チャイコフスキー 序曲「1812年」2

たいこ叩きのチャイコフスキー 序曲「1812年」名盤試聴記

リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ★★★★☆
ゆっくりとしたテンポでたっぷりと歌うLargo。一抹の寂しさを感じさせる演奏は迫りくるナポレオン軍に対する恐れを表現しているのでしょうか。トロンボーンは思いっきり強く入って来ます。Andanteでは激しく吹かれるホルン。Allegro giusto金管の後ろで演奏される弦の嵐のような激しさや厚みがありません。金管は良く鳴っています。第二主題は優雅に美しく歌われます。ロシア民謡風の旋律は泥臭い表現でした。大太鼓は力のある響きですが、シンバルは貧弱です。実射をミキシングしたような大砲の音はなかなかリアルでした。Largo輝かしい金管と壮麗に鳴り響く鐘の音がとても良いです。Allegro vivace力強くロシア国家が吹奏されて終わりました。

充実したフィラデルフィアサウンドで豪華な演奏でした。ただ、弦の響きが若干薄かったのが唯一残念なところでした。
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ズービン・メータ/ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

メータ★★★★☆
Largo大きな呼吸でテンポも動いて歌います。速いテンポで軽いトロンボーン。Andante軽快な木管。ホルンはほとんど強くなりませんでした。Allegro giusto柔らかい弦。あまりガリガリとアクセントを付けた演奏はしません。ここでも金管は軽く、弦とのバランスも良いです。第二主題もとても良く歌います。ロシア民謡はあっさりとした表現でした。二回目の戦闘シーンも弦の表現はとても豊かです。金管はここでも軽めの演奏です。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズはゆっくり目のテンポでふくよかで明るい響きです。金管全開で大砲は左右から大きく響きます。駆け下りるような音形にはいってもほとんど音量が落ちずにそのままの勢いでした。Largo柔らかい金管と豊かに響く鐘。弦が大きく強弱の変化を付けて入ります。Allegro vivaceロシア国歌も力強い演奏です。

この当時のメータの演奏を象徴するような歌に溢れた演奏でした。オケは全開になることは無く、最後まで余裕のある演奏でしたが、オケの響きが僅かに薄かったのが唯一気になる点でした。
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小澤 征爾/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

小澤★★★★☆
Largo広がりがあり豊かな弦の響きです。速めのテンポですがとても感情のこもった歌です。抑えたトロンボーン。ホルンやトランペットは普通に強いです。Andante軽快な弦。スネアはあま聞こえません。Allegro giustoガツガツとエッジを立てて強くアクセントを演奏する弦。残響を伴って美しいトランペット。第二主題もテンポは速いですが、豊かに歌っています。二回目の戦闘シーン冒頭は不穏な空気が表現されます。金管は全開にはなりません。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは明るく締まった響きです。大砲は遠くから響いて来ます。駆け下りるような音形に向けて大きくクレッシェンドしました。Largoも速いテンポです。カランカランと鳴る鐘。Allegro vivaceバランスの良いオケの響きで余裕のある美しい演奏でした。大砲は遠くで鳴る花火のような音でした。

速いテンポで、常に余裕を残して美しい響きで最後まで演奏しました。弱音部分では豊かな歌もありました。ただ、この作品にストレス解消を求める人には欲求不満になるかも知れません。
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ズービン・メータ/フィレンツェ五月音楽祭管弦楽団

メータ★★★★☆
Largo合唱から始まります。あっさりとした表現でテンポも速めです。ティンパニが入るとホルンが咆哮します。ヴァイオリンが強調された表現です。金管は軽く演奏しています。Andanteヴァイオリンが豊かに歌います。Allegro giustoここでもテンポは速めで楽器の動きが明快です。弦の動きは激しいですが、金管は軽く演奏しています。第二主題は川の流れのようにとうとうと歌います。ロシア民謡でも合唱が入ります。この合唱はなかなか趣きがあります。二回目の戦闘シーンも弦は激しく演奏しますが、金管はそれほど激しくはありません。弱音で演奏されるホルンのラ・マルセイエーズは少し硬めの響きです。大砲は実射なのか火の手が上がります。駆け下りるような音形に向かってクレッシェンドしました。Largo合唱も加わって盛大な盛り上がりです。Allegro vivaceバンダと合唱も加わって全開です。

合唱やバンダも加わってお祝いムード満点の演奏でした。野外コンサートなので、美しい響きはあまり感じられませんでしたが、聴衆を盛り上げるにはとても効果的な演奏でした。
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ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

icon★★★★
Largo割と速めのテンポの冒頭で艶やかな弦でとても良く歌います。ゆったりとしたオーボエ。余裕を残した金管ですが、十分に鳴っています。Andanteスネアに続くホルンは締まった音です。Allegro giustoゆっくりとしたテンポでガツガツと刻む弦。金管は余裕の演奏です。バックの弦は少し薄い響きです。ロシア民謡はゆったりとしたテンポで感情を込めて十分に歌われます。二度目の戦闘シーンもゆったりとしたテンポです。トロンボーンの食いつきが若干早いような気がします。金管は柔らかく伸び伸びと鳴り響きます。弱音のラ・マルセイエーズは引き締まった響きです。全開のパワーはさすがです。大砲は実射を別録りしたものを合成したものか。かなり生々しい音でした。駆け下りるような音形は若干薄い響きになります。Largo充実した金管の見事な響きです。鐘の響きは硬質です。Allegro vivaceロシア国歌と高音楽器が若干ズレますがとても良く鳴り響く演奏は気持ちの良いものです。

全開時の弦の響きの薄さやアンサンブルのズレなどはありましたが、シカゴsoの全開パワーを十分味わえる演奏でした。

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★★
Largoすごく歌い込まれた冒頭です。アゴーギクも効かせてテンポが動きます。オーボエが入るむところからのテンポは遅いです。金管の咆哮も凄いです。Andanteスネアは遠い位置にいます。可愛い表現の木管。美しく歌う弦。Allegro giustoゆっくりとしたテンポですが、あまりガツガツと強いエッジのある演奏ではありません。金管はかなり頑張ります。それでも純音楽としての節度ある美しい演奏です。控え目で奥ゆかしい第二主題。ロシア民謡も歌います。民謡が川の流れのようにとうとうと歌われます。二度目の戦闘シーンもゆっくりとしたテンポです。荒れ狂うような演奏にはならず整然とした美しい演奏です。あっさりとした表現の第二主題。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズはふくよかで柔らかい響きです。大砲はありません。金管の伸びやかな音が印象的でした。トゥッティのパワー感は凄いです。駆け下りるような音形も大きくエネルギー感が落ちることはありませんでした。Largo輝かしい金管の伸びやかで美しい響きは見事です。Allegro vivaceロシア国歌に合わせて大砲が入りました。堂々としたテンポのまま終わりました。

豪華絢爛で堂々とした1812年でした。純音楽としての完成度も高いと思います。

アンタル・ドラティ/ミネアポリス交響楽団

ドラティ★★★★
Largoかなりのオンマイクのようで生々しい音です。切々と訴えかけてくる弦。表情豊かな演奏です。オーボエも生々しいですがかなりデッドな録音です。ベルの中にマイクを突っ込んだようなトロンボーン。Andanteスネアの粒立ちもはっきりしています。Allegro giusto弦の人数が少ないような感じに響きます。とてもデッドなので金管の音もリアルなのですが、編成が小さく感じてしまいます。第二主題は残響が少ないのでちょっと痛い感じがしますが良く歌います。ロシア民謡はテンポを少し落としています。二度目の戦闘シーンは速めのテンポで活発な表現です。打楽器も炸裂します。弱音で演奏されるラ・マルセイエーズは明るく勇壮です。オケも全開、大砲も強烈に炸裂します。駆け下りるような音形では少し音量が落ちます。Largoオケも全開ですが、鐘も盛大で豪華に鳴り響きます。Allegro vivace物凄く強烈な大砲です。

かなりのオンマイクでデッドな録音だったので、オケの編成が小さく感じました。でもリアルな音はなかなか聞き応えのあるものでした。強烈な大砲や豪快に鳴り響く鐘など、この当時の録音としては最先端のものだったのでしょう。演奏もクライマックスでの全開の迫力がとても良かったと思います。
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マーク・エルダー/ハレ管弦楽団

エルダー★★★★
近い位置で伸びやかな弦。あまり大きな起伏の無い第一主題。最初の戦闘シーンでも金管などは近く、かなり思い切って咆哮します。ロシア民謡風の主題にも工夫がみられて独特の表現です。続く激しい部分も積極的で前のめりになります。鐘が鳴らされるLargofは輝かしい充実した響きです。

かなり近接したオケの音場感の録音でした。思い切った表現や積極的に前へ進むような部分もあり、なかなか良い演奏でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・チャイコフスキー:序曲「1812年」の名盤を試聴したレビュー

投稿者: koji shimizu

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