ブラームス 交響曲第1番3

たいこ叩きのブラームス 交響曲第1番名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、ティパニの一撃一撃が強く訴えかけてくる深刻な悲壮感が漂う序奏。ダイナミックの表現の幅がとても広いです。表現がキビキビしていて、とても反応が良く、オケの集中力の高さを感じさせます。作品の中から何かを抉り出そうとするような感じで一音一音が強く、コントラストがはっきりしています。

二楽章、穏やかでとても良く歌います。オーボエも美しい。イギリスのオケらしいクラリネットの音。穏やかなのですが、音が強いので音楽にどっぷりと浸って酔いしれることはできません。ヴァイオリンのソロも強い音です。

三楽章、伸びやかなクラリネット。録音によるところもあるのかも知れませんが、全体を支配している強い音が時には、キツい音に感じたり硬さになったりするのが残念なところです。

四楽章、テンポの動きにも俊敏反応するオケ。朗々と歌うまろやかなホルン。続くフルートも伸びやかで美しい。速めのテンポで演奏される第一主題。時に作品にのめり込んだような激しさも聞かせます。二回目に現れる第一主題は幾分テンポを落としてたっぷりと歌われます。テンポもよく動きます。華やかな終結部は少し地味な雰囲気で閉じました。

感情の込められた演奏でしたが、時に音の硬さが感じられたのが残念でした。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、堂々とした遅いテンポで開始しました。テンポも動き劇的な表現の演奏です。

二楽章、唸りを上げるコントラバス。予想外に無表情なオーボエのソロでした。

三楽章、積極的な表現とテンポの動きです。

四楽章、抑制の効いたティンパニのクレッシェンドでした。フルトヴェングラーならではのテンポの煽り。

ジョルジュ・プレートル/シュトゥットガルト放送交響楽団

プレートル★★★
一楽章、ゆっくりめで堂々とした深みのある序奏。リズミカルで弾むような主部。緩急の変化が大きく、音楽の振幅も大きいです。

二楽章、まろやかで柔らかい演奏ですが、一つ一つの音符を膨らますような独特の表現もあります。清涼感のあるヴァイオリンの弱音。豊かな表情のオーボエ。潤いのあるクラリネット。どれも美しいです。細部に渡って表現のこだわりを感じます。

三楽章、とろけるような柔らかさで上品に歌うオケ。上手く表現できませんが、独特の表現があります。最後はゆっくりになって終わりました。

四楽章、落ち着いて整然とした序奏。遠くから響くようなアルペンホルン風の旋律。ピーンと響くフルート。柔らかいけれどきびきびと動くコラール。第一主題の前の盛り上がりは凄く力強いものでした。第一主題も独特の歌で、力が入ったり抜けたりします。テンポを次第に速めます。再現部の前のクライマックスも整然としていました。アルペンホルン風の旋律が回帰する前のクライマックスでは突然音量を落とす部分もありました。ここでもゆったりとしたテンポで整然とした演奏でした。コーダもとても冷静で落ち着いて整った演奏でした。

とても客観的で、冷静で整然とした演奏でした。表現も独特で、クライマックスで突然音量を落とす部分など、かなり個性的でもありました。
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ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

セル★★★
一楽章、力強く前へ進もうとする序奏。テンポも速めです。かなり激しい振幅のある音楽です。主部の冒頭のティンパニは容赦ない強打でした。主部に入っても激しく強い表現で非常に彫りも深いです。とても気合いの入った演奏で、セルの意気込みが感じられます。

二楽章、とてもゆったりとしていて情感に溢れる演奏です。感情のままにテンポも揺れ動き歌も美しいです。繊細に丁寧に一つ一つの音符を扱うような演奏。テンポの揺れと言い歌と言いとても普段聞くセルのイメージとはかけ離れています。

三楽章、一転して速いテンポであっさりとどんどん進んで行きます。ヴァイオリンやトランペットの音が少し硬い感じで録られています。

四楽章、ティンパニはあまり大きなクレッシェンドをしませんでした。ゆっくりとしたテンポのピィツイカートは僅かにテンポを速めました。あまり間接音を含まずマットなアルペンホルン風の旋律。静かなコラール。薄い響きで爽やかな第一主題。テンポを速めながら激しくなります。コーダへ向けてすさまじいアッチェレランドでした。トランペットやトロンボーンが突き抜けてきますが意外に大人しいコーダでした。

二楽章までは感情のこもった起伏の激しい演奏でしたが、三楽章以降は感情を抑えたあっさりとした表現になりました。前半の演奏をそのまま最後まで続けて欲しかったと個人的には思いました。
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ヴォルフガング・サヴァリッシュ/NHK交響楽団 1987年ライヴ

サヴァリッシュ★★
一楽章、悲痛な序奏。美しい木管のソロ。アレグロの主部に入りは遅いテンポですが、次第にテンポが速くなります。とてもバランスが良く純粋な演奏です。強弱の振幅はN響の限界なのか、あまり大きくはありません。

二楽章、サヴァリッシュが個性を表出するようなことはありませんが、滲み出るような美しさはさすがです。艶やかなヴァイオリンのソロはとても豊かな表現です。

三楽章、滑らかで美しいクラリネット。テンポを落として優しく終わりました。

四楽章、ティンパニの激しいクレッシェンド。嵐の前触れのようにザワザワとする弦。間接音が少なくマットで浅い響きのアルペンホルン風の旋律のホルン。フルートは伸びやかです。厚みのないコラール。薄い響きでサラッとした第一主題。ブラームスらしい分厚い響きが無く、とても淡白です。コーダもコラールもとても爽やかです。

サヴァリッシュらしく強い感情の吐露などはありませんでしたが、爽やかな美しい演奏でした。ただ、ブラームスが爽やかで良いのか?と言う疑問も感じました。
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ギュンター・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団 1983年

ヴァント★★
一楽章、非常に速いテンポの序奏。主部の方が僅かにテンポが遅くなります。特に目立ったことは何もしていませんがコントラストは鮮明です。ブラームス独特のちょっとボッテリしたような厚みは無く、スッキリとした演奏です。

二楽章、穏やかで安らぎ感のある冒頭。色彩感はとても鮮明です。

三楽章、この楽章も速めのテンポで前へ前へと進みます。ヴェールに包まれたようなマイルドなトリオ。

四楽章、ティンパニはあまり大きなクレッシェンドはせず、続く弦もとても控え目です。響きが薄い分、動きはシャープです。コラールもすごく控え目な表現です。控え目で奥ゆかしい歌の第一主題。第一主題が終わると突然テンポが速くなります。常にヴェールに覆われているような感じで刺激的な音は一切ありません。むしろ弱々しい感じさえするほどです。コーダでもエネルギーを開放するような感じは無く、終始抑制された感じでした。

ヴァントの演奏らしく大きく目立った表現はありませんでしたが、普通ではあまり無いテンポの変化があったり、ブラームスらしい厚みが無かったりと少し疑問を感じる演奏でした。
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リッカルド・ムーティ/フィラデルフィア管弦楽団

ムーティ★★
一楽章、ソフトフォーカスな録音です。あまり細部は分かりません。したがって悲痛な雰囲気もあまり伝わっては来ません。提示部の反復がありました。テンポを落として濃厚に強く描く部分がとても印象的です。

二楽章、微妙なテンポの動きに合わせた歌。

三楽章、

四楽章、ムーティの指揮姿は激しいのですが、あまり強弱の変化が聞き取れない録音です。ピーンと突き抜ける美しいフルート。ゆったりと穏やかなコラール。速いテンポで颯爽と進む第一主題。アルペンホルンの旋律が回帰する前のクライマックスではテンポの変化もありタメがあったりして、激しい表現でした。オケが一体になった迫力のコーダです。コラールのたっぷりと濃厚でかなり強いです。堂々とした終結でした。

四楽章の後半からはかなり熱気と感情移入を感じさせる熱演でしたが、それまでは録音の問題もあって何をしているのかあまり分かりませんでした。
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ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団

ハイティンク★★
一楽章、柔らかく深味のある響きですが、とても穏やかで動きはあまりありません。主部に入ってもあまり大きな振幅も無く比較的穏やかな演奏が続きます。ショルティ時代のシカゴsoとは違う柔らかい響きには感心します。

二楽章、優しく慈愛に満ちた美しい演奏です。フワッとしていて重量感はありません。芯のしっかりとしたヴァイオリンのソロ。

三楽章、控えめに始まってクレッシェンドするクラリネット。優しくおっとりとしていてあまり活発な動きはありません。

四楽章、急き立てるような緊張感は無いピィツイカート。アルペンホルン風の旋律はゆったりとしたテンポで広い空間をイメージさせてくれます。第一主題は一転して少し速めで颯爽と進みます。再現部の前のクライマックスは色彩感豊かで華やかでした。コーダへ向けてクレッシェンドしながらテンポを落としました。コーダも非常にゆったりとしたテンポでちょっと間が持たない感じがします。コラールは絶叫のようでした。最後は落ち着いて穏やかな終結です。

ハイティンクの演奏にしては緊張感や一貫性が無かった感じで、あまり良い印象の演奏ではありませんでした。表現が行き当たりばったりでとても散漫な感じを受けました。
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ダリル・ワン/ヴィクトリア交響楽団

ワン★☆
一楽章、あっさりとした響きのオケです。序奏の途中で一旦音量を落としました。響きは整理されているのかとてもシンプルに響きます。テンポの動きにオケが付いて行けない部分もありました。テンポは感情のままに動きます。残念ながら響きに深みはありません。

二楽章、ゆっくりとした冒頭。一流オケのような味わいはありません。ヴァイオリンのソロも少し雑な感じがします。ホルンにもふくよかさがありません。

三楽章、今ひとつ鳴り切っていないような木管。安っぽい弦。鳴り切った柔らかさがありません。

四楽章、音程が不安定なアルペンホルン風の旋律。暗く沈んだコラール。管楽器のブレスのたびにアインザッツがズレます。胴があまり鳴っていないようなザラザラとした弦が気になります。クライマックスでも厚みがありません。コーダへ向けてアッチェレランドとともにクレッシェンドしました。コラールも鳴らない楽器を無理に吹いているような感じがして痛々しいです。最後はゆっくりとしたテンポになって終わりました。

独特のテンポの動きや不意打ちのような強弱の変化など工夫を凝らした演奏でしたが、鳴りの悪いオケの響きはとても貧相で、アンサンブルの悪さもとても気になりました。数々の名演があるこの曲で、このオケの演奏はかなり厳しいものがありました。
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ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

ケンペ
一楽章、物凄く軽い冒頭。一瞬調が違うのか?と思いました。たっぷりと歌うオーボエ。古めかしい音です。引っかかるようなテンポの動きがあったりします。

二楽章、ふくよかで柔らかい響き。テンポも動いて感情のこもった歌です。少し枯れたヴァイオリンのソロ。残照のようなホルン。ただ、低域があまり聞こえず響きが薄いのが気になります。

三楽章、薄っぺらいクラリネット。ドイツのクラリネットとは思えないようなビービーと鳴る音には違和感を感じます。

四楽章、ほとんどクレッシェンドの無いティンパニ。腰高で甲高い響きでブラームスらしい厚みは全くありません。第一主題もザラザラとした響きでとても薄いです。テンポの動きもあって激しい表現もありますが、やはり厚みの無い響きはブラームスらしくありません。かなり速いテンポのコーダ。

物凄く軽い序奏から、薄っぺらいクラリネット。厚みの全く無い響き。とてもブラームスとは思えない演奏でした。ただ、これはCD本来の音では無いと思います。ダビングした機材の特性によるものだと思います。
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カルロ・マリア・ジュリーニ/ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

ジュリーニ
一楽章、歪っぽく途切れ途切れのような音です。大きく動くテンポ。ゆったりとたっぷりとした歌です。主部に入ってもゆっくりとしたテンポは変わりません。トゥッティは混濁してよく分かりませんが咆哮するような感じは無く、激しさはあるものの優雅な感じがあります。テンポも思い切って遅くなる部分もあります。

二楽章、ザラザラとした弦。

三楽章、歪みがひどくて細部がどうなっているかさっぱり分かりません。

四楽章、ティンパニがクレッシェンドすると激しく歪みます。1930年代の録音を聞いているような感じがします。ゆっくりとしたテンポで丁寧な演奏をしているようには感じますが、録音が悪くて分かりません。第一主題の再現の前のクライマックスではゆっくりとしたテンポをさらに遅めてスケールの大きな演奏をしているようでした。

歪みがひどくて、想像力を働かせて聞かないと何をやっているのか分からない演奏でした。ジュリーニのブラームスなので期待したのですが、録音の悪さはとても残念でした。
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イシュトヴァン・ケルテス/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ケルテス
一楽章、甲高い音で速いテンポでせきたてるような序奏。いかにも古い録音と思わせる響きです。大きく歌うことは無く、速いテンポでどんどん進みます。ワウ・フラッターのような音程の変化もあります。甲高く潤いも無く乾いた響きで聞く気を削がれます。

二楽章、強い表現をすることは無く、自然体で力みも無い演奏ですが、この録音の悪さには閉口します。

三楽章、穏やかなクラリネット。ワウ・フラッターがひどくて音程が変化します。

四楽章、アルペンホルン風の旋律でも音程が変化して酔いそうです。第一主題でも胴があまり鳴っていないような貧しい響きでした。勢いのあるコーダです。

録音がひどくて、演奏がどうのこうのと言う以前の問題のように感じました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブラームス:交響曲第1番の名盤を試聴したレビュー

投稿者: koji shimizu

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