目次
たいこ叩きのマーラー 交響曲第4番名盤試聴記
ジェイムズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団
★★★★☆
一楽章、美しく歌われる第一主題。動きがあってとても活発な印象です。第二主題部でも積極的に歌い、動きます。とても良く歌い、色彩感も豊かで、くっきりとした輪郭の演奏です。オケの技術がとても安定していて、がっちりとした演奏になっています。
二楽章、とてもクローズアップされたヴァイオリン独奏が他の楽器と比べてアンバランスです。牧歌的なホルン。ヴァイオリンのアクセントがキツくカチーンと来ます。ピチカートなどもすごく強調されていて、録音のバランスが悪いような感じがします。
三楽章、穏やかで美しい弦の主題。二つ目の主題も美しく歌われます。穏やかな部分と激しい部分のコントラストも上手く表現されています。温度感は低くないので、ピーンと張り詰めたような緊張感はありませんが、静寂感はあります。陰影を感じさせるオーボエ。強力なホルンの強奏。すごいオケの能力を感じさせます。終盤の盛り上がりはすごいパワーでした。ハープに導かれて夢見るように終りました。
四楽章、可愛く魅力的なソプラノ独唱。天国の楽しさを歌うにふさわしい歌声です。テンポも動いて、とても音楽的です。ゆったりとした部分では、時間が止まったようにのどかな天国を上手く表現しています。終盤はゆったりとしたテンポのまま終りました。
とても良い演奏でしたが、二楽章のバランスの悪さが惜しまれます。
レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック
★★★★☆
一楽章、明確な表現と色彩感の第一主題。テンポの変化も大きく強弱の変化も敏感で作品への共感が感じられます。展開部からはせかされるようなテンポです。交響曲第5番冒頭のファンファーレが現れる手前ではかなりテンポが速くなりました。聴き手にはかなり緊張を迫る演奏だと思います。再現部はまたテンポが遅くなりました。間接音があまり収録されていないため、少しキツい感じの音で、この後も安らぐような音楽にはならないような予感がします。最後もゆったりとしたテンポからアッチェレランドして終わりました。
二楽章、冒頭のホルンも独特の表現です。乾いた音のヴァイオリン・ソロです。テンポもよく動いてとても音楽的です。バーンスタインはこの頃すでにマーラーの音楽を自分のものにしていたのですね。とてもはっきりと表情付けされています。
三楽章、静かに夢見るような浮遊感のある冒頭の表現はすばらしい。色彩の変化もくっきりと描いて行きます。弦の弱音は何とも言えない魅力的な音がします。ただ、デッドな録音なので、強奏部分はキツい音です。終盤に盛り上がる部分では、トランペットが強烈で、突き刺さってきます。
四楽章、フワッとしたクラリネット。とても明瞭で可愛い声の独唱。いかにもマイクの前で歌っています。と言う感じがします。
バーンスタインの主張がはっきりとした、色彩も鮮明な演奏でした。
オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団
★★★★☆
一楽章、細身で繊細なヴァイオリンの第一主題。録音の古さからか少しメタリックな響きです。必要以上に感情移入することなく、とても流れの良い雄大な音楽です。
二楽章、表情豊かなホルン。に続く楽器も皆表情豊かです。色彩感が濃厚で輪郭もはっきりした演奏です。積極的な表現が一楽章とは対照的です。
三楽章、あまり思い入れもなくあっさりと演奏される弦の主題です。木管楽器には独特の表情付けがあります。後半の強奏はとても盛大です。高らかに演奏されるトランペット、炸裂するシンバル。そしてホルンの絶叫!。
四楽章、柔らかいクラリネット。天使を迎いいれる穏やかな雰囲気です。シュヴァルツコップの歌唱は少し幼い天使の可愛さを残した魅力的なものです。
とても整った良い演奏でしたが、この演奏でなければと言う強い魅力も無かったのが残念でした。
ワレリー・ゲルギエフ/ワールド・オーケストラ・フォー・ピース
★★★★☆
一楽章、くっきりと明瞭な序奏。重厚で一体感のあるオケの響き。歌に溢れた第一主題。動きがあって生き生きとした音楽です。第二主題も歌います。色彩感豊かで深い所から湧き上がってくるような音楽がすばらしい。オケが有機的に結びついてとても強固な音楽を作り出しています。最後はゆったりとしたテンポから急加速して終わりました。
二楽章、暗く沈んだホルン。飛び跳ねるように動きのあるヴァイオリンのソロ。中間部もオケが積極的で表情が豊かです。
三楽章、速めのテンポで現実的な主題。濃厚な表現のオーボエ。オケの強奏も激しいです。ずっと音楽に動きがあって、生き生きとした演奏です。終盤の盛り上がりは一体感のあるバランスの良い演奏でした。
四楽章、控え目でゆっくりとしたテンポで演奏されるクラリネット。しっかりとした存在感のソプラノ独唱。夢見るような弦楽合奏。
色彩感も濃厚で、静と動の対比も見事な演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。
ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1982年
★★★★☆
一楽章、序奏から一旦テンポをおとして、すごくゆっくり開始した第一主題。音楽の抑揚に合わせてテンポも動きます。安心感があり、穏やかな第二主題。一つ一つの音を刻み付けて行くような、彫りの深い演奏です。登場する楽器もしっかりと浮かび上がり色彩感も多彩です。トゥッティの響きも厚みがあります。テンポも良く動き、手馴れたものと言う印象です。ハイティンクの演奏らしく、大きな表現はありませんが、自然なテンポの動きと、美しい響きと整ったアンサンブルでとても安定感のある演奏です。最後の加速も堂々としていました。
二楽章、この楽章でも、色彩感が豊かで、美しくくっきりとした演奏です。オケの集中力も高く音がハイティンクのところに集まって来ているような感じです。
三楽章、波がゆっくりと押し寄せては返すような息遣いを感じる冒頭の演奏です。ハイティンクは大見得を切るような表現をすることはありませんが、細部にこだわった表現が魅力です。また、常に平均以上の演奏を聴かせてくれる安心感があります。そして、出来不出来の差がほとんど無いのも大きいです。一時暗転する部分でも、何とも言えないような憂鬱な雰囲気でした。ゆったりと流れる音楽が急激に力を増して分厚い頂点を作ります。終盤の盛り上がりのティンパニは巨人の歩みのようにゆったりとしていますが、強い打撃でした。
四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポです。独唱の手前で大きくテンポを落としました。近い位置にいる独唱ですが、抑えぎみの歌唱が可愛い雰囲気を出しています。合いの手に入るオケも激しく、独唱と対比します。天国ののどかな雰囲気を見事に表現しています。
このリンクをクリックすると動画再生できます。
サー・ジョン・バルビローリ/BBC交響楽団
★★★★☆
一楽章、硬い鈴の音です、たっぷりと歌われる第一主題。情感豊かな第二主題。バルビローリの作品への思い入れが現れた演奏です。感情に合わせてテンポも動いています。爆発する怒涛のトゥッティ!トランペットが凄く近い録音です。この感情を込めた演奏には共感できます。聴いていてとても心地良い演奏です。テンポの動きが絶妙です。最後の第一主題はすごくゆっくり開始してアッチェレランドして終わりました。
二楽章、ゆっくり目のテンポで始まりました。ヴァイオリンのソロも極端にしゃしゃり出ることは無く、控え目でバルビローリの趣味の良さが伺えます。トランペットに、ちょっと繊細さに欠け、雑な部分もありました。
三楽章、すごく感情を込めて歌う主題。バルビローリの唸り声が良く聞こえます。感情は込められていますが、節度を保った演奏で踏み外すことはありません。終盤の盛り上がりもおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさで、ティンパニの部分はとてもゆっくりと刻みました。
四楽章、独唱は熟した声で、天使の歌声にしては老けているように感じますが、伸びやかで心地良い歌声です。最後のテンポを落とした部分は天国ののどかな雰囲気を十分に伝える演奏で、独唱も含めて演奏に酔えるものです。
感情の込められた、しかも品良く雰囲気もとてもある演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。
サー・サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、歩くようにゆっくりとした開始ですが、第一主題は一転して速いテンポですごくスピード感があります。第二主題でゆったりとなりました。展開部でも第一主題は速いテンポから次第にテンポを落として雰囲気の良い演奏です。第一主題の再現はゆったりとしていましたが、またテンポを上げました。テンポ設定は通常の演奏とは違う感じがしますが、色彩感は濃厚で輪郭のくっきりとした演奏です。テンポは良く動いていますが、何か作為的な不自然さも感じます。最後のアッチェレランドはそんなに急激なものではなくゆったりとしていました。
二楽章、柔らかいホルン。太い響きのヴァイオリン独奏。チャーミングな表情が付けられています。中間部はテンポを動かして柔らかい表現です。この楽章でもテンポは大きく動きますが、ここでは不自然さは感じません。
三楽章、遠くから漂ってくるような天国的で非常に美しい主題。ゆっくりと切々と語りかけてくる演奏に心打たれます。すばらしい表現です。オーボエが旋律を出す部分からも弦楽器の表現がすばらしく美しいです。自然な感情に合わせたテンポの動きです。終盤の盛り上がりの前の弦の繊細な表現もとても美しいものでした。終盤の盛り上がりはすごくゆっくりとしたテンポで雄大でした。美しく遠ざかりながら終りました。
四楽章、柔らかく美しいクラリネット。独唱の前にテンポを落としてゆったりりと独唱に引継ぎました。シンプルな歌声の独唱はこの曲にマッチしています。次第にテンポを落として終りました。
一楽章のテンポ設定はちょっと納得できませんでしたが、二楽章以降はウィーンpoの美しさを存分に発揮したすばらしい演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。