ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」4

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」名盤試聴記

エフゲニー・ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、レニングラードpo独特の鋭く突き刺さるような音が、ムラヴィンスキーの厳しい表現と合わさって強い緊張感を生み出しています。
ライブでも一糸乱れぬ完璧なアンサンブル。暴走するようなスピード感ではないのですが、キリッと引き締まったベートーヴェンです。
主題が楽器によって表現が違うのが不思議です。
これだけ引き締まった表情の「英雄」ははじめてです。細部の表現まで徹底されています。見事。

二楽章、オーボエが普段聞いている感覚よりも、かなり太い音でした。チャイコフスキーやショスタコーヴッチではあまり感じなかった欧米のオーケストラとの音色の違いがものすごく分かります。
鋭利な刃物のような鋭さです。聞きなれている「エロイカ」とはかなり違う。聞きなれない音が随所で聞かれます。チャイコフスキーのように木管が一つのユニットになって演奏するような感じがあったり、トランペットが朗々とメロディーを吹くなど、このあたりもベートーヴェンよりもチャイコフスキーをイメージさせます。

三楽章、フレーズの終わりがもう少し丁寧ならと思うのは、この演奏には言ってはいけないかな?

四楽章、ティンパニが全体に大きめなのですが、この楽章の冒頭部分は・・・・・。ちょっとやりすぎです。やはり、チャイコフスキーの演奏様式で「英雄」を演奏したら、こうなるんですね。

正統派のベートーヴェンではないけれど、これはこれで強い主張があって聞き応えがありました。

ブルーノ・ワルター/シンフォニー・オブ・ジ・エア(旧NBC交響楽団)

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一楽章、引き締まった演奏です。ライブならではのテンポの動きもあります。
ワルターのイメージはとにかく中庸で、あまり印象に残らない演奏が多いのですが、このライブは最初から違う雰囲気を持っています。
音楽が、前へ前へと行こうとする推進力もあって力強い。
テンポの動きはありますが、そこはさすがにワルターです。不自然だったり強引な動きではなく自然に受け入れることができる動きで、音楽の流れを止めません。
表現の振幅も大きいですし、なかなか良い演奏です。

二楽章、トスカニーニの追悼コンサートのライブなのですが、トスカニーニの死去に伴って解散させられたNBC交響楽団が、シンフォニー・オブ・ジ・エアーとして演奏しています。
そう思って聴くからかも知れませんが、オケのトスカニーニへの思いが込められているような、悲嘆にくれる音楽です。テンポの動きにこちらも引き込まれます。

三楽章、音楽が生き生きしています。スタジオ録音のワルターとは別人のような生き生きとした演奏で、これがワルター本来の姿なのだと思わされます。録音は良くないので、全体像を計り知ることはできませんが、ここで聴ける音楽はすばらしいです。
描写音楽の場合は、スタジオ録音で、出来る限り美しい音で録音されている方が良いですが、メッセージ性の高い音楽の場合、スタジオ録音では、指揮者もよそ行きの演奏をしている場合も多く、その指揮者の本質を伝えていないことが多いと思います。
その意味では、このライブを聴くことによって、ワルターの別の一面を聴くことができたことは幸せです。

四楽章、ここでも、不自然にならない程度でテンポが動いています。

表情も豊かです。音楽が進むにつれてどんどん高揚しています。かなり充実感のある演奏でした。

オイゲン・ヨッフム/ロンドン交響楽団

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一楽章、余韻も作っているような、余韻にまで意識をめぐらせた音の出し方です。
テンポは速めの部類かもしれませんが、テンポが動くこともあるし、表現は豊かだし聞き応え十分な演奏です。
スピード感はありますが、決して乱暴なことはありません。ベートーベンの男性的ながっちりした骨組みをもっていながら、表現の柔軟さも併せ持つ名演だと思います。
トゥッティでドンと一つの音符があるとズシン~と響く。テンポは速いけど、重戦車のような、でも木管なんかは繊細な・・・・・・。不思議が両立している。ホルンも激しい!

二楽章、悲しみに沈みこむような表現は少し弱いようで、少し浅い音楽のように感じます。金管の音が開いてしまうので、この楽章も元気いっぱいに聞こえてしまうところが、ちょっと残念です。

三楽章、この楽章も軽快なテンポです。かなり激しい演奏でした。

四楽章、アタッカで入りました。ブレンドされた厚みのある響きは魅力的です。弱音部と強奏部の振幅がかなり広い演奏です。

ヨッフムのイメージはもっと重厚な音楽をイメージしていましたが、結構爆演型だったかも。
面白くは聞けました。

ヨゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団

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一楽章、明るい響きが印象的です。
控えめなトランペット。1960年の録音ですが、あまり古さは感じません。薄いヴェールに包まれているような上品な響きで、しなやかな女性的なベートーヴェンのように感じます。
強いアクのある演奏ではないので、はじめてベートーヴェンの全集を買う人にはお勧めです。何て言ったって1,000円ですからね!
この値段でこの演奏だったら文句ありません。CP抜群です。
ふくよかで柔らかい音色で音楽が流れて行くので、安心して聴くことができます。

二楽章、比較的速めのテンポです。強い感情の吐露はありませんが、奥ゆかしい音楽は心地よいものがあります。
柔らかい表現ながら、悲嘆に暮れるような雰囲気も表現されています。なかなかの好演ではないでしょうか。音楽が散漫になることもなく、オケの集中力も維持しています。

三楽章、豊かなホルンの響きも良いです。とても暖かみがあって優しい音楽です。

四楽章、音楽の流れが良くて引っ掛かるところがありません。刺激的な表現に驚愕したり感動したりするような演奏ではありませんが、暖かみが感動となってジワーっとこみ上げて来るような演奏です。

ふわっとした暖かみは独特で、良い雰囲気があり、この演奏を親しみやすいものにしていると思います。良い演奏でした。

ヘルマン・シェルヘン/ウィーン国立歌劇場管弦楽団

シェルヘン★★★★
一楽章、乾いた細身の音です。かなり速いテンポの演奏です。畳み掛けるようなテンポで緊張感があります。
このテンポでもアンサンブルが乱れることもなく難なく演奏するオケもすばらしい。
カチッとした音質のティンパニが演奏を引き締めています。終盤にかけてさらに畳み掛ける演奏でした。

二楽章、この楽章も比較的速めのテンポです。重く沈んでゆくような演奏ではありません。
音楽が前に前に行こうとします。力強い「葬送行進曲」です。

三楽章、ここでも速いテンポです。

四楽章、かなり速い。エネルギーに溢れた演奏です。

強い推進力があります。緩部ではほどほどのテンポになります。終始緊張感の高い演奏でした。

ロリン・マゼール/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

マゼール★★★★
一楽章、軽快な第一主題です。トゥッティで演奏される第一主題はスラーがかかったような演奏でした。前進する力の強い音楽で冒頭の軽快さとは打って変わって豪快な演奏になっています。弓をいっぱいに使ってザクザクと刻む弦ですが、ベルリンpoの美しさはあまり出て来ません。

二楽章、柔らかいヴァイオリンの主要主題は強烈なアゴーギクでした。Bに入る前に大見得を切るように大きくテンポを落とし大きく演奏しました。悲痛な感じはあまり無く、ぬるい感じがします。Bに入っても転調して雰囲気がガラッと変わることはありませんでした。Cに入ってホルンが出る前に一旦大きくテンポを落としました。その後もテンポは大きく動きます。大げさなトランペットのクレッシェンド。この楽章では作為的な部分がかなり見受けられます。

三楽章、とても濃厚な表情付けがされています。弱音と強奏の対比が大きくダイナミックです。トリオのホルンははじけるように活発で明るいです。躍動感があって生き生きとしています。

四楽章、たっぷりと間を取ったり、テンポが揺れ動いたりする積極的な表現です。オケがマゼールとの演奏を楽しんでいるようです。旺盛な表現意欲が感じられる演奏で、とても積極的です。壮大な盛り上がりで、ここでもテンポが動きました。楽器が絡みつくように動く演奏はとても細部まで表現されている表れだと思います。

二楽章では作為的な大げさな表現がありましたが、四楽章に向かって次第に有機的に音楽を奏でるようになります。すごく積極的に表現される音楽はなかなか説得力がありました。
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ホセ・セレブリエール/シドニー交響楽団

セレブリエール★★★★
一楽章、少し遠いオケ。歌もあり、テンポも動く演奏です。提示部の反復がありました。弦は瑞々しく美しいです。正統的な演奏で特別な演出や奇策はありません。音楽は力強く、推進力があります。金管に強く吹かせるダイナミックな演奏です。心のこもった歌はなかなか良いです。

二楽章、淡々としていて、悲しみが込み上げるような演奏ではありません。音を短く切ることがあり、ちょっと不自然です。ホルンが雄大に演奏します。

三楽章、力強く前進する演奏。トリオの明るく躍動感のあるホルン。

四楽章、速いテンポです。思い切り良く強奏します。ザクザクと歯切れのいい演奏です。金管もかなり強奏するので、聞き方によっては乱暴に感じるかもしれません。一般的なベートーベンの演奏に比べると相当金管は強いです。最後もトランペットがクレッシェンドしたり、かなり金管が目立つ演奏でした。

躍動感があり、推進力もあって力強い演奏でした。金管がかなり強く吹くので、従来の作品のイメージとは違いますが、この力強さはこれで魅力がありました。
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パーヴォ・ヤルヴィ/ブレーメン・ドイツ室内フィルハーモニー管弦楽団

ヤルヴィ★★★★
一楽章、かなり速いテンポです。快速でスピード感のある演奏を聞かせたかと思うと、テンポを落としてまた凄い勢いで加速したり、動きもありますが、基本は速いです。提示部の反復をしました。速いテンポのためか、テヌートぎみに演奏されることはあまりなく、マルカートぎみで弾むような表現です。トランペットはバルブの無いものを使っています。再現部のホルンの第一主題は奥まったところで響きます。ここぞというところのティンパニが強烈に決まります。また、楽譜に無いクレッシェンドもしています。

二楽章、主要主題の中でテンポが動いているようです。この楽章も速いテンポです。グッと感情がのめり込むようなことは無く、作品を淡々と描いているようです。硬い音のティンパニがちょっと浮いているようにも感じます。

三楽章、生き生きと躍動感のある音楽です。編成は小さいですが、出るところは思い切ってグッと迫って来ます、特にティンパニの押しが強いです。

四楽章、ゆっくりと入って加速しました。間があってテンポが変化します。弦楽四重奏になる部分も静寂の中に躍動のある美しい演奏でした。ベーレンライター版を使用しているようで、音が短く切られる部分が多いです。

テンポを動かしたり、ティンパニのクレッシェンドがあったり、いろいろ工夫した演奏でしたが、強い個性を感じさせる演奏ではありませんでした。速めのテンポで颯爽とした演奏は新時代のベートーベン像を象徴しているような演奏でした。
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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

クレンペラー★★★★
一楽章、明るい音の主和音。非常にゆっくりとした足取りの演奏ですが録音が歪みっぽいです。テンポの動きは僅かで、頑なにテンポを固定したまま進みます。歌ったり、表面を飾ったりすることは一切無い無骨な演奏です。ダイナミックの変化はかなり幅広いようです。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで、かなり抑えた弱音で始まる主要主題。主題がオーボエに移ってさらにテンポが遅くなったようです。トゥッティは凄いエネルギーのようなのですが、いかんせん録音が歪んでいて、あまり伝わって来ません。特に悲しみを表現しようとか、感情移入するとか言う事は無く、淡々とひたすら楽譜に書かれていることを音にしているような演奏です。よく聞くと細部まで緻密に演奏されています。

三楽章、この楽章も遅いテンポですが、一音一音丁寧に演奏されています。抑えた音量のトリオのホルン。かなりの重量感で、スケルツォと言う感じではありません。

四楽章、テンポが変化して音量も変化した序奏。変奏に入ってからはまた遅いテンポです。この楽章はテンポがよく動きます。消え入るような木管からトゥッティまでの幅がすごく広いです。とても禁欲的で色気など微塵も感じさせない本当に無骨な演奏ですが、巨大な演奏を聴いたような不思議な充実感があります。

楽譜に書かれているものを淡々と音に変えていくような演奏は、禁欲的で色気など微塵も感じさせない無骨な演奏でしたが、緻密でしかも巨大な演奏を聴いたような不思議な充実感がありました。録音が悪かったのは少し残念でした。
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イーゴリ・マルケヴィチ/シンフォニー・オブ・ジ・エア

マルケヴィチ★★★★
一楽章、主和音の後に長い残響が響きました。ギラギラとした響きです。凄いスピード感が圧巻です。強烈な推進力。ザクザクと刻む弦。豊かに歌う木管。そして炸裂する金管。どこを取っても凄みのある演奏でとにかく強烈です。息つく暇も与えずに一気に聞かせました。

二楽章、壮絶な悲しみの表現です。ここでも豊かに歌う木管が美しいです。とうとうと流れる大河のように途切れることなく豊かに音楽が流れて行きます。Cに入ると少しテンポを上げて劇的な表現です。とにかく壮絶です。この演奏を最新の録音で聞いたらどんな感じなんでしょう。荒々しさは幾分和らぐような感じもしますが・・・・・。朗々と歌う木管。弦もすごく感情がこもっています。凄いエネルギー感です。

三楽章、速いテンポでかなりの推進力。豊かな残響を伴って豊かなトリオのホルン。

四楽章、明快な序奏。この楽章も速めです。ガリガリと刻む弦の推進力がこの楽章でも凄いです。畳み掛けるような凄い勢いの音楽。最初から一時も緩むことなく、ハイテンションを続けています。最後が切れました。残念。

凄いエネルギー感と強烈な推進力。全く緩むことの無いハイテンション。荒々しい推進力は録音によるものなのか、実際の演奏がそうだったのかは分かりませんが、凄い演奏だったことだけは間違いありません。最後で音が切れてしまった分減点。
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アルトゥーロ・トスカニーニ/NBC交響楽団

トスカニーニ★★★★
一楽章、古めかしい録音です。当時としてはかなり速いテンポだったのではないでしょうか。今聞いても速めで疾走感があります。がっちりとした構成感の演奏です。虚飾を排して、作品に没頭するような凄みのあるもので、録音の古さを感じさせない演奏ですがテンポは意外と動いています。ひたすら突き進むスピード感。コーダのトランペットの第一主題はライナーの表現に近い(ライナーほど極端ではありませんでしたが)スラーとスタッカートでした。

二楽章、一楽章から見ると遅いテンポです。音を短めに演奏する部分がありました。トランペットが音の頭を強く吹くので、ちょっと乱暴な演奏に聞こえます。

三楽章、一気に突っ走るような勢いのある演奏です。重みのあるトリオのホルンです。速いパッセージも難なくこなす木管。

四楽章、この楽章でも勢いのある序奏。凄い疾走感があるかと思うと突然重く引きずるような弦の演奏があったり、ダイナミックの変化も大きく、速いテンポで一気に聞かせているようでいて、意外と変化に富んでいます。クライマックスでもテンポの変化がありました。コーダも豪快でした。

速いテンポで一気に進むようで、実際にはテンポも動いていて意外な演奏でした。ただ、基本は畳み掛けるような豪快な演奏で、時に乱暴に聞こえる部分もあったのが、少し残念です。
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