チャイコフスキー 交響曲第4番3

たいこ叩きのチャイコフスキー 交響曲第4番名盤試聴記

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★
一楽章、ホールトーンを伴って伸びやかになる金管。ハイティンクのチャイコフスキーは、ロシア物の概念とは違う演奏で、力で押すような部分は全くありません。
むしろ脱力系の演奏で、強弱の振幅も比較的緩やかで、楽譜に書かれている音符を丁寧に音楽にしているようです。
積極的な表現はないのですが、オケの一体感があるのが、アバドとの大きな違いです。
微妙な表現しかしていないようですが、その微妙な表現が徹底されているのが響きの美しさにも現れていて、聴いていて心地よい演奏になっています。

二楽章、真面目なハイティンクの不器用さがこの楽章では、目だってしまいます。
カラヤンのような聞かせ上手ではないので、音楽が平板になってしまうところが残念です。とても美しいのですが・・・・・・。

三楽章、この楽章は動きがあります。ただ、ムラヴィンスキーのような厳しさやカラヤンのような豪華絢爛な演奏には及びません。
中庸の安心感はありますし、音楽的にもかなりレベルの高い演奏ではあるのですが、残念ながら上がいるということでしょうか。

四楽章、ムラヴィンスキーやショルティのような、ブッ飛びの猛スピードではありませんが、ほどほどのスピード感はあります。
オケはアンサンブルも良いし、美しいし。

ハイティンクの演奏って、噛めば噛むほど味が出るような玄人好みの演奏が多く、初めて聴いたときには、良さがなかなか分からないことが多いです。
整った良い演奏でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、冒頭のファンファーレは速めのテンポでした。うねるようにオケ全体が歌っているような一体感。ムラヴィンスキーのような厳しい極寒の地を思い起こさせるような演奏ではなく、絢爛豪華な音楽絵巻のようです。
柔らかな木管と弦楽器。愛を語る優しさがあります。しかし、それをかき消す強烈な金管楽器。
金管楽器の咆哮はすばらしい響きで圧倒されます。また、弦楽器の暖かみのある響きはムラヴィンスキーの演奏とは対照的です。
ムラヴィンスキーの厳しい表現に比べるとカラヤンの演奏は甘美です。

二楽章、暖炉の前にいるような暖かみのある演奏で、この楽章もムラヴィンスキーとは対照的です。

三楽章、オーボエの旋律が哀愁に満ちていてすばらしい。やはり、木管楽器の豊かで柔らかい響きがものすごく魅力的です。

四楽章、遅いわけではないが、ムラヴィンスキーやショルティの狂ったような疾走に比べると緩い印象を受けてしまいます。
もう一つ、鳴り物入りと言われるこの楽章にするとシンバルの鳴りも今ひとつと言わざるを得ません。最後に備えて径の小さいシンバルを使っているのでしょうか。運命のテーマの後はテンポが速くなりました。

なるほど、こういう設計になっていたんですね。

マリス・ヤンソンス/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ヤンソンス★★★
一楽章、比較的穏やかで大人しいファンファーレ。あまり表情が無く素っ気ない第一主題。この作品独特の荒々しさは無くビロードのような柔らかい肌触りです。第二主題は速めのテンポですがここでもあまり豊かな歌はありません。クライマックスもあまり強奏はせず何かミニチュアを見ているような感覚になります。再現部のクライマックスもとてもスケールの小さい演奏です。表情にもあまり締りが無く緩い感じがします。再現部のデリケートな弦。コーダへ向けて少しテンポを速めます。コーダも圧倒的な響きはありませんでした。

二楽章、強弱の振幅が大きく豊かに歌うオーボエの主要主題。弦で演奏される主要主題はあっさりとサラサラと流れて行きます。

三楽章、強弱の変化が大きくスピード感のある主題。トリオも良く歌います。金管の行進曲も豊かな表情です。

四楽章、速くも遅くもない中庸のテンポです。ロシアのオケのようなエネルギーの爆発は無く、端正でバランスの良い演奏です。意図的に音量を落とす部分があったりアゴーギクのようにテンポが動いたりします。ファンファーレも奥まっていて突き抜けて来ません。

エネルギーの爆発は無くかなり大人しい演奏のように感じました。あっさりとした部分と、豊かに歌う部分の描き分けがはっきりしていて、意図的に音量を落とすような表現もあり、工夫は随所にありましたが、やはりこの曲は爆発してほしいと思いました。
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カルロス・パイタ/モスクワ新ロシア管弦楽団

パイタ★★★
一楽章、ロシアのオケらしく鋭く力強いファンファーレ。第一主題が開始されるまでの部分はかなりゆっくりの演奏でした。第二主題は音量を落としてヴェールに包まれているような感じでした。金管を遠慮なく吹かせる演奏で、かなりダイナミックです。展開部のクライマックスは異様な程の強烈さでした。最後は物凄いアッチェレランドと金管の咆哮で終わりました。

二楽章、ほとんど歌わない主要主題。かなり雑な弦。美しく歌うよりも音量が大きくなることにひたすら集中するような演奏で、繊細さなどは全くありません。ファゴットの主要主題は哀愁があってとても良い演奏でした。

三楽章、速いテンポですが、表現はあまり締まっていません。どこか緩い感じがあります。行進曲はさらに速くなり、ピッコロなどは名人芸のような速さです。

四楽章、テンポはそんなに速くはありませんが、必死な演奏でスピード感があります。トロンボーンもシンバルも炸裂します。お祭り騒ぎのような賑やかさです。ファンファーレの後はゆっくりのテンポから加速して凄い勢いと咆哮で強烈な演奏です。

弱音部分にはほとんど意識は無く、金管の強烈な咆哮と猛烈なアッチェレランドが特徴的な演奏で、そこまでしなくてもと思いました。かなり荒っぽい印象でした。
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ヤッシャ・ホーレンシュタイン/スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

ホーレンシュタイン★★
一楽章、かなりのナローレンジです。冒頭のファンファーレでも何度かミスがありました。速いテンポで淡々と進む第一主題。ゆっくりと始まった第二主題はすぐに普通のテンポになります。録音が悪くてあまり細部は分かりませんが、ひたむきさや熱気は感じられます。

二楽章、大きく歌うことはありませんが、切々と語りかけてくるような深い音楽です。中間部は速いテンポで弾むような表現です。

三楽章、こ楽章はとても遅いテンポで始まりました。強弱の変化もあまりありません。淡々としています。最後は少しテンポを速めて終わりました。

四楽章、ゆっくりとしたテンポのロンド主題。シンバルのおもちゃのような音です。この楽章でも大きな表現は無く、淡々と進んで行きます。金管の咆哮もありません。コーダへ向けて少しテンポが速くなりますが、暴走するような速さにはなりません。

とても真面目に作品と向き合った演奏だったと思います。大きな表現は無く淡々と進んで行きますが、切々と語りかけるような深い音楽でした。ただ、録音が悪く細部を聞き取ることはできませんでした。
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ネーメ・ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団

ヤルヴィ
一楽章、多声的で厚みのあるファンファーレ。第一主題が弦に移るとテンポが速くなります。奥まったところから遠慮がちに響く第二主題。突然音量を落とすことが何度かありました。表現はストレートであまり深味はありません。再現部の第二主題はとても軽い表現です。スケールも大きく無く、軽い演奏です。

二楽章、良く歌う主要主題ですが、特に美しい響きではありませんでした。コントラバスもちゃんと鳴っているのですが、なぜか軽く広がりの無い演奏です。

三楽章、ここまでの軽い演奏から一転して、物々しいスケルツォ主題ですが、どこか荒っぽい感じがします。トリオもとても積極的に歌っています。

四楽章、三楽章だけ録音レベルが高かったのでしょうか?この楽章ではオケが少し引っ込んでしまいました。ちびったようなシンバル。打楽器がドタバタした感じに響きます。録音がデッドなのか、ブレンドした豊かな響きを聞くことができません。豪快にオケが鳴ることもありませんでした。最後まで速くも遅くも無いテンポのまま終わりました。

浅く軽い演奏で、あまり深味が無く、ブレンドされた豊かな響きはありませんでした。ドタバタした打楽器も演奏を壊しているような感じがしました。
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イーゴリ・マルケヴィチ/ロンドン交響楽団

マルケヴィチ
一楽章、短い音をスタッカートぎみに演奏するホルンのファンファーレ。かなり短く不自然な印象の部分もあります。基本的には速いテンポでグイグイ進みます。ところどころで短い音をスタッカートぎみに演奏する独特の表現です。テンポも動いています。再現部の前のファンファーレはかなり強烈でした。ホルンのファンファーレのスタッカートがとてもひっかかります。

二楽章、良く歌うオーボエ。この楽章でもスタッカートで演奏される部分があって、私はとても違和感を感じます。テンポも動いて歌はあるのですが・・・・・。中間部は何か投げつけるような表現で、テンポも速いです。ファゴットの主要主題もテンポが動いて良く歌いますが、哀愁は感じません。

三楽章、速いテンポで勢いがあり迫ってくるような表現です。とても活発です。中間部へ入る直前のピィツィカートが凄く強かったです。主部に戻る前に急激にテンポを落として、また速い主部に入りました。音に力があって強い演奏です。

四楽章、径の小さいシンバルを使っているようで、豪快に鳴り響きません。副主題もスタッカートぎみに演奏します。この楽章でも突然テンポが遅くなったりする部分があります。音がゴリゴリしていてブレンドされた柔らかい響きはありません。ロンド主題の中でもテンポが動きます。ファンファーレの前の副主題は感情の赴くままに次第に非常にゆっくりとしたテンポの演奏になりました。第二副主題から急激にテンポを速めました。最後まで華やかな響きにはならず、地味で硬くゴリゴリとした響きでした。

マルケヴィチの演奏にしては情緒的で感情に任せてテンポが大きく動く演奏でしたが、普通の演奏では無いようなスタッカートがとても違和感がありました。また、ゴリゴリとした硬く地味な響きもあまりこの作品には合っていないように感じました。
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レオポルド・ストコフスキー/アメリカ交響楽団

ストコフスキー
一楽章、独特の表現。テンポも強弱の変化も冒頭からストコフスキー節炸裂です。第一主題も途中で止まるような表現があります。完全にストコフスキーワールドです。テンポは好き放題です。あまりにテンポや強弱の変化が多いので、とても戸惑います。これはストコフスキーの感情のままに自然に出てきた表現だとは思えません。意図的に仕掛けをして見せびらかすような演奏に感じます。ストコフスキーファンにとってはたまらない演奏なのではないかと思う程、やれることはとことんやっています。

二楽章、ゆっくりとしたテンポで割りと正統な歌の主要主題。弾むように演奏する中間部

三楽章、アクセントをとても強調しています。行進曲でもトランペットが突然強く吹く場面があります。

四楽章、とても表現が大きいです。テンポもめまぐるしく激変します。突然弱音になったり、これでもかとテンポを落としたりやりたい放題です。ファンファーレの前で大きくテンポを落とします。トランペットのファンファーレもシンコペーションのリズムの部分で極端に音量を落としてクレッシェンドしました。ロンド主題の前で大きくアッチェレランドして、ロンド主題ではトランペットに合わせてティンパニも叩きます。とにかく目まぐるしいテンポの変化です。

表現し切ったと言えばその通りなのですが、ここまでコテコテの表現をする必然性が分かりません。チャイコフスキーの曲と言うより、ストコフスキーの曲のようでした。
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投稿者: koji shimizu

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