マーラー 交響曲第6番「悲劇的」3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

ディミトリ・ミトロプーロス/ケルンWDR交響楽団

ミトロプーロス★★★★
一楽章、かなり遅いテンポのでフワッと弾むような低弦の刻み。一時音量を落とす場面がありました。下品に音を切るトランペット。柔らかいティンパニですごく遅く演奏されたモットー。熱っぽい第二主題。テンポがかなり頻繁に動きます。遅くなる部分はかなり思い切った遅さです。テンポの動きは大きいですが、不自然さは感じません。ただ、即興的に動いているのではなく計算された動きのようです。

二楽章、ソフトな冒頭。強弱のコントラストがはっきりとしています。何かに追われているかのように、せきたてるような中間部。重々しくと指定されている楽章ですが、テンポも速く、とてもリズムが弾んで軽い印象です。

三楽章、乾いた響きのヴァイオリンの主要主題。乾いた響きと音を切ることがあるので、あまり趣き深い演奏とは言えません。クライマックスでもトランペットが浮いて下品な感じでした。

四楽章、速いテンポのティンパニ。コラールはゆっくりでした。二度目のモットーもゆっくりとしたテンポで演奏されました。テンポは頻繁に動いています。提示部へ入る前は壮絶な強奏でした。第一主題もそんなに速くはありませんが力に溢れています。テンポがたびたび遅くなります。ホルンの跳躍の前もすごくテンポを落としました。ハンマーはあまりはっきりとは聞き取れませんでした。非常に強い音がする演奏です。二度目のハンマーははっきりと聞き取れました。1959年のライヴとしてはかなりの完成度です。オケはかなりの集中力で演奏しています。トランペットは突き抜けてきます。三度目のハンマーもありました。展開部までは意表を突いたテンポの動きがありましたが、再現部からは、猛獣が悲劇の淵へと突進して行くようなものすごい勢いの演奏でした。

大きなテンポの変化に強い音と指揮者の強い意志が表出された演奏で、なかなか聴き応えがありました。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団

ホーレンシュタイン★★★★
一楽章、ゆっくりとしたテンポでふわっとした響きの低弦の刻みです。第一主題は特に特徴ある歌い回しはありませんが、トロンボーンはしっかりと吹きます。地面にしっかりと爪を立てて進むような確実な歩みです。第二主題はロマンティックです。提示部の反復をしました。モットーのトランペットは非常に弱いです。ライヴなのでキズはたくさんあります。とても遅いテンポで時には叩き付けるような強さがあります。壮大な演奏でした。

二楽章、この楽章も遅めのテンポで確実に進みます。中間部は少しテンポが速くなっているようですがテンポは遅くなったりします。ティンパニに乗ってホルンが登場する部分でもホルンは非常に弱く演奏しました。遅いテンポがさらに引きずるように遅くなったりします。すごく遅いテンポですが、弛緩しているようには聞こえません。

三楽章、この楽章もゆっくり目のテンポで作品を大切に慈しむように丁寧に歌います。物悲しい雰囲気がよく出ています。ホルンの音程が危なっかしいです。中間部ではホルンがとても大きな表情を付けて演奏するのが印象的でしかも効果的です。しばらく穏やかな雰囲気で淡々と進みます。クライマックスではあまり劇的な表現はありませんでした。

四楽章、あまり大音量にはならないモットー。この楽章も遅いテンポです。コラールが演奏された後一旦テンポを速めましたが、その後はすごく遅いテンポです。提示部に入るところの打楽器の衝撃はすごかったです。第一主題も遅いテンポで、主題よりも周りの楽器の方が強く主張しています。ホルンの跳躍は静かな演奏でした。すごく遅いテンポですが、粘着質では無いので聞くのに負担はありません。ペシャンと言う音のハンマー。ハンマーへ向けては大きな盛り上がりはありませんでした。これだけ遅いテンポでよくオケの緊張の糸を維持し続けていると感心します。テンポは非常に遅いですが、色彩感は淡泊で、どれかの楽器が突出して強烈なカラーを描くことはありません。再現部の直前でさらにテンポを一旦落としました。その後は大きな振幅もなく終わりました。

非常に遅いテンポで貫かれた演奏で、雄大なスケールを感じさせました。これだけ遅いテンポでも音楽は弛緩せずに最後まで維持されたのはすごいことだと思います。ただ、オーケストラの技量が最高水準のものでは無く、オケの技量が高ければもっと起伏に富んだ音楽になって感動も深いものになったのではないかと惜しまれます。
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クラウス・ペーター・フロール/マレーシア・フィルハーモニー管弦楽団

フロール★★★★
一楽章、速めのテンポでサクサク進む低弦。柔らかく安心感のある響きの第一主題。ノヴォシビルスクpoの強烈な演奏の後だからとても自然で安定した演奏に聞こえます。よく歌う木管。美しく、テンポも動く第二主題。提示部の終わり付近では大きくテンポを落としました。提示部の反復ありです。とてもよく歌いますし、躍動感もありなかなか良い演奏です。オケのパワーもあります。カウベルは独特の響きですが、チェレスタやカウベルが登場する部分でもテンポを落としてとても濃厚な良い雰囲気を聞かせてくれました。トゥッティの響きが浅いのが少し残念なところです。

二楽章、強烈なティンパニの打撃。弱く柔らかく演奏される中間部。表現は積極的です。ガクッとテンポを落としたり、テンポを戻してグイグイ前へ進んだり多彩な表現です。あまり感情的にのめりこんでいるいるようには感じませんがテンポはよく動きます。

三楽章、最初の二つの音の後に間を置いた主要主題。速めのテンポであっさりと演奏されて、作品に酔うことはできません。中間部以降は少しテンポを落としたりもしますが、作品にどっぷりとのめり込むような表現はしません。クライマックスでは悲しみがあふれ出すような音の洪水でした。

四楽章、柔らかく美しいヴァイオリンの主題。強烈なティンパニとモットー。モットー和音の後はテンポを落としてたっぷりとした表現です。提示部へ向けて息を吹き返すように加速します。とても活発で力が湧きあがるような生き生きとした第一主題。展開部の前のホルンの咆哮もすごいものでした。ベチンと言うハンマーの打撃音でしたが、画面では大太鼓をタオルでミュートして二本の撥で叩いただけのようでした。テンポは頻繁に動きます。鳴らすところでは思いっきり金管が吹きますので、豪快な演奏になっています。再現部でもテンポを落として一音一音印象付けるように濃厚に演奏しました。三度目のハンマーの後、テンポを落として力なく崩れ落ちる様を表現しました。

テンポを大きく動かして、オケを豪快に鳴らした演奏でした。なかなか力のあるオケでしたし、パワー感もなかなかでした。作品の内面に深く入り込むような演奏ではありませんでしたが、力強く豪快な演奏は効いていて気持ち良いものでした。
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エリアフ・インバル/ローマ交響楽団

インバル★★★★
一楽章、柔らかく丸みのある音です。テンポを動かすことなく、オケを明快に鳴らして颯爽と進む音楽です。第二主題も速めのテンポであっさりと進みますが、金管は良く鳴らされています。提示部の反復がありました。展開部では奥まったところから響く繊細な木管と対照的に強く鳴らされる金管が印象的です。再現部もグイグイと進みます。作品に深く感情移入することは無く、楽譜に書かれていることを忠実に、しかもダイナミックに表現しています。コーダはかなりテンポを速めて演奏しています。

二楽章、かなり遅いテンポで引きずるようです。オケは伸び伸びと鳴らされています。主部とは対照的に音量を落とした中間部はテンポも動いて歌っています。とても繊細な弦が美しいです。三拍子ですが、ワルツのように強弱弱とはならずに三拍とも強でズシンズシンと強い歩みです。

三楽章、主要主題の途中で少し走るような(16分音符を3連符のように演奏しています)独特の歌い回しです。中間部ではホルンや柔らかい表現です。感情的な振幅はあまり無く、クライマックスでも溢れ出すような悲しみの表現はありませんでした。

四楽章、奥ゆかしく細身のヴァイオリンの主題。提示部へ向けてはそんなにテンポを上げることはありませんでした。金管は随所で気持ち良く鳴らされます。筋肉質で締ったホルンの跳躍。展開部でも細身で奥ゆかしいヴァイオリン。あっさりとハンマーが打たれました。やはり感情に流されるような演奏ではありません。金管は良く鳴らされていますが、決して無機的にはならず、とても有機的で躍動感がありますが少々雑な感じも無きにしも非ず。二回目のハンマーも直前でテンポを落としたり間を取ったりはしませんでした。

感情に溺れることなく、スコアに忠実に、オケを爽快に鳴らした演奏でした。ちょっと雑な印象も無いわけではありませんが、繊細な弱音と豪快になる金管の対比はなかなか聞きものでした。
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投稿者: koji shimizu

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