ベートーヴェン 交響曲第7番2

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第7番名盤試聴記>/h2>

カール・ベーム/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、他の二曲よりも録音年代が古いので、僅かですが、ヒスノイズがあります。
これも一発目のドーンから凄い勢いがあります。カラヤンのライブほど分厚い音ではありませんが、逆にこちらはもの凄く端正な整った音がしています。
硬く締まったティンパニの音もとても良いです。
締まったアンサンブルで骨格も引き締まっているので、透明感も高いし音楽を聴きながらスコアも見せてくれているような演奏です。
音楽が前へ前へと進もうとします。このエネルギー感はどうやって生まれるんだろう?
テンポも大きく動きます。木管の優しい旋律ではぐっとテンポを落としたり。決して劇的な演奏を狙っているわけではないと思います。ベームの感性をストレートに表現しているように感じます。

二楽章、遅めのテンポです。力強いのだけれども、ぐいぐいと沈み込んで行く音楽。

三楽章、テンポの振幅も大きく、速いところとゆっくりのところとの対比がしっかりされています。
ティンパニの強打がとても気持ちが良い!

四楽章、この楽章は堅実な歩みです。少し速くなってはまた遅くなりを繰り返しながら最後はアッチェレランドで終わりますが、ベームはしっかり手綱を締めています。

レナード・バーンスタイン/ボストン交響楽団 1990年8月19日ライヴ

バーンスタイン★★★★☆
一楽章、短い4分音符の合間にゆったりと歌う木管。ラストコンサートと言う先入観からでしょうか。とても神聖な演奏に感じます。作品の持っている軽快さや明るさは無く、深く穏やかな音楽です。第一主題もゆったりと伸びやかです。やはり衰えからかアンサンブルの乱れもありますが、独特の緊張感がすばらしいです。かなり重い演奏でリズムが弾む感じは無く、引きずられるような感覚の演奏です。

二楽章、長く響くオーボエに続いて重く暗い沈み込むような弦。第一主題もむせび泣くような沈痛な演奏です。非常に重い演奏はこの作品の演奏の中ではかなり異質な存在だと思います。テンポも遅くなることが度々あり、どんどん重くなります。最後の音が長く尾を引きます。

三楽章、ガラッと空気が変わる程まではありませんが、軽快な雰囲気は十分にあります。トリオは作品を慈しむようにゆったりと流れます。トリオの巨大なスケールのトゥッティに圧倒されます。コーダはすごくゆっくりとしたテンポになりました。

四楽章、遅く重い演奏で、リズムは弾むことなく、地を這うような演奏で躍動感はありません。荒れ狂うような圧倒的なコーダでもありませんでしたが、重量感のある演奏は聞き応えがありました。

バーンスタインのラストコンサートと言われる演奏。体力の衰えからかアンサンブルの乱れも僅かにありましたが、最晩年のバーンスタインのカラーで染めつくされた演奏だったと思います。本来の明るい曲調とは違って、重く沈み込むような演奏には、この世の別れに込められた万感の思いが表現されていたのかも知れません。
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リッカルド・シャイー/ライブツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

シャイー★★★★☆
一楽章、軽く短い4分音符。木管のソロが終わって弦の刻みが続く部分でテンポを速めました。再びオーボエのソロでテンポを落とします。第一主題に向けてもテンポを速めました。締りがあって躍動感のある第一主題。渋い響きですが、響きには深みがあってなかなか良いですし、音楽は常に躍動しています。

二楽章、深く沈む第一主題。次第に感情を叩き付けるように激しくなってきます。トリオでは穏やかな表現になって、主部との対比が見られます。

三楽章、この楽章でも明快な動きがあります。中間部は速いテンポであっさりと流れますが他の部分とのバランスからすると速すぎるような感じがします。

四楽章、金管も突出することなく良いバランスでブレンドされた響きです。二楽章で聞かせた感情を叩き付けるような激しさからこの楽章も期待したのですが、意外と抑制されたバランス重視の表現でした。

渋みと深みのある良い響きの演奏でした。このオケが伝統的に持っているバランス感覚なのか、どこかのパートが突出してくることもありませんでした。表現もとても良く練られている感じは受けましたが、もう少し突き抜けた表現もあったら良かったと思いました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1970年6月11日 ムジークフェライン

カラヤン★★★★☆
笛吹のクラシック音楽ライヴ と オーディオの記事の笛吹さんから音源を送っていただきました。ありがとうございます。

一楽章、長く尾を引くような4分音符。ビブラートを掛けて美しいオーボエ。次から次から波が押し寄せるような弦とともにテンポが速まります。フルートの第一主題の合間に入る弦の強弱の反応がとても良いです。78年、83年のライヴに比べると演奏は落ち着いています。

二楽章、レガート奏法で、ほとんど音がつながっているような第一主題。サラッと淡々と流れているようですが、内に秘めた感情がにじみ出てくるような演奏です。中間部ではたっぷりとした歌です。

三楽章、最初の音を僅かに長く間をとって演奏しました。後年のライヴで聞かせるものすごい勢いの片鱗を感じさせるテンポ感です。トリオで登場するトランペットもレガート奏法で。ほとんど音がつながっています。強い勢いはありませんが、十分に推進力はあります。

四楽章、最初の八分音符を少し長めに演奏しました。かなり速いテンポですが、これが曲が進むにつれてさらに加速します。強弱の変化とテンポの変化が同時に来ます。この楽章の猛烈な加速はやはり後年のライヴに通じるものがあります。カラヤンが作品に強い共感を持って魂が乗り移ったようなテンポの動きは素晴らしいです。

最初は後年のライヴに比べると大人しい演奏だと思って聞いていましたが、四楽章に入ると作品を完全に自分のものにしたカラヤンの魂が乗り移ったようなテンポやダイナミックの変化があって最後は素晴らしい演奏でした。ただ、レガート奏法が行き過ぎたような部分もありました。

オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

icon★★★★
一楽章、最初の一音を出すタイミングをオケのメンバー同士が探りあいながら、スウィトナーの棒と駆け引きして、ズォーンという感じの出だし。決してバーンと出ないところが、伝統を感じさせます。
アインザッツが合っていないのかもしれないけれども、逆にこの一音に込められた緊張感がこれから始まる音楽の期待感を盛り上げてくれます。
フルートのソロもオケの音色になじんでいて、伝統あるオケとしての音色の統一感があるし、ブレンドされた響きが何ともいえない味わいを醸し出してくれます。
大げさな表現もありませんし、大きくテンポを動かすような大人気ない演奏はしません。紳士のベートーベンです。
最初にベートーベンを聴く人にはこの全集は絶対お勧めです。正統派でしかも完成度が非常に高いし、オケも美しい。このすばらしい全集を聴いて、他の指揮者の演奏を聴くと、また別の指揮者のすばらしさを聴く事ができると思います。
比較試聴するための原点に据えるには、最適な全集だと思います。

二楽章、確かな足取りで刻まれていく音楽。渋い音色で統一された響きのなかで、美しい音楽がとても心地よい。

三楽章、室内楽を聴いているような透明感の高い響き。ムダに飾ることはなく、田舎の頑固親父が誠実な音楽を運んでいきます。カラヤンのスタジオ録音のような厚化粧のようなことも一切ないので、清楚な演奏です。

四楽章、スウィトナーがN響に客演していた頃は、変な風体のおっさんが何かやっているとしか思っていませんでした。
それは、当時のN響ではスウィトナーが要求する音楽を楽員たちが消化し切れなかったのでしょう。だから、その当時はテレビやFMで聴いてもさしたる感動もなかった。
でも、この演奏を聴くと本当に王道を行く名指揮者の虚飾のない凝縮された名演奏を聴く事ができます。
すばらしい、大偉業を成し遂げたと思います。

ロヴロ・フォン・マタチッチ/NHK交響楽団


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★★★★
一楽章、マタチッチがかなり強力にN響をドライブして行きます。ゴリゴリと戦車が進むような重量感と推進力が凄いです。
1984年の録音ですが、この頃になるとN響も技術水準はかなり高くなっています。
第九の録音は1970年代だったと思いますが、あの当時はマタチッチの音楽をN響が昇華し切れなかったように感じましたが、この演奏はマタチッチの思い描く音楽をかなり再現できていると思います。

二楽章、この楽章も速めのテンポです。演奏自体の表現力は十分にありますが、もう少し遅めのテンポの方が陰影を描き出せるような感じがします。それでも、マタチッチの激しい悲しみの表現も惹かれるものがあります。

三楽章、この楽章は一転して遅めのテンポでスケールの大きな音楽表現です。N響もマタチッチの棒に付いて行ける力を持っているように思えます。

四楽章、ここは一楽章同様凄い推進力です。ただ、カラヤンのライブのオケの圧倒的な厚みにはさすがに一歩譲ります。

デヴィッド・ジンマン/チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団


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★★★★
一楽章、アタックが強い冒頭。強弱の差がすごく激しい演奏です。
一つ一つの表情に勢いを感じさせる演奏なのが、音楽を生き生きさせているのだと思います。
小編成のメリットを生かした機敏な反応がたまらない良さです。
コントラストがはっきりしていて、ホルンを思いっきり吹かせたいするところなどCD化以降の評価を気にせずに、ジンマンがやりたいことをやった演奏で、最近の没個性の演奏の中にあっては異彩を放っている演奏だと思います。

二楽章、一楽章から間を空けずに演奏されました。葬送行進曲とすれば軽い演奏です。

三楽章、また、軽快な音楽に戻りました。当時はこんな演奏が本当にされていたのではないかと思ってしまうほど説得力があります。

四楽章、細部まで表現は徹底しています。

アンドレ・クリュイタンス/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

クリュイタンス★★★★
一楽章、美しく堂々とした冒頭です。注意深い弦の刻み。少しテンポを落として心のこもったオーボエの主題。オケが暴走するような爆演には決してなりません。制御の利いた美しい演奏です。

二楽章、お互いの音を聴きあって細心の注意を払って演奏されているような弱音部。緊張感を伴った静寂間があります。

三楽章、際立った表現や誇張された部分はありませんが、中庸の安心感があります。

四楽章、少しつんのめった感じの冒頭でした。速めのテンポで進みます。力強い推進力。少しテンポを上げて演奏を終えました。

ヘルベルト・ブロムシュテット/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団 1978年東京ライヴ

ブロムシュテット★★★★
一楽章、冒頭の4分音符はティンパニがフライイングぎみでした。続く木管は太く非常にゆったりとしていて優雅です。シュターツカペレ・ドレスデンの柔らかい音色がとても心地良い響きです。第一主題も優雅に舞うようです。テンポは微動だにしません。ティンパニが乗り遅れる場面もありました。

二楽章、ゆっくりと語りかけるような演奏です。少し進むと僅かにテンポが落ちてさらに訴えかけるような表現になりました。この楽章はテンポが動いて深い表現です。

三楽章、この楽章も速くはありませんが、躍動感があります。トゥッティでも決して固くはならない柔らかく美しい響きです。

四楽章、前進する力は僅かです。アバドの流れるような演奏に比べるとはっきりとした脈動があります。最後は少しテンポを速めましたが、金管が吠えることもなく全体的に整った美しい演奏でした。
柔らかく美しい響きが魅力的な演奏でした。二楽章の深みのある表現もとても良かったと思いますが四楽章の爆発するようなエネルギーが無かったのが残念です。
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ピエール・ブーレーズ/ニューヨーク・フィルハーモニック 1975年ベルリンライヴ

ブーレーズ★★★★
一楽章、予想外に柔らかい響きで、アンサンブルも整っています。小じんまりとしていて清涼感のある響きです。第一主題の手前でリタルダンドしました。それ以降も時々ritがあるのですが、ちょっと不自然でくどい感じがあります。前へ進む感じよりも後ろへ引っ張られるような感じの演奏です。

二楽章、深く歌う第一主題。この頃のブーレーズの音楽と言うと切れ味鋭く人間味に乏しい印象でしたが、どうして、とても暖かく人間味に溢れた演奏です。トリオでは澄み渡った雪景色のような美しさです。

三楽章、ゆったりめのテンポでまろやかで優しい響きです。ドタバタせずに穏やかで優雅な演奏はこれまで聞いたことの無いタイプで、これはこれでなかなか良いものです。バーンスタイン時代には暴れ馬のようなオケだったのが、これだけ上品で整った演奏をするまでになったのはブーレーズの大きな功績です。

四楽章、この楽章でも力感はあまり無く、自然体で力の抜けた演奏です。音楽の振幅も大きくは無く、この曲としてはゆったりと進む感じです。泰然自若でどっしりとして動じることの無い演奏です。最後は少し高揚して終わりました。

一楽章ではちょっと不自然なテンポの動きがありましたが、二楽章以降は力みの無い自然体の演奏で、ゆったりと優雅に流れる音楽がとても心地良いものでした。
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マキシミアンノ・コブラ/ブラジル交響楽団

コブラ★★★★
一楽章、深みのある響きでとてもゆっくりとした演奏です。「指揮棒の一往復を1拍とする」と言う、テンポ・ジュスト理論の演奏で演奏時間は通常の倍かかることになりますが、実際にはそこまで遅くはありません。最初は聞くに堪えないほどの遅さかと思いましたが、始まってみると、かなり遅いですが、鑑賞には十分に堪えます。オケの響きはサラッとした爽やかなもので、この遅い演奏を聴くにはちょうど良い音質です。テンポは遅いですが、特に濃厚な表現などはありません。淡々と自然体の音楽です。

二楽章、遅く重く暗い表情の第一主題。切々と感情を込めて歌われるところはなかなか聞かせますがテンポのタメや動きはほとんど無く、ただ楽譜を音に変えているだけのような印象もあります。

三楽章、奥行き感があって美しい響きです。テンポは遅いですが、演奏そのものにはスピード感があり置きに行ったような演奏ではありません。トリオのトゥッティの広がりもあり大きな響きを作っています。ティンパニがドローンとした響きでこのテンポには合っているのかも知れませんが、もう少し硬質でも良いような気がします。

四楽章、この楽章も遅いですが、演奏にはスピード感があって、音楽が停滞するような感じはありません。弛緩した感じもなく、このテンポでも緊張感は維持しています。
遅いテンポでしたが、美しい響きで良くコントロールされていました。この遅さてもスピード感を感じさせる演奏もなかなか良かったと思います。ただ、テンポ・ジュスト以外の主張が無かったのは少し残念でした。
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投稿者: koji shimizu

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