シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」3

たいこ叩きのシューベルト 交響曲第9番「ザ・グレート」名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、フワーッと長めに演奏されるホルン。序奏が木管に引き継がれてのどかな雰囲気です。テンポが微妙に動きます。第二主題の前でテンポを上げて、第二主題もそのままのテンポです。クレッシェンドが波が大挙して押し寄せてくるような重量感があります。トロンボーンは極端に強奏はせず、美しい響きの演奏です。弦の深みのある音がとても美しいです。終盤に演奏されるトロンボーンの付点の付いた音符の演奏が華やかで、すばらしい盛り上がりでした。

二楽章、哀愁を感じさせる木管のメロディー。一転してせきたてるような弦。Bは美しい旋律が強弱織り交ぜて演奏されます。弱音の美しさは際立っています。テンポはよく動きます。トゥッティでもオケを限界近くまで鳴らすことはなく、美しい響きが続きます。

三楽章、伸びやかで柔らかな響きの弦。せきたてるようなクレッシェンド。うねるように迫ってくる弦。中間部でもテンポが動きます。

四楽章、躍動的でアクセントに敏感な第一主題。強弱の変化にも敏感です。優雅に舞うような第二主題。歓喜の主題の引用部分から引きずるように重くなったりすることがあります。ギャロップのように軽快な第二主題の再現。テンシュテットが指揮するマーラーのような叩きつけるようなトゥッティではなく、力加減にすれば七分目ぐらいの力みの無い演奏です。コーダから引きずるように重くなりました。最後はデクレッシェンドで終わりました。

ベームの演奏のようなパーンと張った演奏に比べると、しなやかな演奏ではあったのですが、その分、勝利を掴み取った喜びの表現は控え目で、感情的な振幅も狭かったように感じました。

朝比奈 隆/東京都交響楽団

icon★★★★
一楽章、霧の中から響くような、ゆったりとしたホルンが終わると若干テンポを上げて歩き始めます。明るい響きのトロンボーン。オケのエネルギーを上回るような、力強いティンパニですが、第一主題ではドタバタしてうるさいですし旋律よりもリズムを刻む楽器の存在感が大きいです。第二主題は少しテンポが速いです。レガートに演奏されるトロンボーン。付点のリズムが甘いところもあります。オケに力みは無く自然体の演奏ですが、ティンパニがかぶって来るので、全体のバランスを崩しています。

二楽章、遅めのテンポ良く歌うオーボエ。シルキーな弦。テンポの揺れ動きも自然で心地の良いものです。テンポをさらに落して語りかけるような優しく味わいのある表現。

三楽章、一転して速いテンポです。踊るように活発な表現です。ゆったりと大きな中間部。テンポもよく動いて積極的な表現をしています。美しいメロディーをとても優しく演奏しています。主部が戻ると再び活発な演奏になります。

四楽章、柔らかい第二主題。やはりティンパニはオーバーバランスです。重量感のあるトゥッティ。テンポの変化にアンサンブルの乱れが出ます。最後はエネルギーが発散されるような感じは無く比較的穏やかでした。

優しい表現やテンポの自然な動きなど、魅力的な表現がたくさんありました。一方でリズムの甘さやアンサンブルの乱れやティンパニのバランスなどライブならではの問題もありました。

オトマール・スイトナー/シュターツカペレ・ベルリン

スイトナー★★★★
一楽章、浅い響きのホルン。なだらかなトゥッティ。柔らかく深みのある弦。軽く弾む第一主題。速めのテンポの第二主題。控え目なトロンボーン。その代わり豊かに鳴る弦。金管は抑えめの演奏で力強さはありありませんでした。

二楽章、憂いを感じさせるオーボエ。テンポは速めです。ヴァイオリンがいぶし銀のような渋い輝きを放ちます。流れるようなBの旋律。コントラバスの動きがとても良く分かります。歌ってはいますが、大きい表現ではなくとても奥ゆかしい歌です。

三楽章、躍動感があって少し追い立てるような冒頭でした。楽しげなトリオです。

四楽章、弦はとても活発ですが、金管はあまり吠えません。第二主題も滑らかであまり弾みません。ベートーヴェンの歓喜の主題を改変されて引用された部分はゆったりとおおらかな表現です。テンポが動くところも何度かありました。テンポを落として堂々としたコーダ。

奥ゆかしい歌や滑らかな表現。テンポを落として堂々としたコーダなど、聞きどころが散りばめられた演奏でしたが、リズムがあまり弾まなかったので、活気のある演奏にはならなかったのと、シュターツカペレ・ドレスデンの美しさを捉えきった録音では無く、美しさが伝わってこなかったのがとても残念でした。

リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ムーティ★★★★
一楽章、豊かな残響を含んで少し遠いホルン。バランス良く滑らかな響き。テンポはとても良く動いています。第一主題に向けて大きく加速しました。第一主題はあまり弾みません。第二主題も速めのテンポでたっぷりと歌い振幅の大きい音楽です。トロンボーンの第三主題はあまり大きくクレッシェンドしませんでしたが、周りの弦楽器は大きな表現でした。色彩感はありますが、音の密度はあまり高くありません。テンポを落として濃厚なコーダでした。

二楽章、この楽章でもテンポは良く動きます。Bはしみじみとした滑らかで美しい表現です。弱音の静寂感もなかなか良いです。強弱の対比も大きく、ムーティの気迫が伝わって来るようです。テンポの頻繁な変化もムーティの作品への思い入れを感じさせます。二度目のBもゆったりとしたテンポでたっぷりと歌います。

三楽章、スピード感のある演奏です。華やかな雰囲気のトリオ。この楽章でもテンポの動きがあり情熱的な演奏です。

四楽章、この楽章でも冒頭から大きなテンポの動きがありました。活発な動きを見せる第一主題。第二主題も弦の刻みが強調されていてリズミックです。あまりに大きなテンポの動きにわざとらしさを感じて来ました。コーダはクナッパーツブッシュばりの超スローテンポの弦と速いテンポの金管が交互に演奏するものでした。

かなり積極的にテンポを動かす演奏で、ムーティの意気込みを感じさせる演奏でしたが、ちょっと演出過剰とも思える部分もあり素直に受け入れられませんでした。
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レナード・バーンスタイン/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、豊かな響きでふくよかなホルンの序奏。続く木管の表情もとても豊かです。細部までいろんな表情が付けられています。第一主題の途中で急激にテンポを速めました。速いテンポのまま第二主題に入りました。かなり起伏の大きい演奏で激しいです。トロンボーンの強奏部分は全開にはならず抑え気味でした。終盤でさらにテンポを上げました。最後はグッとテンポを落として演奏しましたが所々金管を全開にしない部分があり、ちょっと欲求不満になります。

二楽章、色彩感が濃厚な木管、シルキーな弦が美しい。テンポを動かしたり、間を空けたりとても表現の幅が広い演奏です。わずかにテンポを落としてBへ入りました。Aに戻る前に大きくテンポを落としました。オケを全開にすることはなく、抑え気味の演奏です。コーダはかなりゆっくりとしたテンポで克明な演奏でした。

三楽章、激しい演奏ですが、表情もすごく豊かでまるで生き物のようです。中間部はわずかにテンポを落として演奏しています。お祭りの賑わいのような華やかな雰囲気です。この部分でこんな雰囲気を感じさせる演奏を今まで聴いたことがありません。スケルツォ主部が戻って、再び豊かな表現です。

四楽章、元気の良い第一主題。弦の細かいパッセージのアクセントもしっかりと付けられています。ぐっと感情を抑えたような第二主題。ここでもトロンボーンは全開にはなりません。

とても表情豊かな演奏でしたが、最後まで全開にはならない演奏が理解できませんでした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」の名盤を試聴したレビュー

投稿者: koji shimizu

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