リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」2

たいこ叩きのリムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」名盤試聴記

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、豊かな残響の中に速めのテンポで開始しました。凄く艶やかで前面に出てくるヴァイオリン独奏。とても色彩感が濃厚です。テンポは速めでグイグイ音楽を引っ張って行きます。温度感もあって妖艶な雰囲気が上手く表現されています。荒れ狂う海のような激しい表現です。ソロはどのパートもさすがにベルリンpoと思わせる美しいものです。トゥッティでの思いっきりの良さはすごく、音の洪水が溢れ出るようです。

二楽章、艶やかで表情豊かなヴァイオリン独奏です。オーボエのソロも歌に溢れています。トロンボーンやトランペットもマルチマイクで捕らえられているようで、分離して定位します。この楽章も速めのテンポで元気はつらつです。テンポが速いせいか、若干雑な印象も受けます。

三楽章、この楽章も速めで、美しい旋律をゆったりと楽しみたいと思う気持ちを置いて行かれてしまいます。スネアは締まった良い音です。

四楽章、この楽章も速めのテンポで勢いがあります。遅いところは思い切ってテンポを落として濃厚に表現します。速いテンポで息つかせる暇も無くどんどん音楽を進めて行きます。

速いテンポで勢いのある演奏でしたが、若干雑な印象でロマンティシズムにかけるような感じがしました。

フリッツ・ライナー/シカゴ交響楽団

ライナー★★★☆
一楽章、パリッと豪快に鳴るシャリアール王の主題。対照的に繊細なシェエラザードの主題。アメリカのオケらしい明快な響きです。割と淡白でストレートです。豪快に鳴る金管はショルティ時代に出来上がったのではなく、ライナーの時代にすでに備わっていたというのが、この演奏から分かります。

二楽章、このヴァイオリンのソロもとてもストレートで回りくどい表現はしません。すっきりと鳴るトロンボーン。テンポの大きな動きがあってアッと思わされました。金管はとても良く鳴りますが、しっかりとコントロールされていて暴走はしません。しっかりとした音の芯の強い音で、大きな表現はありませんが、とても印象に残る演奏です。

三楽章、微妙な表現はありますが、基本的にはストレートです。ゆっくりとたっぷりとした表現になる部分もありますが、シェエラザードの主題からはまたストレートであっさりとした表現になります。テンポの動きは何度もあります。

四楽章、とても明快でon.offがはっきりしています。一点の曇りも無いような晴れ晴れとした海です。トランペットの速いタンギングもすっきりと何の苦も無く演奏されます。物凄く歯切れの良い演奏で、爽快です。難破の場面でも晴れ渡っているようなクリアーな演奏です。

およそ混濁すると言う事の無い演奏で、終始晴れ渡っているようなストレートな表現でした。聞いていて爽快ではありましたが、もう少し凝った表現もあって良かったのではないかと思いました。
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レオポルド・ストコフスキー/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、勢いの良い出だしの直後に一旦音量を落としてクレッシェンドしました。艶やかでねばりさえ感じるヴァイオリン独奏。あまりうねりのない伴奏音型。強弱やテンポの変化が頻繁にあり、とても注意深く演奏しています。ストコフスキーの作品への思い入れもかなりのものだったのだと感じます。勢い良く鳴るホルン。基本的には速めのテンポでどんどん先へ進みます。

二楽章、一楽章から続けて入りました。ファゴットのソロには奥行き感がなく、浅い響きのように感じました。中間部のトロンボーンは巨大な響きでした。オリジナルには無いシロフォンが聞こえました。オケはそつなく演奏をこなしています。ただ、録音によるものなのか、演奏に深みを感じません。楽器から離れた音が反響板に跳ね返って、ホールに広がっていくような豊かな奥行き感がないのです。

三楽章、木管のソロがカデンツァのように自由に演奏されます。豊かなメロディに身を任せて心地よい気分になります。優しい弦の響き。小物打楽器も上手い。特にスネアが締まった良い音をしています。黄昏るような弦の弱音がとても美しい。最後に少しずつ少しずつテンポが遅く演奏された部分はすばらしい表現でした。

四楽章、ヴァイオリンのソロの前のコントラバスが強烈でした。打楽器はシンバルも含めてすばらしい響きです。

良いところもたくさんあった演奏でしたが、響きに奥行き感がなく、浅い演奏になってしまったのが残念でした。

ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディ★★★
一楽章、ノイズが混じって騒々しいシャリアール王の主題。艶やかで妖艶なヴァイオリンのソロ。かなりギスギスした響きでちょっと聞きづらいです。もっと新しい録音の音源を聞きたかったです。オケは明快に鳴っています。on.offがはっきりしていて、トゥッティなどはとてもストレートに鳴らしています。

二楽章、遠く淡白に感じるファゴットのソロ。表現がストレートで晩年の老獪な表現とはかなり違います。木管のソロは軽々と速いパッセージを演奏します。

三楽章、テンポも微妙に動いて表現する主題。ゆったりとしていて穏やかです。締まったスネアに乗って軽快に演奏されるクラリネット。この楽章でもon.offがはっきりとしています。

四楽章、とても柔らかい音になった最初のヴァイオリンのソロ。トゥッティはエネルギーがあります。凄いスピード感で演奏が進みます。テンポは速いですが、オケの技術は見事です。

ストレートな表現で、オケの技術も見事なものでしたが、録音の古さから豊かな色彩感を感じることはできませんでした。
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イヴァン・フィッシャー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

フィッシャー★★★
一楽章、厚みがあってフワーっとした響きでテヌートぎみに演奏されるシャリアール王の主題。シェエラザードの主題まではかなり遅いテンポでした。柔らかく穏やかな海の主題。暖かく柔らかい響きで膨張したような巨大な響きです。

二楽章、暖かいシェエラザードの主題。ファゴットがとてもリアルで近いです。中間部の弦は分厚い響きで、ミュートしたトランペットも強く響いて来ます。クラリネットのソロはテンポの動きもあってとても濃厚な表現です。ファゴットのソロもクラリネットと同様です。

三楽章、少し速めですが、とうとうと歌う主題。中間部の木管はタイトに締まった演奏で弦の緩やかな演奏と対比されます。ねっとりと尾を引くような濃厚なヴァイオリンのソロ。遠くから響くシンバルが美しいです。

四楽章、テンポの大きな動きや歌うところではしっかりと表現しています。難破の場面はとても柔らかく雄大で、荒れ狂う波のイメージはありません。

柔らかく雄大な響きでしたが、木管などは締まった表現もあり、ねっとりとしたヴァイオリンのソロも印象的でした。ただ全体としては柔らかい響きが支配的であまり活発な動きや濃厚な色彩は感じませんでした。
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バリー・ワーズワース/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ワーズワース★★★
一楽章、トロンボーンがかなり強く響くシャリアール王の主題。艶やかでねっとりとしていてとても良く歌い美しいシェエラザードの主題。穏やかに揺られる海の主題。トランペットがかなり強く絶叫します。金管を積極的に鳴らして激しい表現です。

二楽章、細身で艶やかなヴァイオリンのソロはとても表現が豊かです。遅いテンポで哀愁漂うファゴットはテンポも自由に動きます。ヴァイオリンはとても爽やかな響きです。中間部のトロンボーンはやはりかなり強く演奏します。クラリネットのソロは強弱の変化も大きく付けて滑らかな演奏でした。濃厚な色彩ではありませんが、澄んだ響きで清涼感のある演奏です。

三楽章、静かで伸びやかな主題。中間部のスネアはあまり聞こえませんが、チューニングは緩いようです。ヴァイオリンのソロは常に濃厚です。

四楽章、軽く薄い冒頭。ふくよかで柔らかいヴァイオリンのソロ。フィッシャーとコンセルトヘボウの演奏に比べると打楽器の締まりがありません。コンセルトヘボウの打楽器は凄く上手かったです。難破の場面もトロンボーンが強く響きますが、全体の厚みはあまりありません。

おおらかで伸び伸びとした演奏でしたが、打楽器の締まりが無いせいか、全体のリズムの締まりが無いのか、ちょっと緩い演奏に感じました。
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Andriy Yurkevych/スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

Yurkevych★★★
一楽章、重厚なシャリアール王の主題。粘りと艶のあるシェエラザードの主題。とてもゆっくりと揺られる海の主題。伸びやかで美しい木管。ゆったりとしたテンポでオケもとても良く鳴りますが、音楽が平板でうねりのようなものがあまりありません。

二楽章、チェコの弦と言われるだけのことはある艶やかで非常に美しいシェエラザードの主題です。オーボエもホールトーンを伴ってとても美しいです。テンポはやはり遅く、少し表現が硬直しているような感じで、柔軟さがありません。中間部のトロンボーンやトランペットも伸びやかに抜けて来ます。アンサンブルも少し緩いところがあります。

三楽章、ゆったりと安らかな主題。テンポの動きもあって豊かに歌います。アンサンブルの緩さはここでも頻繁に顔を出します。主部が戻るとまたゆったりとした豊かな歌でとても心地良い演奏です。

四楽章、速いテンポで太い響きのシェエラザードの主題。アクセントなどがあまり強くないので、平板に聞こえてしまうようです。緩いアバウトなアンサンブルはオケの特徴なのか?ハワーのある金管を中心とした伸び伸びと鳴るオケには魅力があるのですが・・・・・。最後のシェエラザードの主題もゆっくりととても豊かな表現です。

ヴァイオリン・ソロの艶やかで豊かな表現や、三楽章の主題のゆったりとした豊かな歌などとても魅力的な表現もありましたが、平板に聞こえてしまう部分や、緩いアンサンブルなど、ちょっと残念な部分もありました。
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アンドレ・プレヴィン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

プレヴィン★★
一楽章、明るいシャリアール王の主題。立体感のあるヴァイオリンのソロとハープ。ゆらゆらと穏やかな海の主題。チューバが効いていて分厚いブラスのサウンド。オケは積極的に鳴り響きます。色彩感もゲルギエフ程の濃厚さはありませんが、豊かです。

二楽章、尾を引くようなねっとりとしたソロでは無くサラッとあっさりとしたヴァイオリンのソロ。ビンビンと鳴るトロンボーンですが、響きにはあまり分厚さがありません。クラリネットのソロにもあまり潤いが無い感じがします。

三楽章、少し淡泊な表現で、あまり艶やかさの無い弦の主題。アゴーギクを効かせたりして歌うことはありません。自然と言えば自然な表現で、あまり大きな表現などありませんが、あまりにも抑制的で欲求不満になりそうです。中間部のスネアが入った後もテンポの動きはありません。

四楽章、とてもあっさりとしたヴァイオリンのシェエラザードの主題。演奏には派手さは全く無く、地味に作品をそのまま演奏している感じで、面白く聞かせようと言う考えは無いような演奏です。難破の場面では金管がかなり強く演奏していて、明らかにこの曲の頂点を築いています。最後のヴァイオリンのソロもあっさりとした表現です。

とてもあっさりとした表現で、作品を面白く聞かせようと言う考えは無いような演奏でした。あまりにも淡泊で、もう少しサービス精神があっても良いのではないかと感じました。
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チョン・ミョンフン/パリ・バスティーユ管弦楽団

チョン★★
一楽章、力強いシャリアール王の主題ですが、フルートが入る前の音を短く処理しました。平板なシェエラザードの主題。小さく定位する木管。木管と絡むヴァイオリンが独特の表現でとてもあっさりとしています。ティンパニが凄いクレッシェンドです。このティンパニに乗ってオケも熱いトゥッティを聞かせます。

二楽章、あまり歌わずのっぺりとしたシェエラザードの主題。雰囲気のあるファゴット。オーボエは良く歌いますがここでも独特の節回しです。中間部で伸び伸びと鳴るトロンボーン。フランスのオケらしい明るいクラリネット。速いテンポで音楽の起伏も激しいですが、静まるところはゆったりとしています。

三楽章、静かに演奏される主題は朗々と歌われる感じでは無く淡々と演奏されます。中間部も速いテンポでサラッと進みます。静と動が交錯する表現はとても見事です。トゥッティのオケが一体になった迫力はなかなかです。

四楽章、かなり速く躍動感のある冒頭。ヴァイオリンのソロはやはりほとんど歌わずのっぺりとした表情です。速いテンポでエッジの立った祭りの主題。普段聞くほとんどの演奏に比べるとかなり速いテンポで攻撃的な感じさえします。難破の場面では突然トランペットが突き抜けて来たりしてハッとさせられます。

とても個性的な演奏で、際立った表現もありましたが、独特な節回しや音の処理などちょっと抵抗のある表現もありました。独特な表現が所々顔を出すので全体の統一感が今一つだった感じがありました。
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アーサー・アーノルド/モスクワ交響楽団

アーノルド★★
一楽章、低音のゴリゴリとした響きと上に乗る響きが柔らかいシャリアール王の主題。あまり起伏は激しく無く、淡々と流れて行きます。

二楽章、歌うところは歌っていて表現はあるのですが、録音に常に何かグチュグチュとしたノイズが付きまとっているような感じで、スッキリしません。中間部のトロンボーンもあっさりとしています。トランペットが遠くから響きます。強弱の振幅が音圧として届いて来ません。色彩感も乏しいです。何となく音楽が流れて行く感じで、演奏に引き込まれるようなことはありません。

三楽章、速めのテンポで少し落ち着きの無い主題。中間部は舞曲風の雰囲気が良く表現されています。録音はナローレンジで弦は柔らかく聞えます。また、ヴァイオリンのソロは遠くにいます。

四楽章、厚みの無いトゥッティ。色彩感も乏しく、とても淡い色彩です。よく聞くとしっかりと表情が付けられているようなのですが、この録音だと密度が薄くあまり細部が分かりません。

録音の問題なのか、色彩感が乏しく、響きの厚みも無く、表情もあまり分かりませんでした。
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ヨス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ

インマゼール
一楽章、後方からトロンボーンがビーンと鳴り響くシャリアール王の主題。とても艶っぽくアゴーギクを効かせてたっぷりと歌うシェエラザードの主題。あまり古楽器オケだと感じさせるような響きはありません。しいて言えばティンパニぐらいか。

二楽章、一楽章とは違い速いテンポですっきりと演奏されるシェエラザードの主題。ヴァイオリンのソロは鋭い響きです。中間部のトロンボーンは柔らかくテンポの動きもありました。クラリネットのソロもビリビリとした響きです。一楽章では古楽器オケと感じさせる響きはあまりありませんでしたが、この楽章では古楽器の特徴がとても良く出た演奏です。響きが鋭角的で、少し冷たい感じです。

三楽章、速いテンポで鋭い響き、独特の歌いまわしの主題。速く舞うようなフルート。他の演奏には無い表現が幾度も表れます。

四楽章、とても速く淡白な冒頭とシェエラザードの主題。モダン楽器の演奏に慣れていると、この演奏にはとても違和感があります。リムスキー=コルサコフの色彩感豊かで豪華な演奏とは違い、何か貧粗な演奏のような感じがします。響きも薄く、色彩感やテンポの設定も独特のものがあります。このテンポや表現は作曲当時の演奏様式などを研究した結果なのかも知れませんが、あえてこの演奏を世に出さなければいけない理由が分かりません。

独特の表現と薄い響き、リムスキー=コルサコフの色彩感豊かで豪華な演奏をイメージすると見事に裏切られます。この演奏の資料的価値は理解しますが、鑑賞する演奏としての価値は疑問です。
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投稿者: koji shimizu

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