★★★☆
一楽章、豪快にアクセントを付けて入った弦のトレモロが次第に弱くなってから低弦の第一主題が始まりました。克明に刻まれる低弦、その上に様々な楽器が乗っかり色彩豊かな演奏です。激しいコバケンの唸り声。それに合わせるように激しい演奏をする日フィルです。 第二主題以降も生き生きとした音楽が奏でられて行きます。小気味良いテンポで音楽を運んでいます。音楽はものすごく濃厚に表現されています。テンポもすごく動いて音楽の表現をさらに印象付けています。オケの技量も欧米のものと遜色ありません。

二楽章、オケの集中力も高く音が立っています。フレーズの終わりでテンポを落としたり、少し間を空けたり自在な表現です。豊かな歌があり、また音楽の振幅も幅広くコバケンの作品への共感が伺い知れます。

三楽章、思いっきり叩き付けるティンパニから始まりました。速めのテンポでアーティキュレーションにも反応の良い表情豊かな演奏です。トランペットのffの部分ではさらにテンポが速くなりました。息つく暇も与えずに思いのたけをぶつけてきました。

四楽章、この楽章も速めのテンポでどんどん音楽が押し寄せてきます。太く豊かな声の独唱。

五楽章、荒れ狂うような冒頭。あまり残響を伴わないバンダのため距離感を感じません。展開部は速いテンポで演奏されます。とても彫りの深い音楽を刻み付けて行きます。コバケンの妥協を許さない音楽への姿勢がこのような深い音楽を生み出したのだと思います。強奏部分では荒れ狂うような演奏で、弱奏部分では魂を込めたような演奏がとても心に残ります。所々で長いパウゼがありこれが緊張感を生み出します。トランペットのバンダも残響をあまり含まないので距離感を感じないのがちょっと残念です。極めて抑えた音量で開始した合唱。二重唱はオケともからんでとても良かった。合唱が指揮を見ずに、練習通り歌ったのか?オケと合唱のアンサンブルがズレる場面もありました。頂点の手前で大きくritして見事な頂点を築き上げました。オケに対して合唱の声質に芯が無いようで存在感が薄いようで少し残念でした。それにしても大熱演!コバケン渾身のすばらしい演奏でした。

パーヴォ・ヤルヴィ フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、強烈な存在感の低弦の第一主題。オケと一体感のあるブラスセクション。弱めに丁寧に演奏された第二主題。集中力の高い演奏をしているようで、静寂感があります。オケはとても上手いです。緩急の変化も激しい。テンポを落として演奏する部分では、作品を慈しむように丁寧な演奏をしています。終結部ではずっと遅いテンポでしたが、弛緩することなく緊張感を維持したすばらしいものでした。

二楽章、細心の注意を払って演奏されたような微妙な表情の冒頭でした。テンポは速めです。予想外のところで強弱の変化が・・・・・。羽毛のような繊細な表情の弦。オケに溶け込んで美しいピッコロ。すばらしく美しい二楽章でした。

三楽章、マットな響きのティンパニ。ヴァイオリンの主題はすごく繊細な表情です。旋律が強調されて前面に出てきます。テンポを早める部分では生き生きした演奏をしています。

四楽章、冒頭の独唱に寄り添う弦はものすごく弱い音でした。明るい声質の独唱です。最後はゆってりとしたテンポになって天国へ!

五楽章、余裕を持った金管のffでした。バンダのホルンが入る前に次々に弦が入ってくるところはアクセントを付けて入ってきました。バンダのホルンは適度な距離感です。トロンボーンのコラールはすごく明るい音色でした。金管はどのパートも音離れが良く明るい音色です。

ずっとここまでオケはフルパワーは出していないのではないかと思います。トランペットのバンダは遠くにいます。バンダのトランペットのファンファーレの音の広がりは見事でした。

合唱は最初、長い音を長く保って演奏しました。 二重唱からかなりテンポが早くなりました。合唱とともにオケもフルパワーです。合唱が終わる直前で大きくritしました。すばらしいクライマックスでした。 弱音部分の微妙な表現に神経の行き届いた演奏でした。また、予想外のところで大胆なテンポの変化もあり個性的な名演奏だったと思います。

マーラー 交響曲第2番「復活」5

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

ロリン・マゼール ニューヨーク・フィルハーモニック

★★★★☆
インターネットでダウンロードした音源です。マゼールに対しては正直あまり良い印象はありません。作為的過ぎる感じを持っているのですが、今回の演奏はどうでしょう。

一楽章、軽い感じの第一主題。木管の旋律の裏でホルンが激しく唸ります。第二主題もあっさりとした表現です。展開部に現れる第二主題はゆったりと演奏されます。クラリネットのソロやホルンは美しい音でゾクッとさせられます。金管が気持ちよく鳴り響きます。フルートソロもヴァイオリンのソロも極上の音を聴かせてくれます。再現部の直前はものすごくテンポを落として克明に刻みました。
フレーズの終わりでritをかけたりして表情豊かに演奏されて行きます。弦のメロディーもかなりテンポをおとしてたっぷりと表現しました。ハープがリズムを刻んでホルンが旋律を演奏する部分は早めのテンポで演奏されています。テンポを落としてしっかりと旋律を聞かせる部分もありました。

二楽章、速めのテンポで演奏されます。透明感のある弦と存在感のある管楽器が美しい演奏を繰り広げます。金管は強く入ってきますので、振幅の広い演奏になっています。音色的に鋭いので、包み込まれるような癒し感はあまり感じられない演奏です。

三楽章、ホールに響き渡るティンパニの一撃!続く木管の表情もとても豊かです。アーティキュレーションにも忠実に演奏しているのか、強弱の変化のとても多い演奏です。それにしてもライヴだとは思えないくらい完成度の高い演奏です。一時期低迷したニューヨーク・フィルですが、かなり力を取り戻してきているのを実感させられます。

四楽章、明るい響きのコラール。太い声の独唱。訴えかけるように幅広い表現の独唱です。

五楽章、冒頭の炸裂も明るい響きで重さがありません。とても鋭く軽い響きです。適度な距離感のバンダ。見事な祈りのコラール。すばらしい!展開部の直前は非常にテンポが遅くなりました。マゼールの面目躍如というところか。その後は普通のテンポに戻ります。打楽器のクレッシェンドももの凄く時間をかけて行いました。
トランペットなどのバンダも適度な距離感です。合唱が入る前はとても神秘的でした。合唱から浮かび上がる独唱。メゾ・ソプラノは表現力抜群でした。独唱が始まると他のパートがスーッと音量を落とすあたりの配慮もすばらしい。波が押し寄せるように次から次へと合唱のパートが変わって歌い続けます。輝かしい頂点です。大太鼓とティンパニのクレッシェンドはとても効果的でした。透明感のある弦楽器と木管のソノリティ、そして鋭く明るく安定感抜群のブラスセクション。マゼールが時に大見得を切る場面もありますが、作品から距離を置いて冷めた表現の部分とマゼール自身が音楽にどっぷりとのめり込み音の洪水の中を泳ぎ回るような部分が混ざった演奏でした。マゼールが表現し切ったすばらしい演奏だったと思います。

ダウンロードした音源でしたが録音も良くお勧めです。

ワレリー・ゲルギエフ ロンドン交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりとした弦のトレモロに続く深々とした第一主題。ゆっくりとした足取りで刻まれて行きます。ゲシュトップしたホルンが厳しさを演出します。強烈なティンパニのクレッシェンド。劇的な表現が続きます。すごく積極的な表現で音楽の振幅もすごく広い演奏で圧倒されます。展開部はすごくゆっくりとしたテンポで第二主題が演奏されます。激しさと穏やかさの対比がすごいです。オケの集中力も高く、音が集まってきます。テンポも動きますが不自然さはありません。次第に演奏に引き込まれて行きます。

二楽章、一楽章から一転して穏やかな開始です。激しい表現からふくよかな表現までロンドンsoの実力を思い知らされます。ライブでありながらアンサンブルの乱れも無く、集中力の高い演奏が続いています。

三楽章、速いテンポです。表情豊かな演奏です。シンバルが少し遠いような感じがします。テンポは速いですが、生き生きとした表現でとても良い演奏です。

四楽章、弱めに丁寧に歌い始める独唱。とても感情のこもった歌です。この歌とは対照的に無表情の金管のコラール。

五楽章、全開!容赦なく叩きつけるティンパニ。少し遠いバンダ。ゲルギエフは速目のテンポでグイグイ引っ張って行きます。展開部ではホルン全開ですさまじい響きです。テュッティ全開のパワー感はすごいです。速目のテンポですが、すごく凝縮された濃厚な音楽を聴いている充実感があります。表情豊かな独唱。どのパートも表情豊かです。音楽の抑揚に合わせてテンポも動きます。輝かしいクライマックス!充実した演奏でした。
このリンクをクリックするとYouTube動画再生できます。

ジェイムズ・レヴァイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、少し遠目の音場感です。長めのトレモロに続いて第一主題はコントラバスの響きがあまり捉えられていないので、軽い感じがします。第二主題の前は一旦テンポを速めて徐々に遅くなって、第二主題になりました。ブラスセクションの強奏も美しい。小さく定位する美しいヴァイオリン・ソロ。テンポを極端に動かすこともなく、淡々と音楽が流れて行きますが一つ一つの音には細心の注意が払われているようです。作品と誠実に向き合ったような演奏で好感が持てます。

二楽章、速めのテンポであっさりとした開始です。羽毛のように繊細で美しいヴァイオリン。表現は控え目でとても奥ゆかしいです。レヴァインの演奏と言うと、暑苦しいイメージがあったのですが、表現もあっさりとしていて、この演奏はとても涼やかで爽やかです。

三楽章、控え目でマットな響きのティンパニ。続くヴァイオリンや木管も控え目でとても美しい。ひっかかる部分がなく、とても滑らかに音楽が流れて行きます。

四楽章、静かな歌い出し。続く金管のコラールも静かに歌われます。独唱も爽やかで美しい。中間部は少しテンポを上げました。

五楽章、軽い銅鑼の響き。金管も奥まったところから響いてきます。適度な距離で間接音もたっぷりのホルン。続くオーボエはテヌートぎみに演奏しました。第二主題も清楚な感じです。金管のコラールも静かに祈るような美しいものでした。展開部の金管の強奏も、強くは演奏されているのです(ホルンなどはビンビン鳴っています)が、静か?な感じです。展開部の後半あたりから音量感も上がってきました。バンダのトランペットも間接音を伴ってとても美しい響きです。すごく静かに歌い始める合唱。合唱から浮かび上がるソプラノもメゾ・ソプラノも控え目で柔らかい声質でとても美しい。引き込まれるような美しい弱音です。最後は圧倒的な音量感で感動的に曲を閉じました。

弱音の美しさと静かな運び、最後の圧倒的な盛り上がり。レヴァインの見事な統率の名演でした。

小澤征爾/新日本フィルハーモニー交響楽団

小澤★★★★☆
一楽章、勢いのある弦のトレモロ。ゆっくりと確かめるような第一主題。ゆっくれとしたテンポですが、表現は厳しいです。ほとんどテンポを落とさずに第二主題に入りました。展開部に入っても、必要以上に自己主張することは避け、作品のありのままの美しさを表出しようとしているような演奏です。フルートが第二主題を出す前ではかなりテンポを速めて激しい表現でした。再現部の前もかなりテンポを上げて激しい表現をしました。再現部の第二主題は夢見るようなとても美しい演奏でした。強く演奏する音にはかなりのエネルギーを注入するように演奏しています。最後はとても遅いテンポになって終わりました。

二楽章、とても繊細に歌う弦の主題。微妙なテンポの動きや表現など絶妙です。中間部の弦の三連符の刻みなどもとても神経が行き届いた繊細な演奏です。主部が戻ってもヴァイオリンも対旋律で寄り添うチェロもとても繊細です。繊細さのあまり、一楽章で感じられたエネルギー感は影をひそめていますが、表現は尽くしているような感じの演奏です。

三楽章、軽いティンパニ。自然な抑揚の表現です。中間部の金管は余裕をもって吹いています。ひっかかるところもなく自然な流れの演奏です。

四楽章、ゆったりとビブラートを効かせて歌う明るく明瞭な声のアルト独唱。振幅の大きな、感情のこもった独唱です。

五楽章、ここまで抑えてきたエネルギーを放出するようなオケの爆発。残響を伴っていますが、比較的音量の大きなバンダのホルン。大きく歌う第二主題。トロンボーンのトップが強めの金管のコラール。展開部へ入る前に十分テンポを落としました。ボストンsoとのスタジオ録音で感じた不自然なテンポ設定も無く、とてもしっくり来る演奏です。打楽器のクレッシェンドの後は、一旦急速なテンポで風雲急を告げるような演出でした。再現部までの行進曲も速めのテンポでグイグイと前へ進みます。緊張から解き放たれるようなゆったりとした再現部。豊かで広がりのある合唱。必要以上に音量を落とさずに、しっかり声が出る音量で歌われています。表現力のあるソプラノ独唱。二重唱の後はかなりテンポが速くなりました。最後は輝かしい金管と、絶叫する合唱によって壮大なクライマックスを築きました。

前半の繊細な表現と、後半はライブの熱気をはらんだ、とても良い演奏でした。最後のテンポが速くなったクライマックスもライブならではのもので、引き込まれました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★☆
一楽章、重いアクセントで入った弦のトレモロ。粒立ちのはっきりした第一主題がホールの残響を伴って響きます。ゆっくりとしたテンポで進んでいます。シャープな響きの金管。かなりテンポが動いて濃厚な表現です。展開部へ入る前はかなりテンポを落として、そのままゆっくりとしたテンポで展開部の第二主題に入りました。濃厚な色彩で豊かに鳴るオケと良く歌う音楽と頻繁なテンポの動きで多彩な表現を繰り広げます。精緻で見通しの良い音楽ですが、作品に対する愛情も感じます。ゆっくりと演奏する部分ではとても良く歌い、テンポを上げて激しい部分では遠慮なくオケをドライブしています。コーダはすごく遅いテンポでしたがさいごは テンポを速めて崩れ落ちるように終りました。

二楽章、テンポが動いて良く歌います。生き物のように敏感に反応するオケ。とても美しい演奏です。

三楽章、ホールに響き渡るティンパニの強打。強弱が付けられたヴァイオリンの主題。深く感情移入している演奏ではありませんが、とても美しく歌う生き生きとした演奏には惹かれます。鋭く突き抜けるトランペット。緩急の変化が大きく、とても表現力豊かな演奏です。

四楽章、柔らかい歌声の独唱。充実した金管のコラール。ホールに響いて伸びやかな独唱。

五楽章、金管が突き抜けて、テンポも動く怒涛の第一主題。豊かな残響を伴ったバンダのホルン。トロンボーンの第二主題も美しい。美しく歌う金管のコラール。ゆったりと大きな響きの展開部。テンポを速めたりしながら勇壮に進む行進曲。再現部の分厚い響きもすばらしい。次第に静まって行く部分はゆっくりとしたテンポで濃厚に表現しました。バンダのトランペットはかなり強いです。人数は少ないようですが、厚みのある合唱。オケでけの部分ではまたテンポが動いて濃厚に歌いました。若干オケに負けている合唱。テンポも強弱の変化も多彩で聞かせどころが多くあります。

歌に溢れて、テンポの変化も多く、この作品の美しさを存分に伝えた演奏でしたが、バンダのトランペットや合唱のバランスなど少し難点があったところが残念でした。
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マーラー 交響曲第2番「復活」6

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

山田 和樹/日本フィルハーモニー交響楽団

山田 和樹★★★★☆
一楽章、薄いですがきめ細かい弦のトレモロ。第一主題ひコントラバスがあまり存在感を主張しません。金管は咆哮することなく、落ち着いた精緻な演奏をしています。第二主題も粘ったり感情移入するような濃厚な表現では無く、あっさりと演奏します。展開部冒頭は特に美しさは感じません。速めのテンポを基本にして感情の没入は無く、淡々と作品そのものを表現しています。第一主題が出た後のティンパニはかなり強打しました。コル・レーニョもリアルです。決して暴走しない安定感はあります。

二楽章、ここでも速めのテンポが基調ですが、テンポの動きや間は大きいです。オケも地に足が着いた安定感のある演奏で、とても良いです。一楽章とは対照的にテンポが動きます。

三楽章、重いティンパニ、ゆっくりと丁寧な主題。木管も滑らかです。とても穏やかに進みます。中間部の主題を演奏するトランペットも軽く暴走することなど全く無く、完全に制御されています。録音もこれ見よがしに強調する部分も無くとても自然です。

四楽章、まろやかな金管のコラール。あまり感情を前面に出さず、作品そのものを忠実に演奏しています。

五楽章、打楽器も加わって厚みのある響きですが、オケは全開にはならず、余裕を残して冷静です。あまり残響を伴わず距離感もあまりないバンダのホルン。第二主題も淡々と演奏されます。テヌートで演奏される美しい金管のコラール。展開部に入る前に大きくテンポを落としました。展開部も余裕を持ったバランスの良い演奏です。打楽器のクレッシェンドは長く大きく演奏されました。打楽器はダイナミックですが、それに比べると他の弦や管は大人しいです。打楽器が入ると一気に音量が増します。再現部冒頭も金管は突き抜けては来ず、打楽器が入ると一気に音量が増します。遠いバンダのトランペット。バンダのティンパニは響き渡ります。極端に音量を落としていない合唱はかなり力強いです。独唱の後の合唱は音量を上げてさらに力強くなります。クラテマックスでも美しい合唱。オケが全開になっても荒れた響きにはなりません。

かなり冷静に作品を最後まで運びました。オケや合唱は完璧に制御されていて、美しい響きを保ちました。感情の深い表現はありませんでしたが、作品そのものを忠実に表現した演奏だったと思います。オケの上手さもなかなかのものでしたが、クライマックスでの開放感はあまりありませんでした。

サー・ゲオルグ・ショルティ ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、ほかのショルティの演奏同様、強いアタックで弦のトレモロから開始、克明な表現で強弱の変化も激しい演奏です。
冒頭部分はシカゴsoとの演奏とほとんど差はありません。
シカゴsoとの録音ほどマルチモノが強調されていないので、ショルティの音楽を聴くのであれば、こちらの演奏の方が抵抗は少ないでしょう。
同じオケながら、キャプランの時の音とも、違う。ショルティの音です。
キャプランの時には、散漫に聞こえたロンドンsoが、別のオケのように音が集中して届いてきます。
ウィーンpoもメータとブーレーズでは違うオケのような音がしていました。
この演奏では、ショルティの持つ、独特の突進力のような男性的で力強い面が表現されています。
ショルティはリズムの刻みをはっきりアクセントぎみに演奏するので、細部の動きが聞き取りやすいのでしょう。
この刻みの処理が音楽全体を聞こうとするときに、すこし邪魔に感じる人もいるかもしれません。
キャプランの時はがっかりさせられましたが、ここで聞くロンドンsoはさすがに上手い。これがいつものロンドンsoだ!
1966年の時点で、ショルティはすでに、この曲の解釈を確立していたのでしょう。1981年のシカゴsoと同じ演奏です。
オケが変わっただけです。ただ、大きい方のドラがほとんど聞こえない。

二楽章、ここでも粒立ちのはっきりしたショルティ独特の表現です。指揮も弦もよく歌っているのですが、メロディーよりも刻みの方が強調されているような感じがして、なんだか落ち着かない。どっぷりと音楽に酔いしれることはできない演奏です。
やはり、シカゴsoの時より程度は少しマシですが、オンマイクが気になります。
バイオリンがキーキーうるさい。もう少しホールの響きが含まれていれば良いのに。

三楽章、ここもシカゴsoとの演奏と同じで、オケが変わっただけです。
がっちりとした構成力はさすが。安定感抜群で、分厚い響きを作り出すことにかけては天才的だと思います。
シカゴsoの録音よりも木管が近くて金管が遠い感じかな?
強弱の変化もはっきり付けています。Tpのヴィブラートがちょっと不自然な感じがします。
それにしても、突然のffの思い切りの良さには感服します。
メータのような一筆書きのような豪快さとは違って、細部の表現にもこだわっているのですが、ffを何の躊躇もなく思いっきり突進してくるのは、ショルティならではの醍醐味です。

四楽章、ちょっと速めのテンポ設定です。木管も美しいし、テンポの動きも良い感じですが、天国的とは程遠く現実的で天国に召されることはない。

五楽章、この録音から15年も経ったシカゴsoとの演奏がほとんど同じと言うことは、ショルティ自身が、この「復活」解釈に、この時点でものすごく自信を持っていたと言うことなんだろう。そして、ショルティの音もすでに確立していたということか。
ショルティはウィーンpoを指揮しても、シカコsoのようなシャープな響きを作ってしまいますからね。
その昔、あるウィーンpoのメンバーが「ショルティの首を絞めてやりたい」と言ったという逸話が残っているらしいのですが、ショルティは昔から伝統的に守ってきたウィーンpoの響きをある意味否定してしまったわけですから、オケのメンバーとっては屈辱的なこともあったのかもしれませんね。
それでも自分の音楽や自分の響きを作り出そうとする、妥協のない姿勢は一人の人間としてもすばらしいことだと思います。
今は、オケにゴマを摺りながら、オケの機嫌を損ねないようにしながら、妥協の連続のようで、個性の強烈な表出がほとんどない。つまらない時代になってしまったものだ。
この演奏は好き嫌いは別にしても、ショルティの強烈な主張がある。
これは、巨匠としての重要な要件だと思います。
あれ、この演奏もティンパニが一拍遅れて入っているところが・・・・・。
表現力も十分、ブラスセクションも実に気持ちよく鳴り響く。吹きまくりと言った方が良いか。
弱音部やバンダもシカゴsoの演奏とほとんど同じです。
合唱の入りも・・・・・。しかし、ホールの残響成分をほとんど取り込んでいない録音は、デッカとショルティの組み合わせでは定番になっているようです。
弦の旋律もよく歌っているのですが、残響をともなったふくよかな響きではないので、音楽的に聞こえないのが残念なところです。
ソプラノ独唱はシカゴsoとの録音より、こちらの方が良く歌っています。
終結部へ向けて若干テンポが速くなっているか。
終結部の圧倒的なパワーはシカゴsoには若干劣るかもしれませんが、そんなに遜色はありません。

録音もリマスターされていて、古さを感じさせませんし、なかなか良い演奏でした。
シカゴso、ロンドンsoどちらか一つはもっていても良いと思います。

クリストフ・エッシェンバッハ/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、エッシェンバッハの強烈なキャラクターが取りざたされていますが、そんなに特異な演奏とは感じません。むしろ淡々と音楽は流れて行きます。
隅々まで見通せるような精緻な音楽作りがなされているような感じがあります。オケをよくコントロールしているようで、ライブでありながら、極めて統制の取れた演奏です。

二楽章、ふくよかな響き。テンポが動くことは一楽章でもあったのですが、ライブの即興感はなく、事前に設計された音楽を設計通りに再現しているようなところを感じます。

三楽章、どの楽器も美しい音を奏でているのですが、なぜか音楽に引き込まれない。
構築物としての完成度は極めて高いと思うのですが、音楽の高揚感は全くと言っていいほどありません。
これがエッシェンバッハのスタイルなのか?
エッシェンバッハが薫陶を受けたカラヤンがもしも「復活」を指揮していたら、こんな演奏だったかも知れない・・・・・・。

四楽章、金管のコラールも非常に美しかった。

五楽章、冒頭の金管の咆哮もさすがフィラデルフィアo、トロンボーンのコラールも美しい。ガリガリすることなくクールでカッコ良い「復活」です。
この作品をここまでクールに演奏できるものだろうか?
あの、ショルティでさえベルリンpoとのライブでは内面から燃え上がるような演奏をしていたというのに・・・・・・。
精緻で磨き抜かれた音楽で、内面的な部分はほとんど感じられませんが、これも一つの芸術のあり方でしょう。中途半端な演奏を聴かされるより、スパッと割り切れていて気持ちが良いです。
消え入るような合唱。流麗な音楽。これだけ高揚感なくクールに、しかも音響的には見事に完璧な構造物を見せ付けられると、エッシェンバッハって異次元の生き物なのかと思ってしまいます。
カラヤンよりも徹底しているかもしれません。バーンスタインやテンシュテットとは対極にある演奏です。ただ、それが徹底されていることをすばらしいと判断するか、内面性を伴わない音楽なんて音楽じゃないと言うか・・・・・・。とても悩むところです。

それでも、この演奏の存在価値はあると思います。

デヴィッド・ジンマン チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団

icon★★★★
一楽章、低音域に暖かみのある良い音色です。ベートーヴェンの全集では賛否両論渦巻いているようですが、この演奏は今のところノーマルな演奏ですし、とても美しいです。
少しヴェールを被ったような奥ゆかしい美しさで、ギョッとするような生音は聞こえてきません。
フルートのソロもホールトーンを伴った美しい響きがします。ただ、感情がこみ上げてこるような演奏ではなく、作品を遠くらか見ているような冷静な演奏のようです。
一楽章が終わってCDを入れ替えるのは良いですね。

二楽章、とても響きが軽やかで暖かみのある音色はとても良いです。アゴーギクなどもほとんどなく表情は多少ありますが、無表情に近いです。
ただ、音色に暖かみがあるので、エッシェンバッハの演奏ほど冷徹な感じは受けません。

三楽章、オケの高い技術力もすばらしい。この技術集団を統率して音楽を組み上げるジンマンの手腕もすごいと思います。思いますが、感動が伴わないのか、近年の新譜には多いような気がしてなりません。

四楽章、太い声の独唱で、存在感があります。

五楽章、金管も良く鳴っていて、十分響いていますが、余裕を十分残した鳴りです。バンダも良い距離感があって美しいです。
ホールの響きが豊かなので、心地よい音が流れて行きます。どこをとっても申し分ない響きがしています。弱音部分のバンダとの絡みも美しい演奏でしたし、合唱も整ったアンサンブルです。
合唱や金管のffでも独唱の声はちゃんと聞こえる録音です。(ちょっと不自然かも)
この演奏も基本的にはエッシェンバッハと同じ部類に入るような気がします。
構築物としての美しさは完璧です。文句の付けようがありません。エッシェンバッハのクールな演奏を取るか、ジンマンの少し暖かみのある音色を取るかです。
しかし、このようなタイプの演奏に感動があるのかは疑問です。楽譜を完璧に音として再現するという行為を一つの芸術として評価はすべきでしょう。

いろんな演奏があるから楽しめるのですが、聴いた後の感慨と言うのか、心に残るものはあまりありません。

大野和士楽団/ベルギー王立歌劇場管弦楽団

icon★★★★
一楽章、低域がふくよかな録音です。ホールの響きを伴っているからか、トゲトゲしさのない演奏です。控え目なブラスセクションと弦楽器のバランスが取れています。
展開部二度目の第二主題を演奏したフルートはとても豊かな歌でした。再び現れる第一主題ではテンポがすごく動き、遅くなりました。その後も遅いままです。テンポは自在に動いています。
再現部の表現も少し音を切るような表現で独特でした。金管が突出して来ないのですが、ティンパニを含む打楽器はかなり存在感があります。終始抑制の効いた演奏で、爆演にはなりえません。

二楽章、テンポも自然な動きで、作品からも適度に距離を置いた品の良い演奏になっています。オケも超一流とは言えませんが良い演奏をしています。

三楽章、控え目なティンパニ。細かな表情付けもされていますが、録音会場のせいかあまり克明には聞き取れません。金管の咆哮などもなく大人しい演奏で、少し淡白に感じます。

四楽章、美しい独唱。ソロ・ヴァイオリンにはもう少し艶やかさが欲しいところです。

五楽章、打楽器は爆発しますが、控え目なブラスセクションです。速めのテンポで進みます。展開部の前は音を短めに演奏してテンポを上げました。行進曲調の部分で輝かしいトランペットを聴くことができました。
バンダのホルンはあまり豊かな響きではありません。バンダのトランペットは良いバランスでした。
合唱は極端なppではありません。少し速めのテンポで淡々と進みます。合唱の人数もそんなに多くないようです。最後のトゥッティはフルパワーの演奏でした。

作品にのめり込むこともなく、ディテールの美しい演奏でしたが、他の巨匠の演奏に比べると一回りスケールの小さい演奏だったように思います。

マーラー 交響曲第2番「復活」7

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

リッカルド・シャイー ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
一楽章、コンセルトヘボウの深みのある響きを伴って開始されました。金管の咆哮も美しく響きます。シャイーの指揮はアゴーギクを効かせてたっぷりと情感を込めた演奏です。展開部で演奏される弦の第二主題はとても繊細な表現でした。適度なテンポの動きもあって、美しい音楽に浸りながら聞くことができる良い演奏です。

二楽章、ふくよかな弦の響きが美しい。羽毛で肌を撫でられるような繊細な弦の響きはたまらない魅力です。ここでもアゴーギクを効かせて表情豊かな演奏をしています。

三楽章、ホールの長い残響を伴ったティンパニです。コンセルトヘボウの豊かな残響を改めて感じさせてくれます。とても豊かで生き生きした表情が魅力的な演奏です。オケのアーティキュレーションに対する反応も機敏で気持ちが良いです。終盤の2ndティンパニの強打もバッチリ決まります。

四楽章、静かな歌いだし、続くコラールもとても抑えた演奏です。やさしく語りかけるような歌唱、それに応えるように控え目なブラスのコラール。とても美しい独唱でした。

五楽章、爆発を期待しましたが、アンサンブルが整っているせいかとてもコンパクトに聞こえた冒頭でした。バンダのホルンは遠くにいます。テンポも動きます。場面場面を彫琢深く刻み込んで行きます。金管のコラールもホールの残響を伴ってとても美しい。展開部はとてもゆったりとしたテンポで広大な大地を感じさせるような演奏でした。トランペットのバンダも遠くです。合唱に溶け込んだ独唱。トライアングルも絶妙な音色です。独唱、合唱、トランペットがすばらしいバランス!とてもゆったりとしたテンポで演奏が進みます。男声合唱が出たあたりからテンポが速くなりました。合唱が力強く壮大なクライマックスを作り上げました。オケも合唱と同等に力強いクライマックスを作ってくれれば文句なしだったのですが・・・・・。

小澤征爾 サイトウ・キネン・オーケストラ

icon★★★★
一楽章、勢いの良い弦のトレモロから開始です。強弱の変化など積極的な表現です。細部まで表現が徹底されていてすごい統率力を感じる演奏で、オケ全体が殺気立っているような凄い緊張感があります。美しい展開部です。展開部の途中から速めのテンポです。

二楽章、絶妙なバランスで凄いアンサンブル能力を聴かせてくれます。さすがにスーパーオケ。あまりタメがなく表現が淡白に感じます。

三楽章、ここでも細部の表現まで徹底された演奏が続きます。細部まで徹底されている分、金管の咆哮など一種のブチ切れるような表現がなく、制御が行き届きすぎて、とても醒めた演奏のように感じます。

四楽章、独唱とバランスの取れた金管のコラールです。とても存在感のある艶やかな独唱です。

五楽章、冒頭も荒れることなく美しい演奏でした。良い距離のホルンのバンダと美しい木管のソロが続きます。金管のコラールも抑制の利いた美しい演奏でした。展開部でも金管の強奏がありますが、とても美しい。どれだけ激しい部分でも小澤の指揮は冷静なようです。感情に任せて激情するようなことは全く無く、常に細部にも神経を行き届かせているような演奏です。とても静かに始まった合唱。合唱から淡く浮かび上がる独唱。一瞬速いテンポになった男声合唱。あまり高揚感もなく終ってしまいました。日本人の演奏らしく細部まで細やかな神経が行き届いた演奏でしたが、爆発するようなエネルギーや感情表現が無かったのが残念でした。

ヤンソンス ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ライブ録音のせいか、少しデッドで奥行き感に乏しい感じがします。第二主題の入りもテンポをほとんど落とさずにあっさりと切り替わりましたが第二主題の中ではテンポの動きもありました。展開部の第二主題はゆっくりと祈るような演奏でした。とてもゆっくりとたっぷりと聞かせます。次第にテンポを上げて強奏部分へ、しかし金管が突き抜けてくるようなことはありません。録音のせいか、色彩感に乏しく、モノトーンのような感覚です。再現部の直前もテンポを落とさずにあっさりとしています。ヤンソンスの主張らしいものも感じられない演奏でした。

二楽章、一楽章から一転して表情豊かな演奏です。細部の僅かな強弱の変化も再現しようと神経の行き届いた演奏になっています。それにしても、残響成分の乏しいデッドな録音が演奏への集中を妨げます。

三楽章、尻上がりに表情が豊かになって来ました。オケの集中力も高くなってきているようです。細部の表現までこだわり抜いたヤンソンスの姿勢が伺えます。

四楽章、静かに歌い始める独唱に寄り添う弦。さらに遠くから聞こえるような金管のコラール。潤いのあるクラリネット。次第にテンポを落として天国へ。

五楽章、全体に響き渡るブラス。最初は音を短めに演奏しました。遠くにいるホルンのバンダ。続くオーボエは音を長めに演奏しました。「復活」の動機に続くホルンはとても豊かな響きでした。トロンボーンとテューバのコラールは見事な演奏でした。豊麗な響きの展開部。打楽器のクレッシェンドは頂点に達する前に切られたようで、まだ余力を残していました。ホルンのバンダに対して近いトランペットのバンダ。ゆったりと静かに歌い始めるとても神聖な雰囲気の合唱。合唱と絶妙のバランスで浮かび上がる独唱。少しずつ少しずつ音楽が高揚して行きます。ずっと遅いテンポを維持してきましたが、二重唱からテンポが速くなりました。最後までオケと合唱をコントロールし切ったヤンソンスの指揮でした。楽章が進むにつれて積極的な演奏になっただけに、一楽章の無表情さが残念でした。
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ウラディミール・ユロフスキー ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、気合の入った凄味のある第一主題。速めのテンポでキビキビと進んで行きます。色彩感が濃厚です。第二主題へ向けて少しずつテンポを落として行きました。色彩は濃厚ですが、表現はあっさりとしています。第二主題はゆっくりとしたテンポで始まりました。展開部のフルートの第二主題が伸び伸びと響く。展開部の第一主題が現れた後のコントラバスもガリガリと重量感のあるおとで存在感を示します。テンポも動き、再現部の前にテンポをグッと落として濃厚な表現もありその後徐々にテンポを上げて再現部へ入りました。音色の関係か、とても密度の高い演奏に感じます。コーダの黄昏て行く雰囲気もなかなか良いです。

二楽章、ゆったりと丁寧に演奏される主題。静寂感があって、緊張感と集中力の高さを伺わせます。テンポは動きますが、オケが一体になった動きは見事です。一楽章でも感じたことですが、色彩感はとても濃厚で、この演奏の特徴の一つです。

三楽章、潰れたような音のティンパニ。ヴァイオリンの主題とそれに続く木管の主題もとても表情が豊かです。楽譜の版が違うのか、チェロの旋律などで尻切れトンボになる場面もありました。

四楽章、銅鑼の響きが残った中から独唱が始まりました。とても静かな歌いだしです。続く金管のコラールもおごそかな雰囲気です。少しハスキーと言ったら言い過ぎですが、独特の歌声です。最後は丁寧にテンポを落として天国へ。

五楽章、盛大に鳴る銅鑼。音の洪水の中から僅かに顔を覗かせる第一主題。かなり遠いホルンのバンダ。速めのテンポでキビキビ進む第二主題。ねばったりアゴーギクを効かせるようなことはありません。金管のコラールはとても重厚な響きですばらしかったです。展開部の前でテンポを速めました。展開部からの色彩のパレットを広げた充実した響きも素晴らしかった。テンポの変化も変幻自在でとても濃厚な表現です。トランペットや打楽器のバンダも非常に遠くにいます。ソプラノ独唱の後ろで同じ旋律を吹くフルートがとても強調されていました。二重唱の後少しずつテンポを上げかなりせっかちなくらいになりました。オルガンも加わるところからは一般的なテンポで壮大なクライマックスです。

基本的には速めのテンポの演奏でした。濃厚な色彩感と濃厚な表現。それに一体感のある演奏はなかなかのものでした。これからの円熟を期待したいと思います。

アンドルー・リットン/ダラス交響楽団

icon★★★★
一楽章、控え目な第一主題。清涼感のある弦の涼しげな響きをベースにした演奏です。金管も整って行儀の良い演奏です。第二主題の前でテンポを落としました。第二主題の中でちょっとした間をとったりテンポを動かしたりしてとても魅力的な歌でした。展開部の前で大きくテンポを落としました。展開部の第二主題が終るところでもテンポを落としました。金管の強奏もとても美しいです。第一主題の後のコントラバスの部分もすごく遅いテンポで演奏しました。ホルンにコラール風の旋律が現れるあたりから加速しました。トゥッティでも非常に軽い響きでガツンと迫って来ません。その分とても美しい演奏ではあります。再現部の第二主題もゆったりとしていてこの世のものとは思えないようなとても美しい演奏です。リットンの感情移入もありますが、美しさを追求しているようで、グロテスクなものは全く聞こえて来ません。

二楽章、速めのテンポですが、途中で間を取ったりしてテンポが大きく動きます。この楽章も清涼感のある美しい演奏です。テンポの動きとともに感情が込められて行きますが、美しく歌うことに専念しているような表現です。テンポの動く歌にはこちらも身をゆだねて酔いたい気分にさせられます。とても美しいです。

三楽章、控え目なティンパニ。くっきりと浮かぶ細身のクラリネット。弦もガリガリと弾くことはなく、金管も余力をたっぷりと残し美しい響きを聴かせてくれます。あまりに強奏しないので、あまりスケール感を感じません。箱庭のようなミニチュアの音楽を聴いているような錯覚に陥ります。

四楽章、独唱よりも抑えられた金管のコラール。淡白なヴァイオリン・ソロでした。この楽章でもテンポは動きます。

五楽章、ここでも軽い金管の第一主題。比較的近いホルン。ホルンの動機から続く部分は速めのテンポで動きます。第二主題も速めのテンポであっさりと進みます。細身のトロンボーン。金管のコラールで少しテンポを落としました。展開部もホルンはかなり強く吹きますが、トランペットやトロンボーンは控え目で美しいです。打楽器のクレッシェンドの後もとても軽く吹く金管。再現部に入って、バンダのトランペットが輝かしく美しい。人数が少ないような感じがする合唱。一楽章や二楽章で見られたテンポの動きや間を取ることはなく、淡々と進みます。途中で合唱の音量を極端に落としました。ソプラノの独唱が終ったあたりからテンポが動くようになりました。合唱の出だしでは人数が少ないように感じましたが、かなりの音量がありました。オケを圧倒するような合唱です。ホルン以外の金管は最後まで余力を残していたように感じました。

これだけ、美しさに徹した演奏も良いものでした。
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ラファエル・クーベリック/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1960年ライヴ

クーベリック★★★★
一楽章、長めのトレモロから第一主題が始まりました。過不足なく盛り上がりますが、第二主題への入りはテンポをほとんど落とさず、第二主題も速いテンポです。展開部は抑えた音量から次第に大きくなり、ホルンとの絡みも美しい演奏でした。テンポが動いたりすることはほとんどありませんが、どっしりと地に足の着いた確実な足取りです。テンポは速めに進みますが、感情を込めるところではしっかりと主張しています。

二楽章、一楽章の速めのテンポと緊張感から解放されるような、穏やかでゆったりとしたテンポです。ただ、テンポを動かしたり、ねばったりするようなことは無く、比較的あっさりと進んで行きます。オケには一体感があり、流動的なところが無く、がっちりとした構成感です。

三楽章、この楽章はゆったりと流れるような主題。1960年のライヴだとは思えない音の良さです。強奏部分でもオケには余裕をもって演奏させています。ちょっと押したり、僅かにテンポが動いたりして歌っています。

四楽章、抑え気味の独唱。録音のせいか、細い声に聞こえます。

五楽章、強烈なトランペットの第一主題。金管の第一主題の後、ホルンが出るまでの間はゆっくりと、ほろ酔い気分のようなヨタヨタとした良い感じでした。遠いバンダのホルン。美しいトロンボーンの第二主題。非常に静寂感があります。淡々とした金管のコラール。展開部も絶叫はしません。とても堅実で安定感のある音楽です。打楽器のクレッシェンドもことさら効果を狙ったような演奏はしません。遠くて残響をあまり伴わないバンダのトランペット。再現部冒頭もクーベリックはしっかりとオケを統率していて、暴走は全くありません。静寂の中に響くバンダのホルン。比較的大きめの声で歌い始める合唱ですが、しっかりと実在感があり力があります。男声合唱はあまり編成が大きくないように感じますが澄んだ美しい響きです。ソプラノ、アルトの二重唱の後からの盛り上がりでテンポを上げました。圧倒的なパワー感ではありませんが、感動的なクライマックスでした。

奇をてらうようなことは全くなく、堅実で竹を割ったような爽快感のある演奏でした。質実剛健とはこのような演奏のことを言うのでしょう。
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小澤 征爾/ボストン交響楽団 1989年 大阪フェスティバルホールライヴ

小澤 征爾★★★★
一楽章、激しく重量感のある第一主題。ゆったりとしたテンポで濃厚な表現で進みます。あっさりと爽やかに演奏される第二主題。緊張感の高まる部分と力を抜くところの対比があって、かなり気合の入った演奏です。展開部の第二主題は遠くから響いてくるような美しい演奏でした。引き締まったなかなか良い演奏です。86年のスタジオ録音の素っ気無い演奏とは全く違います。

二楽章、弦が一体になった分厚い響きで優雅な舞曲を演奏します。緊張感のある中間部の弦の刻み。優雅な部分と激しい部分の表情が一変します。

三楽章、強弱の変化をはっきりと付けた主題。大きな表現はありませんが、過不足無く表情を付けた演奏で、とても引き締まっています。トランペットがかなり強いです。

四楽章、柔らかい独唱。感情を込めて歌うオーボエ。

五楽章、鋭く伸びやかな金管の強奏を聞かせる第一主題。程よい距離感ですが、残響はあまり含まないバンダのホルン。僅かな強弱の変化で淡々と演奏される第二主題。ゆっくりと演奏される金管のコラールですが、若干のミスもありました。展開部ではかなり強く金管が演奏します。ボストンsoの金管のパワーに圧倒されます。バンダのトランペットもやはりあまり残響を含んでいません。すごく音量を落として静かに始まる合唱。ソプラノ独唱も伸びやかな歌声です。力強い金管とそれに対抗する合唱で、最後は大きなクライマックスを築きますが、感情が伴わないせいか、何故かあまり感動はありませんでした。

気合の入った引き締まった演奏でした。強力な金管のパワーを見せ付けるようなトゥッティ。大きな表現はありませんが、過不足無く表情を付けた演奏でしたが、最後は大きなクライマックスを築きますが、感情が伴わないせいか、何故かあまり感動はありませんでした。
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マーラー 交響曲第2番「復活」8

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

ハロルド・ファーバーマン/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ファーバーマン★★★★
一楽章、柔らかく重量感のある第一主題。ゆっくりと堂々とした歩みです。色彩感も濃厚です。静かに祈るような第二主題。大きな表現はありませんが、ゆっくりとしたテンポで、淡々と作品を正面から捉えた演奏をしています。速くなる部分もありますが、遅いところは凄く遅いです。展開部の第二主題はあまり大きな音色の変化はありませんでした。第二主題がフルートに現れる前は一転して速くなりました。コントラバスに乗ってイングリッシュホルンが現れる所はとても遅いです。大きな表現はありませんが、演奏は血が通っている感じで、生きています。限界近くまで激しく咆哮することもありません。美しい演奏です。再現部もゆっくりで、弦の動きもとても鮮明に分かる演奏です。

二楽章、奥ゆかしい主題。この楽章は遅くありません。ゆったりと伸びやかで安らいだ音楽です。二度目の中間部でもホルンは音を割ることはありません。最後の主部のピッコロは控え目です。

三楽章、軽く叩くティンパニ。滑らかで美しいクラリネット。中間部のトランペットは軽く演奏しています。最後の中間部の主題で盛り上がる部分も軽く、その後のティンパニも弱い程でした。

四楽章、あまり奥行きが無く単純な歌いだしの独唱。軽く爽やかな程の金管のコラール。テンポも速めです。独唱は本当にストレートで単純です。あまりにもあっけらかんとしています。

五楽章、グリグリと突き上げてくるような低音。かなりのエネルギーの第一主題。少なめの残響のバンダのホルン。第二主題も感情を込めて歌うことはありませんが、自然で美しい響きです。元気で明るいバンタ゜のホルン。フルートとイングリッシュホルンの不安げな動機はゆっくりでした。静かで控えめですが、バランスノ良い金管のコラール。展開部の最初は浅いですが、トロンボーンが加わると深みのある響きになりました。金管は咆哮することなく抑制の効いた演奏を続けています。この演奏全体に言えることですが、アンサンブルの精度はあまり高くありません。再現部でも咆哮はありません。あまり落ち着きの無いバンダのトランペット。合唱も独唱も静かです。最後はゆっくりと高らかに歌い上げますが、やはり絶叫にはなりません。美しく制御した演奏です。

ゆっくりとしたテンポを基調にした美しい演奏で、トゥッティでも決して絶叫はありませんでした。テンポは遅いですが、深く感情移入することは無くすっきりと整った演奏でしたが、四楽章の独唱があまりにも単純でストレートだったのが唯一残念でした。
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ロリン・マゼール/フィルハーモニア管弦楽団

マゼール★★★★
一楽章、コントラバスも強めですが、ソフトな響きの第一主題。マゼールらしい大きなテンポの動きもあります。ゆっくりとしたテンポで金管もかなり余裕の演奏です。とても静かな第二主題。オケを無理にドライブすることなく刺激の無い自然な演奏です、テンシュテットの演奏のような緩急も激しく、強烈に訴えて来るような演奏ではありません。

二楽章、若い頃のマゼールの演奏でよくあった、作為的な表現は無く、とても自然で余裕さえ感じさせる演奏です。くつろいでいる雰囲気がとても良い演奏です。

三楽章、整然としていて余裕タップリなオケ。過剰な表現も無く、何もひっかかるところが無い演奏で、いつの間にか時間が過ぎて行きます。作品に身をゆだねているような自然体はマゼールの晩年の境地なのか。

四楽章、柔らかい金管のコラール。独唱の表現も控え目です。

五楽章、これまでの演奏に比べるとかなり力のこもった第一主題ですが、それでも全開ではありません。適切な距離と残響を伴ったバンダのホルン。素朴なフルートによる第二主題。柔らかく美しいコラール。展開部でもホルンが全開にはなりません。打楽器のクレッシェンドの直後の金管の部分はとても遅く演奏しました。再現部冒頭はかなり力が入っていました。これは、オーケストラの持ち味なのかも知れませんが、色彩感に乏しく、モノトーンのような響きが続きます。合唱も含めてとても響きが淡白です。クライマックスは合唱も含めて全開になりますが、テンポも速くなります。

1989年のテンシュテットのライヴ録音とほぼ同じ演奏時間の演奏なので、改めて聞き比べてみましたが、強弱の振幅の大きさ、緩急の変化、色彩感の豊かさ、積極的な表現、さらにクライマックスでの堂々としたテンポ設定など、テンシュテットのライヴ盤の素晴しさを改めて感じ入る結果になりました。

オットー・クレンペラー(指揮) フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、演奏前の拍手から録音されている。なんとも弱弱しい弦のトレモロ。低弦の旋律も力強さとは遠い演奏。金管の強奏も実にあっさり、淡白です。
録音年代からしても、弱音部がとりわけ美しいわけも無く、それでいて淡白な演奏だと、何を聴いていいのか。
控えめなセンスのよさのような感じは受けるが・・・・・。
あまりにも、強弱の振幅の幅が狭いので、拍子抜けしてしまう。来るぞ来るぞと期待するところをことごとく外される感じが、予想外で面白い。
ドカーンと来ることは一度もないままに一楽章は終わりました。

二楽章、この楽章も特別な思い入れも感じられないまま淡々と進んで行きます。テンポの揺れも最小限にとどめて音楽を作って行きます。何を意図しているんだろう?

三楽章、BGMにしてもいいくらいに、刺激のない振幅の少ない演奏は一楽章から一貫しています。この、作品を大掴みにして自分の掌中で音楽を再構築するところが、クレンペラーたる所以なのでしょうか。
好き嫌いは別にして、この微動だにしない意志には感服せざるを得ません。

四楽章、遠いところから聞こえる独唱。余計な感傷に浸るような余地は全く与えてくれません。

五楽章、全体にoffマイクな感じの録音のせいか、ライブでありながら、熱っぽさが全く伝わってこないのは、不思議な感じがします。
それにしても、この作品がこんなに柔和な音楽だったのかと初めて気づかされました。
何もしていないかのような演奏を聴き進むにしたがって、音楽のもつ深みが感じられてとても不思議な感覚です。
これがクレンペラーの大きさなのか・・・・・。
終結部へ向けてテンポが次第に速くなる。しかし、そんなに高揚感はない。
録音も歪みが混在して聞き苦しい。
部分部分を抜き出して聞くと、傑出しているところは何もないような演奏なのですが、全曲聴きとおすと、何か一つの世界を聞かされた満足感がある。本当に不思議な演奏でした。

群雄割拠の巨匠の時代を生き抜いたクレンペラーには、やはりすごい芸術が内包されているのだろう。

ヨーエル・レヴィ アトランタ交響楽団

icon★★★☆
一楽章、速めのテンポで開始しました。第二主題もあっさりと演奏します。展開部もこれまでと同様にあっさりと進んで行きます。ffでも余裕を残して作品から距離を置いた演奏のようです。展開部の直前もあっさりと演奏しました。弱奏部分は総じて美しいです。タメなどもほとんどなく、レヴィの作品に対する共感などはあまり感じられません。

二楽章、この楽章も速めのテンポ設定です。余計な感情移入がなく整然と演奏されるのが、次第に心地よく感じられるようになって来ました。

三楽章、一転して表情豊かな楽章です。表情豊かと言っても自然な範囲内で、決して作品にのめり込んでドロドロになることはありません。とても爽やかな演奏です。色彩感も油絵のような濃厚なものではなく、水彩画のような淡い色彩感です。

四楽章、金管のコラールはとても美しい演奏でした。独唱は指揮者のレヴィの意図に合わせて、必要以上の感情移入は避けているようです。

五楽章、爆発も混濁することなく美しい冒頭。良い距離感のバンダ。第二主題もおどろおどろしくなく爽やかです。打楽器のクレッシェンドも余力を残しています。再現部冒頭でも余力を残しています。トランペットのバンダはちょっと遠くにいます。極端なppではない合唱の導入でした。合唱の音量が上がってくるあたりからテンポをさらに速めました。全力を出し切ったと言う事はなく、押し付けがましいこともなく、とても爽やかな演奏でした。マーラの「復活」を聞き流すような聴き方をする人には良い演奏だと思います。ただ、「復活」をBGMのように聞く人がどの程度いるかは疑問ですが・・・・・・。

金聖響 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、弦のトレモロにはアクセントなしでおもむろな開始でした。控え目な第一主題です。余分な力が抜けた力みのない演奏です。第二主題もあっさりとしています。オケの編成が小さいのか、それともオケの音量が不足しているのか、響きに厚みがありません。展開部の第二主題は少しテンポを落としてたっぷりと演奏しました。打楽器はガツンと来るのですが、他のパートが負けているような感じで、展開部に現れる第一主題の打楽器も強烈です。金の指揮は必要以上に感情移入せずにオケの美しい音色の範囲で作品を描こうとしているのか。厚みはありませんが、オケの音色は美しいです。そのままのテンポで終りました。

二楽章、中庸なテンポで始まりました。弦のアクセントなども強調せずに自然な流れです。テンポの動きもほんの僅かです。強調はしていませんが、なぜか色彩感は豊かです。

三楽章、ホールに響き渡るティンパニ。美しくしなやかな弦。やはり他のパートに比べて打楽器が強いです。金管が荒れ狂って汚い音を出すことは絶対にありません、きっちりとコントロールされていて暴走することはないです。ひっかかるところが無くとても流れが良い演奏です。大太鼓の径が小さいのか、トンと言っています。

四楽章、ビブラートの多い独唱です。バックで支えるオケの弱音も美しい。

五楽章、やっぱり大太鼓はトンと言っています。金管はアタックの音は聞こえますが、その後に続く音に息があまり入っていないような響きの薄さです。間接音を多く含んだバンダのホルンはなかなか良い雰囲気を醸し出します。第二主題を引き継ぐトロンボーン、トランペットは美しかった。ステージ上の木管とバンダのホルンの距離感がとても良いです。金管が強く入ってきてもとても静かです。金管のコラールも美しい演奏でした。展開部も打楽器以外は静かです。かなり大きめの音量から入る合唱には緊張感がありません。合唱から浮かび上がる独唱。合唱の絶叫にあわせるようにオケもフルパワーです。壮大なクライマックスに照準を合わせて、そこに至るまで、厚みには欠けますが透明感の非常に高い美しい音色でオケをコントロールした手腕は見事なものでした。オケの技量は発展途上なのだと思いますが、これからが期待できる演奏でした。

クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★★☆
一楽章、残響を含んで柔らかい第一主題。後ろで動く弦の刻みの表現が積極的です。あっさりとした第二主題。オケに一体感があって、ヘビがうねるような生き物のような音楽です。展開部はゆっくりとしていて、ホルンが美しい。アバドの演奏にしては、明確な表情が付けられている部分があり、かなり主張しています。展開部で現れる第一主題のティンパニはとてもリアルでした。コーダは特に陰鬱な感じはありませんでしたが、暗い雰囲気は表現されています。

二楽章、落ち着いた演奏ですが、表情が付けられています。ホルンは強く吹きますが咆哮すると言うほどではなく、抑制されています。美しい弦が明るく開放的に歌います。

三楽章、ソフトな打撃のティンパニ。歌ってはいますが、奥ゆかしい表現です。羊皮のティンパニ独特のバネのある響き。巨大な編成をあまり感じさせない、こじんまりとした響きです。

四楽章、柔らかく美しい金管のコラール。巻き舌を多用する独唱。

五楽章、エネルギー感はありますが、決して絶叫しない金管。弱く遠いバンダのホルン。分厚い響きはありません。デッドな金管のコラール。展開部の伸びやかなホルン。ウィーンpoにしては美しいシンバルです。行進曲調の部分は穏やかに進んで行きます。オケを限界近くまで吹かせることは無く、美しい響きが続いて行きます。トランペットのバンダも遠くですがファンファーレは美しい演奏でした。極端な弱音ではない合唱。独唱は残響が乗って艶やかです。合唱もそんなに編成は大きくないようです。二重唱の後は速めのテンポでぐいぐい進みます。クライマックス手前のティンパニが入るあたりでテンポを元に戻しましたが、クライマックスでトランペットの高音が突き抜けてきますが、あっさりとしています。

マーラーのスコアをそのまま手を加えずに音楽に変換したような、ストレートな演奏でした。響きが薄く、編成が小さいように感じられたのが、少し残念です。
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ミラン・ホルヴァート/スロベニア・フィルハーモニー管弦楽団

ホルヴァート★★★☆
一楽章、メタリックで低域まで録音されていないような響きです。速いテンポで激しい第一主題。金属的な響きのするオーボエ。速いテンポの第二主題。容赦ない打楽器の炸裂。ガツガツと前へ進みます。テンポを落として展開部の第二主題ですが、表現は淡泊です。金管は良く鳴らされていますがテンポが速く、なぜそんなに急ぐ?太いトライアングルの響きが曲に合っていません。第一主題に登場する銅鑼も容赦なく強打されています。再現部の第二主題は美しい歌でした。

二楽章、ザクザクと刻まれる弦。ヴァイオリンのメロディの下を支えるパートがヴァイオリンと対等以上に主張します。テンポを揺らしてたっぷりと歌っています。一楽章に比べると自由な表現が出て来て、明らかに乗って来ています。

三楽章、バチーンと響くティンパニの一撃。ヴァイオリンの主題とそれに続くクラリネットもすごく表情が豊かでした。流れの中を自由に泳ぐ魚のように生き生きとしています。中間部の低弦の刻みはやはり低い音が収録されていないようで、深みがありません。続く金管は咆哮することはなく、よく制御されています。かなり強く鳴る安物のトライアングルが気になります。弦の表現などは緩くはなく、とても締まった良い動きでとても統制されています。それに比べると遠慮なく叩きまくる打楽器には笑ってしまいます。

四楽章、音が短めで不安定な金管のコラール。最後はかなり前から少しずつテンポを落として濃厚に歌いましたが、最後の音は短かったです。

ご楽章、バスドラがドカンと鳴って、その後から銅鑼が響きます。金管はビリビリと下品に強烈に鳴ります。独特の残響感のあるバンダのホルン。この楽章も速いテンポでグイグイ進みます。ホルンのバンダの最高音の部分はトランペットに変えて演奏しました。展開部に入らず、打楽器のクレッシェンドになってしまいました。再現部でトランペットのバンダはステージ裏ではなくステージ上にいるような間接音がなく、直接的な響きです。元気の良いバンダのホルン。あまり広がりの無い、奥行き感も無く編成が小さいように感じる合唱。テンポは速めでグイグイ進んで行きます。クライマックスでテンポを落として、金管が鳴り響きます。なかなか感動的でした。合唱の最後も壮絶です。

メタリックな響きの録音や五楽章のカットなど、がっかりさせられる部分もありましたが、楽章が進むにつれてオケと合唱が一体になって感動的なクライマックスを築き上げるところはすばらしいと感じました。
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ギンタラス・リンキャヴィチウス/リトアニア国立交響楽団

icon★★★☆
悲劇的のライヴ録音はかなりの爆演だったのですが、果たしてこの復活はどうでしょう。

一楽章、かなりデッドで弦が近いです。強いアクセントで入ったトレモロが急激に弱まって第一主題になりました。第一主題もとても乾いた響きで、音像が大きいです。金管もブリブリと響きます。第二主題はあまり思い入れを感じさせないあっさりとした表現です。一音一音切るように演奏される展開部の第二主題。デッドな録音のために各パートの動きが手に取るように分かるのですが、その分音楽に浸ることはできません。あまりにも生音がストレートに届き過ぎます。

二楽章、最初の音を短く、その後は小節の頭の音を押すように強く演奏する、とても大きな表現です。テンポは速めでサクサクと進みます。中間部は速いテンポもあってかなり激しいです。金管があまり遠慮せずに入って来ます。この楽章の演奏としてはこんなに激しいのは初めてかも知れません。速いテンポでとても元気の良い演奏です。マーラーの「きわめてくつろいで」と言う指定とはかなり違う演奏のようです。

三楽章、最初のティンパニの二つの音は繋がって団子のようになっていました。音を止めるところも速すぎて十分に釜が鳴る前に音を止めてしまうところもありました。ヴァイオリンの主題もそれに続くクラリネットもとても豊かな表現でした。弦に独特の表現があります。刻みつけるような濃厚な表現もあります。ただ、マルチマイク録音でとてもマイク位置が近い感じで、響きがブレンドされることがありません。

四楽章、とても耳に近い位置で歌い始める独唱。金管のコラールはとても浅い響きで、テンポも速く深味がありません。独唱は明るい声で良い歌唱です。

五楽章、長く尾を引くドラ。金管が炸裂します。第一主題の後半でテンポを落とします。少し弱まって弦の細かな動きが出る前に間がありました。間接音をほとんど含まず貧弱でかなり音程も悪いバンダのホルン。第二主題は速めのテンポであっさりとしています。トロンボーンもトランペットもとても近いです。金管のコラールも響きが浅くブレンドされた響きにはなりません。展開部で炸裂するシンバル。トロンボーンも突然ブーンと響いて来ます。トランペットのハイトーンも音程が悪いです。打楽器のクレッシェンドはかなり時間をかけました。金管が入る部分にドラの響きが残っています。再現部冒頭のトロンボーンはかなり激しいです。ドラも強烈に打ち鳴らされます。やはり間接音を含まず貧弱なバンダのホルン。バンダのトランペットも貧弱で怪しいです。フルートやピッコロはかなり大きな音で鳴っています。合唱が入るまで長い間がありました。合唱はとてもゆっくりです。湧き上がるように次第に力を増していく合唱はなかなか良いです。独唱もオンマイクでくっきりと浮かび上がります。独唱のあたりではテンポは普通になっています。男声合唱は強唱部でも絶叫せず美しい響きです。二重唱はかなりの音量で激しく聞こえました。次第にテンポが速くなります。合唱の中から独唱が浮いて聞こえます。クライマックスの金管は凄く強烈です。パイプオルガンもはっきりと聞こえます。

独特の表現が随所に見られる演奏でした。合唱は美しく、最後の金管の強烈さはさすがリンキャヴィチウスと思わせるものでした。マルチマイクの録音で、クライマックスで合唱の中から独唱か゜浮き上がるのはちょっと不自然でした。また、音程の悪い金管も気になりました。

James Gaffigan/フランス国立管弦楽団

James Gaffigan★★★☆
一楽章、気合の入ったトレモロ。厳しい表情の第一主題。ここまでかなり細部まで表情があったのが、第二主題はとてもあっさりと演奏されます。浮遊感があって美しい展開部の第二主題。第一主題のリズムには特徴がありますが、色彩感や密度はあまり高くありません。演奏自体には大きな特徴は無く、極めて標準的な感じがします。

二楽章、柔らかい主題。この柔らかい弦が演奏の特徴です。その分、金管の激しさはあまり伝わって来ません。

三楽章、かなり強烈なティンパニ。滑らかに流れる主題。流れを優先する感じで角が立つような強いアクセントは表現されていません。中間部のトランペットは飛びぬけては来ません。バランスが良いと言えばそうなのですが、面白みには欠けます。この楽章では弦のガツガツとした演奏もあります。最後の盛り上がった部分のティンパニが間違っています。独唱者はこの楽章の途中で入って来たようです。

四楽章、積極的で大きな振幅の歌唱を聞かせる独唱。

五楽章、ドラがあまり聞えませんでした。金管が全開になっていないのか、録音のバランスがそうなのか、金管が突き抜けて来ません。豊かな間接音を含んだバンダのホルンはかなり音量が大きいです。バンダとステージ上のズレもありました。展開部はかなり熱気のある演奏になって来ました。行進曲調になる部分はかなりテンポが速くなりました。展開部あたりからはかなりの熱気で、全体が一体になった凄い演奏になって来ました。合唱の出だしが揃いませんでした。あまり音量を抑えていない合唱。合唱も含めて壮大なクライマックスです。

前半の特徴の無い演奏は何だったのかと思わせるような、五楽章展開部からの熱演。オケ、合唱が一体になった壮大なクライマックスは見事でした。
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マーラー 交響曲第2番「復活」9

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

クラウディオ・アバド ルツェルン祝祭管弦楽団

マーラー復活 アバド★★★
基本的に、何もしない人が自ら集めたスーパー・オケとの共演!

一楽章、冒頭おもむろな開始。特別な思い入れや、「これから何かが起こるゾ」と言う期待感も涌かない、自然体の開始です。名手揃いのスーパー・オケだが、緊張感や集中力などは感じられない。むしろ、めったに共演できない人たちが集まって音楽をする喜びの方が大きいのか、楽しそうだ。
さすがに、名手揃いなので、ffでもとても美しい音が響く。それにしても、淡々と時間が過ぎていく。あれよあれよと言う間に一楽章は終わってしまった。この演奏だったら二楽章の間の休憩は全く必要ない。

二楽章、とても、テンポが速いスタート。この楽章も聞かせどころもなく過ぎていくのか?とても美しい音楽がBGMのように流れていく。

三楽章、なんともソフトなティンパニからはじまる。ここまで、聞いてきて音楽の振幅の巾の狭さがとても不満になってくる。最後には解消されるのだろうか?とても小じんまりとまとまっていて、スケールが小さい。ベルリンで毒を抜かれて腑抜けになったか?シカゴとの旧盤のほうが、エネルギーの爆発もあったし、力強かった。三楽章も、何の感慨もなく終わってしまった・・・・・。

四楽章、ここでも美しい音が流れて行く。イタリア人指揮者でありながら、これほど歌わない人もめずらしいのでは。

五楽章、バンダはすごく遠い。ffでもオケは余裕たっぷり、テンポもわりと早い設定で進む。間の取り方は独特のものがある。とても明るい雰囲気の復活、マーラーを聞いているのではなく、スーパー・オケの模範演奏を聴いているようだ。過不足無く、突出もなく本当にBGMとして聞けるんじゃないか?
最後も見事な輝かしい音色で締めくくられるが・・・・・・・。

この演奏は、マーラーの「復活」ではなく、アバドの全快祝いを世界中の友人たちを集めて祝った「復活」で、スーパー・オケの上手さを聞くには良いでしょう。
マーラーの書いた楽譜を何もせずに音にしたら、「こんなんになりました!」と言うような演奏です。
巨匠の時代は終わったんだなぁとつくずく感じさせられる演奏でした。
オケは上手いので、悪いCDだとは言いません。最初に聞くんだったら、バーンスタインやテンシュテットはお勧めできないので、「復活って、こんな曲なんだ」ということを知ってもらうには良いでしょう。

ピエール・ブーレーズ ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
ブーレーズと言えばニューヨークpoの音楽監督に就任した当時、バルトークやストラヴィンスキー、バレーズなどの演奏で前任のバーンスタイン時代に荒れ果てたアンサンブルを見事に立て直して整然とした録音を数多く残した、分析型の指揮者のはしりだったブーレーズ。近年の円熟ぶりがどのような演奏を生み出すか?

一楽章、冒頭どっしりと構えた出だし、ムジークフェラインの豊かな残響もあり、ふくよかな開始。オケがウィーンpoということもあるのか、シャープな演奏ではない。また、昔のブーレーズのイメージともかなり違う演奏だ。昔は切れ味鋭く、難解な曲もバッサバッサと切り捨てたブーレーズも円熟して丸くなったのか、なんとなく、ズングリムックリな感じがしてしまう。
クラッシュシンバルは例の一部が欠けているのを使っているようだが、なぜあのシンバルを使い続けているのか私には理解できない。曲が盛り上がったところであれがゴツンと言う音で鳴ると、盛り上がった心に冷や水をぶっ掛けられるような感じで、どうもなじめない。
弦は柔らかく美しい。テンポも揺れるし、弦は歌うし心地よい。

二楽章、この楽章はウィーンpoとの相性もよく、ふくよかで美しい。ウィーンpo独特のふくよかさは、最近の近代的でシャープな音のオケで聞いているマーラーに慣れていると、ものすごく古めかしいものに聞こえてくる。もともとウィーンにはゆかりが深いマーラーなのだから、この音で聞いているのが、本来のマーラーの姿なのかもしれないが・・・・・・。

三楽章、非常に堅いマレットで演奏されるティンパニだがムジークフェラインの豊かな響きを伴って心地よい。つづく木管もしっとりと美しい。金管も含んだテュッティの何とも、モッタリした鈍重な響きが、これまでの私の持っているマーラー像を崩しにかかる。

四楽章、控えめながら、気持ちがこもって美しい独唱、それに続くコラールも非常に美しい。ブーレーズの昔のイメージは完全に払拭される。すごく歌いこまれていて、作品への共感が伺える楽章です。

五楽章、金管の咆哮にもウィーンpoならではのふくよかさがある。弱音部は非常に美しい。バンダは最初は割りと近めに配置されているが後半ではかなり遠くなる。金管のコラールはあっさり通り過ぎるが、そのあとのクレッシェンドからはグッとテンポを落としてねばる。ffの後に休符があると、ホールに広がってゆく残響が他のCDでは聴けない美しさで魅了される。
ブーレーズの抑制なのか、ウィーンpoに絶叫させずに音楽を運ぶあたりは、やはり昔と変わらず冷静にスコアを読んでいるのか。ウィーンpoらしいぬくもりのある音色の範囲で音楽を作っていくブーレーズはさすがと言いたい。普通なら五楽章にもなれば、多少力んでも絶叫したくなるのが普通だと思うが、この冷静さには別の感激がある。合唱と合唱の合間に入る弦合奏も大河の流れのようにとうとうと歌う感じではなく、むしろ室内楽的なまとまりと抑制がある。独唱の扱いも他の指揮者とは違う。非常にあっさりとストレートだ。
合唱が入って以降は、さらにあっさり。暴走などは間違ってもあり得ない。そして、テンポも速くなる。
抑制の効いたまま最後まで行ってしまった。好みは分かれる演奏でしょう。

ウィーンpoと復活を融合させるために、しっかりとした設計のもとにウィーンpoの最も美しい音が出せる範囲内でコントロールして音楽を貫徹させるブーレーズの自信と信念が生み出した、演奏です。
感動したか?と言われると、もろ手を挙げてとは言えないが、十分唸らせられた演奏であることは間違いない。これまで聴いてきたなかで、一番予想外だったのも、この演奏でした。

ワレリー・ゲルギエフ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ゲルギエフ★★★
一楽章、柔らかいトレモロとコントラバスが弱い第一主題でかなりあっさりしていて、YouTubeで聞いたライヴの演奏とはかなり違う印象です。あっさりとした第二主題。爽やかで繊細な展開部の第二主題。YouTubeの音源よりオケが遠くなって角が取れた感じであまりにも聞きやすくなり過ぎている感じの録音で、かなり不満です。金管もとてもお行儀良く枠から飛び出すようなことは全くありません。濃厚で凄みのあった表現も全く感じない演奏になってしまっています。

二楽章、この演奏は本当にライヴ当日の演奏なのだろうか?ライヴ前のゲネプロを主にした音源なのでは無いかと言う気がしてきました。この感情の入っていない演奏には本番の緊張感や高揚感が伝わって来ません。あまりにも無難な演奏で、YouTubeの生き物のような動きのある演奏とはまるで違うのです。

三楽章、ヴァイオリンの主題とそれに続くクラリネットには少し表現がありました。トランペットもファンファーレのように突き抜けて来ることは無く、とにかく無難です。私には、白熱したライヴ感のあるYouTubeの演奏の方が断然良かったと思います。

四楽章、整然として美しい金管のコラール。

五楽章、弦と金管のバランスも良く、整っています。程よく残響を伴ったバンダのホルン。淡々とした第二主題。金管のコラールはトロンボーンに表現意欲がありました。展開部に入っても金管の咆哮はありません。持てる力をフルに使って表現しようと言うモチベーションが感じられません。とにかく安全運転です。遠くから響くバンダのトランペット。二重唱はかなり伸びやかな絶叫でした。二重唱の後かなりテンポを速めました。パワー全開の頂点も感じることなく終わってしまいました。

YouTubeの動画がとても良かったので、期待して聞いたCDでしたが、完全に期待を裏切られました。整った演奏ではありましたが、強く訴えてくる表現も無く肩透かしの連続でした。

山田一雄 京都市交響楽団

★★★
1980年頃の日本のオーケストラはかなり下手だった記憶が強い。
N響ですら、欧米のオケに比べるとかなり見劣りしていたと思う。特に管楽器に関しては体格の問題も奏法の問題もあり、でした。
これが京都市交響楽団となると、オケの技量に関してはほとんど期待はできないと思うのですが、果たして演奏はどんなものでしょうか?

一楽章、長い弦のトレモロのあと低弦が入ってくる。なかなかの力演ですが、付点の甘さがちょっと気になります。
オケは予想していたより、遥かに上手いです。集中力も高く、緊張感も十分に伝わってきます。
ティンパニの付点もやはり甘いです。日本人の特徴ですね。
かなり劇的な音楽の運びで、なかなかの演奏です。ただ、時折旋律を見失ってしまうことがあります。
ffの時に金管が突き抜けてくるようなパワーはさすがにありません。この辺は、指揮者の山田が要求しても無理な部分なのでしょう。
かなり劇的な音楽を作っていっているのですが、金管のパワー不足による振幅の狭さはとても残念なところです。

二楽章、山田自身が積極的に音楽をしようとしているところが、とても好感がもてます。歌もあり起伏もあり、オケが全てを受け止めることができれば、すばらしい名演奏になっていたかもしれません。
テンポの動きや「ハッ」と思わせるような間があったり、さすが老獪です。

三楽章、思いっきりのティンパニからスタート。すごく表情豊かな楽章です。細部にわたる表情や楽器の受け渡しなど、なかなか訓練されています。
小さなミスはありますが、アンサンブルは良いので、崩壊しそうになったりはしません。
これも、この当時の金管の弱みだったと思うのですが、タンギングの直後の音は出ているのですが、その後の息が弱いような感じがあって、トゥッティのエネルギー感を削いでいるように思います。
トロンボーンのミスはちょっとかっこ悪いです(^ ^;
表情豊かな音楽はとても魅力的です。

四楽章、独唱がだんだん遠くなったり近くなったりするのは、なんで?歌う方向を変えるとかしたのかなぁ。いろんな演奏を聴いてきたので、やはり日本人の発音では、ちょっと違うような気がします。
もう少し幻想的、天国的な雰囲気が欲しいところでした。ちょっと現実的でした。

五楽章、冒頭は大爆発です。爆発が自然に収束して、バンダへと引き継がれます。もう少し遠くでも良いような・・・・・。収束を引き継いでそのままの音量かさらに収束へ向かうくらいの音量を期待しました。
ステージ上の木管よりもホルンのバンダの存在感が大きいのはちょっと不自然すぎます。
やはりトゥッティになると金管群が打楽器群に負けてしまいます。肉食って育った人たちじゃないからなぁ。
トランペットのバンダは小さすぎで太鼓に消されています。細部のバランスまでは時間をかけられなかったのだろうか。
かなりの好演なのだが、ちょっと残念なところです。
何かの間違いではないか?と思うほどホルンのバンダだけが異常に大きい。
合唱の技量や発音などいろいろ言い出せばきりが無いのですが、十分感動的な終結部を作り上げ、見事なコンサートだったと思います。

1980年当時に純日本の演奏家たちで、これだけの演奏をしたことは、すばらしく十分に評価されて良いと思います。ただ、当時の日本の場合は西洋音楽に対しては発展途上国であって、この演奏も歴史の中の通過点の記念碑だと思います。
山田が表現したかった音楽やスケール感などは、本人のイメージよりも二周りぐらい小さくなってしまっているのではないかと思いますが、当時としては本当にベストを尽くした演奏だったのだろうと思います。
良い意味で期待を裏切ってくれました。
これからさらにすばらしく世界に誇れる演奏が多く生まれることを期待します。

アントン・ナヌート リュブリャナ放送交響楽団

icon★★★
一楽章、特に力んだ感じも無く爆演と言われている割には平凡な出だしだ。録音状態は良さそうで、ティンパニのヘッドの質感も伝わってきます。ただ、響きが薄い。これはオーケストラの力量の問題でしょうか。
ライブ録音らしく、細かなミスも散見されるが、オケの集中力は高そうで、好感が持てる演奏です。
高音域の繊細な音に対して、低音が薄い感じで、ちょっとバランスが悪いのが気になります。
金管は遠くに定位していて、控えめなので、爆演という評判とは結びつかない感じを受けます。予想に反して、かなり整然としたスタイリッシュな一楽章。毒々しさもなく自然体の演奏。
ライブで、これだけ整然とした演奏ができるオケの技量もなかなかのものだと思います。

二楽章、ゆっくりな出だしに歌があって、ひきつけられる。弦の刻みなどには若干の乱れはあるものの、それより増して表情が豊か、一楽章よりも熱を帯びてきた、いかにもライブらしい演奏です。

三楽章、竹ヒゴ(ルーテ)が若干後ろ乗り気味なのが気になりますが、弦も木管も美しいです。打楽器は盛大に鳴らしまくります。それに比べると金管がおとなしいです。

四楽章、金管のコラールもチューバがいないんじゃないかと思うほど低音が薄いです。
独唱はホールの響きも伴って豊かな歌声。最後の音をもう少し伸ばして欲しかった。

五楽章、冒頭、ドラよりもバスドラのドカンがすごい。バンダのホルンは洞窟の中ででも演奏しているかのような独特の音響効果です。
それにしても、低音域のゴリゴリしたパッセージがほとんど聞こえてこないのは、ちょっと残念です。
バンダのホルンの最高音の部分はトランペットに吹かせています。
ここぞというところでの打楽器は本当に遠慮なく気持ち良いくらいぶっ叩いてきます。
バーンスタインと同じように、終結部でぐっとテンポを落としました。爆演と言うほどでもないような感じでしたが・・・・・。

多分、オケの音量が一流オケに比べると小さいので、ティンパニのクレッシェンドなどがすごく効果的になるので、爆演と評価されるのかも知れませんね。

シモーネ・ヤング/ ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ソフトなトレモロ。低弦の第一主題も荒れ狂うようなことはなく、穏やかでテンポは速めであっさりと流れて行きます。第二主題の手前で少しテンポを落としましたが、第二主題もそのままの流れでひっかかるところはありません。テンポはわずかに動きますが、自然な流れの範囲です。展開部の第二主題はたっぷりと美しい演奏でした。弱音部分の木管やホルンはとても美しい。打楽器はかなり強打されますが、金管は抑制気味で突き抜けては来ません。再現部の前もテンポは落とさずにそのまま進みました。再現部もかなりテンポが速くどんどん前へ進みます。第二主題はたっぷりと濃厚な表現でした。これと言った特徴のない第一楽章でした。

二楽章、この楽章も速めのテンポで滑らかで美しい弦の主題。中間部の弦の三連符の刻みにははっきりとした表情が付けられています。

三楽章、抑えぎみのティンパニ。控え目で滑らかな主題。クラリネットがフレーズの最初をゆっくりと演奏して入りました(2回ありました)。中間部の低弦の刻みも控え目です。盛り上がるところもかなり余裕を残しています。最後の盛り上がるところはオケが一体になってかなり強く演奏しました。

四楽章、この楽章も速いテンポで入りました。金管のコラールはすごく音量を落として遠くから響きました。テンポが動いて感情が込められています。独唱も美しい音量の範囲で歌っているようです。

五楽章、オケが炸裂!怒涛の冒頭でした。テンポはやはり速いです。遠い距離で響くバンダのホルン。第二主題も速めであまり表情は付けられていません。美しい金管のコラール。展開部でも打楽器は強打されてすごい存在感ですが、オケは響きが薄くあまり印象に残りません。打楽器のクレッシェンドも普通にテンポを落としてねばることはなく過ぎました。続く金管が強奏する部分も音の洪水のような圧倒的な感覚はなく、散発的に登場するパートの響きだけで、少し寂しい感じです。再現部に入って、トランペットのバンダはかなり遠くにいます。舞台上のフルートとはすごく距離が離れて対比されるバンダ。静かに歌い始める合唱には感情が込められていて、自然に少しずつ音量が上がって行きます。合唱は透明感があって美しいです。独唱も合唱に溶け込んで美しい。クライマックスも速いテンポであっさりしています。

透明感の高い美しい合唱は出色でしたが、演奏全体は速いテンポで淡白な演奏でした。たまにテンポを動かす部分もありましたが、シモーネ・ヤングの個性はあまり感じませんでした。また、オケの響きにもマスの一体感が無く、寂しい感じが残りました。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★
一楽章、モコモコとこもったようなコントラバスの第一主題。速めのテンポであっさりと演奏される第二主題。展開部まで速いテンポでした。展開部で演奏される第二主題も特に美しいことはありません。ホルンに小さなミスがあります。打楽器もあまり強打することは無く、この曲の演奏としては大人しい方です。マーラーがまだ世間に認知されていない時代のスタジオ録音と言うことで、クーベリックも大事に行こうとし過ぎているような感じで、とても無難な演奏になっています。

二楽章、主部の弦の主題には艶やかさが無く、暖かみはありますが、潤いはありません。大きな表現は無く、淡々と進んで行きます。クーベリックにはマーラーの作品を世に知らしめようと言う意図があったのか、自己主張よりも作品のありのままを聞かせようとしているようにも感じます。

三楽章、硬めのティンパニ。ヴァイオリンの主題はやはり艶やかさがありません。金管が爆発したりするような起伏の大きな演奏では無く、滑らかになだらかに流れて行きます。マットな響きで色彩感はあまりありません。現代のマーラー演奏に比べるとかなり地味です。

四楽章、少し遠くに定位する独唱。金管のコラールも遠いです。独唱には感情が込められています。中間部の独奏ヴァイオリンはやはりマットで艶がありません。アゴーギクを効かせる独唱。

五楽章、切れ味鋭い金管の第一主題。バンダのホルンはあまり遠く感じません。音量も大きいです。第二主題の木管のコラールもマットです。バンダのホルンの最高音にはトランペットの補強がありました。金管のコラールもあっさりしています。展開部に入っても金管が絶叫することは無く、余裕を残しています。打楽器のクレッシェンドもあまり時間をかけずに過ぎて行きました。続く部分のテンポも速いです。空間に窓が開いて顔を出すようなトランペットのバンダ。バンダのファンファーレは壮麗な響きでした。合唱も音量を抑えたものでは無く、緊張感はあまり感じません。二重唱の後も速いテンポになります。クライマックスも絶叫することは無く、制御されています。

刺激を避けてマイルドな表現の演奏で、強弱の振幅も大きくは無く、感情をぶつけてくるような演奏でもありませんでした。録音された当時としては、作品そのものを伝える意図があったのか、極めて標準的な演奏となっていました。

マーラー 交響曲第2番「復活」10

たいこ叩きのマーラー 交響曲第2番「復活」名盤試聴記

ヴラディーミル・フェドセーエフ モスクワ放送チャイコフスキー交響楽団

icon★★☆
ロシアの指揮者と言えば、ムラヴィンスキーの高貴さは別格として、そのほかには鬼才、奇才の宝庫のような国だ!
スヴェトラーノフの「復活」も是非聞いてみたいと思っています。重戦車のようなばく進力と繊細さを併せ持つ巨匠の演奏はどんなものなのか、CDが再販されたら、真っ先に買おうと思います。
そして、もう一人忘れてはいけないのは、ロジェストヴェンスキー!!!!!最近の活躍をあまり耳にしないようになっているのが寂しいですが、彼のコテコテのマーラーを是非録音して欲しい。
今回のフェドセーエフですが、私の印象としては、スヴェトラーノフほど重くはなく、ロジェヴェンほどコテコテでもなく、比較的洗練された指揮者だと思っているのですが、果たして、この「復活」はどんな演奏でしょう。

一楽章、非常に軽い出だしでテンポも、今まで聞いたことがない速さだ、今までとは別の曲を聴いているような違和感。低弦の刻みの跳ね方がとても不思議な感じがします。
弦は美しいが、とにかく速い。最初の主題が終わってから、一般的なテンポになった。陰鬱感はとてもよく出ている。チャイコフスキーを聴いているような・・・・・。
アンサンブルは悪い!これまで聴いてきた中でも一二を争う悪さだ。弱音部は割りと良いのだがffになるとシグナルグランプリでも始まったかのようで、バラバラになったりする。ホルンはロシアのオケ独特の締りのある音で、弱音部分では、ポコポコ言っている。
金管がいろんなところで、ペッと言うような意識して乱暴なタンギングをするのだが、なぜだろう。ていねにいテヌートするところもあるのだが・・・・・。
何で、こんなにテンポが速い?何もそこまで・・・・と言いたくなるくらい速いし、速いところが乱暴に感じる。どうでも良いというような扱いをしているような。
金管は適度に距離感があるので、金管がかぶってくることもないし、爆演にはなりえない。

二楽章、この楽章も割りと早めです。こんなにあっさり行ってしまって良いのか?と思ったら予想外のところでテンポが落ちた。ティンパニはたびたび遅れるよ。
何か楽しい演奏で、マーラーの持っている世界観や宗教観のようなものとは無縁の演奏です。淡々と演奏が進む。

三楽章、この楽章は遅めです。でも、一つ一つの音を紡いで行くような綿密さはなくて、かといって散漫な演奏でもない。
シンバル、トライアングルがものすごく遠くにいるので、色彩感も乏しく感じます。でも、どうして聴いていて楽しいんだろう。これまで、聴いてきた、ヨーロッパやアメリカのオケやその文化の中で育った指揮者や演奏家ではない人たちにとっては、常識にとらわれることなく、自分たちが感じたままを音にして行くんですね。

四楽章、とても良かった。聞き惚れました。

五楽章、冒頭はティンパニしか聞こえません(^ ^;金管も聞こえてはくるのですが、バランスは異常です。バンダのホルンがミュートをしているような音に聞こえる箇所もあります。
フェドセーエフ恐るべし、こんな演奏もあるのか!この楽章、ある意味白眉です。共産主義には神は存在しないので、「復活」などありえないことなのだ!
バンダのTpも今まで聴いたことがない音だ、フリューゲルホルンでも使ったのか?
突然、聴いたことのないパートが活躍したり、面白い。
ロシア万歳!と歌っているかのようだ、テンポも動いてなかなか聴かせる。
オケよりも合唱が力強い。最後はやっぱりティンパニだけが聞こえました(^ ^;
いやぁ「復活」ってこんなに面白かったんですね。

ロシアは民主化したとはいえ、やはり共産党が支配しているし、あまり宗教色の強い演奏をすると、当局の検閲が入って、地位を脅かされるのだろうか。
映画音楽のような「復活」でした!

オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1971年ライヴ

クレンペラー★★☆
復活の最も遅い演奏として有名な録音です。

一楽章、全く力みの無い弦のトレモロ。特に表情の無い第一主題。第二主題も感情が込められると言う事は無く、淡々と進みます。確かにテンポは遅いのですが、バーンスタインやテンシュテットのようなアゴーギクなどが無いので、音楽と共に体が引き伸ばされたりする感覚も無く、一つ一つの旋律をじっくりと聞く感じが無いので、演奏時間ほどの遅さは感じません。展開部の第二主題も取り立てて美しいと言うような表現では無く、ひたすら淡々と進んでいる感じです。フルートとヴァイオリン・ソロに第二主題が表れる前からかなりテンポが遅くなりました。再現部の第一主題もサラッとしています。コーダの前はとても広大でした。マーラーの複雑なスコアをとてもシンプルにして見せてもらっているような感じがします。コーダはとても遅い演奏でした。

二楽章、ゆったりと落ち着いた安堵感のある演奏です。中間部はとても遅いです。巨大な川が非常にゆっくりと流れて行くようなスケールの大きさを感じさせます。演奏には全く力みが無く自然体のおおらかな演奏です。さらにテンポを落として終わりました。

三楽章、この演奏を象徴するような穏やかでゆっくりなティンパニ。硬くゴツゴツとした音のルーテ。音楽の起伏はあまり大きく無く、どこまでも広がる草原のようです。ただ、テンポが遅い分、音楽の密度も薄まっているようにも感じます。

四楽章、かなり遠くから響く独唱。トリオのヴァイオリンのソロは音が短めでとても淡泊でした。クレンペラーの指揮に比べると感情表現のある独唱。

五楽章、盛大に鳴る銅鑼。打楽器の音の洪水から僅かに顔をのぞかせる金管。タメが無くダラダラっと音楽が流れて行きます。ホルンの動機が出るまでの間はすごくゆっくりとしたテンポです。ホルンの動機以降はよろけるようにテンポが揺れます。第二主題の「復活の動機」も非常にゆっくりとしていますが、あまり緊張感はありません。バンダのホルンとステージ上の木管のテンポの取り方が違うのか、ズレがあります。展開部の前でも、これでもかと言うくらいにテンポが遅くなります。打楽器のクレッシェンドの後も凄く遅いです。練習をしているような雰囲気さえあります。これだけテンポが遅いのに、アンサンブルの乱れも度々あります。再現部冒頭もものすごく遅いですが、音楽はとてもシンプルに聞こえます。作品をこねくり回すことをせずに、そのまま音にするとこんなにシンプルなんだとクレンペラーが言っているように感じます。デッドで近いバンダ。ステージ上の楽器とあまり変わらないので、遠近感などはありません。弱音に力が込められることの無い合唱。シンバルが完全に落ちてしまっています。合唱の音量に比べてオケの音の密度が薄いので、圧倒的なクライマックスとはなりませんでした。

もの凄く遅いテンポの演奏でしたが、深い感情移入などは無く、淡々とした演奏で、巨大な物を聴いたと言う感じはありませんでした。テンポが遅い分、音楽の密度も薄い感じがあって、重量感などもありませんでした。アゴーギクなどの動きが無いので、間延びした感じもあって、ちょっと残念でした。
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渡辺暁雄/日本フィルハーモニー交響楽団

icon★★☆
一楽章、弱めの弦のトレモロの後にホールの響きを伴って力強い低弦の第一主題。響きを伴って分離の悪い低音域と、響きが乗らずに痩せたヴァイオリンなどの高音域。付点が甘いのは山田の演奏と同じでこの頃の日本のオケの特徴でしょう。速めのテンポでグイグイとオケを引っ張ります。 テンポも動いて渡邉の作品への思いが伝わってくる演奏です。テヌートせずに独特の表情付けのあった第二主題。ホルンが弱いので音楽のつながりを欠く場面もあります。ただ、当時の日本のオケの技量からすればいたしかたないとは思います。激しいテンポの動きもあり劇的な演奏です。終結部のテンポの絶妙な動きなども作品への共感が伺い知れます。

二楽章、速めのテンポで開始されました。音楽の動きに合わせてテンポの動きやタメがあって音楽に引き込まれます。アンサンブルの問題は散見されます。

三楽章、表現は抑制ぎみの演奏です。この楽章では端正な表現が聞かれます。ブラスセクションがパワー不足で突き抜けてくることがありません。

四楽章、遠くから語りかけてくる独唱は表情豊かです。テンポも遅めにとってたっぷりとした表現で天国へいざなってくれました。

五楽章、全開ですが、空気を突き破って来るようなパワーはありません。かなり強めに演奏されるホルンのバンダ。ミスは若干ありますが、集中度は極めて高いです。音楽が一点へ向かって進んでいるような一体感があります。バンダのティンパニは思いっきり良くすばらしかった。わりと大きめの音量で始まる合唱は女声の方がバランス的に勝っています。合唱から完全に浮き上がる独唱。合唱が入ってからは遅めのテンポを取ってゆったりと感情込めた演奏になっています。最後はパワー全開でトランペットも突き抜けて来ました。日本の演奏史を知る上で貴重な音源だと思います。

モーリス・アブラヴァネル/ユタ交響楽団

icon★★☆
一楽章、第一主題の頭の音に強いアタックがあってデクレッシェンドします。速いテンポで弾むように進みます。引っかかるところもなくすんなりと進んで行きます。第二主題もあっさりとしています。展開部の第二主題は美しいですが、ここでもあっさりとした演奏です。金管が咆哮することも無く、あっさりと爽やかな演奏です。明るく開放的な響きによるものなのか、とても軽い雰囲気で深刻さなどは微塵もありません。再現部も速いテンポでどんどん進みます。表現に粘り気は無く、あっさりとしています。コーダの葬送行進曲も軽く明るい雰囲気で重い響きはありません。

二楽章、この楽章も爽やかにあっさりとした演奏です。テンポの動きやタメなどもあまりありません。二回目の主部はチェロの対旋律がかなり強調されています。

三楽章、マットなティンパニはあまり強打しません。表現はあるのですが、遠回しに言うようなとても奥ゆかしい表現です。オケが爆発することも無く、かなり情報が整理されているようで、余計な音はあまり聞こえてきません。響きも浅いような感じがします。

四楽章、控えめでこもったような金管のコラール。独唱も残響が少ないのか、生の声のようで深みがありません。

五楽章、伸ばす音をデクレッシェンドするトロンボーン。やはりここでもオケは全開ではありません。残響を伴ったバンダのホルンはなかなか雰囲気が良いです。やはり軽い演奏です。第二主題もテンポが速く素っ気無い感じです。音は短めに演奏されることが良くあり、合いの手で入る楽器が弱く、マーラーのオーケストレーションを再現しているとは思えません。打楽器のクレッシェンドの後もテンポの速い演奏であまり落ち着きの無い感じでした。再現部のバンダはどちらも響きを伴って良い距離感です。合唱も暗く重い雰囲気は無く軽く明るい歌唱です。幕の内側で歌っているような合唱が突き抜けてきません。最後まで全開になることは無く、軽く明るく演奏されました。

マーラーの演奏に何を求めるかによって評価が分かれる演奏だと思います。とても軽く明るい演奏で、マーラーのドロドロしたものは表現されませんでした。
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ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ★★☆
一楽章、軽く密度の薄い感じの第一主題。金管も軽く鳴ります。第二主題もとてもあっさりとした表現で粘りません。展開部の第二主題はやはりあっさりとしていますが、朝もやの中から響いて来るような神秘的で美しいものでした。テンポを遅める部分もありますが、基本的には速めのテンポで、あまりタメたりアゴーギクを効かせたりすることは無く淡々と進みます。金管も咆哮するようなことは無くかなり余裕を持って整然としたアンサンブルです。

二楽章、舞曲風で優雅です。テンポは速めですが、録音にもよるのか、ゴリゴリとした感じは無くフワッとした柔らかい肌触りです。テンポが揺れることも無く感情移入するような感じは全く無く作品そのものを聞かせています。

三楽章、この楽章も速めのテンポですが、シルキーで美しい弦と滑らかな木管。弦には少し大きく強弱の変化が付けられています。中間部のトランペットも軽いです。最後に中間部の主題が現れて盛り上がる部分で大きく歪みます。

四楽章、けがれの無い神聖な響きの金管。この演奏で初めてたっぷりと歌ったオーボエ。

五楽章、かなりのエネルギーを放出しているような第一主題ですが、音があまり前に出て来ません。適度な距離感はありますが、残響が少ないバンダのホルン。それに続く部分から第二主題にかけてはテンポが速いです。力強い金管のコラール。展開部冒頭はホルンもトランペットもとても軽く演奏します。余分な音は削ぎ落とされているような感じで、マーラーの複雑なオーケストレーションを聞くことはできません。このように分かりやすく聞かせるところはオーマンディの特徴なのかも知れませんが・・・・・。歪みが激しくなって来ました。かなり静かに入る合唱ですが、ここも淡々としています。二重唱で一旦テンポを落としてそのまま壮大なクライマックスかと思いきや、また少しテンポを上げてのクライマックスです。クライマックスはずっと歪んでいます。

感情移入はせず、無駄な音は削ぎ落として、かなり単純化して聞かせた演奏のように感じました。オケもほとんどの部分で余裕を残した演奏でした。トゥッティで歪むところも残念でした。
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