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たいこ叩きのベルリオーズ 「幻想交響曲」名盤試聴記
グスターボ・ドゥダメル指揮 ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団&フランス放送フィルハーモニー管弦楽団
★★★★☆
一楽章、艶やかで美しいヴァイオリン。表現力豊かなオケです。ダイナミックの変化がすごいです。すごく情熱的な演奏です。歌もありテンポも動いてものすごい勢いの部分とテンポを落として比較的穏やかな部分との対比が見事です。クライマックスのエネルギー感もすごいものでした。オケの人数も多いのでトゥッティのパワーはすごいです。
二楽章、コルネットのオブリガートが演奏されます。ゆったりと優雅な舞踏会です。テンポはあまり動きません。一楽章の情熱的な演奏から一転して穏やかな音楽になっています。
三楽章、非常にゆっくりとしたコーラングレとオーボエ。オーボエはかなり遠いです。芸術家の寂しく不安な心情を表現するような寒さを感じさせる響き。情熱的だったり優雅だったり、寂しさだったりと次々と雰囲気を変えるドゥダメルの表現力には驚きます。ティンパニが一か所に固まって置いてあるので、雷が空に拡がって鳴り響く感じはあまり表現されませんでした。
四楽章、ベルリオーズの指定とは違って柔らかいティンパニ。豪快に、しかも鋭く切れ込む金管。輝かしく鳴り響くトランペット。反復がありました。超大編成のオケを利してすごいダイナミックレンジの演奏です。トロンボーンのペダルトーンもはっきりと響いて来ます。
五楽章、速めのテンポで、金管がビンビン鳴ります。高い鐘の音。マルカートぎみに演奏するチューバの怒りの日。大人数でぴったり合わせた表現にはすごい力があります。どんどん加速して行きます。加速して加速して走り抜けて終わりました。
幻想交響曲を超大編成で表現力豊かに演奏しました。最後は魔女の狂気の大饗宴でした。
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ジョルジュ・プレートル指揮 ボストン交響楽団
★★★★☆
一楽章、穏やかな弱音でゆったりとしたテンポの冒頭です。テンポを速めるところでは急激な変化で、すごい速さになります。大きく感情移入しているような感じは受けません。
二楽章、ゆったりと優雅な舞踏会です。整ったアンサンブルと美しい演奏です。最後はかなりテンポを煽りました。
三楽章、オーボエはそんなに遠くにいる感じはありませんが、間接音を含んで舞台裏にいるのは分かります。舞台裏に響き渡るオーボエ。歌う弦に切迫感を感じます。木管も表情豊かに歌います。弦の強弱の変化が非常に大きいですしテンポも大きく動きますが不自然さはありません。かなりダイナミックな演奏です。太い響きのクラリネットも伸びやかに歌います。カチッと整ったアンサンブルでとても手堅い演奏になっています。強打はしませんが、遠くから空に広がる雷を上手く表現しています。
四楽章、ティンパニと一緒にスネア・ドラムも叩いているようです。厚みのある弦の響き。吼えるように噴出す金管。テンポを上げて軽く吹くトランペット。全体をマスクしてしまいそうなシンバルの強烈な打撃。ギロチンが落ちるところも強烈でした。
五楽章、速いテンポで始まりました。積極的な表現の低弦。AクラとE♭くらの違いはあまり表現されませんでした。高い音ですが、美しい鐘。騒がしい怒りの日。速いテンポで動きのある演奏で、生き生きとしています。最後は凄くテンポを上げて終りました。
ゆっくりと始まった演奏でしたが、歌もあり、表現豊かな演奏でしたが、四楽章のティンパニにスネアを重ねるなど独特の解釈もありました。五楽章は速いテンポで一気に聞かせる豪快なものでした。オケも整ったアンサンブルで楽しく聴けた幻想交響曲でした。
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クリストフ・エッシェンバッハ指揮 パリ管弦楽団
★★★★☆
一楽章、非常に繊細で美しい響きです。速めのテンポですが、表情は豊かに付けられています。色彩感も豊かで、濃厚な演奏です。終盤、音楽としては盛り上がりますが、熱気は感じられません。とても冷静に音楽をしている感じがします。
二楽章、速めのテンポで優雅な舞踏会の雰囲気はありませんが、舞踏会で彼女を発見した時の心のざわめきと少しの不安が表現されているようです。テンポを落とすところではしっかりとテンポを落としてたっぷりとした表現です。
三楽章、ゆっくりとした情景描写。オーボエは距離があります。伸びやかな弦の歌。タメやテンポの変化もあり、テンポを落として物悲しさを表現している部分もあります。ティンパニは少し抑えぎみで雷鳴の広がりはかんじませんでしたが、二度目のクレッシェンドの途中の打撃は強烈でした。
四楽章、追い込むような速いテンポのティンパニ。軽く柔らかいトランペット。反復がありました。途中でティンパニの強烈なクレッシェンドがあります。最後のティンパニのクレッシェンドが凄かったです。
五楽章、クラリネットのソロはすごく速いテンポで踊り狂っているような感じです。高い鐘の響き。怒りの日からは落ち着いたテンポです。最後はダイナミックに終わりました。
とても繊細で美しい演奏でしたが、ミュンシュ以来の伝統か、ミュンシュのようなあからさまな狂気ではありませんでしたが、常に奥に情念や狂気を秘めているような幻想交響曲の演奏でした。
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ウラディミール・フェドセーエフ指揮 ウィーン交響楽団
★★★★☆
一楽章、柔らかく繊細で美しい響きで、良く歌います。ホルンが長い音を強く吹きました。目が覚めるような鮮明な響きです。テンポの動きはあまりありませんが、色彩感はくっきりとしています。どっしりとしたテンポで響きにも厚みがあります。
二楽章、抑え目の表現の冒頭。ゆったりとしたテンポで、優雅な舞踏会です。後半のワルツはテンポを上げて厚みのある響きの演奏でした。その後はまたテンポを落としてどっしりとした演奏です。
三楽章、コーラングレとオーボエの距離はわずかです。テンポは速めで前へ進もうとするエネルギーのある演奏です。テンポは動きませんが振幅の大きな演奏です。雷が空に鳴り響く様子を上手く表現しています。
四楽章、ティンパニの強烈なクレッシェンド。この楽章も落ち着いたテンポで歯切れの良いトランペット。
五楽章、速いテンポのクラリネットのソロ。思い切りの良い金管。高い響きの鐘。後ろでクチュクチュと言う音が常に付きまといます。トロンボーンとホルンの怒りの日は美しい響きです。この楽章も落ち着いたテンポの堂々としたテンポの演奏でした。最後のフェルマーターはティンパニのロールも加えられていました。
作品の表題性を意識した演奏ではありませんでしたが、非常に美しい演奏は魅力的でした。ただ、クチュクチュと言う音が常に付きまとう録音は残念でした。
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