ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」3

たいこ叩きのベートーヴェン 交響曲第9番「合唱付き」名盤試聴記

オトマール・スウィトナー/ベルリン・シュターツカペレ

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一楽章、正統派同士の組み合わせで聞く「第九」繊細で美しい演奏です。流れが停滞することなく音楽が泉のようにわきあがってくるような自然さで、音楽に身をゆだねることができる、すばらしい演奏です。
ティンパニのロールはもの凄く激しい。端整な演奏の中に時折見せる激しさも音楽の流れを壊すようなことは決してありません。激しさも美しい音楽の流れの中にあります。
どっしり構えたテンポで堂々と音楽が進みます。自信にあふれた足取りです。

二楽章、いぶし銀のような渋い輝きを放つオケ、軽快なリズムのスケルツオでも華美にはならず、抑制の効いた演奏。音楽にどっぷりと浸かることができます。

三楽章、宝物を大切に大切に扱うかのように、音楽に込められた愛情が溢れてくるようです。本当にすばらしい。音楽で癒されると言うのは、こういう演奏を聴いた時ですね。

四楽章、弦の音がとても伸びやかで美しい。自然な流れで心地よい。合唱のバスがちょっと弱いような感じがしますが、ffで終わった後の残響も美しい。

まさに伝統に法った、正統派の演奏の極みだと思います。疲れた心に染み渡る。
ベートーベンって良いなあ、やっぱり。

ズービン・メータ/ニューユーク・フィルハーモニック

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そもそも、メータのベートーベンというもの自体があまり想像できないのですが、スタンディングオベーションが10分間も続いたと言われている、伝説のライブです。

一楽章、かなりダイナミックな演奏を予感させる冒頭部分です。アンサンブルも整っているし美しい音だし、ホールに響く残響も綺麗です。
オケの集中力も高いようです。音の密度も高いし、音が集まってきています。
テンポの動きもあるし、ティンパニのロールも激しい。かなり劇的な演奏をしようとしているように感じます。

二楽章、少しテンポに乗り遅れるパートが・・・・・・。ホルンの響きも豊かな残響を伴って美しいです。
リズム感もいいですし、表現もシャープな感じでなかなか良い演奏だと思います。

三楽章、息の長いフレーズ感で歌われています。ただ、内面から湧き上がるような深々とした音楽が感じられないところが、少し残念なところでしょうか。
ホールの豊かな響きが、夢見心地のような感覚にさせてくれます。

四楽章、コントラバスも含めた弦合奏の厚みと木管のアンサンブルの軽快さのコントラストが良いです。
弦合奏がコントラバスの存在感が大きく厚み十分です。
1983年の録音ですから、メータはまだ中堅どころの年齢だと思いますが、かなり重心の低い堂々とした演奏です。
マーチに入る前のフェルマーターにはティンパニにのみデクレッシェンドが書かれているのですが、この演奏は楽譜通りティンパニのみデクレッシェンドしました。

劇的な爆発はなかったけれど、かなり完成度の高いコンサートだったのではないかと思います。

カルロ・マリア・ジュリーニ/シュトゥットガルト放送交響楽団

ジュリーニ★★★★
一楽章、ノイズが散見される録音ですが、音は生々しく捉えられています。
ミラノ・スカラ座poとの録音は音楽が停滞しているかのような遅さを感じたのですが、この演奏は力に満ち溢れていてすばらしいです。ただ、ノイズと音飛びが・・・・・・(T T)
木管のアンサンブルも生き生きして歌も十分です。
ジュリーニの表現も劇的ですごい気迫で迫ってきます。

二楽章、硬質な音のティンパニ!強烈に決まります。客席で録音しているようなので、マイクポジションの制限もあったのだと思いますが、木管楽器が特に鮮明に録られていて、表情が生き生きしていてとても良いです。

三楽章、表情豊かな音楽です。息の長いフレーズ感と歌はさすがジュリーニです。すばらしい歌です。
ジュリーニの演奏にしては、テンポは速いです。この楽章ではもっとたっぷりとした歌が聴けるかとおもいましたが、速めのテンポでも荒々しくならない歌です。

四楽章、かなり激しい演奏で、これまでのジュリーニのイメージとは異にするような演奏です。
独唱が入るあたりから、独特の雰囲気になってきました。そして合唱が入ると宗教曲のような高い世界が再現されます。

最後は雪崩れ込むように激しく終わりました。

セルジウ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

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一楽章、消え入るような弱音から始まり、第一主題が姿を現す頃にはかなりの音量になっています。シルキーで艶やかな弦の響きが美しい。とても滑らかに磨かれています。第二主題もとても滑らかに演奏されます。ティンパニの美しいロールのクレッシェンド。クレッシェンドに続いて32分音符でA.Dとなるのだが、Aの直前の音符は2つ無しになっています。しかし、楽譜の記譜は32分音符が1小節に16個書いてあるので、ロールをしている段階で楽譜と違うのですが・・・・・。

二楽章、凄く遅いテンポです。一楽章は遅いと言っても多少程度だったのですが、この楽章は極端に遅い。あまりの遅さでティンパニのソロが間延びしたような感じがします。微妙な強弱の描き分けが徹底されています。中間部はかなりテンポを速めて一般的なテンポになりました。この楽章でもシルキーな弦がとても美しい。この美しさは音程がぴったり合っているからなのだろうか?この遅いテンポでも一糸乱れぬ見事なアンサンブル。

三楽章、俗世界からは隔絶されたような幽玄の世界へ導かれます。チェリビダッケの揺り篭に揺られてこのまま眠りに付きたくなるような穏やかな音楽です。遠くから響くような美しいホルンソロ。静寂を破るトランペットと強打するティンパニが曲の雰囲気を一変させますが、また、何も無かったかののうに穏やかな音楽が続きます。

四楽章、冒頭のアウフタクトの次の小節の頭をティンパニが強く叩きました。ティンパニが次々と強打します。ひらひらと舞う蝶のようなフルート。さらっと滑らかな歓喜の主題。マーチからのトライアングルはとても良い音です。全合唱での歓喜の主題はかなり抑えられたもので、喜びを爆発させるような演奏ではありませんでした。続く男声合唱も探りながらのような表現で、オケとのバランスからもかなり抑えられています。この抑えられた合唱が逆に音楽の深みを感じさせるような感じもあります。プレスティシモも雪崩れ込むようなことはなく、落ち着いたテンポの演奏でした。

歓喜の爆発と言うよりも、静寂感の中からジワジワと喜びを感じるような演奏でした。

クリスティアン・ティーレマン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ティーレマン★★★★
一楽章、消え入るような弱音で始まりました。あまり力瘤の無い第一主題。とても軽く優しい演奏です。いつものようにテンポはよく動きます。テンポの動きには強引なところは無く、自然で納得できるものです。ティンパニのクレッシェンドは強烈でした。次第に音楽が濃厚になってきて、ねっとりとした表現になって来ました。コーダでは止まりそうになったりして、とても自由にテンポが動きます。

二楽章、ブライトコプフ版によるゆったりとしたテンポの演奏です。この楽章でもテンポを大きく落としたりします。これでもか!とばかりに濃厚で粘るテンポと表現です。中間部へ入る前はテンポをグッと上げました。ウィンナ・ホルンの柔らかい響きがとても心地良い。大きなテンポの動きなのですが、ちょっとやり過ぎかなと思うことが無いわけではありませんが、これだけはっきりと主張してくれる方が聞いていて爽快です。

三楽章、ビブラートをかけて美しい弦。最近のピリオド奏法とは一線を画す演奏です。ホルンの独奏もアゴーギクを効かせたもので、かなり表現を工夫しています。

四楽章、あまり激しくない冒頭。レチタティーヴォもゴリゴリと奥底から湧き上がるような強さはありません。歓喜の主題に入る前に大きく間を空けました。とても静かに演奏される歓喜の主題。トランペットが入って一気に華やぎます。少し奥まったところから響くバリトン独唱。響きに幅を持たせる合唱。トランペットが空気を突き破って響いて来ます。とても表情豊かな行進曲のピッコロ。行進曲の最後をアッチェレランドしました。壮大に歓喜の合唱。やはりトランペットが突き抜けます。Prestissimoの最後を僅かにテンポを速めました。

とても表現の幅の広い演奏で、テンポも自在に動かして表現しました。ただ、表面的な部分にのみ意識が集中してしまい、音楽の深みがあまり感じられなかったのが、残念でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

ヘルベルト・ブロムシュテット/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

ブロムシュテット★★★★
一楽章、振り子が振れるように振幅する音楽。ブロムシュテットらしく強い主張は無く自然体に徹した演奏です。この演奏でもティンパニのクレッシェンドは非常に激しいです。自然体の演奏ではありますが、ただ演奏しているだけではなく非常に高い集中力でアクセントなどのアーティキュレーションに対しても非常に敏感に反応する演奏です。

二楽章、現在では遅めのテンポになる感じのテンポで始まりました。ちょっと詰まった感じであまり釜が鳴っていないようなティンパニ。いろんな楽器が有機的に結びついているような生き生きとした演奏です。

三楽章、この楽章は速めのテンポで始まりました。深いところから湧き出してくるような歌です。揺れるような呼吸がある音楽です。

四楽章、あまり激しくない冒頭。レチタティーヴォもあっさりと軽く演奏されます。バリトン独唱の後の合唱はとても抑えた音量でした。フェルマーターでティンパニはデクレッシェンドしませんでした。行進曲は速めです。合唱は絶対的な声量が不足しているような感じがします。祝典的な雰囲気がとても良く出ています。Prestissimoも暴走することなく適度に速いテンポで終わりました。

自然体ですが、有機的に結びついた音楽でした。振り子が振れるように振幅して、呼吸感もありました。ただ、合唱の人数が少ないのか、音量が少し不足ぎみに感じました。
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投稿者: koji shimizu

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