ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」3

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

朝比奈 隆/新日本フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、この「英雄」でも自然体を貫いています。ゆったりとしたテンポでありながら、推進力を失うことはありません。
足取りが着実で踏みしめるような安定感と推進力が両立しています。
この全集はどの曲も出来が良く音楽としての完成度もきわめて高い。すばらしいライブです。

二楽章、まろやかで美しい響きで、誇張した表現はなく、楽譜をベートーヴェンを信じ切って演奏していることが伝わってきます。
端正で繊細な大人の「英雄」です。また、日本のオーケストラは弦が上手いことは以前から定評がありましたが、この時期になると管楽器も音が軽く力みなく出るようになっていて、伸びやかで美しい。
世界に誇れるベートーヴェンになっていると思います。

三楽章、クレッシェンドも強引なことは絶対しません。感情の盛り上がりにしたがって自然です。ホルンも伸びやかで美しい。

四楽章、淡々と音楽が進んでいるようにも聞こえますが、静かに語りかけるようにジワジワと音楽が伝わってくる、何か悟りの境地を開いた巨匠の演奏のように感じます。

この全集はどの曲にも共通した朝比奈のベートーヴェン観が見事に結実しています。すばらしかった!

オトマール・スウィトナー/シュターツカペレ・ベルリン

icon★★★★☆
一楽章、この「英雄」も美しい音で録音されているし、王道を行く安定感や安心感があります。
ホールに残る残響も美しい。
スウィトナーはこの全集一貫して、迷うことなく、ストレートど真ん中勝負できています。しつこく粘ったり、仕掛けが待ち受けていたということは全くありません。
低域が厚くないので、豪快な印象はありません。むしろ繊細で美しく品の良い女性的なベートーベンに仕上がっています。弦のボーイングも丁寧な感じで、一つ一つの旋律や主題を描いて行きます。それは、宝物を大切に扱うかのようで、とても穏やかな表情です。

二楽章、内面から湧き出るような表現で、大げさなハッタリなどは全くありません。クレッシェンドを伴って音楽が高揚してきても、節度ある高揚感で、音楽が暴走しません。
この演奏から熱狂を求めると期待を裏切られるでしょう。その分、端正でスタイリッシュな演奏です。その方向としての完成度は極めて高い全集だと思います。
初めて、ベートーベンの全集を買う方にもお勧めです。

三楽章、アンサンブルの精度もすごく高い。テンポの動きもありますし、それに伴った熱っぽさも次第に高まってきました。

四楽章、表現も奥ゆかしいですが、三楽章から四楽章へと音楽は確実に熱気を帯びてきています。
潮が満ちたり引いたりするかのように、音楽が高揚したかと思うと、また引いていったりしながら音楽が進んで行きます。

自然の摂理に逆らわないような音楽の自然さには感服します。

ジャン・フルネ/東京都交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ゆったりとした冒頭の二つの音でした。そのあとも遅めのデンポです。
フルネらしく上品で格調高い「英雄」です。都響から気品に満ちた響きを引き出しています。強弱の振幅は十分ありますが、強引な演奏ではありません、中音域のふくよかな響きと透明感の高い響きが印象的です。
この響きの透明度の高さはフルネの演奏の特徴として特に優れている部分だと思います。
この透明度が演奏の純粋さや清潔感を生み出していると思います。最後の部分で一旦pに落としてクレッシェンドがありました。

二楽章、この楽章も遅いです。しかもすごく表現が濃い。深い悲しみへ落ちて行くようで、すばらしい表現です。この美しくしなやかで透明感に満ちた音色で、深い表現はすばらしい!
また、都響のレベルの高さも特筆すべき演奏だと思います。

三楽章、ゴリゴリするようなことは全くありません。力強さも持っていますが、透明感の高い美しい演奏が、心に残ります。

四楽章、表題的な面はあまり意識されずに、純粋に音楽としての美しさを追及した演奏のように思います。骨格ががっちりした演奏ではないけれど、とても繊細で美しい演奏でした。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団記

icon★★★★☆
一楽章、テンポは中庸。ニューヨーク時代のバーンスタインはかなり荒削りだけど生命感のある演奏が多かったと記憶していますが、1978年の録音でも、多少面影を残しているように感じます。
また、ウィーンpoは誰が振っても、彼らの様式を大きく外れる演奏をすることはほとんどないとも思っています。
この時代のバーンスタインは、どこのオケを振っても音の密度が若干薄くなるように思うのですが、この演奏も、ウィーンpoにしては密度の薄いと思います。
その代わりに表現は生き生きとしていて、ウィーンpoにしては、普段の保守的な範囲を超えた演奏をしていると思います。
そういった面では、とても興味深い演奏だと思います。
バーンスタインが感情をストレートにぶつけた演奏でだと思います。

二楽章、悲しみの表現と言うよりも、音色に温度感があって、暖かい音楽です。音の密度が薄いので、胸が締め付けられるような悲しみの表現ではありません。
テンポが大胆に動いたりもします。劇的な表現です。音楽の振幅も激しい演奏です。

三楽章、とても生命感を感じる演奏です。バーンスタインらしい音楽です。

四楽章、心地よいテンポで音楽が進んで行きます。すごく自由な音楽です。自発的で伸び伸びしている音楽こそバーンスタインの特徴でしょう。
ベートーベンの音楽は内向きにぎゅっと凝縮された演奏が多い中にあって、これだけ開放的な雰囲気を持った「英雄」も魅力があります。

好き嫌いは分かれるかも知れませんが、明確な主張のある演奏には拍手を送りたいと思います。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団 Royal Albert Hall, 2009

ヤンソンス★★★★☆
一楽章、速い二つの主和音。その後の第一主題も速めのテンポです。音楽が締まっていて緊張感が伝わって来ます。豊かな響きですが、強弱の変化にも機敏に対応するオケの演奏が気持ち良いです。提示部の反復がありました。展開部に入ってもダイナミックな表現は変わりません。再現部の美しいホルン。艶やかなヴァイオリン。とても色彩感が豊かで、分厚い響きです。

二楽章、この楽章も少し速めのテンポですが、冒頭から暗い雰囲気です。深い悲しみにむせぶような演奏です。良く通るフルート。Cで朗々と歌うホルン。感情の起伏も激しい演奏です。

三楽章、湧き上がるような生き生きとした音楽。とても鮮明な色彩感。はつらつと歌うトリオのホルン。ダイナミックに躍動するこの楽章は出色です。

四楽章、美しく歌う弦。チャーミングな木管。壮大なトゥッティ。激しく動く部分とゆったりと穏やかな部分の対比が見事です。朗々と歌うホルン。とてもスケールが大きい音楽です。

色彩感豊かで湧き上がるような生命感。そして美しく歌う音楽。あとは推進力があれば完璧でした。
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フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ

ブリュッヘン★★★★☆
一楽章、鋭いトランペットが響く主和音。テンポはそんなに速くはありません。提示部の反復がありました。ヴァイオリンも鋭い響きです。とても清涼感のある爽やかな響きがします。盛り上がりにつれて僅かにテンポを速めています。モダン楽器には無い鋭い響きで厚みもありませんが、透明感の高い演奏です。歌う部分ではかなり濃厚な表現をします。当然トランペットは楽譜通りに演奏します。

二楽章、かなり速いテンポで、葬送行進曲のイメージではありません。Bに入るとさらに明るく爽快になります。トランペットの強奏はやはり鋭く、かなりダイナミックの幅も広いようです。

三楽章、この楽章も速いテンポですがあまり躍動感はありません。トリオのホルンはベルに手を入れたり出したりしていて演奏が難しそうでした。

四楽章、響きが薄い序奏。変奏に入ってからテンポは劇的に動いています。分厚い響きやまろやかな響きは無く、ストレートで透明感があって、爽やかな響きです。コーダでもトランペットが突き抜けてきました。

鋭く、透明感が高い、爽やかな演奏で、トランペットが鋭く突き抜けてきたりして、ダイナミックな面もありましたが、表現はあまり粘ることはなく、サラッとした表現でした。当時はこんな音で演奏されていたのかと思わされる演奏でした。
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エマニュエル・クリヴィヌ/ラ・シャンブル・フィルハーモニク

クリヴィヌ★★★★☆
一楽章、ガット弦独特の鋭い響き。速いテンポです。凄く勢いのある演奏です。提示部の反復がありました。強弱の変化にも敏感に反応するオケ。颯爽としていて、前へ進もうとする音楽に強いエネルギーを感じます。

二楽章、この楽章も速いテンポです。暖かい響きのファゴット。速いテンポなので、深い悲しみを表現するような演奏ではありません。一楽章でもそうでしたが、予想しないところでテンポが動きます。アンサンブルがたまに乱れます。

三楽章、舞うようなオーボエとフルート。新鮮な響きの弦。湧き上がるような生命感。後ろの方でビービー鳴るホルンが印象的です。トリオのホルンはストップ奏法で音色が変わるのが良く分かります。聞かせどころを良く分かっているような感じです。

四楽章、勢いのある序奏。ガット弦のヴァイオリンがストレートに迫って来ます。スピード感と湧き上がるエネルギーは凄いです。コーダに入ってもビリビリと鳴るホルン。とてもリズミカルなコーダでした。

凄い勢いのある演奏で、ホルンのストップ奏法を効果的に使って聞かせどころを心得た演奏でした。これまで聞いた事の無い響きを随所に聴かせてくれました。ただ、アンサンブルの乱れは残念でした。
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カール・ベーム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1973年ベルリン芸術週間ライヴ

ベーム★★★★☆
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、探るような最初の和音。静かに提示される第一主題。オフぎみのマイクポジションで涼しげな響きです。第二主題もあまり表情はありませんが音楽には強い推進力があります。豊かな残響を伴っていて熱気はさほど伝わって来ません。それでもがっちりとした安定感抜群の演奏は健在です。オケが一体になって歌う部分の合奏力は見事です。コーダのスピード感もなかなかでした。

二楽章、ウィーンpoとのライヴより僅かに速いテンポです。オーボエの主要主題は流れるようでした。ウィーンpoとのライヴのような悲しみに暮れるような表現では無く、淡々としています。ライヴらしいテンポの動きもあり、金管も激しく強奏しますがブルー系の響きなので、あまり熱気は伝わって来ません。

三楽章、オフマイクぎみで残響成分も多く含むのでとても演奏が滑らかに聞こえます。少し距離を感じるトリオのホルン。客席で聞こえる響きはこちらの演奏の方が近いと思いますが、1ヶ月前のウィーンpoとのライヴの方がオケの生音が聞こえて迫力があります。

四楽章、ウィーンpoとのライヴよりも速めのテンポで進みます。弱音の集中力の高さが印象的です。オケが遠く木管なども小さく定位します。トゥッティでも比較的冷静な演奏です。コーダは颯爽と進みます。

とても涼しげな響きで、強い推進力で颯爽としたスピード感の演奏でした。オフマイクぎみで細部の表情はあまり分かりませんでしたが、ブレンドされた響きと見事な合奏力はさすがでした。

投稿者: koji shimizu

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