シベリウス 交響曲第5番
たいこ叩きのシベリウス 交響曲第5番名盤試聴記
コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団
★★★★★
一楽章、大自然の中、遠くから響いてくるようなホルン。木管も締まっていて美しいです。静寂感があって、とても上品なたたずまいです。トランペットも奥まったところから残響を伴って響いてきます。トゥッティでも奥から鋭く響いてきますが、響きに拡がりが無くスケールの大きな響きにはなりません。大きな表現はせず、作品を自然に演奏していますが、その自然さが作品の深みを表現しているような演奏です。
二楽章、静かに演奏されますが、主題がとても良く分かります。とても愛らしい歌です。最後にテンポを落とした歌はとても美しいものでした。
三楽章、控え目で決して出しゃばらないホルンの鐘の響き。自然ですが、表情のあるオーボエやフルート。ヴェールをまとっているような美しい弦。バランスの良いクライマックス。
何の誇張も無く自然体の演奏でしたが、作品の味をしみじみと感じさせてくれる演奏でした。美しい響きもとても魅力的でした。
パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団
★★★★★
一楽章、大自然を感じさせる非常に伸びやかなホルン。続く木管も生き物のように生き生きとしています。室内オケとは思えない巨大な拡がりのトゥッティ。内面から自然に湧き上がるような豊かな音楽。音が一音一音立っていてとても明快です。
二楽章、常に音楽が揺れて歌います。動きは活発ですが、とても繊細で細部まで神経が行き届いている感じです。
三楽章、とても積極的な表現で疾走感がある第一主題。テヌートぎみのホルンが壮大な鐘のモチーフを演奏をします。トランペットで演奏される鐘のモチーフもとても美しいです。決して力みませんが美しく壮大なクライマックス。
力みは全くありませんが、内面から湧き上がるような豊かな音楽。細部まで神経の行き届いた美しく整った演奏。穏やかですが、祝典的な雰囲気をとても良く表現した演奏でした。
コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団
★★★★★
一楽章、澄んで伸びやかなホルン。艶やかで締まりのある木管が静寂感の中にくっきりと浮かびます。第一主題もとても明瞭です。肌触りはあっさりしていますが、色彩感はとても濃厚です。とても静かで消え入るような展開部冒頭。スケルツォ主題とても可愛らしく演奏されます。終結部の最後はかなり激しい演奏でした。
二楽章、一転して穏やかで、素朴な歌です。必要以上の主観的な表現はしませんが、作品の美しさを余すところ無く表現しています。
三楽章、第一主題の細かい動きもとても明快に聞こえます。一体感のある動きで静寂感もあります。ホルンの鐘の響きのようなモチーフが盛り上がって広大な空間を表現します。とても表情豊かな第二主題。とても弱く演奏される弦のトレモロ。弱音が小さく、それでいてとても明瞭なので、ffとの対比が効果的です。感動的なクライマックスの充実した響きが見事でした。
肌触りはあっさりしていますが、濃厚な色彩で彩られた美しい演奏。明確でくっきりと浮かび上がる楽器。消え入るような集中力のある弱音から最後の感動的なクライマックスまで、とても充実した素晴らしい演奏でした。
レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、遠い山から響いて来るようなホルン。引き締まって美しく濃厚な色彩の木管。とてもゆっくりとしたテンポです。少し暗雲が立ち込める第二主題。重く粘っこい表現で、冷たさは全く感じません。
二楽章、静寂感があって繊細な弱音。最後は物凄く遅いテンポで濃厚に歌います。
三楽章、遅いテンポなので、第一主題に疾走感はありません。ホルンの鐘のモチーフは巨大で壮麗で圧倒されます。従来のシベリウスの音楽の枠を完全に超えています。感動的なコーダでした。
この作品をこれほど濃厚で感動的に演奏したのは他に記憶がありません。これまでのシベリウスの常識を完全に超えて(逸脱して)いますが、これは素晴らしい演奏でした。
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サイモン・ラトル指揮 バーミンガム市交響楽団
★★★★★
一楽章、爽やかな自然をイメージさせるホルン。第一主題は豊かな表情で歌います。第二主題は少しテンポを速めますが、弦も含めてとても積極的な表現です。金管は心地良く鳴り響きます。
二楽章、大きな表現ではありませんが、細部まで神経細やかな表現がされています。
三楽章、大きい物が駆け抜けるような感じの第一主題。ホルンの鐘のモチーフはフワフワとした音色で速めのテンポで演奏された後に力強い演奏になります。間を空けたりテンポを落としてたっぷりと歌う部分もあります。感動的に盛り上がって終わりました。
細部まで表現の行き届いた演奏で、テンポの動きもありました。シベリウスにしては表現が大きい感じはありましたが、なかなか聞かせる演奏でした。
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オスモ・ヴァンスカ指揮 ラハティ交響楽団
★★★★☆
一楽章、細身ですが、遠くから迫って来るホルン。木管の第一主題は清涼感があります。金管はしっかりと鳴らします。墨絵と言うほどではありませんが、かなり淡い色彩です。ティンパニの強打には驚かされました。
二楽章、この楽章は木管がかなり濃厚な色彩を発します。
三楽章、かなり疾走する第一主題。ホルンの鐘のモチーフは控えめでアタックも強く無く始まりましたが、次第に強くなります。弱音で間を取ったりする表現もなかなか良いです。最後は絶叫することなく、余裕たっぷりでした。
強弱の振幅がはっきりとした演奏でしたが絶叫するような咆哮はありません。さりげない表現もなかなか良かったです。
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エサ=ペッカ・サロネン指揮 スウェーデン放送交響楽団
★★★★☆
一楽章、とても雄大なホルン。涼しげな第一主題。トランペットと共に入るティンパニの意表を突く強打にびっくりさせられます。トゥッティはとても雄大でスケールが大きいです。冷たくはありませんが涼しげです。ここ一発のエネルギーはなかなかです。
二楽章、トゥッティの雄大さとは対照的な木管の小さなソロ。
三楽章、激しい疾走感ではありませんが、前へ進む力のある第一主題。ここでもティンパニが意表を突く強打です。ホルンの鐘のモチーフはゆっくりめで控え目で始まり、その後さらに遅くなります。フィンランドの指揮者の演奏としてはかなり強いコーダでした。.
雄大で、振幅の大きな演奏で、涼しげな空気に支配されていました。意表を突くティンパニの強打には何度も驚かされました。
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レイフ・セーゲルスタム指揮 ヘルシンキ・フィルハーモニック管弦楽団
★★★★
一楽章、伸びやかで豊かな表情で感動的な冒頭のホルン。表現を意図的に抑えているような第一主題。弦のトレモロに埋もれるような第二主題。渋い響きで高揚しても濃厚な色彩にはなりません。スケルツォの荒々しさは程ほどでした。
二楽章、内面へ凝縮して行くような主題。動き回る旋律ですが、決して外へと発散することは無く、内側へと凝縮して行きます。華美にならず、純粋な作品愛が感じられる演奏です。とても安堵感があります。
三楽章、弦のトレモロにも力があって、力強い第一主題。少しテヌートぎみのホルンのモチーフは次第に力を増してきてマルカートになります。ホルンに提示されたモチーフがトランペットに表れても色彩感が乏しいので、鮮明な輝かしさはありません。
とても素朴な雰囲気の演奏でしたが、色彩感が乏しく祝典的な輝きはあまり感じませんでした。
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団
★★★★
一楽章、大きく歌うホルン。木管の主題もとても豊かに歌います。第二主題も感情がこもった表現です。とても感情表現が大きく振幅の激しい演奏です。録音の古さからか、若干メタリックでザラザラとした弦。
二楽章、表情豊かで深みのある第一主題。感情が込められている分暖かい演奏になっています。表現やテンポの動きなど作品への共感を感じさせます。
三楽章、あまり疾走感の無い第一主題。強弱の変化はとても大きいです。感情のこもった大きな表現はなかなか良いです。ある意味絶叫と言っても良い程のかなり激しく盛り上がるコーダ。
かなり感情の込められた演奏で、表現やテンポの動きの大きなものでした。作品への共感をとても感じさせる演奏でしたが、美しさはありませんでした。
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ロリン・マゼール指揮 ピッツバーグ交響楽団
★★★★
一楽章、マゼールらしいこねくり回すようなホルン。ゆっくりとしたテンポで濃厚な第一主題。ピッツバーグsoはシルキーな響きでは無く、密度が薄く、表面がザラザラとした感じの響きです。
二楽章、かつての強引な表現は影を潜め自然な表現とゆったりとしたテンポで心地良く音楽が流れて行きます。最後はかなりゆっくりになりました。
三楽章、強弱の変化の大きい第一主題。ホルンの鐘のモチーフは最初は弱く演奏されますが、二度目にはテンポも落として強く演奏されます。強弱の変化はかなり意識して強く付けているようです。最後は大きな盛り上がりでしたが、テンポも速めてしまったので、感動的な感じはありませんでした。
ゆっくりとしたテンポを基調にして豊かな表現の演奏でした。テンポも遅くすることもあり、濃厚な表現もありました、ただ、最後にアッチェレランドしてしまうので、感動的にはならなかったのが残念でした。
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