シベリウス 交響曲第1番

シベリウスの交響曲第1番は、フィンランドの自然や北欧の厳しさ、そして深い情緒が込められた作品で、彼の作曲家としてのスタイルが確立された重要な曲です。この交響曲には、彼が持つ独特の旋律美とドラマチックな展開が織り交ぜられており、フィンランドの民族的アイデンティティが色濃く表現されています。

1. 第1楽章:Andante, ma non troppo – Allegro energico

静かなクラリネットのソロで始まる序奏が印象的です。冷たい風が吹き抜けるような孤独感が漂い、北欧の厳しい自然を思わせます。やがて、力強い主部に入ると、悲劇的で感情豊かなテーマが現れ、全体にわたってエネルギッシュな展開が続きます。ここにはシベリウスのロマンティックな一面と、ドラマティックな表現が交錯し、初めての交響曲ながらも強い個性が光ります。

2. 第2楽章:Andante (ma non troppo lento)

この楽章はゆったりとしたテンポで、フィンランドの美しい自然や静かな湖畔の風景を連想させるような叙情的なメロディが特徴です。どこか悲しげで深い情感が漂い、柔らかな響きの中に温かさと寂しさが入り混じっています。この楽章は特にシベリウス特有の自然描写が感じられ、内面的で心に染み入るような美しさが魅力です。

3. 第3楽章:Scherzo. Allegro

力強いリズムとエネルギッシュなテーマが特徴のスケルツォ楽章です。荒々しい北の自然を描写するかのような、スリリングで活気に満ちた音楽が展開します。シベリウスらしい鋭いリズムや切れ味の良いメロディが、北欧らしい厳しさや自然の力強さを表現しており、この楽章には彼の躍動感とリズムの巧みさが感じられます。

4. 第4楽章:Finale (Quasi una fantasia). Andante – Allegro molto

最終楽章は、序奏での悲しげなテーマが再び現れ、フィンランドへの郷愁や、シベリウスの内なる葛藤が表現されています。やがて激しくドラマチックな展開に入り、楽曲全体が感情的なクライマックスへと進んでいきます。シベリウスが抱く民族的な誇りや決意が表れ、最後には静かに音が消えていくように終わる印象的な締めくくりです。

全体の印象

シベリウスの交響曲第1番は、フィンランドの厳しい自然や民族的な精神が込められ、若々しい情熱と叙情性があふれた作品です。ロマンティックな要素とシベリウス独自の音楽語法がうまく融合しており、彼が後に確立していく北欧独特の音楽スタイルの出発点ともいえる作品です。

4o

たいこ叩きのシベリウス 交響曲第1番名盤試聴記

パーヴォ・ベルグルンド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、空間に広がる不穏な雰囲気。活動的な第一主題。しっとりとした第二主題。空気を切り裂くような金管。すごく細くで美しいヴァイオリン。

二楽章、漂うように幻想的な第一主題。金管の音には伸びがあって、色彩感もとても豊かで美しいです。編成が小さいことはほとんど感じない演奏です。

三楽章、活発で躍動的な主題。鮮明な色彩感。トリオでは締りのあるホルンと伸びやかなフルートが印象的です。目の前に迫ってくる弦の刻み。

四楽章、作品への共感が伝わる、感情が込められた序奏はとてもよく歌います。主部のテンポは速いです。室内オケが無理をしている感じは全くありません。トゥッティでは音が迫って来るほどです。

作品への共感を基にした表現。色彩感溢れる美しい響き。聞いていて惚れぼれするような演奏でした。

コリン・デイヴィス指揮 ボストン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、美しく空間に広がるクラリネット。控え目で美しい弦の第一主題。贅肉を削ぎ落としたような透明感があるけれどいぶし銀のように渋い金管。集中力が高く一体化したオケの動きが見事です。

二楽章、静寂の中に静かに穏やかに演奏される第一主題。第二主題も静寂感があり、冷たい空気感もあります。広大な平原を連想させる中間部のホルン。主部が戻る前の金管の動きもとてもまとまったキッチリとしたアンサンブルで非常に上手いです。

三楽章、小さく弾む木管。色んな動きがあるけれど、とてもバランスが良く一体になったオケの響きの充実ぶりは素晴らしい。

四楽章、悲しみをこらえるような序奏から、夢見心地のフルート。伸びやかで美しい第二主題。第一主題でもそうでしたが、木管のアンサンブルのバランスが絶妙です。原色のような派手な色彩感では無く、渋いくすんだ色彩ですが、一体感のある充実した響きです。また、絶叫することも無く、とても上品な表現で切々と訴えかけてきます。

充実した渋い響きに一体感があって、非常にバランスの良い演奏でした。その上上品な表現で切々と訴えてくる演奏は感動的でした。

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

カラヤン★★★★★
一楽章、暗闇に浮かびあがるような孤独感のあるクラリネットの序奏主題。広大で豊かな第一主題。金管のエネルギーやティンパニのパワーも凄いです。ピンポイントのヴァイオリンのソロ。強弱の振幅は物凄く幅広いです。美しく豪華絢爛な響きで、シベリウス独特の空気感はあまり感じません。コーダの物凄いエネルギー感にも圧倒されました。

二楽章、穏やかですが、暖かい第一主題。第二主題も寒さはあまり感じません。オケは完璧でとても美しいです。中間部後半の荒々しい盛り上がりから一転して、第一主題が戻るととても穏やかになります。

三楽章、活発な運動量の演奏です。この録音ではティンパニのバランスが少し強いように感じます。

四楽章、僅かに寒さを感じさせる序奏主題。スピート感のある第一主題。第二主題も表現は控えめで自然に流れて行きます。再現部の第二主題の弦楽合奏は厚みがあってとても豊かでした。コーダも豪華絢爛でした。

シベリウス的なものを期待すると完全に裏切られますが、美しく豪華絢爛な響きにはこの作品にこんな表現もあったのかと納得させられました。見事な演奏でした。

コリン・デイヴィス指揮 ロンドン交響楽団

icon★★★★★
一楽章、弱いティンパニに乗ってくっきりと浮かぶクラリネットが訴えてきます。最後は消え入るような小さい音にな暗闇にポツンと浮かぶロウソクの炎のようでした。弱音で始まって次第に大きくなる第一主題。雄大な金管の第一主題。鮮明な色彩と整ったアンサンブル。すがすがしい響きのヴァイオリン。シベリウスらしい清廉な響き。トゥッティでも見通しの良い演奏で、端正で整った演奏です。

二楽章、とても静かに演奏される第一主題。羽毛で撫でられるような安らかさです。第二主題から活発な動きになり、トランペットやホルンが気持ちよく鳴り響きます。生き生きとした木管、目の覚めるような金管とシルキーな弦が絡んでとても良い演奏を繰り広げています。

三楽章、歯切れの良い弦の主題。屈託無く鳴り響くホルン。木管のキリッと引き締まった抜群のアンサンブル。壮絶な響きで終りました。

四楽章、第一主題の後はスピード感のある演奏でした。穏やかな第二主題。チャーミングな木管の弱音と豪快に鳴る金管のエネルギー感が凄いです。充実した響きで終りました。

消え入るような弱音から豪快なトゥッティまでダイナミックな演奏でした。ただ、感情表現はせずに、作品に忠実な演奏で端正で美しい演奏から作品の良さがにじみ出てくるようで充実した演奏でした。

レナード・バーンスタイン指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

バーンスタイン★★★★★
一楽章、静寂感の中にクラリネットの序奏主題が響きます。ゆったりと伸びやかな第一主題。トゥッティはかなり強いですが、他の演奏に比べると大人しい方です。ねっとりと感情を込めた演奏で、晩年のバーンスタインの演奏スタイルです。二度目の第一主題のトゥッティはかなり強烈な咆哮でした。

二楽章、この世のものとは思えないような美しさの第一主題。ゆっくりとしていますが、フワフワと漂うような幻想的な表現です。第二主題は一つ一つ確実に踏みしめるような表現です。中間部では潤いがあって泉から湧き出すような木管。シベリウスらしい冷たい空気感はあまりありませんが、濃厚で美しい演奏はとても良いです。

三楽章、パチーンと強いインパクトのティンパニ。油絵のような濃厚な色彩で、表情豊かに動き回る木管。金管も切れ味鋭く生き生きとしています。

四楽章、第一主題も生き生きとした表現でテンポも自在に動きます。抑えた表現ですが、感動的な第二主題。極端にテンポを落とす部分もあります。

晩年のバーンスタインらしい濃厚な表現でしたが、作品の原型は維持していて、大きな違和感はありませんでした。濃厚で生き生きとした美しい演奏は素晴らしいものでした。
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パーヴォ・ヤルヴィ指揮 パリ管弦楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、陰影をたたえて豊かに歌う序奏主題。深みのある表現の第一主題。金管は絶叫しませんが、ティンパニがとても大きくクレッシェンドします。ハープに乗ったフルートの副主題もとても豊かな表情です。生命感のある生き生きとした表現はヤルヴィらしくとても良いです。大きく波打つような起伏のある演奏もとても良いです。コーダでテンポを速めたり、ティンパニの激しいクレッシェンドも凄かったです。

二楽章、一楽章とは打って変わってとても穏やかでゆったりとした第一主題。テンポの動きもありますが、何より表情の豊かさには惹きつけられます。とても瑞々しく美しい演奏です。

三楽章、荒れることは無く、美しさと躍動感を併せ持った演奏です。パリoがこれだけの一体感を聞かせるのは珍しいのでは無いかと思います。とてもまとまりのある充実した演奏です。

四楽章、深みのある序奏。第一主題が出て打楽器が入るまでの部分はかなりテンポを速めて演奏しました。速いテンポで駆け抜ける部分と、ゆったりとたっぷり感情を込めて歌う部分の対比もなかなかです。最後は刻み込むような弦と目の覚めるような強烈なティンパニのロールで終わりました。

とても豊かな表現で、どこを取っても歌があるような演奏でした。テンポの動きによる多彩な表現や、強烈なティンパニなど聞き所も多い演奏で最後まで惹きつけられる演奏でした。
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オッコ・カム指揮 ヘルシンキ放送交響楽団

カム★★★★★
一楽章、暗闇から浮かび上がるようなクラリネットですが、あまり密度は高くありません。伸びやかで美しい第一主題。突き刺さるようなトランペット。とても振幅が大きく激しい演奏です。オケが良く鳴っていて壮麗な響きです。

二楽章、レースのカーテン越しに聞くようなマイルドでとても穏やかな第一主題。ほの暗い第二主題。少し寒さを感じます。水彩画のような爽やかな色彩感の美しい演奏で、明快な金管の明るい響きと、弦や木管の僅かに暗い表現の対比が見事に描かれています。

三楽章、柔らかいティンパニ。伸びやかで透明感の高い美しい響きはとても魅力的です。

四楽章、感情を込めて歌う感じはありませんが、繊細で美しい弦がとても印象に残ります。敏感な反応の第一主題。大きなクライマックスではありませんでしたが、美しくとても良く鳴り響く演奏でした。

伸びやかで壮麗な響きのとても美しい演奏でした。大きな感情表現はありませんでしたが、水彩画のような爽やかな色彩の演奏はとても魅力的でした。
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巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・シベリウス:交響曲第1番の名盤を試聴したレビュー

投稿者: koji shimizu

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