ブルックナー 交響曲第8番3

たいこ叩きのブルックナー 交響曲第8番名盤試聴記

ロベルト・パーテルノストロ/ロイトリンゲン・ヴュルッテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かに歌われる第一主題。豊かな響きにオケに厚みを感じます。とても良く歌います。大聖堂に響く残響がとても心地よい演奏です。ティンパニも深い響きです。ライヴとは思えない完成度の高さに驚きます。強奏の後のパウゼで大聖堂に響いた残響が減衰していくのがとても心地よく。ブルックナーの作曲意図が良く分かります。

二楽章、速目でくっきりとした表情です。この楽章でも強奏の後のパウゼで減衰していく残響がすごく印象的で効果的です。パーテルノストロはこの全集のコンサート会場を大聖堂にしたことはとてもよく理解できます。全体的にトランペットは強めですが、ホルンは若干控え目で、咆哮することはありません。強弱の変化に対しても敏感でとても表情豊かな演奏です。ランペットが長く伸ばす音で度々クレッシェンドします。最後は大きくritして終わりました。

三楽章、胴の鳴りが豊かに聞こえる弦楽器。作品への共感を伺わせるとても感情の込められた歌が高揚していきます。豊かな残響のおかげか、テュッティでも押し付けがましくなく、さらりと聞き流せます。

四楽章、冒頭、弦のテンポに少し遅れるブラスセクション。トゥッティでも残響に包まれて、音楽を押し付けてはきません。オケの疲れも出てきたのか、少しミスが出てきました。金管の強奏部分でも音をテヌートぎみに保つこともなく、比較的淡白な表現です。トランペット以外の金管が弱く少しバランスが悪いようです。

豊かな残響で、押し付けがましくない演奏にはそれなりの魅力がありましたが、金管のバランスの悪さはちょっと気になりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

icon★★★☆
一楽章、うねるような第一主題。重厚な響きです。一転して明るい第二主題。歌う木管。下降音型は余力を残したものでした。力むこともなく、誇張することもなく、自然体の演奏です。ことさら強調することもない「死の予告」。「あきらめ」を上手く表現したコーダでした。

二楽章、冒頭の弦が音を短めに演奏しました。強奏部分はトランペット以外はかなり抑えぎみです。際立って美しい音色で演奏されているというわけではありません。

三楽章、割と大きめの音量で開始しました。かなり現実的な第一主題です。poco a poco accelあたりから音楽に熱気を帯びてきました。12/8拍子の第一主題を強奏する部分では、ティンパニに豊かな支えの上に豊かな旋律が乗りました。クライマックスの上昇型のアルペッジョも余力を残した豊かで広々とした感じの演奏でした。音量を極端に抑えることのないコーダでした。

四楽章、余力を残した第一主題。泉から湧き出すように豊かな第二主題。速目のテンポで演奏される第三主題。ここでも余力を残した「死の行進」。再現部の第一主題は冒頭の演奏より力強い演奏でした。次第にテンポを上げ音楽が切迫してきます。また、テンポを落としてゆったりとした演奏になりますが激しさが増してきます。 コーダに入ってもそんなに雰囲気は変わりません。最後はトランペットが弱かったですが、全開の演奏でした。

スタニラフ・スクロヴァチェフスキ/ザールブリュッケン放送交響楽団

スクロヴァチェフスキ★★★☆
一楽章、とても弱い音からはじまりますが、豊かに歌う第一主題。重厚なトゥッティ。明るく柔らかく透明感のある第二主題。金管は激しいですが、どっしりと落ち着いている第三主題。「死の予告」はトランペットよりもトロンボーンの存在感が大きい演奏でした。重厚な分厚い響きはなかなか良いです。

二楽章、緊張感のある冒頭のヴァイオリンでしたが、主要主題はおおらかで伸び伸びとしていました。ホルンの下降音形は軽く演奏されます。ゆったりと穏やかですが、繊細な表現のトリオ。主部が戻ると、トゥッティでも軽く演奏される部分と思い切った強奏とがあります。

三楽章、しっかりとした存在感の第一主題A1。広々とした雰囲気のA2。あまり伸びやかさが無いワーグナーチューバ。トゥッティはあまり激しい演奏では無く、美しい響きです。シンバルが入る部分も余力を残した美しい響きでした。コーダはこの世に別れを告げるように黄昏て行きます。

四楽章、トロンボーンの強奏に比べると控えめなトランペットの第一主題。重い第三主題。「死の行進」はティンパニの強烈な打ち込みで速いテンポで進みます。第一主題の再現の途中で大きくテンポを落としましたが巨大なスケール感はありません。間延びしたようなところもあったコーダでした。

テンポの動きやいろんな表現のある演奏でしたが、スケールはあまり大きくありませんでした。
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サー・ジョン・バルビローリ/ハレ管弦楽団

バルビローリ★★★☆
一楽章、大きな息遣いで歌う第一主題。明るくさっぱりとした表現で新鮮な第二主題。録音は古いですが、引き締まった良い音で鳴っています。トゥッティはたくさんの音は聞こえて来ませんが、硬質な響きで力強い音がしています。激しくトランペットが鳴り響く「死の予告」。コーダもとても良く歌います。

二楽章、表現の大きい主要主題。テンポは速いです。この楽章でもトランペットが強いです。生き生きと動く木管。弦もエッジを効かせて主張します。テンポは落ちますがとても活発に動くトリオ。主部が戻ると活発で推進力のある演奏になります。

三楽章、ザラザラとしたヴァイオリンの第一主題A1。力強くクレッシェンドするA2。豊かに歌うB1。A1の再現のpoco a poco accel. はかなり速いテンポまで追い込んで行きます。トゥッティでも音が整理されていて、壮絶な不協和音にはなりません。基本的には速めのテンポの演奏です。シンバルが入る前もかなりテンポが速くなりました。

四楽章、 突然トランペットが突き抜けて鳴り響く第一主題。「死の行進」へ向けてテンポを速めて力強い演奏でした。これまでの楽章でも弦のアタックが強く短めに演奏する部分がありましたが、この楽章でもフルートが強いアタックで演奏する部分がありました。第三主題の再現は物思いにふけるようにゆっくりと演奏され次第に速くなります。コーダは日の出前の暗闇から徐々に明るくなってご来光が現れて、それが燦然と輝くようなイメージでしたが、金管の響きがあまり輝かしく無く、枯れた響きだったので、光の完全な勝利とは言えない感じでした。

大きな表現や独特の音符の処理などもありましたが、録音によるものなのか、音が整理されていて多層的な響きや壮絶な不協和音はあまり聞けませんでした。
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カール・シューリヒト/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、奥行き感の浅い録音で、金管がすごく近いです。速いテンポですが、とても良く歌います。第三主題の前の経過はとても丁寧にritしました。すごく近い位置にいるトランペットが不自然です。激しいfff。再現部の第二主題などはテンポが速くせわしない感じもあります。余力を残した「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。近くにいるトランペットが軽く、奥まったホルンが激しく演奏する不自然さ。強奏で終った時にホールに残る残響が美しい。ホルンの下降音型の前に弦のクレッシェンドをしますが、クナッパーツブッシュの演奏ほど極端ではありません。

三楽章、とても現実的な第一主題。上昇型のアルペッジョもすごくテンポが速い。木管もワーグナーテューバも現実的な響きで「神」を聞くことはできません。poco a poco accelの部分では多くの楽器が入り交ざりとても豊かな響きを作り出しました。クライマックスは壮大でした。

四楽章、全開の第一主題。この楽章ではトランペットが飛びぬけることがなくバランス良くなりました。第二主題もコントラバスがゴリゴリととても積極的な表現です。第三主題も速い。「死の行進」直後のホルンがとても積極的に歌いました。テュッティはなかなか充実した響きです。あまりにも音楽の展開が速く、聴き手側が消化不良になりそうです。再現部の第一主題はテンポが何度も動きました。その後もテンポはよく動きます。あっけなく終りました。

私には、演奏に深みが感じられず残念でした。

ダニエル・バレンボイム/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

バレンボイム★★★
一楽章、重厚な響きで探りながら始まる第一主題。柔らかく伸びやかな第二主題。トゥッティでも咆哮することは無くバランスの良い余裕のある響きです。「死の予告」はやはり咆哮はしませんが、壮絶な雰囲気はあります。

二楽章、かなり速いテンポで慌ただしい演奏です。トリオはゆったりとしたテンポになり豊かに歌います。主部が戻るとまた、、速いテンポで落ち着きの無い演奏になります。

三楽章、とてもゆっくりで小さい音で漂うような第一主題A1。注意深い歌い回しのA2。ゆったりと歌うB1。シンバルが入る部分はあっさりとしていてあまり厚みもありませんでした。演奏は淡々と進んで行きます。

四楽章、充実した美しい響きの第一主題。見事に鳴り響くベルリンpoはやっぱり上手いです。「死の行進」は少しテンポを速めて力強い演奏でした。特に強い表現はありませんが、美しく進んで行きます。コーダの最後は凄くテンポが速くなってお祭り騒ぎのような感じになりました。

充実した見事な響きで安定感のある演奏でしたが、何故か四楽章のコーダの最後が凄く速いテンポになってお祭り騒ぎのようになってしまったのが、どうしてなのか良く分かりませんでした。
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フランツ・ウェルザー=メスト/グスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団

ウェルザー=メスト★★★
一楽章、最初の二つの音を短く演奏する独特の表現の第一主題。ダイナミックなトゥッティ。速めのテンポで積極的に歌う第二主題。第三主題はゆっくりと一音一音刻み付けるような表現です。悲鳴を上げるような「死の予告」。

二楽章、トリオはゆっくりとしたテンポで丁寧に描いて行きます。

三楽章、柔らかいですが、漂うような感じは無い第一主題A1。あまり伸びの無いワーグナーチューバ。B1、B2の再現の前の盛り上がりで弦がスタッカートぎみに演奏しました。A1の二回目の再現は暖かくなります。トゥッティはあまり強くありません。豪快に鳴るシンバル。金管も輝かしく鳴り響きます。続く弦は音を短く演奏します。

四楽章、壮絶でトランペットが強く咆哮する第一主題。第二主題でも弦が音を短く演奏する部分がありました。ゆったりと力の抜けた第三主題。軽く演奏される「死の行進」。木管も音が短い表現があります。テンポの動きもあって、踏み込んだ表現もあります。テンポが大きく動いてリズムの扱いも独特です。コーダの最後も軽く演奏されました。

頻繁なテンポの動きや独特のスタッカートやリズムの処理など強い個性を感じさせる演奏でしたが、この作品の表現としてはあまり納得できる表現ではありませんでした。
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カルロス・パイタ/フィルハーモニック交響楽団

パイタ★★★
一楽章、速いテンポでサラッと歌う第一主題。笑うように吠えるトゥッティ。第二主題も第三主題もテンポが速く、トゥッティ強烈で全く落ち着きがありません。とにかく吹きまくる金管には開いた口がふさがりません。「死の予告」などはおもちゃ箱をひっくり返したような大洪水です。

二楽章、この楽章もすごく速いテンポで進みます。速いテンポで下品に吠える金管。トリオはゆっくりとしたテンポで予想外に味わいがあります。それでも金管は必要以上に咆哮します。最後はテンポを速めますが、これがまた全く落ち着きの無いバタバタしたものでした。

三楽章、はっきりとした弦の刻み。硬い音で強めな第一主題A1。涼やかで美しいA2。ここまでの二つの楽章の下品さからはちょっと意外な神聖な演奏です。それでもホルンは強烈に咆哮します。ここまで吹かなくてもと思うくらい必死な金管。二回目のA1の再現の後のトゥッティはもう絶叫です。急にテンポが速くなったり自由自在(やりたい放題)な演奏です。シンバルが入る部分は真夏の太陽がギラギラと照りつけるような熱く強烈なものでした。コーダはとても良く歌うのですが、テンポが速めであまり味わいがありません。

四楽章、慣れてきたのか、第一主題はあまり強烈には感じませんでした。第二主題はとても頻繁に楽器が入れ替わって色彩感は豊かですが、ちょっと忙しい感じがあります。第三主題は速いテンポがさらに速くなります。「死の行進」は凄い速さで乱暴に演奏する金管。テンポが結構動きます。それにしてもここまで金管を強奏させる必要があるのでしょうか?。金管の奏者たちの血管が切れるのではないかと思わせる程の強烈この上ないコーダでした。

パイタのやりたい放題の強烈な爆演でした。ここまでやってしまうと神の世界の崇高さとは全く無縁の演奏している人たちの必死さが映像として浮かんできて、とても人間臭い演奏になってしまいます。
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ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

クーベリック★★☆
一楽章、少し遠くから響いてきて、あまり大きな表現の無い第一主題。トゥッティは咆哮するような壮絶な響きでは無く、余裕のある節度のある響きです。慌ただしく動く第三主題。展開部のトゥッティはかなり激しいようですが、音場感が少し遠いので、壮絶さは伝わって来ません。「死の予告」はトランペットが強く抜けて来ます。

二楽章、ほどほどに動きのある主要主題ですが、やはり遠くから響く感じであまりはっきりとした動きは分かりません。トリオはあまりのどかな雰囲気では無く、ここでも活発な動きです。

三楽章、弱音で演奏されますが、はっきりとした存在感の第一主題A1。速めのテンポでサクサクと進みます。内に秘めたようなB1。硬い響きのワーグナーチューバ。デッドな録音の問題もあるのだと思いますがトゥッティの金管のバランスがあまり良くない時もあります。シンバルが入る前に間があって、シンバルが炸裂します。トランペットが強く突き抜けました。

四楽章、ここでもトランペットが強い第一主題。淡々とした表現の第二主題。第三主題の表現も控え目です。「死の行進」も全開にはならず、余裕を残した響きです。速めのテンポであまり深い味わいはありません。第三主題の再現からテンポが速くなりました。コーダの最後は全開になりましたが、少し投げやりな感じの演奏になってしまいました。

オーソドックスな演奏で、特に大きな表現などは無く淡々と進む演奏でした。あまり表現に深みが無く、最後も投げやりで雑な演奏になってしまいました。
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クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★
一楽章、すごく積極的に歌われる第一主題。トゥッティでの響きの厚みはありません。速めのテンポで弱く優しく演奏される第二主題。第三主題も速いテンポで演奏されます。トゥッティの響きは浅く、奥行き感がありません。激しい「死の予告」。

二楽章、この楽章も速いテンポです。ホルンも間接音を含まず奥行き感がなく前面に出てきてしまいます。トリオはテンポも動き歌います。ハープはあまり強調されていません。スケルツォ主部が戻り再び速いテンポになります。ホルンのマイク位置が近いのか、かなり強調されています。テンシュテットらしい濃厚な表現はあまり感じません。

三楽章、第一主題は完全にピッチが合っていないような透明感の不足した響きでした。くっきり浮かび上がるワーグナー・チューバ。テンシュテットのマーラー演奏などに見られるような作品への深い没入はあまり感じられません。淡々と演奏が進んで行きます。第一主題の二回目の再現も深みがありません。クライマックスへ向けてテンポを速めてクライマックスで元のテンポに戻しました。クライマックスは打楽器も効果的で壮大なもので素晴らしかったです。コーダはたっぷりと濃厚な表現でした。

四楽章、第一主題の色彩感が乏しく、モノトーンのような感じがします。第三主題はテンポも動いて、切迫感を感じさせるものでした。ホルンが激しく咆哮する「死の行進」。テンポはよく動いています。コーダの冒頭は霧の中から聞こえてくるような幻想的な雰囲気がとても良かったです。コーダでテンポが動きます。

テンシュテットらしい作品への没入が感じられない演奏で、残念でした。

ピエール・ブーレーズ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ブーレーズ★★
一楽章、表情豊かに大きく歌う第一主題。響きが少し緩んだ感じがする第二主題。トゥッティはあまり大きなエネルギーを感じません。豊かな残響でとても巨大な「死の予告」。

二楽章、速いテンポで軽く演奏される主要主題。響きが豊かなのですが、その分音の密度が薄れていて、色彩感も薄い感じがします。中間部も密度の薄い音で淡々と流れて行きます。響きが豊かなのに深みや奥行き感がありません。

三楽章、適度に歌う第一主題A1。A2も感情が込められた歌なのか、ブーレーズの昔のイメージとは違う表現です。チェロのB1は淡々としていますが、やはり音の密度が薄いです。ウィーンpoらしい凝縮された濃厚な色彩感は表現されません。トゥッティは音が拡散して力が集中しません。シンバルと共に登場するトランペットは高らかに伸びやかで強烈な演奏でした。

四楽章、フワッとしていますが、厚みのある響きで躍動感のある第一主題。第二主題も第三主題も動きが強調されているようで、とても活発です。「死の行進」はモワーッとした響きの中からトランペットが響いて来ます。再現部の前の巨大なクライマックスですが、木目の粗い響きがとても気になります。巨大な響きのコーダでしたが、膨張した響きでこの演奏を象徴するような締まりの無い最後でした。

教会での録音のようですが、残響が多く響きが緩んで木目の粗い芯の無い響きになってしまいました。密度が薄く濃厚な色彩感のウィーンpoの特徴を殺してしまっているような感じがしました。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・ブルックナー:交響曲第8番の名盤を試聴したレビュー

投稿者: koji shimizu

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