ストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」ベスト盤アンケート

たいこ叩きのストラヴィンスキー バレエ音楽「春の祭典」名盤試聴記

エドゥアルド・マータ/ロンドン交響楽団

マータ★★★★★
マータのデビュー作です。メキシコ人らしい情熱的で色彩感豊かな名演です。
オケの爆発も尋常ではありません。私にとっては、青春時代のベストCDです。1978年の録音

第一部:大地礼賛
序奏、ビブラートとクレッシェンドして開始するファゴット、音が変わる瞬間に空気が変わります。冒頭から尋常でない雰囲気を伴っています。静寂感の中から浮き出てくるファゴットの演出はすばらしい。始まってすぐに感じる濃厚な色彩。ねばった表現のバス・クラリネット。鋭く突き刺さるトランペット。
それぞれの楽器のカラーが鮮明で、一つ一つの音が立っています。
春のきざし、全開の弦とホルン。すごいエネルギーをぶつけてきます。トランペットの咆哮も他の演奏とは比べ物にならないくらいの絶叫です。弦のボーイングも叩きつけるような激しさです。
リズム感もとても良いです。ラテンのリズム感なのだろうか。全体のリズムを引き締めるのにティンパニと大太鼓の絶妙なアンサンブルと一体感が必要だと思うのですが、この演奏はすばらしいです。
誘拐、ティンパニのリズムにタメがあって独特です。ティンパニや大太鼓が強烈でダイナミックです。
春のロンド、静かなメロディから硬質な音のティンパニ、そしてタフな金管の伸びのある咆哮と、次々に襲い掛かってきます。
敵対する二つの部族の戯れ、ティンパニが目の前で動きます。色彩が濃厚で原色で描かれているような、すごく鮮やかでそれが美しい!
賢者の行列、ホルンはあまり音量を落とさずに演奏します。ここのトランペットもすごいし、小物打楽器の動きも鮮明!
大地の踊り、強烈な咆哮ですが、アンサンブルは見事に整っています。ラッパのベルがひび割れするんじゃないかと思うくらいの第一部でした。

第二部:いけにえ
強烈な咆哮がありながら、弱音部では細部にわたって緩みなくキッチリアンサンブルしているし、表情もあります。
序奏、大太鼓が入ると崩れ落ちるような表現です。繊細なヴァイオリン。極端に音量を落とすことの無いミュートをしたトランペット。神秘的なホルン。
乙女たちの神秘的な集い、美しいビオラ。木管が粒立っていて美しいです。表現が引き締まっていてダレることがないので、聴いていて気持ちが良い。色彩はここでもとても濃厚です。ダイナミックな11拍子。
選ばれた乙女への賛美、いやぁもう人間技でここまでできるのか!ともう参りました。地を揺らすような大太鼓。締まった硬質なティンパニ。
祖先の呼び出し、三つの音を離して演奏するティンパニ。
祖先の儀式、咆哮するホルン。やはりここでもコントラストがはっきりしていて、楽器が鳴り切るので爽快感でいっぱいになります。
いけにえの踊り、鋭い音で鳴りきるトランペット。ティンパニのリズムに乗ってかなり強く入ってくるトロンボーン、ホルン、大太鼓。

やはり、凄かったです。これだけの絶叫をしても暴走しないロンドンsoの技術の高さにも驚かされますし、ここまで要求したマータにも脱帽です。ストレス発散したけりゃこれを聴け!このCDはタワーレコードの企画ディスクです。

ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

メータ★★★★★
メータのニューヨーク時代の特徴でもあるグラマラスな春の祭典です。
1990年の録音。ニューヨークを去る直前の録音になります。

第一部:大地礼賛
序奏、細身のファゴット、弱音にかなり気を使っている木管。ゆっくりと丁寧に演奏しているのが伝わってきます。とても静かです。バスクラはあまり強調されていません。マイルドであまり刺激的な音はありません。ミュートしトランペットは鋭い音でした。
春のきざし、ブレンドされて一体感のある弦。控えめなトランペットやホルン。ホルンも細身の音です。
誘拐、ここでもホルンは弱い感じがします。ホルンはニューヨークの弱点ですね。大太鼓が硬い撥でドンと入ってきて驚かされます。
春の踊り、連続する弦に続く木管の表情が印象的です。大太鼓を底辺にトゥッティの野太い響きは凄い厚みをもって迫ってきます。
敵の都の人々の戯れ、木管や弦の厚みのある響きがとても良いです。残響が豊かで楽器が分離して聞えることはありませんが、一体感はあります。
賢者の行列、強烈な咆哮はありませんが、厚みのある響きはなかなか良いです。
大地の踊り、金管の一体になったパワー感が欲しい気もします。最後のテューバは凄い!

第二部:いけにえ
序奏、しっかりと地に足が着いた木管。大太鼓がフワーッと柔らかく尾を引きます。トランペットがとても小さな音で演奏します。
乙女たちの神秘的なつどい、マットなビオラ。ここでもホルンはふくよかな音ではなく細身です。木管と弦のアンサンブルはとても良いです。少しoffぎみで美しい弦。
いけにえの賛美、ティンパニと大太鼓のクレッシェンドが大太鼓の低域を伴って音圧として届きます。金管も抑えるところは抑えてメータも大人になったんだと思わせます。
祖先の儀式、ここでもホルンは絶叫しません、ふくよかな響きを保っています。絶叫していてもホールがそのように聞こえないホールなのかも知れません。
いけにえの踊り、いろんな楽器といろんなリズムが交錯しますが、わりと冷静。トランペットのフラッターも綺麗です。大太鼓とティンパニが一つの楽器のように有機的に結びついていて、とても良い役割を果たしています。

決して、爆演ではありませんでしたが、豊かな残響を伴った一体感のある分厚い響きで、抑制する部分と突き刺さってくるところのコントラストがあって良い演奏だったと思います。

ワレリー・ゲルギエフ/キーロフ歌劇場管弦楽団

icon★★★★★
驚愕の終結が待っています。1999年の録音。

第一部:大地礼賛
序奏、冒頭から静寂感があります。粘っこく表現いるファゴット。いろんな音が聞こえてきます。奥まってあまり鋭くないトランペット。
春のきざし、猛烈な弦。ホルンは咆哮しません。デッドな録音のようで、それぞれの楽器の動きが良く分かります。とにかくいろんな音が聞こえてきます。バチーンと硬い撥で強打する大太鼓。まさに踊りのように自由に舞うピッコロ。
誘拐、これまで聞いた春の祭典とは一味も二味も違います。バランスもテンポも!それでも違和感を感じさせないところが、ゲルギエフの凄いところなのでしょうか。トロンボーンが突然突き刺さって来ます。
春の踊り、コントラバスの弦の振れ具合まで分かります。独特のアゴーギク。速いところはもの凄く速いテンポで演奏しています。他の部分とのコントラストの上でも効果的です。金管のポルタメントも特にトロンボーンが強烈です。
敵対する町の遊戯、中央付近を叩いているような音のするティンパニ。通常はテヌートされない部分をテヌートで演奏したり、新発見の連続で聴いていて飽きさせない。しかも、絶叫するわけでもなく。もちろん過不足なく、強烈です。
賢者の行列、ホルンとチューバが強烈でした。
大地の踊り、とにかく「春の祭典」の既成概念をぶち壊されます。それが十分に成立しているから凄いです。

第二部:いけにえ
何かが深いところへ崩れ落ちていくような印象を与える序奏。ストレートミュートでは無いトランペット。いままで、旋律だと思っていた楽器を抑えて、別のパートをクローズアップして聴かせたり、いろんなことが起こります。ロシアのオケからこんなに柔軟な演奏を引き出すのも驚きです。この演奏は洗練されています。
乙女たちの神秘なつどい、加速して物凄く強い11拍子。
いけにえの賛美、ピッコロがこんな旋律を吹いていたのかとまた、新たな発見。
祖先の呼び出し、強いトランペット。ちょっとダサいティンパニ。やはり中心付近を叩いているような感じの音です。
祖先の儀式、アルトフルートが表情豊かに歌います、バックのミュートをした金管がテヌートで演奏しています。シンバルが安っぽいppの音を出しています。このオケには不釣合いな感じです。とても粘って豊かな歌のバスクラリネット。
いけにえの踊り、テンポが一瞬止まったり、アーティキュレーションの表現を誇張したり、終始「なんじゃこりゃ~!」の連続です。そして、最後に信じられないような瞬間が訪れる!

参りました。凄かった。でも、この感動は今までの一般的な「春の祭典」の演奏を知っていないと理解できないですね。いくつか聴いてからこのCDにしてください。お勧めです。

エドゥアルド・マータ/ダラス交響楽団

icon★★★★★
マータの再録音です。前作の血沸き肉踊る爆演は影を潜め、ゆったりとしたテンポの運びで細部まで克明に描いた演奏。1991年の録音

第一部:大地礼賛
序奏、クレッシェンドして入ったファゴット。ホールトーンを適度に取入れた録音、自然な音が特徴です。ゆったりとしたテンポ、オケに厚みがない分、細部まで見通せる良さがある。あまりキンキン響かないトランペット。
春のきざし、ゆっくりと踏みしめるような弦。金管は全体に抑えていると言うか、鳴らないのか、極めて静かな春の祭典です。大太鼓は強烈です。遅いテンポですが、ダレることなく丁寧に演奏しています。
誘拐、ロンドンsoとのデビューCDとは正反対の演奏になっているところが、どのような心境の変化なのか?
全く絶叫しないのですが、テンポが全体に遅いので、変に肩透かしを食ったような感覚はなくて、意外と自然に聴くことができます。全体に静かなのですが、大太鼓だけは強烈に入って来ます。
春の踊り、ホルンが大きく歌います。楽器の音はとても綺麗に録音されています。マータは爆演にしないことで、細部を描き出そうとしているのか。数ある春の祭典の中でも異質な存在です。こんなに静かな春の祭典は初めてです。金管のホルタメントも強く押しません。
敵の都の人々の戯れ、全く咆哮しませんが、楽器の質感はとても良く伝わって来ます。
賢者の行列、ホルンも抑え気味です。打楽器は存在感があります。
大地の踊り、原色の濃厚さは無く、むしろ爽やかな演奏です。デュトワやカラヤンのスタジオ録音のように上品に演奏しようとして大失敗になった例も多くありますが、これは静かにゆっくり演奏した数少ない成功例ではないかと思います。

第二部:いけにえ
序奏、冒頭からぶつかり合う音がします。ここでも、ゆっくり静かにを通しています。オケは決して下手なわけではありませんね。伸びのある音で録られています。
乙女たちの神秘なつどい、少し細いですが、美しいビオラ。ゆっくりと作品を噛み締めるようです。
いけにえの賛美、トランペットなどの咆哮はありませんが、艶やかで美しいです。ここでも大太鼓は強烈です。
祖先の呼び出し、ファゴットはテヌートで美しいです。
祖先の儀式、無表情に演奏されるアルトフルート。ミュートしたトランペットとバストランペットはスタッカートぎみの演奏でした。
いけにえの踊り、質感が良く美しいです。ティパニと大太鼓のリズムも軽いですが、ここ一発の大太鼓はやはり強烈です。この曲をこのテンポで破綻をきたさずに音楽にする能力は非常に高いと思います。一つ一つ登場する楽器の音が美しい。

これまでの春の祭典の概念を覆すような演奏に仕上がっています。
私にとって、「春の祭典は爆演ならそれで良し!」だったのですが、この演奏には完全にやられました。これほど力まず美しい音を追求し、しかも細部まで見通せる演奏をした、マータ/ダラスsoに拍手です。ブラヴォー!!!!!
これはすばらしい。マータが飛行機事故で若くしてこの世を去ったのが悔やまれます。

ウラジミール・フェドセーエフ/モスクワ放送交響楽団

フェドセーエフ★★★★★
泥臭い原色の春の祭典です。オケも大健闘!

第一部:大地礼賛
序奏、ビブラートをかけた細身のファゴットから開始。一つ一つの音を紡ぐようにゆっくりと丁寧な演奏です。バスクラがすごく粘るような演奏で、存在を主張します。鋭いミュートのトランペット。
春のきざし、ガリガリと、でも一体感のある弦、遠くで尾を引いて響くホルン。短くスタッカートぎみに演奏するトロンボーン。大太鼓は餅つきのようなベタッとした音でしたが強烈でした。細身で明るいホルン。乙女たちの踊りはまさに踊っているかのような多彩で乗りの良い演奏でした。
誘拐、木管が克明に録音されている割にはホルンが遠い。残響成分も含まれて良い効果もありますが、ちょっと遠すぎるような感じがします。
春の踊り、木管が今まで聴いたことのない旋律を浮き彫りにしてくれます。ホルンはテヌートで演奏します。ちょっと詰まった感じの音をさせるティンパニ。大太鼓はここでも硬質で強烈です。金管はそれ程咆哮はしません。
敵の都の人々の戯れ、スピート感があってなかなか面白い。
賢者の行列、地を揺らすような大太鼓。次々と音が溢れ出します。
大地への口づけ、
大地の踊り、最後のティンパニが凄い!

第二部:いけにえ
序奏、ここは柔らかいマレットの大太鼓。表情豊かなトランペット。ゆっくりと進みます。
乙女たちの神秘なつどい、ここもゆっくりとした演奏です。濃厚な色彩と濃い表現です。11拍子の前をすごくゆっくりと演奏し、11入る直前にテンポがさらに大きく動いた、かなり効果的!フェドセーエフもなかなか強烈な主張をします。オケも見事なアンサンブルをしていますし、音色もロシアそのものだから作品には合っているし、この演奏は良いです。
復活がどうしてあんなに変な演奏だったんだろう?
いけにえの賛美、ここもゆっくりと強烈な原色の色彩です。木管のアンサンブルの良さが特に印象的でした。
祖先の呼び出し、かなりクレッシェンドするティンパニと大太鼓。ファゴットはテヌート気味です。
祖先の儀式、ズシンと思い刻み。ミュートしたトランペットとトロンポーンはテヌート気味です。ホルンも咆哮します。シンバルと大太鼓がかなり強烈です。バストランペットも強く下品です。
いけにえの踊り、気持ち良いティンパニ。最後は、ロシアンサウンド炸裂!原色の音の洪水状態です。ティンパニと大太鼓が一体になった原始的なリズム。トランペットやトロンボーンは短めに演奏します。最後の一撃も強烈でした。

強烈な演奏でした。なかなかの好演です。やはり春の祭典は枯れた老人が指揮してもダメですね。まだまだ脂ぎった人が指揮しないと面白い演奏は生まれてこないと思いました。

ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

バレンボイム★★★★★
第一部:大地礼賛
序奏、豊かな残響でとても雰囲気のあるファゴット。他の楽器も克明に浮き上がります。バスクラもはっきりとしています。ハーセスのトランペットも鋭いです。
春のきざし、豪快に鳴り響く弦。ホルンもトランペットも咆哮します。非常に濃厚な色彩。原色で彩られた演奏です。シカゴsoのパワー炸裂です。
誘拐、ズシンと響く大太鼓。金管の咆哮はかなり凄いです。豊かな残響も影響していると思いますがビンビンに響きます。
春の踊り、かなり膨らむコントラバス。金管の強烈さは尋常ではありません。ゆっくりとしたEbクラとフルート。
敵の都の人々の戯れ、容赦なく吹きまくる金管。弦もサクサクと気持ち良い響きです。
賢者の行列、大太鼓がかなり低い響きを伴っています。ギロもしっかり響きますが、金管の咆哮は凄いです。
大地へのくちづけ、
大地の踊り、ホールの残響も伴っているからだと思いますが、トランペットなどは物凄く鋭く突き刺さって来るようで猛烈です。

第二部:いけにえ
序奏、とても表現の振幅が大きいです。大太鼓が入る部分も大きく膨らみます。
乙女たちの神秘なつどい、少しザラついたビオラ。豊かな響きで表現もあるアルトフルート。盛大になるヴァイオリン。爆発するような11拍子。
いけにえの賛美、怒涛のエネルギーです。遠慮なく吹きまくる金管。
祖先の呼び出し、大太鼓の超低音が長く尾を引きます。
祖先の儀式、残響が長いので、静寂感は全くありません。強烈なホルンの咆哮。トゥッティはシカゴsoのパワー炸裂です。物凄い音の洪水状態です。
いけにえの踊り、強烈な金管の咆哮。遠慮の無いティンパニの強打。

残響の長いホールでの演奏で、大太鼓などは長く尾を引いていました。金管の強烈な咆哮とティンパニの強打は胸がスカッとするような感じでした。ライブでこれだけ強烈な演奏が聞けた聴衆は幸せだったと思います。
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投稿者: koji shimizu

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