ベルリオーズ 「幻想交響曲」5

たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記

ズービン・メータ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

メータ★★
メータのニューヨーク時代はロス・フィルの時代に比べるとあまり良い評価は聞かれません。
個人的には、ニューヨークでのメータも好きなのですが、颯爽としていたロス時代に比べると贅肉がついて俊敏さには欠けるきらいはあります。それが、若い頃のメータの評価から変化した点であり、過渡期だったのかもしれません。幻想交響曲もロサンゼルスpoとの録音の評価は高いですが、このCDについては、ほとんど触れられることすらありません。
果たして、どんな演奏なんでしょう?

一楽章、ガーディナーのCDの後に聞いたせいか、瑞々しい弦の響きに、普通の世界へ戻ってきた安堵感があります。ポコポコ言うホルンはこの時代のニューヨークpoの特徴ですね。割と平板に流れてしまう感じで、起伏に乏しい演奏です。また、演奏に緊張感が感じられなくなったのも、この時代のメータの傾向です。
特に悪い演奏だとは思わないのですが、覇気がないと言うか、作品に対する共感が乏しいと言うか、メータの個性が感じられないのが残念です。

二楽章、これもコルネットが入っています。

三楽章、ニューヨーク・フィルは余裕で演奏している感じで、彼らにとっては簡単に出来てしまうことしか要求しないから、演奏に緊張感も生まれないのではないかと思います。
何かを必死に表現しようとするところが無いので、BGMのように音楽が流れて行きます。
テンポもあまり動かないので、引き込まれるようなこともない。オケは上手いのに、もったいない演奏になってしまっています。個々の楽器の音の密度も心なしか薄いような感じさえ受けます。

四楽章、木の撥の指定通り、硬質な音でティンパニのソロが始まりました。テンポは速めですが、音が立って来ない。

五楽章、ゆっくりとした出だし、微妙なテンポの動きがあって、やっとメータらしくなってきたか。ブラス・セクションは舞台奥に定位して強奏でも飛びぬけてはこない。
安っぽい鐘の音です。ベルリオーズの指定はもっと低い音を要求していると思うのですが・・・・。
どうもマスの響きの一体感が無くて、音が集まってこない感じがしてなりません。

オケも上手いし、取り立てて文句があるわけでもないのですが、心に残る部分もあまり無かったのが残念な幻想交響曲の演奏でした。
メータには相性の良い曲だと思うのですが・・・・・・

セルジウ・チェリビダッケ指揮 トリノRAI交響楽団

icon★★
一楽章、静寂の中に僅かに聞き取れるくらいの弱音。ゆったりと遅いテンポで歌います。晩年の超スローな演奏ではありませんが、オケをしっかりとコントロールして抑制の効いた演奏です。クライマックスでも絶叫することは無く、懐の深い演奏です。最後はかなりゆっくりなテンポになって終わりました。

二楽章、厳しい表情の冒頭。優雅にテンポが動く舞踏会。かなり積極的な表現の演奏です。終盤の舞踏会はかなりテンポが速くなりました。

三楽章、オーボエはステージ裏にいるようですが、そんなに遠近感は感じません。続く弦は大切な物を扱うような丁寧な演奏です。かなりゆったりとしたテンポでおおらかな雰囲気の演奏です。コントラバスの響きがあまり捉えられていないので、響きの厚みはあまり感じません。遅いテンポのままほとんどテンポの動きが無いので、ちょっと間延びした感じになります。モノラルなので雷鳴の広がりなどはかんじられません。

四楽章、ゆっくりとしたテンポです。控えめな金管。ティンパニのクレッシェンドも控えめです。トランペットは勝ち誇るように吹き鳴らされます。処刑台に向かう重い足取りです。

五楽章、速いテンポ切れの良い金管。ブレスがはっきりわかるトロンボーンとホルンの怒りの日。最後は急加速して終わりました。

晩年の、一音一音に魂を込めるような演奏ではなく、最後はやっつけ仕事のような、投げやりな幻想交響曲の演奏だったように感じました。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

チョン・ミュンフン指揮 パリ・バスティーユ管弦楽団

icon★★
一楽章、パレットの中で色が混じったような冒頭のフルートとオーボエ。間を取ったりしながらゆっくりと歌います。コントラバスが団子状になっていま すが、美しい響きです。とても繊細なガラス細工のような前半でした。音階の上昇と下降はとても速いテンポでした。テンポの振幅は大きく遅くなるところはか なり遅くなります。クライマックスのエネルギー感はあまりありません。ベタベタとしたティンパニ。

二楽章、あまり強い表現の無い冒頭。舞踏会の華やかさはあまり感じないマットな響きです。コルネットが入る版を使用していますが、個人的にはこのコルネットはあまり必要無いように感じます。

三楽章、表現力のあるコーラングレ。セミグロスのような少し艶を消したような響きで、あまり色彩感がありません。テンポの動き はあって、テンポの動きに伴った濃厚な表現があります。この楽章でも強弱の振幅はあま大きく無く強奏部分のエネルギー感は乏しいです。空を覆う雷鳴を上手 く表現しているティンパニ。

四楽章、速めのテンポで力強く進みます。ベタベタしたティンパニの強烈なクレッシェンド。ティンパニに比べるとおとなしい金 管。テヌートとスタッカートを織り交ぜた独特のトランペットの表現。今まで聞いたことのない表現で、違和感があります。打楽器がオケにかぶってしまうほど の音量バランスです。

五楽章、マスクされたような響きで解放されません。暖かい響きの鐘。常に奥歯に物が挟まったような感じで、すっきりとした響きにはなりません。小細工もありますが、どうもすっきりしません。

独特の表現もあるのですが、あまりにも今までの演奏との違いを出そうとし過ぎて違和感のある表現になってしまっています。響きもマットで色彩感に乏しく。打楽器のバランスが強く、オケが開放的に鳴りません。かなり欲求不満になる幻想交響曲の演奏でした。

マルツィン=ナウェンチ・ニェショウォフスキ指揮/ポドラシェ歌劇場フィルハーモニー管弦楽団

ニェショウォフスキ
一楽章、思い入れが無いかのような速いテンポであっさりとした演奏です。暖かく温度感のある響きが特徴ですが、アンサンブルは少し雑なところもあります。テンポの変化もほとんど無く、ちょっと緩い感じの演奏です。アマオケの練習を聞いているような、間延びした締まりの無い演奏で、ちょっと退屈です。

二楽章、表現の幅が狭く、強弱の表現も緩いため演奏に締まりがありません。音楽が生きているようには感じられない演奏です。

三楽章、、柔らかく太い響きのコーラングレ。オーボエはステージ外にいるようですが、遠近感は感じません。この指揮者は本当にテンポが動きません。テンポが動かないと言うことではある意味厳格なのかもしれませんが・・・・。ティンパニは空間に広がる雷鳴をを上手く表現しました。

四楽章、大きくはっきりと演奏するホルン。ティパニは大きくクレッシェンドしました。テンポは落ち着いていて、前進する力は感じません。オケにも爆発するような大きなエネルギーは感じません。

五楽章、浅い響きの低弦。金管はパワーが無いのか、抑えているのが、とにかく抜けてきません。鐘はチューブラ・ベルです。チューバの怒りの日に続くトロンホーンとホルンはテヌートぎみの演奏でした。続く木管の弾むリズムが生き生きと対比されて良い表現でした。厳格にインテンポです。

あまりにも、テンポが動かない、緊張感も無い演奏で、退屈でした。
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ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク

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私は、個人的には古楽器による演奏の必然性をあまり理解できません。
それはこれまで演奏をじっくり聴いたことがないからかもしれません。
このガーディナーの演奏で考えは変わるでしょうか。

第一楽章、ちょっと変わった間の取り方で始まった、古楽器を使っているせいか、ダイナミックの幅が狭いようです。音も少し詰まった感じで、伸びやかさが感じられません。表情も淡白な感じがしますが、今まで聞きなれた「幻想」の表現とは違います。
ホルンの音程も不安定です。編成は小さく感じます。旧パリ音楽院で録音されたそうですが、響きもデッドで音楽を楽しめる演奏ではありません。
幻想交響曲を最良のコンディションで聴いているとは思えません。この当時の楽器で再現することによって、当時のベルリオーズがいかに斬新な挑戦をしたのかは垣間見ることができますが、私としては学術的な資料としての演奏ではなく、ベストコンディションの演奏を聴きたいと思うのですが、どうなんでしょう。

二楽章、コルネットが入っています。ベルリオーズと言えば、大規模な編成をイメージしますが、この演奏はかなり小さい編成に聞こえます。
表現とかに意識が行かないのです。演奏を楽しめない。当時は、こんなに潤いのない演奏を聴いて楽しめたのでしょうか。
テンポも速く音楽を聴いている感覚がないのです。

三楽章、とにかく楽しめない!モダン楽器とは違う音がして、新しい発見もあるのですが、だからどうなの?と言いたい。
最新のハイエンド・オーディオで音楽を再現できる時代にSPレコードを聞かせて「どうだ、このナローレンジが何とも言えない良さなんだよ!」といわれているような・・・・・。「昔は、こんな音がしてたんだ!」と言われてもねえ・・・・・・。
ベルリオーズなどは、当時最先端の楽器を取り入れた作品を書いていますが、それは必ずしもその当時の楽器の音に満足していたわけではないと思うのです。ベルリオーズの頭の中で鳴り響いている音は、当時の楽器の音ではなく、彼が理想とする音なのだ。
全曲を通して言えることなのですが、音の終わりが短いのも気になるところです。

四楽章、とにかく響きが薄い。弦楽器などは胴が鳴り切っていないような不満を感じます。安っぽいシンバルの音。もう二度とこのCDを聞くことはないでしょう。

五楽章、これがコンサートだったら、この楽章が始まる前に退席しているかも。
鐘の音は良い響きです。しかし、オフィクレイドの深みのない音は・・・・・。トュッティでの音の厚みのなさも、これだけ大規模な編成の曲の場合は致命的なような気がします。

もう、聞きたくない。苦痛だった・・・・・・

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 パリ管弦楽団

カラヤン
一楽章、すごく歪みっぽい録音。カラヤンの幻想らしく遅いテンポでたっぷりとした演奏です。カラヤンのアップばかりが映る画像。カラヤン得意の映像作品で、ライヴ映像ではないので、即興的にテンポが動いたりすることは一切ありません。ホルンもすごく歪んでいるので、美しいのかどうなのか分かりません。激しくなる部分はオケも十分に反応しているようです。音階が上下する部分は音のエッジが立っていなくて、流れているような感じでした。ベルリンpoとの74年のスタジオ録音とほとんど同じ演奏のような感じですが、歪がひどい分だけこちらの演奏は聞くのが辛いです。

二楽章、ハープの音が際立っています。淡々と演奏が続く舞踏会。

三楽章、あまり遠近感の無いコーラングレとオーボエ。弦の強奏部分ではかなり速いテンポです。追い込むようなテンポの動き。ベルリンpoとのスタジオ録音のような非常に弱い弱音は無く、あまり緊張感は感じません。日が暮れて次第に薄暗くなって行く様子はうまく表現しています。ティンパニは空に拡がらず、雷の音には感じません。

四楽章、パリoがかなり積極的な演奏を繰り広げます。ガツガツと力強い弦。鋭く吹き鳴らされるトランペット。

五楽章、かなり大きめの音で始まりました。トゥッティでは風呂の中で聞いているような轟音になります。高い音の鐘と低い音の鐘を一緒に鳴らしています。最後は僅かにテンポを煽ったような感じで終わりました。

とにかく歪がひどくて、何をやっているのかほとんど分かりませんでした。トゥッティでは混濁しているし、弱音ではビビリ音がひどくて、表現がどうのこうのと言うレベルのものではありませんでした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

投稿者: koji shimizu

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