マーラー 交響曲第6番「悲劇的」4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第6番「悲劇的」名盤試聴記

ナヌート/リュブリアナ放送交響楽団

ナヌート★★★☆
一楽章、編成が小さいように感じる薄い響きです。シンバルが思いっ切り良く鳴り響きます。スネアのロールも異常にでかい!音楽のうねりなどはなかなか上手く表現されています。

低音域があまり録られていないようで、響きの厚みがありません。金管もきっちり吹いているのですが、今ひとつパワーに欠けるような感じがします。

二楽章、演奏の集中力は高いようで、聴いているこちら側も引き込まれます。

三楽章、安定した演奏で聴かせどころもしっかり聴かせてくれました。

四楽章、静寂感もあるし、オケがしっかりと指揮者を向いて演奏しています。ハンマーの一撃へ向かう高揚はなかなかでした。

音楽が進むにつれて演奏の温度感が高くなってきました。ドラがものすごく大きい!

結構、面白く聴かせてくれました。

クラウス・テンシュテット/ニューヨーク・フィルハーモニック

テンシュテット/ニューヨーク★★★☆
一楽章、長い残響のホールでの収録です。オケが遠くなったり近くなったりします。色彩が克明で表情が引き締まっています。

きちんと録られていれはトランペットが突き抜けてきて凄い演奏だろうと想像するのですが、リミッターがかかったようにffではオケが後退してしまうので、分かりません。

何かに追われているかのように音楽が前へ進みます。とても激しい音楽の起伏があります。凄い演奏です。ただ録音の悪さでかなり損をしています。

二楽章、テンポの動きも絶妙です。原色で描かれたような鮮やかさが印象的です。

三楽章、感傷的な冒頭部分でした。とても悲しげな演奏です。

四楽章、すごく存在感のあるチューバでした。リミッターの働きが強すぎてトゥッティで音が抑えられてしまって、実際の音楽の起伏を直接感じることができません。かなり劇的な演奏が行われているのは想像できるのですが・・・・・。

ロンドンpoとのライブのようにハンマーの直後のテンポが落ちることはありませんでした。
美しいコラールでした。

ジェームズ・レヴァイン/ロンドン交響楽団

icon★★★☆
一楽章、深みのあるコントラバスの響き。温度感があって、ピーンと張り詰めるような緊張感はありません。バランスの良い演奏です。金管は必要なところでは遠慮なく吹きますが、ショルティの演奏のようにクローズアップされていません。展開部からは少しテンポを落とし、音も短めに演奏しました。チェレスタがとても柔らかく良い音です。カウベルが登場して、とても安堵感のある音楽です。ティンパニの釜が良く鳴った豊かな響きです。再現部ではそのティンパニが強調されていました。ゆっくりしたコーダの開始。文句無く金管も強奏しましたが、色彩感は今一つだったよう感じます。

二楽章、表情も締まっていてなかなか良い演奏です。中間部は不安定な感じを上手く表現しています。どのパートも過不足無く演奏されてはいるのですが、もう一歩踏み込んだ表現が欲しいような感じがします。テンポも大きく変化しているし、思いがけない楽器が強く出たりしてハッとさせられることもあるのですが・・・・・。

三楽章、とても静かに始まる冒頭の主要主題。楽器間のバランスにとても気を使った演奏でブレンドされた響きがとても美しいです。近く鋭い音のカウベル。哀しみの表現も淡々としています。とても美しい演奏なのですが、心に響いてこないのが残念なところです。レヴァインは演奏に感情を乗せていないのでしょう。

四楽章、大太鼓がドンと響いた冒頭。無表情な序奏。ティパニと同時にフワァーっと広がったトランペット。非常にゆっくりと演奏されるコラール。トランペットは奥まっているように感じます。テューバの存在感がとても大きいです。感情移入しない演奏にもかかわらず、精緻なところもないので、中途半端な印象は拭えません。ティンパニはとても良い響きです。二度目のハンマーの直後に聞いたことのない弦の動きがありました。再現部から弦がガリガリガリガリとアクセントを付けて入って来ます。激しく演奏される部分もどこか遠くで鳴っているようなリミッターがかかったような不思議な感覚です。三度目の序奏主題の前のドラでかなり歪みました。弦がガツンと出てきたりするのですが、金管の強奏は突進して来ません。

美しい演奏ではあったのですが・・・・・。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、低弦がガリガリと弾くことはなく、比較的穏やかな冒頭。第一主題も意外と穏やかです。響きが浅く、オケが一体になって動く迫力がありません。ティパニと一緒に現れるモットーのトランペットもフワーッとした音の出し方でした。ホルンは凄い咆哮ですが、他の金管は控え目です。第二主題もあっさりとしていて、晩年の深い感情移入とは違います。展開部に入っても、響きが浅く音に重みもなく軽い演奏です。再現部は速めのテンポで演奏されます。ただ、音楽の情報量が少ない感じで、複雑なオーケストレーションの余分なものを全て削ぎ落としたような響きです。

二楽章、比較的ゆっくりとした演奏です。オケが次第に目覚めて来たようで、次第に深い表現をするようになってきました。

三楽章、抑えた音量で細身の音色の主要主題。晩年の深い感情の吐露とは違い、基本的にはあっさりとした表現ですが、時折濃厚な表現を見せる部分もあります。次第にオケにも一体感が出てきて、深いうねりも表現されて行きます。クライマックスでの響きが薄いのが残念です。

四楽章、非常にゆったりと演奏される序奏のコラール。生命感があり力強い第一主題。オケも熱気を帯びてきて、積極的な表現をするようになって来ました。バーンスタインの指揮も次第に粘っこく濃厚な表現をするようになって来ます。展開部に入ると、透明感も高まり、見通しの良い演奏になります。バチンと言うハンマーの響き。行進曲が強い推進力を持ったり、停滞したりと常に変化します。再現部からはテンポも大きく動き、さらに音量も一段階アップして、表現の幅を大きく広げます。三度目のハンマーもありました。コーダに入るとどんどん沈み込んで行きます。

尻上がりに良くなりましたが、一楽章の浅い演奏がとても残念でした。
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ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、深く重い響きのコントラバス。第一主題の途中でトロンボーンがクレッシェンドしました。ライヴでありながら、凄く冷静で整った演奏です。木管の経過句は歌いました。第二主題は非常に速いテンポです。提示部の反復はしませんでした。展開部に入って一旦テンポが落ちました。セルでもこんな情緒的な音楽をしていたのかと思います。極めて細く繊細なヴァイオリン・ソロ。録音でダイナミックレンジが制限されているので、激しさはあまり伝わってきません。実際に演奏も穏やかなものなのかも知れません。金管が咆哮することは無く、金管を抑えて音楽が作られているような感じさえします。

二楽章、ティンパニの一拍目があまり強調されず、三拍とも同じよな音です。とてもバランスに神経を使った演奏で、明晰で見通しの良いすがすがしい演奏です。中間部は速めのテンポでサラッと演奏されます。ティンパニは常に三拍ともほとんど同じ強さで叩いています。金管はかなり強く吹いているようですが、録音の関係か奥まっていて、前に出てこないので、とても統制のとれた演奏のように感じます。コーダは速いテンポでした。透明感の高い演奏でした。

三楽章、わずかに速めのテンポで抑揚に伴ってテンポを落としたり、とても心のこもった演奏です。美しく、透明感の高いそれでいて温度感の低い演奏です。マーラーらしいどろどろしたところが無く、すがすがしい演奏です。キリッと引き締まった音色で奥まで見通せるような音楽になっています。クライマックスでも音圧はあまり感じません。

四楽章、美しいヴァイオリンの主題。速いテンポのモットー。暖かみのあるチューバのコラール。深い響きのコントラバス。セル好みの締まったホルンが美しく跳躍します。アレグロ・エネルジコに入っても金管を咆哮させることも無く、抑制の効いた表現で、冷静です。金管が少し遠くにいる感じで、かなり強く吹いていても熱気を感じさせません。ハンマーの後は拍子抜けするような抑えた演奏でした。二回目のハンマーの後もトロンボーンの開いた音は聴けませんでした。再現部に入って、思い入れの無い素っ気無い表現。マーラーの色彩のパレットが十分に生かされていないような感じがします。

表題性にとらわれない、爽やかな演奏でしたが、ハンマーの後の表現に物足りなさを感じました。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

カラヤン

★★★☆
一楽章、弦を弾くようなチェロとコントラバスの刻み。あまり前のめりにはならず落ち着いたテンポで確実に進みます。割と暖かいモットー。ベルリンpoはかなり余裕を残して演奏しているようで、作品なりの激しさはありますが、咆哮するような激しさではありません。展開部に入っても落ち着いた美しい演奏です。カウベルはほとんど聞こえません。安らかなヴァイオリンのソロ。コーダでもかなり余力を残した余裕の演奏でした。

二楽章、確実な歩みで、少し重い感じです。トリオは夢見心地のような淡い雰囲気です。テンポは遅く足取りは重いのですが、演奏はかなり軽く振幅も大きくありません。

三楽章、美しい主要主題。副主題も少し離れたところから響くような美しい演奏です。とても美しいですが、淡々と進みます。哀しみが堰を切ったような雰囲気もあまり強く表現されず、感情の起伏はあまり表現されません。

四楽章、主題からかなり余裕の演奏です。ザイフェルト時代とはかなり違って引き締まったホルン。ゆっくりとした序奏です。主題に入ってもカラヤンとベルリンpoそしてマーラーの作品にしては響きが薄い感じがします。ちょっと重い第二主題。展開部もカラヤンらしいいグラマラスな響きはありません。うねるような複雑さを聞きたいところですが、とても整理されていてスッキリしています。再現部の最初の方ではかなり強いエネルギーの放出がありました。再現部からは、ここまで抑え気味だった金管がかなりの強奏をしますが、やはりコーダは整った美しい演奏でした。

かなりスッキリと整理整頓された演奏で、美しい演奏ではありましたが、物足りなさは感じてしまいました。

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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

シノーポリ★★★
一楽章、ビンビンと跳ねるような冒頭。管弦のバランスは良いです。響きに厚みがあります。

ゆっくり、粘っこく音楽を表現して行きます。全体の響きがモワッとしていて、フワフワした演奏に感じます。

ゆっくりとしたテンポなので音楽が前へ進む力やスピード感がありません。すごくゆっくり演奏される弱音部。

二楽章、何となく漫然と演奏されているような印象で、演奏に主張を感じられません。

オケはかなりの熱演なのですが、なぜか伝わってこないもどかしさがあります。

三楽章、ゆっくりとしたテンポの上に無表情の音楽が流れて行きます。後半へ向けて音楽が熱っぽくなってきました。音の洪水が押し寄せてくるような部分はなかなか聴かせてくれました。

四楽章、短めに演奏される弦に金管の咆哮が重なります。ソフトな音色のティンパニが全体の雰囲気のフワフワ感をさらに強めます。

ハンマーの打撃は頂点にはなく、音楽の流れの中に自然な感じの一撃でした。

この演奏は作品の持つ複雑怪奇なものをそのまま音にしたような演奏で、シノーポリは意図的に交通整理をしなかったのかも知れない。私は、この演奏を聴いて、この作品が何なのか、ますます分からなくなりました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー管弦楽団

朝比奈★★★
一楽章、編成が小さいような感じをさせる薄い響きです。ホルンが鳴りきらないので欲求不満になりそうです。
音楽には推進力が十分あります。巨大な編成を意識させないすっきりとした音楽はナゼなのだろう?

二楽章、シロフォンの音がすごく立って来るのですが、金管が今ひとつ鳴りきらない感じがつきまといます。

三楽章、速めのテンポです。

四楽章、かなりの集中力で注意深く音楽が進みます。頂点へ向けての間の取り方など、独特のものがあります。
この楽章になってから大フィルは見違えるように変貌しました。見事な一体感で音楽を聴かせてくれます。
ハンマーはこれまで聴いたことがないくらい強烈です!
後半のオケのフルパワーはかなりの熱演です。
たっぷりとゆっくり演奏されたコラール。

四楽章はなかなか聴き応えがありました。

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

スヴェトラーノフ★★★
一楽章、一歩一歩踏みしめるように確実に進む行進。トランペットとトロンボーンが遠慮なく吹きまくります。ティパニは釜が鳴って良い音です。音のエッジが立っていて輪郭の明確な演奏です。コントラバスの刻みも何かを抉り出すかのような重さと凄みがあります。

二楽章、凄く速いです。アクセントも強めに演奏します。途中でテンポが落ちて、一般的なテンポになりました。テューバとコントラバスの表現はすごくグロテスクです。

三楽章、スヴェトラーノフの演奏だったら、もっと濃厚な表現をするかと思っていたのですが、意外と平板でそっけない演奏で期待はずれでした。

四楽章、すごくテンポを落としたコラール。モットーを示すあたりからかなりテンポが速くなりました。録音のせいかホルンが遠くてメロディの受け渡しのバランスが悪いです。チェレスタはすごく近いです。汚いくらいに吹きまくるトランペットとトロンボーン。思いっきり叩きつける打楽器。金管は容赦なく吹きまくりますが、表現自体は意外と淡白だったように思います。

ギンタラス・リンキャヴィチウス/ノヴォシビルスク・フィルハーモニー管弦楽団

リンキャヴィチウス★★★
一楽章、少し歪みっぽい録音です。粘着質で重い弦。速いテンポで濃厚な第二主題。提示部の反復をしました。後ろ乗りするスネア。オケはトビリシ交響楽団よりは上手いようです。デッドで妙にリアルな音です。テンポはよく動いています。展開部からは激しい表現になっています。ゆっくりするところでは、思いっきり歌います。ヴァイオリン独奏も艶やかと言うよりも糸を引くような粘っこい響きです。指揮者のリンキャヴィチウスの指揮を見ていると激情型の指揮のようです。オケも明確に鳴らしてメリハリのある演奏です。かなり濃厚な演奏でした。

二楽章、ガツガツと刻む低弦。濃厚な表情付で歌われる第一主題。とても激しく騒乱状態のように乱舞する音。中間部はゆっくりとしたテンポですが、響きがデッドなので、とても現実的です。ティンパニのリズムに乗ってホルンが吹く部分は急にテンポを落としました。デッドな録音のためにシロフォンなどもカチーンと響いて来ます。リンキャヴィチウスの指揮に合わせて弦などは松脂を飛ばしながら必死に演奏しているように感じます。音楽に力があり、前へ進もうとします。間をあけたりテンポが動いたり色々やります。ぐんぐん押してくる音楽です。

三楽章、ストレートで現実的で、情緒などはほとんど感じさせません。中間部ではホルンが激しい演奏です。カウベルなどもかなりうるさいです。ホールの残響がほとんど無く、デッドなので、強弱の変化などはとても良く聞き取れます。クライマックスの手前でかなりテンポを落としました。クライマックスはテンポを速めて劇的な表現です。

四楽章、粘着質のヴァイオリンの主題。トゥッティでは歪んであまり良く聞き取れませんでした。第一主題はかなり騒々しい演奏です。展開部でも元気な弦。カチンと言うハンマー、小さいハンマーを片手で打ちました。カスタネットを大きくしたような音でした。トランペットやトロンボーンが遠慮なく強奏します。 再現部の前で一旦音楽が停止したかのように大きくテンポを落としてから再現部に入りました。色彩感は原色の濃厚なもので、とても強烈な演奏です。すごい体力のトランペット。残響を伴わずに生音で絡み合う音楽は壮絶です。三度目のハンマーもありました。

強烈なオケの響きと濃厚な表現。テンポも大きく動く演奏で、爆演の部類に入るのだろうと思います。キワモノ的な迷演でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」の名盤を試聴したレビュー

テオドール・クルレンツィス/ムジカエテルナ

★★★☆

投稿者: koji shimizu

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