マーラー 交響曲第3番
マーラーの交響曲第3番は、彼の作品の中でも最もスケールが大きく、壮大な交響曲の一つです。この作品は、彼の自然への深い敬意や、人間と宇宙の関係を表現する壮大な音楽的な物語です。以下にいくつかの特徴を紹介します。
1. 楽章構成と長さ
- この交響曲は6つの楽章から成り立ち、全体で約90分以上もかかる、非常に長大な作品です。
- 第1楽章は30分以上も続く壮大な行進曲で、軍隊の行進のようなリズムや自然の雄大さが表現されています。
- 残りの楽章は短く、森や動物、天使、そして母なる大地に関連するテーマが続きます。
2. 自然と宇宙への賛歌
- マーラーはこの交響曲を通して、自然とその背後にある哲学的な問いを探求しています。彼は「自然が私に語りかける」と言い、自然界のあらゆる要素が音楽として表現されています。
- 第2楽章と第3楽章は、草花や動物のような自然の生命を象徴し、第4楽章では人間の内なる声(アルト独唱)が神秘的に表現されます。
3. 使用する楽器と合唱
- マーラーは大規模なオーケストラ編成を用い、特に金管楽器と打楽器を多用してドラマティックな響きを生み出しています。
- また、アルト独唱や児童合唱、女性合唱も登場し、交響曲に声の要素を加えることで壮大なスケールをさらに強調しています。
4. 哲学的なテーマ
- マーラーは交響曲第3番について「自然が私に語ること」「天使が語ること」「愛が語ること」などのテーマを付けており、宗教的でありつつも、人間の存在と宇宙の関係について深く問いかけています。
- 終楽章でのテーマ「愛が私に語りかける」は、全体のクライマックスであり、壮大でありながらも温かさや安らぎを感じさせる部分です。
5. 第3番の意味
この交響曲はマーラーの個人的な哲学を反映した作品として位置づけられ、自然、宇宙、愛、人間というテーマを音楽で表現した彼の思索が詰まっています。その壮大なスケールと深いメッセージ性から、聴衆に強烈な印象を残す名曲として知られています。
たいこ叩きのマーラー 交響曲第3番名盤試聴記
クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★★
一楽章、金属音のような響きを伴うホルンの咆哮。通常「ズン、ズン」と響く大太鼓がウィーンpo独特の中心から離れた場所を叩くため「ドー、ドー」と響きます。ミュートしたトランペットも激しく入って来ます。第二主題のホルンも激しい。トロンボーンはグリッサンドを強調します。とても面白い曲として聴かせてくれます。オーボエの第三主題は美しい。太い響きのトロンボーンソロ。ウィーンpoが開放されて楽しそうに演奏しているように感じます。展開部で現れるホルンの第二主題もいつものウィーンpoの奥ゆかしさからは想像できないような暴れっぷりです。ただ、アバドの指揮なので、アゴーギクを利かせるようなことはなく、テンポが動くこともなく音楽は淡々と進んでゆきます。再現部手前のトロンボーンに第一主題が現れるあたりから、もうブチ切れたように荒れ狂うブラスセクションの濃密な演奏に圧倒されます。荒れ狂っていてもアンサンブルはきっちり決まるところはさすがウィーンpoです。コーダはほとんどテンポを上げることなく終わりました。
二楽章、潤いのある木管群がとても美しい。楽譜に書かれていることに忠実な演奏で、それ以上のことはしていないようですが、ウィーンpoの奏でる音楽には、どっぷりと身をゆだねたい気分にさせる魅力的な演奏です。
三楽章、ここでも潤いのある木管群に惹きつけられます。トゥッティの一体感もウィーンpo独特のすばらしい響きです。ポストホルンはかなり奥まったところから響いてきます。一楽章のブチ切れて荒れ狂うような咆哮と同じオケとは思えないような静寂感です。この楽章ごとの描き分けは見事です。とてもロマンティックで癒されます。
四楽章、ホールの豊かな響きを伴って、重くも柔らかいコントラバス。独唱ははっきりとしくっきりとした輪郭の歌唱です。合間に入るホルンの表情がとても豊かです。独唱も大きな抑揚で訴え掛けてきます。独唱をしっかりと支える弦。この作品がウィーンpoのために書かれたのではないかと思うほどしっくりとした演奏です。
五楽章、ホールの響きを伴ってたっぷりとした児童合唱の「ビム、バム」です。美しい合唱が次第に遠のいて消えてゆきました。
六楽章、穏やかで安堵感のある冒頭の演奏です。安らかで揺り篭に揺られているような感覚になります。潤いに満ちた美しいクラリネットの高音。弦の厚い響き。アバドの指揮と言うよりもウィーンpoが実力を如何なく発揮したと言う演奏のように思います。まあ、ウィーンpoの実力を最大限に発揮させるのも指揮者としてのアバドの能力なのでしょうが・・・・・。金管による主要主題の再現も奥まって美しく響きます。輝かしいコーダ!ウィーンpoの実力を見せ付けた見事な演奏だったと思います。
ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団
★★★★★
一楽章、細身で筋肉質のホルンの第一主題。ティンパニの質感がとても良い。とてもバランス良く和音を響かせるトロンボーン。ハイティンクらしく特に強調することなく、自然な第二主題。ショルティ時代の筋骨隆々でスカッと割り切れた演奏とはかなりイメージが違います。艶やかで美しいヴァイオリン独奏でした。とても良く鳴る明るいトロンボーンの独奏は独特の節回しで、どう説明して良いのか分かりませんが、今まで聞いた演奏とは違っていたので、ちょっと違和感がありました。ハイティンクは遅めのテンポで着実に音楽を進めて行きます。展開部に入る前にはもの凄いクレッシェンドがありました。柔らかいイングリッシュ・ホルン。極端な表情付けはありませんが、と言うより表現は抑制されていますが、統一感があり、登場する楽器がどれも色彩感豊かで生き生きとしています。シカゴsoもバレンボイム、ハイティンクと受け継がれて、ショルティ時代の強烈な個性は影を潜めて、普通のオケになったんだなぁと感慨深いものがあります。もちろんオケの技量とすれば超一流なのですが、強烈に鳴り渡る金管を中心に据えた音楽では無くなりました。ハイテンクの音楽も中庸で、テンポの大きな動きも無く、とても落ち着いた美しい音楽をしているのも影響しているのでしょう。再現部の前も落ち着いていて狂喜乱舞するような絶叫ではありませんでした。最後は少しテンポを上げて終りました。ハイティンクはいたるところで絶叫させるようなことはなく、展開部の前一箇所のみを頂点にして、他は抑えぎみにして大きな流れを作りました。
二楽章、レイ・スティルのようなぎゅっと締まった特徴的なオーボエではありませんが、チャーミングで美しい演奏でした。速いパッセージがとても滑らかにつながります。奥まったところから鋭く突き抜けて来る金管。ショルティ時代に比べると金管が強調されなくなった分、ささくれ立ったような弦がとても潤いのある美しい音になりました。表情の変化もあってとても豊かな表現です。繊細な弦の響きが美しく、歌に溢れた演奏でした。
三楽章、生き生きとした表情のクラリネットとピッコロ。この楽章でも金管を無用に強奏させることはなく、流れの良い演奏です。透き通るような透明感のある美しい演奏です。この美しさは出色です。遠くから響く、ちょっと鋭角的な音のポストホルンでフワーッと全体を包み込むような柔らかさはありませんが、夢見心地にさせてくれる美しい演奏でした。羽毛に触れるような繊細な弦。全体のバランスがとても良くて、強奏でも金管が突出してくることはありません。
四楽章、とても静かに、丁寧に歌い始める独唱。独唱の合間に入る締まったホルン。まるでクリスタルガラスを見ているような美しい輝きと繊細さがすばらしい。繊細な弱音はショルティ時代には聞くことが出来なかった美しさです。
五楽章、控え目な「ビム・バム」、合唱は全体的に音量を抑えた演奏のようです。消え入るようなppが吸い込まれそうな美しさです。
六楽章、速めのテンポであっさりとした、それでも安らぎと深みのある冒頭。この楽章でも弦の繊細な美しさは特筆に値します。静寂感と集中力の高さも凄いです。遠くから響くクラリネットも非常に美しい。大きい波に揺られるような深い音楽。ハイティンクは小細工など全くすることなく、堂々と作品と対峙しています。安らぎに満ちた音楽に浸る喜びを心底感じます。スケールの大きな強奏部分がすばらしい。この楽章では、ここまで抑えてきたオケが全開です。ティンパニの強烈なクレッシェンドの頂点で炸裂するクラッシュシンバルも見事です。ピッコロのソロに続く金管の感動的な主要主題の再現。シカゴのブラスの凄さを思い知らされる尋常ではない凄いエネルギー感の主要主題の強奏。コーダの力強いティンパニ!壮大ですばらしい六楽章でした。
一楽章のトロンボーン・ソロの独特の節回しを除いては完璧な名演でした。特に弱音の透明感は素晴らしかった。とても滑らかな大人の音楽でした。
ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団
★★★★★
一楽章、ダイナミックな第一主題の演奏。続く行進曲はドラが効果的。この演奏でも構成がとてもしっかりしている印象です。色彩がとても濃厚で輪郭がくっきりしています。艶やかなヴァイオリンソロ。表現の幅が広いトロンボーンソロ。展開部の前後は凄い咆哮でした。登場してくる楽器がそれぞれ原色でとても濃厚でマーラーのオーケストレーションが鮮明に現れます。展開部の手前、トロンボーンの第一主題以降も咆哮の連続でとても濃密でした。再現部のトロンボーンソロは十分に歌われていて心地よい。コーダは凄い追い込みでした。すばらしい。
二楽章、最初の音を長めに演奏したオーボエ、アゴーギクを効かせて歌います。続いて登場する楽器も美しい。オケのアンサンブルに一体感があってとても良く統率が取れています。とにかく色彩感が豊かできらびやかです。
三楽章、生き生きとして表情豊かな演奏です。緻密なアンサンブルでマーラーのスコアを見通せるような感じがします。暖かみがあり美しく表現豊かなポストホルン。強弱の振幅も幅広く、ホルンの咆哮もなかなかです。
四楽章、オケを押しのけて前へ出ることもなく、常にバランスを取って控え目ながら十分な振幅のある独唱。独唱とオケの掛け合いも絶妙です。
五楽章、ちょっと爽やかさに欠ける児童合唱。この楽章でも強弱の振幅は凄く広いです。楽譜に指定してあれば、躊躇無く強奏してくるブラスセクション。楽譜を忠実に再現したと言う意味ではとてもすばらしい演奏です。
六楽章、揺り篭に揺られるようなとても心地よい安心感のある美しい弦楽合奏。美しいホルンと艶やかなヴァイオリンソロ。音楽が高揚してきても熱気を帯びることはありません。とても冷静に楽譜に書かれていることを忠実に再現しています。突き抜けてくるトランペット。美しい金管の主要主題。幸福感に満ち溢れる感覚がとても心地よい。すばらしい演奏でした。
ジェイムズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団
★★★★★
一楽章、遠めに定位するホルン。レヴァインの演奏にしてはスッキリとした響きで、埃っぽさがありません。第二主題も気持ちよく鳴ります。静寂感の中からオーボエの第三主題とヴァイオリンのソロが美しく響きます。僅かに不純物が混じったようなトロンボーンのソロ。控え目な第四主題。頂点ではシカゴsoのブラスが見事な響きで演出します。展開部のトロンボーン・ソロの後のイングリッシュ・ホルンは細身で美しかったです。続くヴァイオリのソロもとても美しかった。再現部へ入る前の強奏部分は見事と言う他ないシカゴsoの面目躍如と言ったところか。マーラーの指示通り、力強い演奏でした。
二楽章、穏やかに始まって、少し音量を上げるオーボエ。穏やかにヴェールに包まれていた演奏が、突然目覚めて生き生きとしだしたり、変化に富んでいます。ヴァイオリン独奏が艶やかでとても美しいのはRCAの録音によるものでろうか。途中で一旦テンポを速めました。また、テンポが戻って長閑な雰囲気です。
三楽章、とても余裕があって伸び伸びとした演奏です。テュッティの下降音型は巨大な響きですばらしかったです。遠くから響くポストホルンも柔らかく美しい。巨大なテュッティと静寂感のある弱音の対比も見事です。二回目のポストホルンの前の金管の咆哮もすばらしかった。力みもなく、オケの自発性にまかせて爆発させるような自然な音楽作りです。
四楽章、深みのあるコントラバス。柔らかい響きを伴った独唱がとても美しい。温度感はほどほどにありますが、静寂感はしっかりあります。「巨人」の埃っぽさは何だったのかと思うくらい、この演奏では明瞭で透明感があります。
五楽章、アクセントの強い「ビム・バム」です。モノトーンのような女声合唱。合間に入る金管の響きには清涼感があります。
六楽章、安堵感があって癒されるような主要主題です。湧き上がってくる感情をぐっと抑えているような清楚で奥ゆかしい演奏です。木管の対旋律も控え目で美しい。曲が進むにつれて次第に熱気をはらんできます。ゆっくり流れる大河のように豊かな音楽です。シカゴsoのフルパワーを要求することなく控え目な頂点。マットな響きの金管の主要主題の再現。弦の分厚い響きに埋もれるようなマットな響きの金管の壮大なコーダでした。
「巨人」とは一転して、とても制御の効いたすばらしい演奏でした。
エリアフ・インバル/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
★★★★★
一楽章、速めのテンポで演奏されるホルンの第一主題。主題の後はゆっくりとしたテンポになりました。ミュートを付けたトランペットも強く入って来ます。強弱の振幅も大きく色彩感も非常に濃厚な演奏です。音楽が前に進もうとする強い力があります。オーボエの表情が豊かな第三主題。続くヴァイオリンのソロも艶やかで美しかったです。太い音のトロンボーン・ソロは終始強めに、そしてテヌートぎみに演奏されています。控え目でこもった第四主題。インバルの指揮は迷いが無く、すっきりと割り切れているようで、聴いている側もすがすがしい気分になります。細部まで見通しが良く、混沌とすることは無く、響きにも清潔感があります。
二楽章、滑らかに歌うオーボエの主要主題。透明感が高い弦楽合奏。中間部はせきたてるようにテンポを僅かにあおりました。艶やかですが、音に力のあるヴァイオリンのソロ。二回目の中間部でもテンポが何度も変わりました。とても優しく音楽的な二楽章でした。
三楽章、弦のピツィカートからくっきりと浮かび上がるクラリネット。主部はとてもダイナミックでオケの底知れぬパワーを感じさせます。中間部のポストホルンは間接音を十分に含んでとても美しい音色を聞かせます。ポストホルンの周りを彩る楽器も強く主張して来ますので、色彩感はとても濃厚です。インバルの指揮はマーラーのオーケストレーションを明確に印象付けるものですが、その中にも情感豊かな音楽も表現されており、聞いていてとても心地良いものです。最後はテンポを速めずに終わりました。
四楽章、すごく静かで神秘的な低弦。この静かな低弦に比べるとかなり大きめの独唱。ホルンなども加わって独唱とバランスが取れたようです。とても良く歌うオケ。朗々と歌う独唱。
五楽章、児童合唱と女声合唱の声質が明らかに違っていて、色彩感を損なわないので、とても良いです。この楽章でも朗々と歌う独唱。とても賑やかでした。
六楽章、速めのテンポですが、感情の込められて振幅の大きい主要主題です。副主題部になっても、こんこんと湧き出る泉のように豊かな音楽です。いや、泉言うより大河の流れと言った方が合っているかも知れません。とても豊かで巨大な流れです。二回目の第1楽章の小結尾の主題が回想される直前はティンパニの強烈なクレッシェンドなどもありすごく激しい演奏でした。三回目の第1楽章の小結尾の主題の再現も激しい演奏でした。続くピッコロも伸びやかで豊かな歌でした。荘厳な金管の主要主題の再現。非常に感動的なクライマックス。輝かしく壮大で力強いコーダ。
見事な演奏でした。正にブラヴォー!
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ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団
★★★★★
一楽章、豪快に響き渡るホルンの第一主題。第二主題もなかなか強烈です。トランペットも突き抜けて来ます。第二主題までの激しさから一転して第三主題の繊細な弦。細身の音で表現の幅が広いトロンボーン・ソロ。色彩感は濃厚ではありませんが、初夏の風を感じるような爽やかな演奏です。展開部へ入る前から展開部のホルンの第二主題も激しい演奏です。静かに物思いにふけるようなトロンボーン・ソロ。ゆったりと歌うイングリッシュ・ホルン。キラキラと光を放つようなヴァイオリンのソロ。トロンボーンの第一主題は控え目に入って次第に大きくなりました。再現部の前は思ったよりスッキリしていました。コーダはもの凄い速さでした。
二楽章、奥ゆかしく歌うオーボエの主要主題。最後の主部が戻ったところはとても穏やかな演奏です。
三楽章、装飾音符を強調するようでおどけたような表現のピッコロの主題。屈託無く鳴り響きホルン。切れ込み鋭いヴァイオリン。フワッと柔らかいポストホルン。割と速めのテンポで進むため、感傷に浸る余裕はありません。主部の再現は線が細いですが、目まぐるしい色彩の変化は見事でした。
四楽章、細目で控え目な独唱。オケの響きの中を泳ぐような独唱です。キラキラと光をちりばめたようなヴァイオリン。独唱には感情が込められていますが、とても静かな演奏です。
五楽章、まだ未成熟と感じさせる児童合唱の声質。児童合唱と比べると十分に成熟している女声合唱。この楽章はオケが控え目です。
六楽章、速めのテンポで淡々と、前へ前へと進む主要主題。ナガノの指揮は感情移入するタイプの演奏ではなく、作品をあるがままに演奏しているようです。第1楽章の小結尾が回想されるところは最初弱く始まって次第に大きくなって去って行きました。セッション録音らしく美しい響きが収録されています。二回目の第1楽章の小結尾が回想される前の金管は輝かしく感動的でした。回想も全開で激しいものでした。細く通るピッコロ。金管の主要主題は再び淡々と速めのテンポで進みます。スケールの大きな壮大なクライマックスはすばらしい。輝かしいコーダも見事です。
自然体の演奏でしたが、セッション録音の美しい音色と広いダイナミックレンジ。そして圧倒的なクライマックスがすばらしい演奏でした。