ブラームス 交響曲第3番
たいこ叩きのブラームス 交響曲第3番名盤試聴記
カール・ベーム/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、堂々としたブラスの響きと安定感のある演奏。木管の美しいソロ。どっしりと構えたテンポがすごい安定感を生み出しています。強烈なホルンの咆哮!熱いものを感じさせてくれます。
二楽章、潤いのあるクラリネットのソロです。美しい歌が続きます。すばらしい安定感です。どっぷりと音楽に浸ることができます。泉からこんこんと絶えることなく溢れ出るように音楽が次々に湧いてきます。
三楽章、奇をてらうようなことは一切ありません。正面から音楽を捉えている演奏です。
四楽章、充実した美しい響きと堂々としたテンポで自信に溢れたすばらしい演奏でした。
オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン
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一楽章、柔らかい金管のモットーに続いて切り込み鋭いヴァイオリンの第一主題。控え目で美しいクラリネットの第二主題。所々で浮かび上がる木管の第二主題がとても美しい。
二楽章、伝統を受け継いだ古き良きドイツの響きがとても美しい。潤いのある瑞々しい響きとスイトナーの端正な表現がマッチして素晴らしい演奏です。
三楽章、控え目ながら十分な表現で、品良く保たれた演奏で格調高い仕上がりです。
四楽章、激しい部分でも暴走することはなく、抑制の効いた演奏です。渋い表現で統一された見事な演奏でした。
セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー交響楽団
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一楽章、ホールの響きを伴ってシルキーでとても美しいヴァイオリンの第一主題。ゆったりとしたテンポで控え目なクラリネットの第二主題。木管の絡みが子供が戯れるようでとても楽しげです。ホルンの響きに奥行き感が感じられないのが残念です。コーダでも見事に揃った弦が美しい音色を響かせます。
二楽章、安らいだ雰囲気のクラリネット。中間部は少し暗転するが、絶妙なアンサンブルと静寂感です。
三楽章、控え目なチェロの旋律が哀愁を誘います。ここまで全体に静かな演奏になっています。抑制された禁欲的な演奏とでも言えば良いのでしょうか。感情をストレートにぶつけるようなことはせずに、精神世界の音楽をしているような感じがします。
四楽章、一転して動きのある第一主題。激しくなる部分もテンポが若干遅いことも手伝ってどっしりと落ち着いた演奏になっています。動きのある部分ではオケの敏感な反応がすばらしい。
落ち着いた静かな演奏がすばらしかったです。
ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年ザルツブルクライヴ
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一楽章、豊かに鳴り響く金管。ティンパニに隠れるような第一主題は活発な動きです。テンポは速めです。弱音は消え入るように弱く演奏しています。第二主題も弱いですが、実に優雅で滑らかです。分厚い響きですが、スピード感もあります。
二楽章、のどかな田舎の情景を思い出させるような冒頭のクラリネット。柔らかく厚みのある弦が素晴らしい。大きく歌うことはありませんが、どっしりと構えた安定感は抜群です。
三楽章、内に秘めた感情が滲み出るようなチェロの主要主題。主要主題が木管に移ると表情は豊かになります。
四楽章、速めのテンポでサラッと演奏される第一主題。第二主題も大きい表現はありません。展開部の第一主題はビート感の強いものでした。金管で演奏されるコラール風の動機はかなり激しい表現でした。コーダの儚さもとても良かったです。
やはりカラヤンのライヴはスタジオ録音とは別物ですね。消え入るような弱音から激しいトゥッティまで幅広い演奏や滲み出るような表現もなかなかでした。
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スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/読売日本交響楽団
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一楽章、鋭角的で鋭く美しい第一主題。くっきりと浮かび上がる木管。クラリネットの第二主題はヨーロッパのオケのような滑らかさはありません。主題の途中で一旦音量を落としました。あまり激しく強奏する部分はありませんが瑞々しい表現が美しいです。テンポを落としながら次第に弱くなって終わる部分もなかなか良い表現でした。
二楽章、やはりここでも滑らかさは少し乏しいクラリネット。清涼感のある美しい弦。コントラバスもしっかりと存在を主張していて深みのある響きです。
三楽章、すごく感情のこもった弦の旋律。清涼感のある美しい響きはとても心地良いものですが、果たしてブラームスがこの響きで良いのかは疑問もあります。
四楽章、木管で演奏される第一主題が消え入るようでとても美しいです。トロンボーンの同音反復の後はとても激しい表現です。一気にここまで貯めてきたエネルギーを放出するような激しさです。第二主題はあまり歌いませんが響きが鮮烈なためとても心に突き刺さって来ます。生き生きとした活発な動きを見せています。展開部ではトロンボーンがビーンと激しく鳴ります。とにかく振幅の大きな演奏です。静かに美しく第一楽章第一主題を演奏して終わりました。
消え入るような美しい弱音から、一気にエネルギーを放出するトゥッティまで、表現の幅のとても広い演奏でした。滑らかさに乏しいクラリネットや鮮烈な響きがブラームスに合っているのかどうかはあっても、この入魂の演奏の素晴らしさを損なうものではありません。
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レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、ゆったりとしたテンポで柔らかい音色でテンポも動き積極的な表現です。第二主題もゆっくりとしたテンポで一音一音確かめるような演奏です。ブレンドされて一体感のある響きがブラームスにぴったりです。テンポの動きやかなり大胆なタメがあって強い感情移入を感じさせる演奏です。最後は大きく膨らんだ後、ゆっくり第一主題を演奏して終わりました。
二楽章、この楽章もゆっくりとしたテンポの演奏です。内に秘めたような中間部のクラリネットとファゴットの旋律。
三楽章、深く感情を込めて歌われるチェロの旋律。テンポの動きもあり、次々と受け継がれる楽器も豊かに歌います。中間部は楽しそうにあっさりと進みます。主部が戻ってホルンの旋律もとても感情が込められています。
四楽章、第一主題もとても豊かな表現です。生き生きとした第二主題。トゥッティはあまり激しい響きでは無く、とてもバランスの良い響きでまろやかです。コーダはゆったりと濃厚な表現でした。
強い感情移入で深い表現の演奏でした。それでもトゥッティで感情移入が過ぎて爆発することは無く、バランスの良いマイルドな響きを維持しました。濃厚な表現の中にもマイルドなバランスを保った良い演奏でした。
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クルト・ザンデルリング/シュターツカペレ・ドレスデン
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一楽章、ゆっくりめのテンポで、柔らかく伸びやかで微妙な抑揚が心地良い第一主題。とても品の良いクラリネットの第二主題。透明感が高く、すがすがしく美しい響きです。伸びやかで窮屈さが全くありません。提示部の反復の前はテンポをかなり落として強く印象付けるような濃い表現でした。
二楽章、この楽章もゆっくりめのテンポでとても素朴なクラリネットの主要主題。爽やかで美しい響きがとても魅力的です。ザンデルリングの指揮も押し付けがましい表現は無く、自然体で奥ゆかしい表現で、音楽にどっぷりと浸ることができます。
三楽章、深く思いの込められた主要主題。とても哀愁を感じさせる演奏ですが、それが作為的な表現で演出されるのではなく、自然体の伸びやかな表現から生まれてくるのがとても良いです。ホルンの主要主題の再現は何とも言えない陰影をともなった非常に美しい演奏でした。
四楽章、自然体の第一主題ですが、とても奥行感のある伸びやかな演奏です。トゥッティでも透明感があってとても美しいです。ゆったりと堂々と構えたトゥッティ。儚いコーダも自然に表現されました。
自然体で伸びやかな表現と奥行き感のある美しい響きでした。誇張された表現は一切ありませんが、素朴な雰囲気や哀愁や儚さを見事に表現しました。特に三楽章の哀愁の表現は絶品でした。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、少しアンサンブルが乱れる第一主題。テンポを動かして濃く描きます。押すところと引くところがある第二主題はとても奥ゆかしい表現でした。とても優雅で舞うような演奏です。コーダに入ってかなり強奏しますが、それでもどこかおおらかでガツガツしません。
二楽章、ゆっくりとしたテンポですが、引っかかるところの無い流れるような主要主題です。とても遅いテンポで演奏されますが、強い表現ではないので、とても心地よく流れて行きます。
三楽章、非常にゆっくりと感情を込めて歌う主要主題。小節の頭を強く演奏することも無く、自然な歌でゆったりと流れます。ホルンに主要主題の再現があった後の弦の主要主題が揺れ動くようにとても優雅でした。
四楽章、アクセントを強く演奏する第一主題。第二主題もしっかりとした表現があります。強奏部分でも常に余裕を残していて、がむしゃらな演奏にならないので、ゆとりのある演奏で力みなどは全く感じさせません。
とても優雅な演奏で引っかかるところの無い流れの良い演奏でした。自然な歌や、揺れ動くような表現もとても美しく見事でした。強奏部分でも余裕を残した力みを感じさせないことも優雅な印象を強く感じさせてのだと思います。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団
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一楽章、モットーから一気に開放される、鋭いヴァイオリンの響きの第一主題。サラッとして控えめな第二主題。細部まで行き届いた演奏で、とても繊細です。トゥッティと弱音の振幅はそれほど大きくはありません。
二楽章、穏やかですが、強弱の変化を付けて歌うクラリネットの主要主題。中間部のコラール風の旋律は陰影を感じさせるものです。
三楽章、速いテンポでサクサクと進みますがとても良く歌う主要主題。速いテンポですが、たっぷりとした歌で充実感があります。
四楽章、強弱の振幅はあまり大きくありませんが、緻密に組み上げられた精度の高い音楽です。コーダの黄昏の雰囲気もとても良いです。第一楽章の第一主題の回想も夢見るような儚さでした。
強弱の振幅はあまり大きくありませんでしたが、細部まで行き届いた緻密な演奏でした。歌もたっぷりとあり充実した表現の良い演奏だったと思います。
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ダニエル・ハーディング/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、音を切るモットー。第一主題も個性的です。ティンパニのクレッシェンドがあったり、主題の中での強弱の変化もありました。ヴェールに包まれているようなクラリネットの第二主題から鮮度の高いオーボエと工夫を凝らした表現が続きます。展開部ではかなりテンポを速めて快活な表現でした。再現部に入っても第一主題の表現は独特です。
二楽章、生き生きとした動きのある主要主題。夢見るような淡い表現で、生音をビンビンと響かせるような演奏はしません。
三楽章、この主要主題も独特の表現で、アゴーギクを効かせていると言えば良いのか、テンポの動きがあると言えば良いのか分からないような独特の表現です。中間部は淡い表現です。ホルンの主要主題の再現はとても美しいです。
四楽章、速いテンポで躍動感のある第一主題。第二主題も速いテンポで軽く演奏されますが、展開部の前はかなり激しくなります。再現部へ向けての盛り上がりは室内オケとは思えない見事なものでした。コーダのコラール風の動機は雨上がりの空のようなすがすがしさでした。最後の第一楽章の第一主題の回想は和音の中にかすかに聞こえる程度で、聞こうとしないと聞き取れないほどのかすかなものでした。
ハーディングの意欲溢れる演奏で、これまでのブラームス像とは一線を画すような感じがしました。とても個性的な表現で、こんな演奏もあるのかと関心させられました。
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コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団
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一楽章、とても感情が込められて深い表現の第一主題。提示部反復のモットーが盛大に鳴ります。かなり熱い演奏です。表現も豊かでオケの反応もとても良いです。
二楽章、ゆっくりとしたテンポでたっぷりと感情を込めて歌う主要主題。中間部もとても良く歌います。湧き立つような美しい響きです。
三楽章、深みがあって豊かな歌を聞かせる主要主題。潤いのある響きがとても美しいです。中間部では小節の頭で少し押すような表現でした。主部がもどった部分のホルンはとても柔らかく美しい演奏でした。
四楽章、うごめくような第一主題。トロンボーンの大きなクレッシェンド。第二主題が終わって展開部に至るまでの間はがっちりとした低域に支えられた厚みのある響きでした。再現部の激しさもかなりのものです。ブラームスなので金管が咆哮するようなことはありませんが、ブラームスの演奏にしてはかなり激しい部類です。音楽に隙が無くぎっしりと詰まった濃厚な音楽です。コーダのコラールでも盛り上がりがありました。
熱く激しく濃厚な演奏でした。深みのある表現や積極的な歌、隙がなく緻密な音楽も見事でした。こんなに熱いブラームスは初めてですが、こんな熱い演奏もなかなか良いものです。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
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一楽章、内声部を含んで豊かに盛り上がるモットから第一主題に突入します。冒頭からかなり感情がむき出しのような感じがします。第二主題は優雅になりますが、クラリネットは極上の美しさとは行きません。かなり激しい感情の起伏を表現しています。大きく盛り上がって力の入る部分と、スーッと力が抜ける部分の対比が面白い。
二楽章、ゆっくり目のテンポで優しい主要主題。2度をゆらゆらと反復する木管が明るく美しいです。
三楽章、テンポは速めですが、とても深く感情を込めて歌う主要主題。ホルンで再現される主要主題も明るく美しいです。
四楽章、不穏な雰囲気の第一主題。かなりのスピード感があります。アクセントの反応もとても敏感です。咆哮する金管。とても激しい表現です。コーダの第一楽章第一主題はほとんど聞こえませんでした。
感情のこもったとても激しい演奏でした。響きも明るく、この激しい演奏にはとても合っていてこの演奏も良かったです。こうやっていろんな演奏を聞くとブラームスの音楽の受容度の広さを思い知らされます。
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