マーラー 交響曲第9番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第9番名盤試聴記

カルロ・マリア・ジュリーニ/シカゴ交響楽団

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一楽章、とてもゆったりとしたテンポで始まりました。ショルティと同じオケとは思えないような柔らかい音です。とても優しい表情の演奏です。金管も余力を残した上にバランスを重視した美しいハーモニーです。どことなく寂しげな表情が「別れ」の切なさを感じさせます。ミュートをつけたトロンボーンの見事なアンサンブル。どのパートも絶妙なアンサンブルを聞かせます。そして、この演奏が持っている独特の寂しさ切なさは特筆に価します。鐘も柔らかい響きです。これだけ悲しい陰を引きずりながら聴き手の心を揺さぶる演奏はすばらしいです。コーダからもとても切ない。

二楽章、ゆったりとしたテンポでふくよかな響きです。テンポの変化は僅かで流れが良いです。ショルティ/シカゴsoのようなしゃかりきになって演奏しているような雰囲気はなく、とても柔らかい音色で心なごむ演奏です。細かなことは考えずにジュリーニの音楽に身を任せて流れていく音楽にどっぷりと浸っていたいように気持ちにさせる演奏です。音楽を聴く喜びを心から感じさせてくれる演奏だと思います。木管楽器もとても美しく生き生きとした表情です。

三楽章、豊かにホールに音が広がります。この楽章もゆったりとしたテンポで確実な足取りです。トロンボーンは低音が一体になっているところはとても重量感ある音です。後半、少し動きが少ない部分ではとても雄大なクライマックスでした。最後も力みのない終結でした。

四楽章、祈るような冒頭。惜別の思いが込み上げてくるような主要主題です。天国から聞こえてくるよあなホルンの主要主題。一つ目の山に向かって語りかけるように感動的な演奏をする弦楽。艶やかな独奏ヴァイオリンと潤いのある木管がとても美しい。抑え気味のクライマックスでした。とても幻想的な雰囲気のコーダ。

一楽章のすばらしい出来に続く楽章がいまひとつだったのはとても残念です。
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ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

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一楽章、断片的に登場する楽器が浮き上がります。穏やかな雰囲気の第一主題。不安を掻き立てるかのような第二主題。金管の緊張感と弦の開放感が上手く演出されています。展開部の抑えぎみのトロンボーン。印象的なハープの響き。ミュートをしたトロンボーンのすばらしいアンサンブル。クライマックスでも各パートが溶け合った力強い響き。鐘が演奏される前のミュートを付けたトランペットがホールの残響を伴って浮かび上がりました。鐘は柔らかい響きです。コーダの前のホルンとフルートの掛け合いも美しく、オケの実力の高さを伺わせます。コーダの独奏ヴァイオリンと木管、ホルンも淡い色彩でとても美しい演奏でした。

二楽章、軽快なテンポで始まりましたが、弦の入りで一旦テンポを落としてまたテンポを戻しました。テンポが上がってトロンボーンの強奏は分厚い響きで見事でした。ホルンの速いパッセージを活気溢れる演奏で盛り上げます。強いグロッケンがカチーンと来ました。フルートのフラッターが良く聞こえます。テンポは微妙に動きます。

三楽章、直接音と直接音の間をホール内に飛んでゆく音が豊かに響きます。いろんな音が乱れ飛ぶように激しい演奏です。がっちりとした骨格の上に音楽が作られているような安定感と精度の高さを感じます。激しい演奏ではありますが、オケは常に余力を残して美しい音の範囲で演奏しています。気持ちよく鳴り渡るホルン。フルートのフラッターがとても良く聞こえます。最後はそんなにテンポを上げることはありませんでした。

四楽章、必要以上の感情移入を避け、作品の本質に迫ろうとするような演奏です。大河の流れのようにとうとうと流れる弦楽合奏。自然な音楽の流れに身を任せているととても心地よい気分です。木管の寂しげなメロディはこの世との別れを惜しんでいるかのようです。クライマックスでの金管のパワーも凄い!コーダは静寂の中に弦楽合奏が浮かび上がります。死に行く者の体をそっとさするように大切に大切に、そして消え入るように演奏されています。マーラーの指示通りに死に絶えるように消えて行きました。

見事な構成力でダイナミックな最強音から消え入るような最弱音まで幅広い音楽を聴かせてくれました。すばらしい演奏でしたが、もっと感情の吐露があっても良かったのではないかと思いました。

クラウディオ・アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団

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一楽章、深く刻むハープ、ビーンと長く尾を引くホルン。柔らかい響きの第一主題。どれもとても美しい。深みのあるティンパニ。音楽のコントラストがはっきりしていて、濃淡や明暗の変化がとても分かり易い演奏です。テンポはどちらかと言うと速めのテンポでどんどん進んで行きます。トロンボーンのシンコペーションは強烈でした。全体の響きは透明感があり美しいです。太く豪快な線はありませんが、繊細でエレガントな美しさがこの演奏の特徴のようです。

二楽章、ファゴットの後の弦を一旦大きくテンポを落としてから入りました。深々とした厚い響きがすばらしいです。テンポは何度か変化します。Bはかなりれ速めのテンポです。品良くくどくならない程度に歌っています。Cでゆったりとテンポを落として豊かな響きです。オケはとても良く鳴り聞いていて気持ち良い響きです。再現するBはかなり速いです。

三楽章、コントラバスの豊かな響きが全体の響きに厚みを持たせ大きく広がります。深い感情移入をするようなタイプの演奏ではありませんし、スケールの大きな演奏でもありませんが、非常に美しくスタイリッシュな演奏です。

四楽章、暖かく包み込まれるような主要主題。第1のエピソードの部分では、弦が重なりあって盛り上がりますが、深く感情移入することはありません。第2のエピソードでも寂しさを強調するような表現はありません。作品を強調することは無く、作品をありのままに表現しているようです。オケの能力をフルに発揮した輝かしいクライマックスです。コーダへ向かって黄昏て行く雰囲気はなかなか良く、次第に力を失って行くような感じが出ています。コーダは消え入るような弱音で、寒さの中での別れのような雰囲気でした。

作品に没入して感情表現するような演奏ではありませんでしたが、作品そのものに語らせるような演奏で、それを実現するために世界中から名手を集めたオケで、すばらしく美しい演奏でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ/パリ管弦楽団

エッシェンバッハ★★★★★
一楽章、ゆっくりと非常に注意深く開始される序奏。大きな息遣いの第一主題。波が寄せては返すような自然な揺れがとても心地よい演奏です。凝縮された濃密な音楽です。トゥッティで少し歪みます。展開部でチューバの響きがとても効果的に使われています。オケの響きも濃厚で色彩感豊かです。トロンボーンのシンコペーションは非常に強烈でした。続くティンパニもかなりの強打でした。音楽に常に動きがあって、生命観に満ちています。とても充実した音楽です。とても良く響くフルート。どのパートも伸び伸びと良く鳴ります。夕日を思わせるホルン。すばらしい精緻な演奏でした。

二楽章、ファゴットよりも弦の方が聞こえる冒頭。フランス的なクラリネット。少し野暮ったく演奏されるB。トロンボーンの旋律の部分で急にテンポを速めました。Cに入っても何かせかされているような感じで、あまり穏やかな雰囲気にはなりません。音の密度は非常に高い演奏です。マーラーの指定の「きわめて粗野に」の通り色んな楽器が次々に飛び出してくるような演奏でした。

三楽章、軽く吹かれるトランペットとは対照的に強奏されるホルン。複雑に絡むオーケストラを見事に統率しています。とても厳しい雰囲気が漂う演奏です。集中力は非常に高いです。最後はあんまり急な追い込みはありませんでした。

四楽章、緊張感の高い主要主題。内へ内へと凝縮されて行く音楽。聞いていて緊張を強いられるように感じます。重く響く金管や、深く切れ込んでくる現など、この演奏では、別れが辛く厳しいもののように描かれているような感じです。達観したようなおおらかさは全く無く、深刻な悲しさがあります。コーダの前ではうつろになって来ます。最後は悟りの境地か、穏やかな別れになりました。

この演奏をどう評価して良いのか分かりません。非常に密度の高い音楽でしたし、オケの集中力も素晴らしい演奏でした。しかし、四楽章のあまりにも悲痛で厳しい表現を心地よいものとは感じることができませんでした。演奏の水準は文句なく第一級のものだと思います。
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ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2011ライヴ

ハイティンク★★★★★
一楽章、とても穏やかな第一主題。第二主題も力みの無い穏やかな演奏です。少しoffぎみの録音で、いつものコンセルトヘボウの濃厚な色彩感はありませんが、水彩画のような淡い色彩はあります。ダイナミックレンジが圧縮されたような強弱の音量差の少ない録音。展開部に入って美しいホルン。ミュートを付けたトランペットの激しい演奏。影で動くパートの表情が大きくうねります。トロンボーンのシンコペーションの前に出るトランペットが強烈でした。葬送行進曲でもミュートしたトランペットが高らかに鳴り響きます。柔らかい響きの再現部冒頭。柔らかいホルン。深みのあるオケの響きはさすがです。味わい深いコーダ。

二楽章、ハイティンクに関してよく言われる中庸がこの楽章でも当てはまります。テンポ、表現、どこを取っても中庸です。大げさな表現は無く、普通に過ぎて行きます。Bも大きなテンポの変化は無く、自然に入って行きました。抑えぎみで柔らかいトロンボーン。ゆったりと穏やかなC。しかし、この中庸が、一定のクォリティを保証してくれるのが、ハイティンクのハイティンクたるゆえんで、オケの精度や深い響きなどはハイティンクじゃないと出来ない演奏です。二度目のBへの入りはゆっくり変わりました。

三楽章、絶対に踏み外さない安定感。オケも咆哮することは無く、とても抑制の効いた演奏で穏やかで静かな演奏です。最後は時間をかけて少しずつテンポを速め、最後まで同じように速めて(急加速せず)終わりました。

四楽章、すごく感情の込められた序奏は間を取ってたっぷりと演奏されます。続いてとても暖かみのある主要主題。内側から込み上げてくるような演奏です。ブルックナーを聴くような神聖なホルンの主要主題。第一のエピソードの最初のヴァイオリン独奏はうつろな寂しさがありました。第二のエピソードの導入部ではあまり寂しさを感じさせるものではありません。淡々と演奏されました。巨大なクライマックスも絶叫もありませんでした。コーダは暖かい響きで、内側からジワーッと別れの悲しみを感じさせる演奏でした。

安定感抜群の演奏で、大げさな表現などは皆無で、純粋に楽譜に書かれていることを音にしていますが、内面から滲み出すような別れの悲しみの表現は見事でした。
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