カテゴリー: マーラー

マーラー 交響曲第4番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第4番名盤試聴記

ジェイムズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、美しく歌われる第一主題。動きがあってとても活発な印象です。第二主題部でも積極的に歌い、動きます。とても良く歌い、色彩感も豊かで、くっきりとした輪郭の演奏です。オケの技術がとても安定していて、がっちりとした演奏になっています。

二楽章、とてもクローズアップされたヴァイオリン独奏が他の楽器と比べてアンバランスです。牧歌的なホルン。ヴァイオリンのアクセントがキツくカチーンと来ます。ピチカートなどもすごく強調されていて、録音のバランスが悪いような感じがします。

三楽章、穏やかで美しい弦の主題。二つ目の主題も美しく歌われます。穏やかな部分と激しい部分のコントラストも上手く表現されています。温度感は低くないので、ピーンと張り詰めたような緊張感はありませんが、静寂感はあります。陰影を感じさせるオーボエ。強力なホルンの強奏。すごいオケの能力を感じさせます。終盤の盛り上がりはすごいパワーでした。ハープに導かれて夢見るように終りました。

四楽章、可愛く魅力的なソプラノ独唱。天国の楽しさを歌うにふさわしい歌声です。テンポも動いて、とても音楽的です。ゆったりとした部分では、時間が止まったようにのどかな天国を上手く表現しています。終盤はゆったりとしたテンポのまま終りました。

とても良い演奏でしたが、二楽章のバランスの悪さが惜しまれます。

レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★☆
一楽章、明確な表現と色彩感の第一主題。テンポの変化も大きく強弱の変化も敏感で作品への共感が感じられます。展開部からはせかされるようなテンポです。交響曲第5番冒頭のファンファーレが現れる手前ではかなりテンポが速くなりました。聴き手にはかなり緊張を迫る演奏だと思います。再現部はまたテンポが遅くなりました。間接音があまり収録されていないため、少しキツい感じの音で、この後も安らぐような音楽にはならないような予感がします。最後もゆったりとしたテンポからアッチェレランドして終わりました。

二楽章、冒頭のホルンも独特の表現です。乾いた音のヴァイオリン・ソロです。テンポもよく動いてとても音楽的です。バーンスタインはこの頃すでにマーラーの音楽を自分のものにしていたのですね。とてもはっきりと表情付けされています。

三楽章、静かに夢見るような浮遊感のある冒頭の表現はすばらしい。色彩の変化もくっきりと描いて行きます。弦の弱音は何とも言えない魅力的な音がします。ただ、デッドな録音なので、強奏部分はキツい音です。終盤に盛り上がる部分では、トランペットが強烈で、突き刺さってきます。

四楽章、フワッとしたクラリネット。とても明瞭で可愛い声の独唱。いかにもマイクの前で歌っています。と言う感じがします。

バーンスタインの主張がはっきりとした、色彩も鮮明な演奏でした。

オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、細身で繊細なヴァイオリンの第一主題。録音の古さからか少しメタリックな響きです。必要以上に感情移入することなく、とても流れの良い雄大な音楽です。

二楽章、表情豊かなホルン。に続く楽器も皆表情豊かです。色彩感が濃厚で輪郭もはっきりした演奏です。積極的な表現が一楽章とは対照的です。

三楽章、あまり思い入れもなくあっさりと演奏される弦の主題です。木管楽器には独特の表情付けがあります。後半の強奏はとても盛大です。高らかに演奏されるトランペット、炸裂するシンバル。そしてホルンの絶叫!。

四楽章、柔らかいクラリネット。天使を迎いいれる穏やかな雰囲気です。シュヴァルツコップの歌唱は少し幼い天使の可愛さを残した魅力的なものです。

とても整った良い演奏でしたが、この演奏でなければと言う強い魅力も無かったのが残念でした。

ワレリー・ゲルギエフ/ワールド・オーケストラ・フォー・ピース

icon★★★★☆
一楽章、くっきりと明瞭な序奏。重厚で一体感のあるオケの響き。歌に溢れた第一主題。動きがあって生き生きとした音楽です。第二主題も歌います。色彩感豊かで深い所から湧き上がってくるような音楽がすばらしい。オケが有機的に結びついてとても強固な音楽を作り出しています。最後はゆったりとしたテンポから急加速して終わりました。

二楽章、暗く沈んだホルン。飛び跳ねるように動きのあるヴァイオリンのソロ。中間部もオケが積極的で表情が豊かです。

三楽章、速めのテンポで現実的な主題。濃厚な表現のオーボエ。オケの強奏も激しいです。ずっと音楽に動きがあって、生き生きとした演奏です。終盤の盛り上がりは一体感のあるバランスの良い演奏でした。

四楽章、控え目でゆっくりとしたテンポで演奏されるクラリネット。しっかりとした存在感のソプラノ独唱。夢見るような弦楽合奏。

色彩感も濃厚で、静と動の対比も見事な演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1982年

ハイティンク★★★★☆
一楽章、序奏から一旦テンポをおとして、すごくゆっくり開始した第一主題。音楽の抑揚に合わせてテンポも動きます。安心感があり、穏やかな第二主題。一つ一つの音を刻み付けて行くような、彫りの深い演奏です。登場する楽器もしっかりと浮かび上がり色彩感も多彩です。トゥッティの響きも厚みがあります。テンポも良く動き、手馴れたものと言う印象です。ハイティンクの演奏らしく、大きな表現はありませんが、自然なテンポの動きと、美しい響きと整ったアンサンブルでとても安定感のある演奏です。最後の加速も堂々としていました。

二楽章、この楽章でも、色彩感が豊かで、美しくくっきりとした演奏です。オケの集中力も高く音がハイティンクのところに集まって来ているような感じです。

三楽章、波がゆっくりと押し寄せては返すような息遣いを感じる冒頭の演奏です。ハイティンクは大見得を切るような表現をすることはありませんが、細部にこだわった表現が魅力です。また、常に平均以上の演奏を聴かせてくれる安心感があります。そして、出来不出来の差がほとんど無いのも大きいです。一時暗転する部分でも、何とも言えないような憂鬱な雰囲気でした。ゆったりと流れる音楽が急激に力を増して分厚い頂点を作ります。終盤の盛り上がりのティンパニは巨人の歩みのようにゆったりとしていますが、強い打撃でした。

四楽章、この楽章もゆったりとしたテンポです。独唱の手前で大きくテンポを落としました。近い位置にいる独唱ですが、抑えぎみの歌唱が可愛い雰囲気を出しています。合いの手に入るオケも激しく、独唱と対比します。天国ののどかな雰囲気を見事に表現しています。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

サー・ジョン・バルビローリ/BBC交響楽団

バルビローリ★★★★☆
一楽章、硬い鈴の音です、たっぷりと歌われる第一主題。情感豊かな第二主題。バルビローリの作品への思い入れが現れた演奏です。感情に合わせてテンポも動いています。爆発する怒涛のトゥッティ!トランペットが凄く近い録音です。この感情を込めた演奏には共感できます。聴いていてとても心地良い演奏です。テンポの動きが絶妙です。最後の第一主題はすごくゆっくり開始してアッチェレランドして終わりました。

二楽章、ゆっくり目のテンポで始まりました。ヴァイオリンのソロも極端にしゃしゃり出ることは無く、控え目でバルビローリの趣味の良さが伺えます。トランペットに、ちょっと繊細さに欠け、雑な部分もありました。

三楽章、すごく感情を込めて歌う主題。バルビローリの唸り声が良く聞こえます。感情は込められていますが、節度を保った演奏で踏み外すことはありません。終盤の盛り上がりもおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさで、ティンパニの部分はとてもゆっくりと刻みました。

四楽章、独唱は熟した声で、天使の歌声にしては老けているように感じますが、伸びやかで心地良い歌声です。最後のテンポを落とした部分は天国ののどかな雰囲気を十分に伝える演奏で、独唱も含めて演奏に酔えるものです。

感情の込められた、しかも品良く雰囲気もとてもある演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

サー・サイモン・ラトル/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ラトル★★★★☆
一楽章、歩くようにゆっくりとした開始ですが、第一主題は一転して速いテンポですごくスピード感があります。第二主題でゆったりとなりました。展開部でも第一主題は速いテンポから次第にテンポを落として雰囲気の良い演奏です。第一主題の再現はゆったりとしていましたが、またテンポを上げました。テンポ設定は通常の演奏とは違う感じがしますが、色彩感は濃厚で輪郭のくっきりとした演奏です。テンポは良く動いていますが、何か作為的な不自然さも感じます。最後のアッチェレランドはそんなに急激なものではなくゆったりとしていました。

二楽章、柔らかいホルン。太い響きのヴァイオリン独奏。チャーミングな表情が付けられています。中間部はテンポを動かして柔らかい表現です。この楽章でもテンポは大きく動きますが、ここでは不自然さは感じません。

三楽章、遠くから漂ってくるような天国的で非常に美しい主題。ゆっくりと切々と語りかけてくる演奏に心打たれます。すばらしい表現です。オーボエが旋律を出す部分からも弦楽器の表現がすばらしく美しいです。自然な感情に合わせたテンポの動きです。終盤の盛り上がりの前の弦の繊細な表現もとても美しいものでした。終盤の盛り上がりはすごくゆっくりとしたテンポで雄大でした。美しく遠ざかりながら終りました。

四楽章、柔らかく美しいクラリネット。独唱の前にテンポを落としてゆったりりと独唱に引継ぎました。シンプルな歌声の独唱はこの曲にマッチしています。次第にテンポを落として終りました。

一楽章のテンポ設定はちょっと納得できませんでしたが、二楽章以降はウィーンpoの美しさを存分に発揮したすばらしい演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第4番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第4番名盤試聴記

オトマール・スイトナー/NHK交響楽団

icon★★★★
一楽章、少し遠目に定位するオケ。静かでひっかかるところの無い滑らかな演奏です。詰まったようなクラリネット。激しい強弱の変化も無く、とても穏やかで自然な音楽です。音楽を慈しむように丁寧に表現して行きます。金管には力強さが無く、テュッティで大きく盛り上がることは無く、当時の日本のオケの状態を感じます。とても淡い表現で強い表現はありません。ひたすら穏やかです。

二楽章、この楽章は動きがありますが、それでも音楽は穏やかです。表現は奥ゆかしく、オブラートにくるまれたような音楽で、刺激的な音は一切出しません。

三楽章、穏やかで安らぎに満ちた音楽です。強い表現は一切しません。自然な音楽の流れをとても大切にしているようです。ヴァイオリンのポルタメントが印象的です。強奏部分はそれなりに強く演奏されますが、全体の流れを崩すほどではありません。ホルンだけマイクが近く、しかも間接音が少ないので、とても浅い響きになるのが気になります。終盤に盛り上がる場面でも、ティンパニだけが大きくなって、他の楽器はそれほど大きくはなりませんでした。この当時はテュッティのエネルギー感が不足していたのかも知れません。

四楽章、発音が聞き取りにくい独唱。この楽章は強弱の対比がはっきりしています。後半はまた穏やかな音楽になりました。

この曲がこんなに穏やかな曲だと初めて感じさせられました。オケの技術がもっと高ければすばらしい演奏になっていたでしょう。

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★
一楽章、明快な演奏です。コントラバスが唸りを上げる。ヴァイオリンのシャープな音。どのパートもとてもリアルで、夢見心地には程遠い感じです。展開部のフルートは見事に揃っています。強いところではトランペットが突き抜けてきます。ショルティはシカゴsoの機能美を見せ付けるような演奏をしています。テンポの動きはありますが、歌や間などはほとんど感じません。

二楽章、模範演奏を聴いているような正確無比な感じがします。楽譜に書かれていることを正確に音にしていて、それ以上でもそれ以下でもない演奏です。ある意味すごい名人芸なのかも知れません。

三楽章、現実です。シャープな音色が現実世界から離れることを許しません。とてもダイナミックで躊躇無く強弱の変化があります。明快に吹き鳴らされるホルン。この楽章のほとんどは静かな曲だと思っていたまですが、こんなに荒れ狂う嵐のような曲だったとは思いませんでした。終盤の盛り上がりは凄い勢いでした。

四楽章、潤いのあるクラリネット。ここまでのオケの演奏とは対照的な柔らかく表情豊かなキリ・テ・カナワの独唱。オケの方は相変わらず起伏の激しい演奏です。この思いっきりの良い演奏はショルティの特徴でもあります。

この曲の優しい面ではなく激しい面を強調して、違う側面を聞かせた演奏にはそれなりの価値はあると思います。それにしても、思いっきりオケを鳴らすショルティの指揮はどの曲でも変わりません。

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

icon★★★☆
一楽章、ゆっくりとした序奏。クリアで細部まで見通せるような録音です。ニュートラルな温度感で盛り上がる部分では熱気をはらんできます。音の粒立ちが非常に良く、一つ一つの楽器が明快に定位します。ダイナミックレンジが非常に広く、強奏部分は豪快で分厚い響きを聴かせます。インバルの指揮は極端な表現は避け、作品の自然な美しさを追求したような演奏です。

二楽章、自然で美しい演奏。表現はしますが、踏み外すようなことは無く、とても安定感があります。ピツィカートも音がピンと立っています。

三楽章、現実的な雰囲気の主題で、大きく歌うことは無く淡々と進みます。速めのテンポですが、途中でさらにテンポを速めました。そして今度はゆっくりと終盤の演奏です。ホルンやトランペットが鮮明で強烈です。終盤の盛り上がりは物凄いエネルギー感で迫って来ました。こんなにダイナミックな4番の演奏は初めてです。

四楽章、のどかな雰囲気のクラリネット。発音を凄く意識しているような独唱。発音を意識するあまり、実在感があり過ぎて天使の歌声とは違うような感じがします。

美しい録音とダイナミックな演奏でしたが、あまりにも現実的過ぎるように感じました。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

チョン・ミョンフン/ミラノ・スカラ座フィルハーモニー管弦楽団

チョン・ミョンフン★★★☆
一楽章、優しい響きで開始して、僅かにテンポを落としてこれも優しい表情の第一主題に入りました。表情が多彩で楽しげです。ホールの残響も適度に入っていて美しい演奏です。深く歌う第二主題。展開部の手前で一時テンポを凄く速めました。再び優しい第一主題。天国への憧れを歌っているような音楽です。ライヴ録音ですが、とても鮮明に録られていて、コントラバスの動きも克明です。テンポもよく動いていて、作品への思いが込められているようです。最後に現れる第一主題は凄くゆっくりでその後テンポを速めて終わりました。

二楽章、とても良く歌い表現が豊かです。ヴァイオリン・ソロがオケからくっきりと浮き上がるように演奏します。女性的な柔らかな線と優しい表現の演奏です。

三楽章、夢見心地では無い現実的な主題ですが、美しさには魅せられます。切々と語られる音楽ですが、常に柔らかく優しいです。トゥッティでも荒れ狂うようなことは無く、それでも分厚い響きで整然として美しい演奏です。

四楽章、美しいクラリネット、それに続くフルートも美しい。必死にがなり立てるような独唱。天使の歌声とはかけ離れているような感じがします。これまでの柔らかくしなやかな音楽が全く違う方向に行ってしまったようです。

三楽章まではとても良い演奏でしたが、四楽章の独唱でそれまでの音楽がぶち壊されたような印象で残念でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

アレキサンダー・ラハバリ/スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

ラハバリ★★★☆
一楽章、少し遠くから響く鈴。ゆったりと美しく演奏される第一主題。奥ゆかしく控え目な表現です。第二主題も控え目で美しいです。どの楽器も非常に美しい音を聴かせてくれます。この作品の美しさを改めて感じさせられますが、弓をいっぱいに使うようなダイナミックさは無く、ちょっとこじんまりと萎縮したような小ささも感じられます。目立った表現は無く、ひたすら繊細な美しさを追求しているような感じがします。

二楽章、細身で美しいヴァイオリン・ソロ。その後も非常に美しい演奏が続きます。踏み込んだ表現やテンポの動き、アゴーギクなどはありません。置きに行ったような勢いの無さが、美しいだけに残念です。

三楽章、静寂の中に美しく演奏される主題。弦の美しさは絶品です。暗転する部分のオーボエも、続く弦も美しいですが、やはり置きに行くような丁寧さとは違う、勢いの無さはここでもあります。ティンパニだけはドカンと入って来ます。終盤の盛り上がりでもティンパニは遠慮なく叩いていますが、トランペットは控え目でした。

四楽章、控え目で美しいクラリネット、ゆっくりとしたテンポです。ほととんどテンポを変えずに独唱になりました。独唱も抑え気味の歌唱です。これだけ抑え気味に聞こえるのは録音のせいなのでしょうか。後半のテンポを落としてからの演奏は独唱も含めて、すごく雰囲気があって良かったです。

非常に美しい演奏でしたが、ダイナミックな部分も聴かせて欲しかったと思います。これだけ美しい演奏ができるのですから、ダイナミックな部分も表現できるともっと注目される指揮者だと思います。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

クラウス・テンシュテット/ボストン交響楽団

テンシュテット★★★
一楽章、デッドな録音です。テンシュテットならではの間があります。アゴーギクもいたるところで見られます。展開部のフルートももう少しホールの響きが伴っていれば、と思います。積極的な表現で作品への共感を感じさせます。テンポもしょっちゅう動いています。

二楽章、テンポが頻繁に動いて、とても感情のこもった演奏です。繊細な弦の表現。動きがあって生き生きしています。

三楽章、落ち着いて美しい開始です。静かな音楽の中に切々と語りかけるような雰囲気を持っています。アゴーギクを効かせたイングリッシュホルン。祈りにも似たオーボエ。表情がどんどん変化して行きます。突き抜けてくるミュートしたトランペット。高揚する部分でもいつものテンシュテットの咆哮ではなく抑制の効いた表現でした。

四楽章、のどかな心地よい雰囲気。残響成分をほとんど含まない録音のせいかソプラノの声質が少し硬いです。独唱をピッタリとサポートするオケはさすがです。

テンシュテットはボストンsoとの組み合わせになると、MEMORIESのベートーベンの交響曲でもそうだったのですが、上品と言うかどことなくよそよそしい演奏になってしまいます。この曲の場合はいつものような突き抜けた爆演は似合わないとは思うのですが、今ひとつ相性が悪いように思います。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★
一楽章、ゆっくり確実に演奏される序奏。一転して動きのある第一主題。第二主題の前でテンポを速めて、第二主題はゆったりとしたテンポで大きく歌います。ファゴットの伴奏に乗ってオーボエが旋律を歌うところではすごくテンポを落としました。展開部に入ってもテンポはバーンスタインの感情に合わせて自在に動いています。ただ、録音のせいか、奥行き感が無く、音楽が軽薄に響いているように感じてしまいます。

二楽章、美しいクラリネットやホルン。この楽章でもテンポは良く動きます。

三楽章、静かに感情を込めて美しく演奏される主題。別世界へ誘うようなオーボエ。細身で艶やかなヴァイオリンのソロ。心に染み入るような歌です。最後の盛り上がりの部分のティンパニは強烈でした。美しく静まって天上界を表現しているような演奏です。

四楽章、美しいクラリネットでゆったりとしたテンポで始まりました。起伏も激しい演奏です。独唱は天国の楽しさを歌うのに合った明るい歌声です。

一楽章はイマイチでしたが、尻上がりに良くなりました。ただ、バーンスタインの感情が深く表現されているかと言うと中途半端な印象は拭えません。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第4番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第4番名盤試聴記

アントン・ナヌート/リュブリアナ放送交響楽団

icon★★
一楽章、少し浅い響きですが、とても良く歌う演奏です。テンポの変化もありとても積極的な表現です。オケの技量的には危なっかしいところもありますが、なかなか健闘していると思います。5番のトランペットの動機の前は抑制の効いた控え目な強奏でした。シンバルがやたらと強い!ウィーンpoなどの超一流オケに比べると聞き惚れるような美しさがないところは少し残念です。

二楽章、ヴァイオリンソロなどは少しメタリックな響きがあります。一楽章ではシンバルが異常に大きかったのですが、この楽章ではトライアングルも大きいです。積極的に歌うのはこの楽章でも続けられています。

三楽章、ゆったりとして伸びやかなくつろいだ雰囲気の演奏です。転調したオーボエの旋律でも極上の音色とは言えないところが残念なところです。少し速めのテンポであっさりした表現です。トランペットも突き抜けてはきません。最後に盛り上がる部分ではテンポを落としましたが爆発的な盛り上がりではなく抑制の効いたものでした。

四楽章、木管楽器はどれも音の密度が薄いように感じます。表現の幅が広い独唱です。ただ、あまり品が無いような感じで、あけっぴろげで元気な雰囲気で、天国の雰囲気ではありません。終始美しさとは遠い演奏だったのはとても残念でした。

ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★
一楽章、ゴロゴロとノイズの中から鈴とフルートの音が聞こえます。とても表情のあるヴァイオリンの第一主題。第二主題もテンポの動きがあって歌います。大きなテンポの動きもあってワルターの作品への愛着が感じられます。録音によるものなのか、トゥッティでの響きが薄いです。シンバルがかなり強烈に響きます。

二楽章、録音は古いですが、弦の繊細な表現は伝わります。この楽章でも細部に渡って表情が付けられています。

三楽章、穏やかに開始しますが、残響をほとんど含まない録音のため、時に弦の生音が聞こえて興ざめします。アゴーギクを効かせてよく歌うオーボエ。終盤の急激な盛り上がり部分はほとんど打楽器の音に支配されているような感じで、他のパートはあまりよく聞こえませんでした。

四楽章、ソプラノ独唱は少しオフに録られていて、離れたところにいるような感じです。天国の楽しさを歌っているようには感じませんでした。

録音の古さによるバランスの悪さなども含めて、あまり楽しめませんでした。

ジョージ・セル/クリーブランド管弦楽団

セル★★
一楽章、サーッと言うヒスノイズの中から音楽が始まりました。第一主題の入りはあまりテンポを落とさずに演奏しました。淡々と進みますが、第二主題でテンポを動かしたりもします。展開部のフルート4本で演奏される旋律はゆっくりとしたテンポでした。ハイ上がりの録音でトゥッティでトランペットやシンバル、トライアングルがカチーンと来ます。基本的に速めのテンポでねばっこい表現はなくあっさりとした演奏です。最後は凄い勢いのアッチェレランドでした。

二楽章、動きがあって快活な演奏です。音がブヨブヨと肥大化せずに締まっていて、シャープです。ただ、録音には奥行き感が無く、トランペットやホルンが近い位置にいますし、弦はザラザラとしています。

三楽章、音が塊になって広がりがありません。速めのテンポでかなりあっさりと淡白な演奏です。普通なら粘るような部分もすんなりと通り過ぎるので肩透かしを食らいます。終盤の盛り上がりも速いテンポであっさりと演奏しました。作品への思い入れが無いかのような淡白さです。

四楽章、この楽章もあっさりと速めのテンポです。独唱が入る前にテンポを落としました。独唱は天使の歌声らしく可愛い声です。三楽章までの演奏とは対照的に感情が込められて楽しそうな独唱です。

三楽章までのあまりにもそっけないあっさりとした演奏はちょっと・・・・・でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

クルト・ザンデルリング/BBCノーザン交響楽団

icon
一楽章、心地よいテンポで軽快に進む第一主題。あっさりとした第二主題。少しざらついた響きのヴァイオリン。表現はしていますが、録音による問題なのか、緊張感があまりなく、ちょっと緩んだ雰囲気があります。トゥッティでは混濁するような感じの飽和状態です。テンポは動きますが、基本的にはあっさりとした演奏です。

二楽章、マットなヴァイオリン・ソロ。録音の問題だと思いますが、音の密度が希薄で、音像が大きくスカスカな感じがします。なので、緩い感じがするのでしょう。表現していることもなかなか伝わって来ず、何となく音楽が流れて行きます。

三楽章、弦楽器の主題は静かに演奏されているのだと思いますが、ノイズなのか周りがザワザワしているような感じがして、演奏に集中できません。そんなに古い録音では無いのですが、BBCの放送音源なのでしょうか?テンポを落として注意深く歌うオーボエ。最初のトゥッティで歪みました。所々テンポを落としますが、基本的にはあっさりとした表現で、淡々と進んで行きます。最後の盛り上がりはティンパニが異様に強調されていました。

四楽章、チャーミングな表情のクラリネット。粘着質な独唱。ピッコロがキーンと強烈に向かってきます。

ずっと緩い感じで、ピーンと張った緊張感はありませんでした。録音が悪過ぎます。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第4番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第3番

マーラー:交響曲第3番ベスト盤アンケート

たいこ叩きのマーラー 交響曲第3番名盤試聴記

クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon
★★★★★
一楽章、金属音のような響きを伴うホルンの咆哮。通常「ズン、ズン」と響く大太鼓がウィーンpo独特の中心から離れた場所を叩くため「ドー、ドー」と響きます。ミュートしたトランペットも激しく入って来ます。第二主題のホルンも激しい。トロンボーンはグリッサンドを強調します。とても面白い曲として聴かせてくれます。オーボエの第三主題は美しい。太い響きのトロンボーンソロ。ウィーンpoが開放されて楽しそうに演奏しているように感じます。展開部で現れるホルンの第二主題もいつものウィーンpoの奥ゆかしさからは想像できないような暴れっぷりです。ただ、アバドの指揮なので、アゴーギクを利かせるようなことはなく、テンポが動くこともなく音楽は淡々と進んでゆきます。再現部手前のトロンボーンに第一主題が現れるあたりから、もうブチ切れたように荒れ狂うブラスセクションの濃密な演奏に圧倒されます。荒れ狂っていてもアンサンブルはきっちり決まるところはさすがウィーンpoです。コーダはほとんどテンポを上げることなく終わりました。

二楽章、潤いのある木管群がとても美しい。楽譜に書かれていることに忠実な演奏で、それ以上のことはしていないようですが、ウィーンpoの奏でる音楽には、どっぷりと身をゆだねたい気分にさせる魅力的な演奏です。

三楽章、ここでも潤いのある木管群に惹きつけられます。トゥッティの一体感もウィーンpo独特のすばらしい響きです。ポストホルンはかなり奥まったところから響いてきます。一楽章のブチ切れて荒れ狂うような咆哮と同じオケとは思えないような静寂感です。この楽章ごとの描き分けは見事です。とてもロマンティックで癒されます。

四楽章、ホールの豊かな響きを伴って、重くも柔らかいコントラバス。独唱ははっきりとしくっきりとした輪郭の歌唱です。合間に入るホルンの表情がとても豊かです。独唱も大きな抑揚で訴え掛けてきます。独唱をしっかりと支える弦。この作品がウィーンpoのために書かれたのではないかと思うほどしっくりとした演奏です。

五楽章、ホールの響きを伴ってたっぷりとした児童合唱の「ビム、バム」です。美しい合唱が次第に遠のいて消えてゆきました。

六楽章、穏やかで安堵感のある冒頭の演奏です。安らかで揺り篭に揺られているような感覚になります。潤いに満ちた美しいクラリネットの高音。弦の厚い響き。アバドの指揮と言うよりもウィーンpoが実力を如何なく発揮したと言う演奏のように思います。まあ、ウィーンpoの実力を最大限に発揮させるのも指揮者としてのアバドの能力なのでしょうが・・・・・。金管による主要主題の再現も奥まって美しく響きます。輝かしいコーダ!ウィーンpoの実力を見せ付けた見事な演奏だったと思います。

ベルナルト・ハイティンク/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、細身で筋肉質のホルンの第一主題。ティンパニの質感がとても良い。とてもバランス良く和音を響かせるトロンボーン。ハイティンクらしく特に強調することなく、自然な第二主題。ショルティ時代の筋骨隆々でスカッと割り切れた演奏とはかなりイメージが違います。艶やかで美しいヴァイオリン独奏でした。とても良く鳴る明るいトロンボーンの独奏は独特の節回しで、どう説明して良いのか分かりませんが、今まで聞いた演奏とは違っていたので、ちょっと違和感がありました。ハイティンクは遅めのテンポで着実に音楽を進めて行きます。展開部に入る前にはもの凄いクレッシェンドがありました。柔らかいイングリッシュ・ホルン。極端な表情付けはありませんが、と言うより表現は抑制されていますが、統一感があり、登場する楽器がどれも色彩感豊かで生き生きとしています。シカゴsoもバレンボイム、ハイティンクと受け継がれて、ショルティ時代の強烈な個性は影を潜めて、普通のオケになったんだなぁと感慨深いものがあります。もちろんオケの技量とすれば超一流なのですが、強烈に鳴り渡る金管を中心に据えた音楽では無くなりました。ハイテンクの音楽も中庸で、テンポの大きな動きも無く、とても落ち着いた美しい音楽をしているのも影響しているのでしょう。再現部の前も落ち着いていて狂喜乱舞するような絶叫ではありませんでした。最後は少しテンポを上げて終りました。ハイティンクはいたるところで絶叫させるようなことはなく、展開部の前一箇所のみを頂点にして、他は抑えぎみにして大きな流れを作りました。

二楽章、レイ・スティルのようなぎゅっと締まった特徴的なオーボエではありませんが、チャーミングで美しい演奏でした。速いパッセージがとても滑らかにつながります。奥まったところから鋭く突き抜けて来る金管。ショルティ時代に比べると金管が強調されなくなった分、ささくれ立ったような弦がとても潤いのある美しい音になりました。表情の変化もあってとても豊かな表現です。繊細な弦の響きが美しく、歌に溢れた演奏でした。

三楽章、生き生きとした表情のクラリネットとピッコロ。この楽章でも金管を無用に強奏させることはなく、流れの良い演奏です。透き通るような透明感のある美しい演奏です。この美しさは出色です。遠くから響く、ちょっと鋭角的な音のポストホルンでフワーッと全体を包み込むような柔らかさはありませんが、夢見心地にさせてくれる美しい演奏でした。羽毛に触れるような繊細な弦。全体のバランスがとても良くて、強奏でも金管が突出してくることはありません。

四楽章、とても静かに、丁寧に歌い始める独唱。独唱の合間に入る締まったホルン。まるでクリスタルガラスを見ているような美しい輝きと繊細さがすばらしい。繊細な弱音はショルティ時代には聞くことが出来なかった美しさです。

五楽章、控え目な「ビム・バム」、合唱は全体的に音量を抑えた演奏のようです。消え入るようなppが吸い込まれそうな美しさです。

六楽章、速めのテンポであっさりとした、それでも安らぎと深みのある冒頭。この楽章でも弦の繊細な美しさは特筆に値します。静寂感と集中力の高さも凄いです。遠くから響くクラリネットも非常に美しい。大きい波に揺られるような深い音楽。ハイティンクは小細工など全くすることなく、堂々と作品と対峙しています。安らぎに満ちた音楽に浸る喜びを心底感じます。スケールの大きな強奏部分がすばらしい。この楽章では、ここまで抑えてきたオケが全開です。ティンパニの強烈なクレッシェンドの頂点で炸裂するクラッシュシンバルも見事です。ピッコロのソロに続く金管の感動的な主要主題の再現。シカゴのブラスの凄さを思い知らされる尋常ではない凄いエネルギー感の主要主題の強奏。コーダの力強いティンパニ!壮大ですばらしい六楽章でした。

一楽章のトロンボーン・ソロの独特の節回しを除いては完璧な名演でした。特に弱音の透明感は素晴らしかった。とても滑らかな大人の音楽でした。

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、ダイナミックな第一主題の演奏。続く行進曲はドラが効果的。この演奏でも構成がとてもしっかりしている印象です。色彩がとても濃厚で輪郭がくっきりしています。艶やかなヴァイオリンソロ。表現の幅が広いトロンボーンソロ。展開部の前後は凄い咆哮でした。登場してくる楽器がそれぞれ原色でとても濃厚でマーラーのオーケストレーションが鮮明に現れます。展開部の手前、トロンボーンの第一主題以降も咆哮の連続でとても濃密でした。再現部のトロンボーンソロは十分に歌われていて心地よい。コーダは凄い追い込みでした。すばらしい。

二楽章、最初の音を長めに演奏したオーボエ、アゴーギクを効かせて歌います。続いて登場する楽器も美しい。オケのアンサンブルに一体感があってとても良く統率が取れています。とにかく色彩感が豊かできらびやかです。

三楽章、生き生きとして表情豊かな演奏です。緻密なアンサンブルでマーラーのスコアを見通せるような感じがします。暖かみがあり美しく表現豊かなポストホルン。強弱の振幅も幅広く、ホルンの咆哮もなかなかです。

四楽章、オケを押しのけて前へ出ることもなく、常にバランスを取って控え目ながら十分な振幅のある独唱。独唱とオケの掛け合いも絶妙です。

五楽章、ちょっと爽やかさに欠ける児童合唱。この楽章でも強弱の振幅は凄く広いです。楽譜に指定してあれば、躊躇無く強奏してくるブラスセクション。楽譜を忠実に再現したと言う意味ではとてもすばらしい演奏です。

六楽章、揺り篭に揺られるようなとても心地よい安心感のある美しい弦楽合奏。美しいホルンと艶やかなヴァイオリンソロ。音楽が高揚してきても熱気を帯びることはありません。とても冷静に楽譜に書かれていることを忠実に再現しています。突き抜けてくるトランペット。美しい金管の主要主題。幸福感に満ち溢れる感覚がとても心地よい。すばらしい演奏でした。

ジェイムズ・レヴァイン/シカゴ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、遠めに定位するホルン。レヴァインの演奏にしてはスッキリとした響きで、埃っぽさがありません。第二主題も気持ちよく鳴ります。静寂感の中からオーボエの第三主題とヴァイオリンのソロが美しく響きます。僅かに不純物が混じったようなトロンボーンのソロ。控え目な第四主題。頂点ではシカゴsoのブラスが見事な響きで演出します。展開部のトロンボーン・ソロの後のイングリッシュ・ホルンは細身で美しかったです。続くヴァイオリのソロもとても美しかった。再現部へ入る前の強奏部分は見事と言う他ないシカゴsoの面目躍如と言ったところか。マーラーの指示通り、力強い演奏でした。

二楽章、穏やかに始まって、少し音量を上げるオーボエ。穏やかにヴェールに包まれていた演奏が、突然目覚めて生き生きとしだしたり、変化に富んでいます。ヴァイオリン独奏が艶やかでとても美しいのはRCAの録音によるものでろうか。途中で一旦テンポを速めました。また、テンポが戻って長閑な雰囲気です。

三楽章、とても余裕があって伸び伸びとした演奏です。テュッティの下降音型は巨大な響きですばらしかったです。遠くから響くポストホルンも柔らかく美しい。巨大なテュッティと静寂感のある弱音の対比も見事です。二回目のポストホルンの前の金管の咆哮もすばらしかった。力みもなく、オケの自発性にまかせて爆発させるような自然な音楽作りです。

四楽章、深みのあるコントラバス。柔らかい響きを伴った独唱がとても美しい。温度感はほどほどにありますが、静寂感はしっかりあります。「巨人」の埃っぽさは何だったのかと思うくらい、この演奏では明瞭で透明感があります。

五楽章、アクセントの強い「ビム・バム」です。モノトーンのような女声合唱。合間に入る金管の響きには清涼感があります。

六楽章、安堵感があって癒されるような主要主題です。湧き上がってくる感情をぐっと抑えているような清楚で奥ゆかしい演奏です。木管の対旋律も控え目で美しい。曲が進むにつれて次第に熱気をはらんできます。ゆっくり流れる大河のように豊かな音楽です。シカゴsoのフルパワーを要求することなく控え目な頂点。マットな響きの金管の主要主題の再現。弦の分厚い響きに埋もれるようなマットな響きの金管の壮大なコーダでした。

「巨人」とは一転して、とても制御の効いたすばらしい演奏でした。

エリアフ・インバル/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

インバル★★★★★
一楽章、速めのテンポで演奏されるホルンの第一主題。主題の後はゆっくりとしたテンポになりました。ミュートを付けたトランペットも強く入って来ます。強弱の振幅も大きく色彩感も非常に濃厚な演奏です。音楽が前に進もうとする強い力があります。オーボエの表情が豊かな第三主題。続くヴァイオリンのソロも艶やかで美しかったです。太い音のトロンボーン・ソロは終始強めに、そしてテヌートぎみに演奏されています。控え目でこもった第四主題。インバルの指揮は迷いが無く、すっきりと割り切れているようで、聴いている側もすがすがしい気分になります。細部まで見通しが良く、混沌とすることは無く、響きにも清潔感があります。

二楽章、滑らかに歌うオーボエの主要主題。透明感が高い弦楽合奏。中間部はせきたてるようにテンポを僅かにあおりました。艶やかですが、音に力のあるヴァイオリンのソロ。二回目の中間部でもテンポが何度も変わりました。とても優しく音楽的な二楽章でした。

三楽章、弦のピツィカートからくっきりと浮かび上がるクラリネット。主部はとてもダイナミックでオケの底知れぬパワーを感じさせます。中間部のポストホルンは間接音を十分に含んでとても美しい音色を聞かせます。ポストホルンの周りを彩る楽器も強く主張して来ますので、色彩感はとても濃厚です。インバルの指揮はマーラーのオーケストレーションを明確に印象付けるものですが、その中にも情感豊かな音楽も表現されており、聞いていてとても心地良いものです。最後はテンポを速めずに終わりました。

四楽章、すごく静かで神秘的な低弦。この静かな低弦に比べるとかなり大きめの独唱。ホルンなども加わって独唱とバランスが取れたようです。とても良く歌うオケ。朗々と歌う独唱。

五楽章、児童合唱と女声合唱の声質が明らかに違っていて、色彩感を損なわないので、とても良いです。この楽章でも朗々と歌う独唱。とても賑やかでした。

六楽章、速めのテンポですが、感情の込められて振幅の大きい主要主題です。副主題部になっても、こんこんと湧き出る泉のように豊かな音楽です。いや、泉言うより大河の流れと言った方が合っているかも知れません。とても豊かで巨大な流れです。二回目の第1楽章の小結尾の主題が回想される直前はティンパニの強烈なクレッシェンドなどもありすごく激しい演奏でした。三回目の第1楽章の小結尾の主題の再現も激しい演奏でした。続くピッコロも伸びやかで豊かな歌でした。荘厳な金管の主要主題の再現。非常に感動的なクライマックス。輝かしく壮大で力強いコーダ。

見事な演奏でした。正にブラヴォー!
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

ケント・ナガノ/ベルリン・ドイツ交響楽団

icon★★★★★
一楽章、豪快に響き渡るホルンの第一主題。第二主題もなかなか強烈です。トランペットも突き抜けて来ます。第二主題までの激しさから一転して第三主題の繊細な弦。細身の音で表現の幅が広いトロンボーン・ソロ。色彩感は濃厚ではありませんが、初夏の風を感じるような爽やかな演奏です。展開部へ入る前から展開部のホルンの第二主題も激しい演奏です。静かに物思いにふけるようなトロンボーン・ソロ。ゆったりと歌うイングリッシュ・ホルン。キラキラと光を放つようなヴァイオリンのソロ。トロンボーンの第一主題は控え目に入って次第に大きくなりました。再現部の前は思ったよりスッキリしていました。コーダはもの凄い速さでした。

二楽章、奥ゆかしく歌うオーボエの主要主題。最後の主部が戻ったところはとても穏やかな演奏です。

三楽章、装飾音符を強調するようでおどけたような表現のピッコロの主題。屈託無く鳴り響きホルン。切れ込み鋭いヴァイオリン。フワッと柔らかいポストホルン。割と速めのテンポで進むため、感傷に浸る余裕はありません。主部の再現は線が細いですが、目まぐるしい色彩の変化は見事でした。

四楽章、細目で控え目な独唱。オケの響きの中を泳ぐような独唱です。キラキラと光をちりばめたようなヴァイオリン。独唱には感情が込められていますが、とても静かな演奏です。

五楽章、まだ未成熟と感じさせる児童合唱の声質。児童合唱と比べると十分に成熟している女声合唱。この楽章はオケが控え目です。

六楽章、速めのテンポで淡々と、前へ前へと進む主要主題。ナガノの指揮は感情移入するタイプの演奏ではなく、作品をあるがままに演奏しているようです。第1楽章の小結尾が回想されるところは最初弱く始まって次第に大きくなって去って行きました。セッション録音らしく美しい響きが収録されています。二回目の第1楽章の小結尾が回想される前の金管は輝かしく感動的でした。回想も全開で激しいものでした。細く通るピッコロ。金管の主要主題は再び淡々と速めのテンポで進みます。スケールの大きな壮大なクライマックスはすばらしい。輝かしいコーダも見事です。

自然体の演奏でしたが、セッション録音の美しい音色と広いダイナミックレンジ。そして圧倒的なクライマックスがすばらしい演奏でした。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第3番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第3番名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテット★★★★☆
一楽章、速めのテンポで畳かけるような冒頭第一主題でした。ティンパニに打撃が強烈です。第二主題のホルンも思いっきりの咆哮で気持ち良い。とても丁寧に演奏されるトロンボーンソロ。クラリネットの第4主題以降もホールの残響も適度に録音されていて気持ち良い。打楽器のインバクト部分では若干歪みっぽい音がとます。ビブラートを効かせたトロンボーンソロ。色気を感じさせるヴァイオリンソロ。めまぐるしく変わるオーケストレーションを見事にコントロールして色彩豊かな音楽を聴かせてくれます。再現部以降のトロンボーンソロもところどころにタメがありなかなかの演奏です。コーダからはかなりテンポを上げました。

二楽章、アゴーギクを効かせて歌うオーボエ。テンポも大きく動いています。表情豊かで、締まった表現です。オケの集中力も高くテンシュテットを中心に一体になっているのが良く分かります。

三楽章、表情豊かな木管。トランペットで始まる冒頭。ポストホルンの手前で大きくテンポを落としました。美しい音を響かせるポストホルン。遅いテンポを受けてフルート、クラリネット、ホルンと続きます。ホルンの咆哮もすばらしい。

四楽章、消え入るような弱音。音量の変化が大きく豊かな表現です。テンポの動きや音量の変化など、作品と一体になっています。

五楽章、爽やかな少年合唱と女声合唱です。

六楽章、静かにしかも感情のこもった演奏です。感情が内側へ内側へと凝縮していくような強固な塊が出来ていくように感じさせる演奏です。中間部では金管の咆哮も抑えぎみでした。コーダも爆発することはなく見事なバランスで演奏されました。

所々ミスも散見されましたが、見事な演奏だったと思います。

エリアフ・インバル/東京都交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、暖かみのあるホルンの第一主題。かなり激しい弦のアタック。思いっきりの良い打楽器の一撃。激しいホルンの第二主題。フランクフルト放送soとのセッション録音に比べるとかなり劇的で激しい起伏を感じさせる演奏です。美しいヴァイオリン独奏。明るく美しいトロンボーン独奏。速めのテンポで積極的で勇壮に進む行進曲。スネアドラムが演奏を引き締めます。オケは凄く上手く、言われなければ日本のオケだとは思わないでしょう。かなり前からどんどん早くなっているのですが、再現部の手前でテンポをかなり上げて凄い高揚感です。再現部の直前、音量が落ちるのに合わせてテンポを戻しました。コーダではかなりテンポを上げ怒涛のうちに終わりました。

二楽章、テンポも動いて歌うオーボエ。内へ向けて凝縮するように繊細な弦。無邪気な子供のように快活で生気に溢れ生き生きとした音楽です。極端ではありませんが、ライヴらしくテンポが動いてとても豊かな音楽です。

三楽章、ゆったりとしたテンポの中からくっきりと浮かび上がるクラリネット。空間再現がすばらしい。しっかりとした足取りです。生気に満ちて生き生きとしています。トゥッティの厚みは今一つの感がありました。遠近感もとても良い。間接音を伴ってとても良く歌うポストホルンが神秘的でとても美しい。所々かなり強奏はしますが、咆哮と言うほどの激しさではありません。むしろ抑制の効いた演奏のように感じます。

四楽章、静寂の中から深い響きの低弦の序奏。くっきりと明瞭に浮かび上がる独唱。インバルの指揮は必要以上にねばったり歌ったりはせずに、整然と音楽を進めて行きます。清らかで心洗われる透明感のある歌唱がすばらしい。

五楽章、発止として元気な児童合唱。女声合唱もとても上手い。ここでもくっきりとした独唱。途中に入る金管も合唱のバランスを崩さずとても良い合いの手を入れてきます。

六楽章、大切な物をそっと扱うように、奥ゆかしいけれども、とても感情の込められた主要主題。川の流れのようにとどまることなく流れ続ける音楽がとても感動的です。速めのテンポで安らぎよりも力感のある演奏です。トゥッティの中から突き抜けて来るトロンボーン。次々に音が溢れ出す全管弦楽による主要主題。少し速めのテンポで豊麗な響きの見事なコーダでした。

全体に速めのテンポで元気の良い力感に溢れる演奏でした。

ベルナルト・ハイティンク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ハイティンク★★★★☆

一楽章、ウィーンpoらしいピーンと張ったホルンの第一主題。ティンパニの強打。第二主題は下のパートも良く聞こえるバランスの良いホルンの演奏でした。細身で艶やかなヴァイオリン・ソロの第三主題。静かで控え目なトロンボーン・ソロ。シカゴsoとの録音のような独特の節回しはありません。第四主題も大きく歌うことはありません。ハイティンクらしく、余計な力は入れずに、自然な演奏の中から作品の美しさを描き出す演奏です。引っかかるところは全く無く自然に音楽が通り過ぎて行きます。再現部の直前も混沌とすることは無く、非常に簡潔でした。屈託無く伸び伸びと鳴り響くオケはとても美しいです。コーダへ入りテンポは速めますが、テンポの変化はほどほどです。

二楽章、平穏で美しい演奏です。音楽の起伏も自然に盛り上がり、自然に静まる感じで力みは全くありません。色彩感はウィーンpoらしく豊かですが、バーンスタインの演奏のような超濃厚な色彩感ではありません。旋律を演奏する楽器が極端に前には出てきません。とても穏やかで音楽の揺り篭に揺られるような心地良さです。

三楽章、演奏の特徴は特に無く、ただ自然な美しい音楽が流れて行きます。BGMにでもなりそうな引っかかるところの無い演奏です。ピッコロも細身で美しい。遠くから聞こえるポストホルンがとても柔らかい。強奏部分でもオケが大暴れすることは無く、しっかりと制御されています。

四楽章、極めて静かに演奏されるコントラバス。静かなコントラバスに合わせるように、そっと歌い始める独唱。とても細部までバランスなどには注意を払われているようです。

五楽章、天使の歌声にふさわしく遠くから響く「ビム、バム」。女声合唱は近いです。

六楽章、深みがあり、穏やかで美しい主要主題。とても繊細な楽器の扱いで、作品への愛情を感じます。この楽章の美しさは極上です。木管もホルンもすばらしい美しさです。二回目の第1楽章の小結尾が回想される部分のホルンはすさまじい咆哮です。枯れた雰囲気の金管の主要主題の再現。コーダ直前のクライマックスは洪水のように次々と音が溢れて来て壮大でした。コーダは力強い歩みでした。

強い主張は無いものの、とても美しくクライマックスのスケール感も大きい良い演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

クラウディオ・アバド/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

アバド★★★★☆
一楽章、伸び伸びと鳴るホルンの第一主題。分厚くうなりを上げるコントラバス。第二主題も勇壮に鳴り響きます。あまり歌わないオーホエの第三主題。続くヴァイオリン独奏は艶やかで美しい演奏でした。明るい響きのトロンボーン独奏。陰影のあるクラリネットの第四主題。とても色彩感が濃厚で、音楽の流れもとても良いです。展開部もすごく分厚い響きに圧倒されます。オケが積極的でとても良く鳴らされています。さすがベルリンpoと言うような極上の音が続きます。再現部の前の頂点はウィーンpoとのスタジオ録音のような怒涛の演奏ではなく、テンポも落ち着いた冷静なものでした。録音が歪みっぽいのが残念です。

二楽章、ゆったりとしたテンポで歌うオーボエ。中間部では若干テンポの動きがありましたがタメや間などは無く、音楽は流れるように進んで行きます。二度目の中間部はかなり速いテンポで活気のある演奏です。

三楽章、ピッコロの主題も流れるように滑らかな演奏です。トゥッティでのエネルギー感はさほどありませんでした。それよりも音楽の流れを重視しているようです。中間部のポストホルンは、間接音を含んで柔らかい響きです。テンポは速めで、サクサクと進みます。最後の主部はひたすら美しい。アバドは余計な自己主張などを加えずに、力で押すことも無く、作品の持っている美しさを表現しようとしているようです。

四楽章、すごく抑えた音量で開始しました。明るい声の独唱。内に秘めたようなオーボエ。ふくよかなホルン。伸びやかなヴァイオリン。どれも美しい。

五楽章、浅い響きの児童合唱。女声合唱も浅い響きです。中間部はテンポを落としました。

六楽章、ゆっくり丁寧で美しく穏やかな主要主題。ホルンの深い響き。弱く美しいクラリネットの高音。ただひたすら伸びやかに流れる音楽です。非常に美しい音楽が奏でられているだろうに、録音が歪っぽいのがとても残念です。これも録音の問題だと思うのですが、トゥッティのエネルギー感がほとんど伝わって来ません。コーダも力強く輝かしいような感じはしますが、録音の問題で定かではありません。

とても美しく流れの良い演奏だったのですが、録音の悪さがとても残念です。良い録音状態でもう一度聞き直してみたい演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

セミヨン・ビシュコフ/ケルンWDR交響楽団

ビシュコフ★★★★☆
一楽章、軽い第一主題。その後は引きずるように重い。美しく歌うヴァイオリンの第三主題。オケの色彩が非常に濃厚でくっきりしています。展開部へ入る前はかなりテンポを落としてこってりとした演奏でした。かなり強弱のコントラストも明快で、強奏部分は爆発します。寂しげに歌うトロンボーン独奏。テンポも動き、動きに合わせて歌います。強弱の変化やテンポの変化がこの演奏の特徴になっています。コーダの入りはすごく遅くそれから急加速して終わりました。

二楽章、中間部でもテンポが動いて積極的な表現の音楽です。テンポが動いて良く歌っています。二度目の中間部はテンポを速めにして演奏して、とても活発で生き生きとした音楽です。

三楽章、良く歌い、楽器の絡みも美しい演奏です。トゥッティはコントラバスの厚みのある響きもありますが、トランペットの鋭い響きが勝っています。美しいポストホルン。この楽章の最後はゆったりとしたテンポを維持して終わりました。

四楽章、柔らかくオケに溶け込むような独唱。グリッサンドするようなイングリッシュホルンとオーボエ。

五楽章、控えめな児童合唱。あまりコントラストを感じない女声合唱。

六楽章、にじみ出るような愛情。ビシュコフはこの作品を心から愛しているのが伝わって来ます。一楽章の小結尾部の再現はそんなに激しいものではありませんでした。とても色彩感が豊かで表現の幅も広い演奏で、なかなか聞かせます。最後の一楽章の小結尾でオケが爆発しました。コーダは壮絶な絶叫でした。

深みは感じない演奏でしたが、色彩感豊かで、歌もあり、クライマックスで爆発する表現の幅の広い演奏は魅力的でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第3番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第3番名盤試聴記

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★★
一楽章、少し浅い響きのホルンから始まりました。8本のホルンで演奏されているとはとても思えない見事なアンサンブルの第二主題。あっさりと明るい響きのトロンボーンソロ。続く行進曲は速目のテンポで進みます。展開部のホルンも残響成分をあまり含まないせいか、浅い響きです。大太鼓の超低域の響きがズシーンと響きます。テンポの動きも少なく、淡々と音楽が進んで行きます。再現部手前のホルンの咆哮はすごいものがありました。音場の奥行き方向にはあまり再現されず、全ての音が前へ出てくるので、響きが浅く感じられるようです。そのせいか、音楽も淡白に感じます。コーダはかなりテンポを上げました。

二楽章、ゆったりと歌うオーボエ。その後のめまぐるしい変化を上手く表現しています。

三楽章、明快な木管の響きです。全ての音が前に出てきて、マーラーの作品があられもない姿になってしまっているように感じてしまいます。これがショルティの意図なのかも知れないのですが・・・・・。ポストホルンもかなり手前で演奏しているようです。ポストホルンは柔らかく美しい音です。

四楽章、かなりはっきりと歌い始める独唱。強弱の変化も激しく表情豊かな独唱です。オケはほぼ弱音を保ったままでした。

五楽章、はずむような発音で「ビム・バム」でした。グロッケンがカチーンと来ます。

六楽章、粗末に扱うと壊れそうな器を丁寧に扱うような、美しい主要主題。夢見るようなホルン。一転して激しいホルンの咆哮。また、美しい弦。大河の流れのように次から次から音の大洪水です。ピッコロのソロから美しいメロディが次から次へと受け継がれて行きます。コーダへ向けて強いアタックのトランペット。感情表現は抑えて作品の細部まで、あからさまにした演奏だったと思います。

ヤッシャ・ホーレンシュタイン/ロンドン交響楽団

icon★★★★
一楽章、とても軽いホルンの主題。強烈なティンパニ。第二主題のホルンは力強い演奏でした。よく鳴るトロンボーン独奏ですが、元気が良くて、ちょっと落ち着きが無いような感じがします。第三主題に基づく行進曲はゆっくり目です。抑え気味の第四主題。展開部の冒頭はすごく激しい演奏でした。色彩感は濃厚で、強い音なのですが、「巨人」の演奏ほどの強烈さはありません。ヴァイオリン独奏もoff気味です。展開部のヴァイオリン独奏の後からはテンポがゆっくりになっています。トロンボーンの第一主題はクレッシェンドしました。その後の狂乱する部分は楽器の数が少ないのでは無いかと思うほど、あっさりとしていて、寂しいと言うか肩すかしでした。再現部でも元気の良いトロンボーン独奏ですが終わりに向けてかなり大人しくなりました。コーダの強奏は圧倒的です。

二楽章、オーボエの主要主題でテンポが動きました。中間部でも一音一音に力があります。テンポはたまに動いていますが、自然で心地良い動きです。

三楽章、トランペットが突出して来たりして、とても色彩感は濃厚です。柔らかい響きで歌うポストホルン。登場する楽器がどのパートも引き締った表現でとても克明に描かれて行きます。残響成分が少なく音場が平面的な感じがします。堂々とした足取りで終わりました。

四楽章、細い声の独唱。締まったホルンの響き。表現の幅が広く訴えかけてくる独唱。

五楽章、元気の良い児童合唱。女声合唱も一人一人の声が聞き取れるような粒立ち。この合唱も残響成分が少ないので、奥行き感がほとんどありません。トランペットが異常に突出します。

六楽章、速めのテンポですが、切々と歌う主要主題は感動的です。一楽章の小結尾部の再現はとても激しく、その前の部分との描き分けがなされているようです。二度目の一楽章の小結尾の再現はそれまでの静寂を打ち破るように激しく咆哮するような感じでした。テンポは速めですが、その分音楽が生き生きとしていて、生命感を感じます。最後に現れる主要主題はとても感動的でした。強力なティンパニとトランペットによる完全燃焼です。

六楽章の感動的な弱音部と完全燃焼する終結部はすばらしいものでした。
このリンクをクリックすると音源が再生できます。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★☆
一楽章、見事に揃ったホルンの第一主題。積極的に突き抜けて来る金管。第二主題は全開と言うほどではありませんでした。オーボエの第三主題に続き艶やかなヴァイオリン独奏。少しタメがあったりするトロンボーン・ソロ。行進曲調になり明るく華やいだ雰囲気です。とても色彩感豊かな演奏です。展開部の前は音の洪水のような凄い演奏でした。勇壮なトロンボーン。小太鼓も強打します。紳士的で折り目正しいトロンボーン・ソロです。ウィーンpoのこの楽章の演奏は伝統があるのか、アバドの演奏でもそうでしたが、とても力強くしかも華やかでとても良い演奏です。最後すごくテンポを速めて終わりました。

二楽章、癒されるような穏やかなオーボエの主要主題。繊細で美しいヴァイオリン。テンポも動いて感情を込めた歌です。中間部は一転して活発で動きのあるめまぐるしい音楽です。艶やかで瑞々しいヴァイオリンのソロはしずくが滴り落ちそうなくらいです。テンポを落としてこってり濃厚な表現があったかと思うと、すごいスピード感で音楽を裁いていくような部分もありなかなか聴き応えがあります。脱力していくように終りました。

三楽章、控え目なピッコロの主題。クラリネットも控え目で美しい。中間部の少し前から音量が一段階上がったようで、目の覚めるような音になりました。遠くから響くポストホルンが柔らかく美しい。夢の中で響くようなポストホルンとステージ上の実在感のある木管との対比がとてもすばらしい。主部が戻ると色彩感豊かな眩いばかりの演奏です。最後はすごくテンポを上げて終わりました。

四楽章、コントラバスの静かな序奏から自然に浮かび上がるような独唱。独唱の合い間に登場する楽器の音色は油絵のようにとても濃厚です。振幅の大きい歌を聞かせる独唱です。

五楽章、オケの響きとは一転してモノトーンのような合唱です。オケは生き物のように強弱の変化をさせて表現します。

六楽章、穏やかで深い主要主題。音量を抑えて大切に静かに語りかけるような演奏です。副主題部のホルンが遠くから響くようで美しい。一楽章の小結尾部の回想も抑え気味で、叫びたい気持ちをグッとこらえているようです。クラリネットの対旋律もすごく美しい。二回目の一楽章の小結尾部の回想は一回目より激しい演奏でした。金管の主要主題の再現ではトランペットのハイトーンが出にくかったのか、少々雑な印象でした。コーダでも絶叫するようなことは無く穏やかで壮大な演奏でした。

バーンスタインの演奏にしては、感情を吐露するような演奏ではなく、むしろ感情を抑え気味にした演奏だったのが以外でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

ベルナルト・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

ハイティンク★★★☆
一楽章、第一主題の後の重い低音。第一主題も第二主題も両方でしたが、ホルンの演奏で途中で音を抜くような演奏だったのが不思議でした。第三主題はテンポを落としてたっぷりと演奏しました。明るい響きのトロンボーンのソロ。クラリネットの第四主題の後ろで演奏されるスネアドラムがとても良い音色です。第四主題以降はとても軽快で歌に伴って強弱の変化もありなかなか良いです。展開部の直前はかなり激しい演奏でした。展開部のトロンボーン・ソロは音量も若干控え目です。ヴァイオリンのソロはオケに埋もれるようなバランスでしたが、細身で艶やかでした。ハイティンクの演奏にしてはテンポも動いて情感豊かです。再現部の前は狂気乱舞するような雰囲気ではなく、割と落ち着いた演奏でした。再現部のトロンボーンは再び提示部のような明るい音色です。ホルンの第一主題の再現はとても勇壮でした。

二楽章、僅かな抑揚とテンポの動きのあった主要主題。色彩感も乏しく平板な演奏でした。

三楽章、小さく可愛いピッコロ。少し慌てているようなホルン。遠くから鋭い音のポストホルンです。主部が戻ると中間部の静から一転して動きのある活気のある演奏になりました。

四楽章、静かな低弦。独唱も静かな歌いだし。独唱が強く歌っても、距離があるので耳障りではありません。音楽は常に自然な流れです。

五楽章、児童合唱と女声合唱の声質が違うのでコントラストがはっきりしています。また、合唱が奥まっていて距離感もとても良いです。

六楽章、静かで美しい弦楽合奏の主要主題。控え目に丁寧に旋律が次々と折り重なって行きます。第1楽章の小結尾の主題が回想されても大暴れすることは無く、穏やかに淡々と進みます。とても美しいのですが、奥深い所から湧き上がって来るような音楽では無いような感じがします。金管の主要主題の再現では音の始末が少々乱暴なところもありました。最後まで余力を残した演奏でした。

総じて美しい演奏でしたが、ハイティンクらしい細部まで徹底して行き届いた演奏ではなかったのが少し残念でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

マリス・ヤンソンス/バイエルン放送交響楽団

ヤンソンス★★★☆
一楽章、ふくよかな響きのホルンの第一主題です。ミュートを付けたトランペットは伸ばす音の最初は強く吹きますが伸ばす音は直ぐに弱くなります。第二主題も総じてふくよかですが、あまり奥行き感はありません。木管のコラール風の動機も伸ばす音は抜くように演奏しました。僅かに節回しのあるトロンボーン独奏。展開部へ入る前はゆったりとしたテンポで壮大な演奏でした。展開部のホルンの第二主題もビーンと鳴ることは無く、柔らかくふくよかでした。探るようにゆっくりと演奏されたイングリッシュ・ホルン。艶やかと言うより少し枯れた雰囲気のヴァイオリン独奏。トロンボーンの第一主題も押さえた感じでした。再現部の前の色んな楽器が乱舞するような部分ではティンパニが強烈にクレッシェンド、デクレッシェンドを繰り返しましたが、他の楽器はきっちりと整理されているような整然とした演奏でした。

二楽章、豊かに歌うオーボエの主要主題。弦の繊細な表情。中間部はコントラストがはっきりしていて鮮明です。

三楽章、舞曲のように軽快な主部の演奏。ホールの残響をあまり含んでいないので、奥行き感には乏しい録音です。かなり遠くから響くポストホルン。良く通るフルート。遠くから響くポストホルンは柔らかい響きではありませんが、聞き惚れるような演奏です。主部が再現すると再び軽快な舞曲風です。遠いポストホルンに聞き入ってしまいます。不思議な魅力です。

四楽章、体全体から声が出ているような独唱。合い間に入るホルンはとても締まった響きです。オーボエがグリッサンドするような表現です。デッドな録音のせいか枯れた響きのヴァイオリンの独奏。

五楽章、デッドな録音の影響で、合唱の声質がとても鮮明です。中間部でも見事な独唱。

六楽章、静かに淡々と演奏される主要主題。込み上げる感情をぐっと内に秘めるような演奏です。副主題部も大きな表現はありません。二回目の第1楽章の小結尾の主題が回想は激しいものでした。ここまでの比較的淡々とした演奏とは対比される大きな表現です。三回目の第1楽章の小結尾の主題が回想も激しく壮大でした。くすんだ響きの金管による主要主題。コーダの前のトゥッティはオケのパワーを感じさせる力強いものでした。コーダは速めのテンポで終わりました。

ポストホルンや独唱など傑出した部分もありましたが、ヤンソンスは作品を遠くから眺めて、淡々と描いて行くような演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

エフゲニー・スヴェトラーノフ/ロシア国立交響楽団

icon★★★
一楽章、軽い響きの第一主題。スヴェトラーノフの演奏と言うことで、爆演を予想していましたが、力みのない演奏です。第二主題も絶叫することはなく、あっさりとしています。部分的にテヌートぎみに演奏するトロンボーンソロ。時折打楽器が強く入って来ます。展開部のホルンの第二主題も音を割ることもなく大人しい演奏です。ただ、打楽器は強烈に入って来ます。再現部前の頂点では、ホルンだけが異常に弱く変なバランスです。特に強烈な主張もなく、マーラーの多彩なオーケストレーションも楽しむことは出来ない演奏で、ちょっと期待外れです。トランペットはかなり強烈なのですが・・・・・・。コーダかなりテンポを上げてスリリングでした。ただ、シンバルが遅れていました。

二楽章、ゆったりとしたテンポで歌うオーボエ。消え入るような弦もなかなか良いです。遅いテンポでとても丁寧に音を大切に扱っているような演奏です。とても穏やかで聴いていて安堵感があってとても良いです。スヴェトラーノフがこの楽章でこんなに良い演奏を聴かせてくれるとは思いませんでした。別世界へ連れて行かれたような感覚になります。

三楽章、この楽章も遅めのテンポで豊かな表現です。相変わらずホルンは弱い。遠くから響くポストホルン、なかなか美しい。このテンポがこの曲の良さを再認識させてくれます。スヴェトラーノフのイメージは常に爆演でしたが、これだけ弱音で美しい音楽を作っていたのに驚きです。

四楽章、細い声の独唱でもう少し響きが欲しいところです。

五楽章、声楽陣にはマイクポジションが近いのか、美しいのですが、少し響きが足りないように感じます。

六楽章、弱音部分はとても美しい演奏です。ホルンも弱音部分ではバランスも良いし美しい響きです。強奏部分でも荒れ狂うことなく抑制の効いた美しい演奏をしています。最後の音はものすごく長く演奏しました。

朝比奈 隆/大阪フィルハーモニー交響楽団

朝比奈 マーラー交響曲第3番★★★
一楽章、大阪フィルもこの頃になると良い音がします。豊かに鳴り響く木管。ゆったりとしたテンポの第二主題。オケは限界近い咆哮はしません。余力を残しています。艶やかなヴァイオリン・ソロ。音に不純物が混じったようなトロンボーンのソロの最初の音。展開部のホルンも咆哮と言うほどの強烈な吹奏はしません。テュッティの強力なエネルギー感は不足しているように感じます。スネアやティンパニの動きが克明に表現されています。テンポは変化することなく堂々と進みます。コーダはすごくテンポを上げました。

二楽章、自然な歌が心地よく響きます。大阪フィルの音色は極上とまでは行かないものの大健闘です。若干のテンポの変化があったり、流れる音楽に浸ることができます。

三楽章、どの楽器もくったく無く鳴り、気持ち良いです。テュッティは相変わらず余力を十分に残した演奏です。美しいヴァイオリン・ソロ。適度な距離感を持ったポストホルンがとても良い雰囲気です。

四楽章、明るい声質で表現豊かなアルト独唱。

五楽章、全体に力強さに欠け、存在感の薄い合唱。

六楽章、安堵感に満ちた暖かい主要主題、とても美しい。頂点でフルパワーの咆哮!強大なエネルギーです。金管の主要主題の再現はもう少し神秘的であって欲しかった。最後は体力の限界か、ほとんどティンパニと弦だけになりました。

パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★

一楽章、豊かな残響を伴って伸び伸びと響くホルンの第一主題。第一主題の後はとてもゆっくりと演奏しています。オケを良く鳴らし、濃厚な色彩感の演奏です。第三主題は一般的なテンポになっています。艶やかなヴァイオリン独奏。比較的ニュートラルな響きのトロンボーン独奏。展開部のホルンの第二主題はかなり強く吹いているようですが、奥まった感じでした。オケを限界近くまで鳴らすようなことは無く、美しい響きを保って演奏しています。また、ライヴでありながらオケのほころびなどは全くと言って良いほど無く、見事なアンサンブルを聞かせています。

二楽章、テンポを動かしながら歌います。中間部は前へ前へと食らいつくように進みます。音楽が生命感に溢れていて、とても心地良い音楽です。

三楽章、踊るようにリズム感の良い演奏です。とにかく良く弾みます。とても柔らかいポストホルンはフリューゲルホルンで演奏しています。

四楽章、非常に注意深く演奏される序奏。丁寧な音楽の運びです。オーボエやイングリッシュホルンの音が上がるところをグリッサンドするように演奏しています。

五楽章、とても抑えた児童合唱。途中でほとんどテンポを落とさずに進みます。女声合唱も遠くから聞こえます。

六楽章、淡々と演奏される主要主題。テンポも速めでサクサクと進みます。一楽章の小結尾部の再現もあまり激しくはありません。二度目の副主題部はかなりテンポが速くなりました。内面へ深く浸透するような音楽にはなっていません。強力なティンパニと壮大なクライマックスでしたが、ほとんどの部分を速めのテンポで演奏したところは私の好みには合いませんでした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第3番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番

マーラー:交響曲第5番ベスト盤アンケート

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

エリアフ・インバル/フランクフルト放送交響楽団

icon★★★★★
ワンポイントマイクでの録音。空間再現はすばらしいものがあり、トゥッティではホールの天井の高さまで分かる明晰な録音です。また、各楽器が伸びやかに記録されている点でも特筆もの。
CDでこれだけすばらしい音が聞けるだけでもすごいことだと思います。

一楽章、一発録りの緊張感か、冒頭のトランペットの音が震えている。トゥッティの空気感がすばらしい。定位感も自然だし、個々の楽器の音も艶やかで伸びやか。まだ、少し寒い朝一のコンサートホールのような空気感だ。
葬送行進曲と言うには明るい音色です。とくにブラスセクションの張った音は、このCD独特の音がします。
伸びのあるブラスセクションの中でも、トランペットは特に強烈に届いてきます。他の録音だったらうるさく聞こえるほどのバランスであると思われますが、このCDでは位相が整ったとても良い音が伸びてきます。
弱音部も細心の配慮がされているようですが、萎縮することなく伸び伸びとした音楽が展開されます。この録音には酔えます。

二楽章、激しくと指定されていますが、十分に激しく演奏されているのですが、激しさが決して下品な響きになりません。音域のバランスが逆三角形になっていて、低音の厚みが乏しいので、怒涛の激しさも表現されないのかもしれません。
切れ味抜群な演奏には聞こえるのですが、個々の楽器が主張してくる感じで、全体の響きをコントラバスが支え切れていないようで、小物だけが騒いでいるような激しさになってしまうのが、ちょっと残念です。
でも、このバランスと切れ味は病み付きになりそうなくらい魅力があります。
インバルの指揮は特にねばったりすることはなく、音楽の流れに逆らわずに自然に指揮しているようです。

三楽章、スケルツォ、力強くと言う副題。やはり、コントラバスのバランスは弱いです。
トランペットの突出があまりにも強調されすぎて、他のパートの演奏にあまり聞き耳をたてなくなってしまうと言うか、トランペット以外のパートもすごく上手いのですが、それをかき消すほどトランペットの存在が大きい演奏になっています。

四楽章、ブラスの伸びやかで艶やかな響きに比べると、弦の繊細感があまり収録されていないので、この楽章に美しさを求めるのはムリなようです。
でも、インバルの控えめな表現がかえって上品さを醸し出していて、なかなか良い雰囲気があります。

五楽章、木管も含めて、管楽器は総じてとても良い音で収録されていて、聞いていて気持ちが良いです。アーティキュレーションの表現も過度にならず、イヤみなく表現されているので、安心感があります。
とても色彩感が豊かで、マーラーの背景にあるものが表現されているかは疑問ですが、これほどスカッと聞かせてくれる演奏も少ないと思うので、貴重なCDです。
ブラスの強奏の中から突き抜けてくるトランペットの息のスピードが感じられるような凄い演奏です。

切れ味抜群、スタイリッシュでかっこいいマーラーです。
このリンクをクリックすると音源再生できます。

クラウス・テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1988年ライブ

icon★★★★★
一楽章、陰鬱感のあるトランペットです。ドラの響きがずっと残っています。感情移入された弦の主要主題。トゥッティでも激しいですが余力を残した美しい響きです。

二楽章、激しい序奏です。うねる第一主題とは打って変わって静寂な第二主題。展開部直前のティンパニの猛烈なクレッシェンドです。第二主題の途中のミュートしたホルンがすさまじい響きを演出します。再現部の金管もすごい!いろいろ動く楽器にそれぞれ表情が付けられていて、吸い込まれそうになります。
打楽器とブラスセクションのアンサンブルも良い。いろんな楽器が絡み合って、大きなうねりのような音楽になって行きます。テンポを落として終りました。

三楽章、ティンパニが強烈!ホルンの咆哮もなかなか聞き物です。ホルンは常にビンビンで気持ち良いです。表現の幅がとても広く作品への共感を強く感じます。ホルツクラッパーも強烈でした。力まずに軽がると鳴るトゥッティの一体感はすばらしいです。

四楽章、とてもナイーブな表現で、音楽の揺り篭に乗せられているような感じで、優しさに溢れています。消え入るように美しい演奏です。

五楽章、エネルギー感が凄い。すさまじいホルンの咆哮!ライヴでありながらこれだけ完成度の高い演奏をすることに大変驚きます。輝かしいコラール。全身全霊とはこのような演奏のことを言うのでしょう。すばらしい!

クラウス・テンシュテット/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団1990年ライブ

テンシュテット/コンセルトヘボウ★★★★★
一楽章、盛大なヒスノイズに混ざって、くすんだトランペットのファンファーレが聞こえます。とてもアンサンブルの良い弦の旋律です。すごく悲哀を込めた弦です。冒頭からすでにテンシュテットの世界に引きずり込まれています。コンセルトヘボウもテンシュテットに共感しているようで、反応がとても良いです。大きく劇的にテンポが動きます。そしてオケがすごく上手いです。また、作品への没入度合いもすごいものがあります。

二楽章、オケがとにかく上手いです。途中ですごくテンポを落としてたっぷりと歌います。所々でブラスセクションの咆哮や弦とブラスセクションが波のうねりのように押し寄せてきたり、作品と一体になっています。

三楽章、フレーズの終わりでテンポを落としたり、アゴーギクを効かせる場面も。緩急の変化も大きくコーダでティンパニの強打がバッチリ決まりました。

四楽章、消え入るような弱音から開始しました。強弱の振幅が大きく表情がとても豊かです。まるで音の洪水の中を泳いでいるような感覚になります。こちらも作品と一体になっていられるような安堵感がとても心地よい演奏です。そして次第に音の洪水が過ぎ去ってゆきます。

五楽章、艶やかな木管がチャーミングな表情をみせてくれます。良く鳴るブラスセクションも気持ち良い。名演奏だったと思います。ヒスノイズが盛大だったのが悔やまれます。

フランク・シップウェイ/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、豊かなホールトーンに美しいトランペットのファンファーレです。トゥッティもバランス良くスケールの大きな演奏が期待できそうです。実に優しく繊細な主要主題。とても丁寧に演奏されています。頂点で炸裂するシンバルが気持ちよく決まります。第二の中間部の弦のメロディもとても丁寧に心を込めた演奏で、作品に対する思いが伝わってきます。

二楽章、思いっきり良く鳴るブラスセクション!「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」と指示しているマーラーの意図通りの演奏。弱音部は吸い込まれそうになるくらい聞き入ることができます。打楽器郡もオケと一体感があって上手いです。Rpoってこんなに上手いオケだったとは知りませんでした。ティンパニのクレッシェンドが音楽を力強く盛り上げます。

三楽章、ここまで聴いた感じでは、シップウェイの強い個性を反映した演奏ではなく、楽譜に書かれていることを丁寧に表現しようとしているように感じます。この楽章でも優しい弦の響きと思い切りの良いブラスセクションが上手く噛み合って良い演奏です。ブラスの咆哮でも、聴き手を突き放すようなことはなく、常に優しさを湛えた演奏です。

四楽章、深い霧の中から弦のメロディが現れて来るような、神秘的な冒頭部分の演奏でした。弱音の揺り篭に揺られているような心地よさが続きます。中間部でもヴァイオリンが絶叫することもなく幻想的な雰囲気が保たれます。最後はまた霧の中に消えて行きました。このように美しく夢見心地にさせてくれるアダージェットの演奏には初めて出会いました。すばらしい!

五楽章、音を短めに演奏するホルンとファゴット。暖かい弦とその上に乗っかるブラスの咆哮。この楽章でも優しさを失うことはありません。マーラーの演奏と言うと、気難しく、神経質で難解なイメージがありますが、この演奏は、優しく包み込んでくれるような暖かみがあります。どんなにブラスセクションが咆哮しても優しさを失うことはありません。とても稀な名演だったと思います。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★★
一楽章、くすんだ響きのトランペットのファンファーレ。感情が込められてテンポも動く主要主題。荒れ狂う程ではない第一トリオ。感情を込めて歌う木管の主要主題。第二トリオのテンポは速めです。

二楽章、序奏でかなり強奏される金管。淡々と演奏される第二主題。1987年の録音に比べると深く作品に没入して行くようなことはありません。ウィーンpoらしい濃厚な色彩感がすばらしい。美しく輝かしい金管のコラール。

三楽章、ウィンナ・ホルンらしくビリビリと鳴る冒頭。清涼感のあるヴァイオリン。テンポも揺れてゆったりと歌う第二主題。第三主題部のヒチカートのところで登場する管楽器はどれもとても良く歌いました。展開部へ向けて少しテンポを速めましたが、それでもゆったりとしたテンポを保っています。再現部の入りは華やかでした。僅かにテンポを上げたコーダは爽快でした。

四楽章、内へ内へと濃密な感情が込められて迫ってくる主部の演奏です。中間部も切々と語りかけてくるようなすごい感情移入です。

五楽章、奥まったところから響くようなホルン。テンポも微妙に動く冒頭部分です。活発で生き生きとした低弦の第二主題。展開部最後のクライマックスへ向けてテンポを少し上げましたが以外にあっさりとしていました。コーダへ向けてかなりテンポを上げクライマックスで元のテンポで全開です。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

クラウディオ・アバド/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1980年

アバド★★★★★
一楽章、伸びやかなトランペット・ソロですが、途中音が詰まります。ホルンも伸び伸びと鳴り響きます。静かに悲嘆にくれるような主要主題。トロンボーンもビンビンと強く鳴ります。アバドの演奏にしては、振幅の大きな骨太な感じです。第一トリオも激しい演奏です。トゥティでもすさまじい響きでアバドの気迫が伝わって来ます。木管の主要主題も良く歌います。第二トリオは凄い静寂で始まりました。大きな音楽の振幅と濃厚な色彩感の素晴らしい演奏です。

二楽章、荒れ狂うような冒頭ではありませんでした。ヴァイオリンの第一主題の周りで登場する金管が思いっきり入って来ます。これまでの演奏からすると、あっさりした第二主題でしたが、次第に生命観が宿り生き生きとした表現に変わります。展開部の序奏動機もそんなに荒々しくはありません。チェロの途切れがちな音型の部分も凄い集中力と静寂感です。再現部に入っても見事なアンサンブルと集中力で音楽に引き込まれます。金管のコラールでも伸びやかなトランペットが素晴らしいです。

三楽章、ふくよかなホルンに続いて、チャーミングな木管の第一主題。穏やかな第二主題。音に勢いがあって、この演奏に対する集中力の高さが感じられます。さらにゆったりとしたテンポになる第三主題。弱音が凄く弱く強奏もかなり強く演奏されるので、音楽の振幅が凄く広いです。展開部は割りと軽めでした。再現部へはすんなりと入りました。この楽章はアバドの演奏らしく流れの良い演奏です。コーダでは猛烈にテンポを上げました。

四楽章、ハープは聞こえますが、弦はとても弱くて最初は聞き取れないくらいでした。そっと優しく語り掛けるような「愛の歌」です。アバドが作品を慈しんでいるのが分かるような美しく丁寧な演奏です。主部は室内楽のような演奏でしたが、中間部冒頭では厚みを増して豊かな響きです。とても繊細な表現です。最後はスーっと引いて行きました。

五楽章、長く尾を引くホルン。美しい木管の掛け合い。リラックスした雰囲気の第一主題。緊張感が高まる第二主題は音に力があって、生き生きとした表情です。四楽章の中間主題が現れるところでは少しテンポを落としました。金管も献身的にアバドの指揮に応えています。再現部の前のクライマックスも良く鳴る金管が見事な響きを聴かせてくれました。ホルンが奥まったところでビーンと強烈な響きです。トロンボーンはホルンの響きをそのまま低くしたような音色で前に出てきます。エネルギーに満ちた輝かしく見事なクライマックス。最後も見事な追い込みでした。

弱音の繊細さと豪快に鳴り響くクライマックスの振幅の非常に大きな演奏で、とても聴き応えがありました。聴いていてスカッとするすばらしい演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

パーヴォ・ヤルヴィ/HR交響楽団

ヤルヴィ★★★★★
一楽章、暖かみのあるトランペットのファンファーレが次第に大きくなって鋭くなり、会場に響き渡ります。すごく豊かな残響です。豊かに歌う主要主題。非常に鮮度が高く美しい演奏です。水彩画のようなサラッとした淡い色彩ですが、とても豊かな色彩感です。第一トリオでもトランペットが響き渡ります。すごく瑞々しく美しい演奏です。第二トリオはたっぷりと歌います。

二楽章、序奏は激しいですが、十分制御が効いていて美しいです。深く感情を込めたような演奏ではありませんが、第二主題も過不足無く歌います。展開部のホルンも激しいです。トライアングルも鮮度の高い音で非常に美しいです。第二主題はとても遅く演奏されます。ホルンが出るあたりから普通のテンポになりました。再現部も金管が気持ちよく鳴り響きます。輝かしいコラール。とても見事です。

三楽章、元気の良い冒頭のホルン。続く楽器も生き生きとしています。美しく歌う第二主題。表現の幅が広く、楽器の入りが明確でとても深い彫琢の演奏です。激しい部分と穏やかな部分の対比も見事です。ピッィカートの主題部はゆっくりとしたテンポで演奏されます。展開部では一旦大きくテンポを落として次第に速めて演奏しました。パチーンと言う音のホルツクラッパー。とても活動的で生命感に溢れる演奏はすばらしいです。コーダもダイナミックに鳴り響きました。

四楽章、極端な弱音ではなく、はっきりとした音量で開始しました。よく歌います。瑞々しく美しい弦の響きです。中間部の充実した厚い響き。テンポも動いて濃厚な表現です。主部が戻って、淡く夢見るような演奏ではありませんが、十分にロマンティックです。

五楽章、空間に飛び散る音がとても美しいです。活発な第一主題。表情豊かな第二主題。どんどん前へ進む部分と、横に揺れる音楽の対比がとてもはっきりしていて、面白い描き分けです。前に進む部分では、すごく力強い演奏です。渋く輝くクライマックス。かなりテンポを上げて終りました。

豊かな歌と、美しい響き。生き生きとした表現やテンポの大きな動きなど、聴き所いっぱいのすばらしい演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

チョン・ミョンフン/ロンドン交響楽団

チョン・ミョンフン★★★★★
一楽章、良く鳴るオケです。非常に感情のこもった主要主題。二度目のファンファーレの途中からテンポを速めました。第一トリオはかなり激しい演奏でした。オケを見事にドライヴして振幅の激しい音楽を聞かせますが、演奏はスマートでスタイリッシュです。第二トリオの前のティンパニから消え入るような弱音でした。表面は磨かれてとても美しい演奏です。

二楽章、整然と整った美しい演奏です。力感も十分に表現されていますが、荒々しくは無く、とても美しいです。透明感の高い第二主題。展開部も激しいですが、決して荒くはありません。第二主題は大きくテンポを落としてたっぷりと演奏します。余計な音をすっきりと整理してとても見通しの良い演奏になっています。美しい響きのコラールでした。

三楽章、戯れるように絡み合う音楽。豊かに鳴る金管。一転して穏やかな第二主題。弱音はすごく抑えた音量で強弱の振幅は幅広いですが、決して重くはなりません。とても軽快な音楽です。展開部も振幅の大きな音楽。見事なアンサンブルで切れの良い演奏です。美しく鳴り響く金管。すっきり切れ味鋭い演奏でした。

四楽章、すごく弱く柔らかい弦の響きで開始しました。伸びやかで柔らかく歌のある演奏です。中間部冒頭は力強く厚みのある演奏でしたが、すぐに弱音主体の演奏に戻りました。歌ってはいますが、テンポの動きはほとんどありません。主部が戻って、また弱音の美しさが際立った演奏を聞かせます。

五楽章、速めのテンポで軽快な序奏。歌う第一主題。ガリガリと弾くことは無く、穏やかな第二主題。マーラーの演奏にありがちな、色んな楽器の乱舞で、混沌として、騒々しい演奏とは無縁のとても整然としてスッキリとした演奏です。一度目のクライマックスは速めのテンポであっさりと過ぎて行きました。コーダの前のクライマックスでは、かなりオケをドライヴしました。最後は熱狂するように盛り上がって終わりました。

弱音に音楽の主体を置いて美しい演奏を聞かせましたが、最後のコーダの手前からはかなり強力にオケをドライヴして大きな盛り上がりも作りました。非常に振幅の大きな音楽で、しかも整然と整理されたスッキリとした響きもとても印象的な演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

大植英次/バルセロナ交響楽団

大植★★★★★
一楽章、美しく鮮度の高いトランペットのファンファーレ。あまり音量を落とさずに入った主要主題。主要主題の中で強い部分では思い切った入り方をしますが、あまり大きく歌うことはありません。木管の主要主題はよく歌いました。一つ一つの旋律はあまり大きく歌いませんが、大きな流れとしては、情熱的な演奏です。第二トリオも大きく音量を落とさずに、美しい響きを保てる範囲で無理なく演奏しています。

二楽章、ガツガツとした弦、伸び伸びと鳴るホルン。オケが一体となって激しい演奏をしています。音楽に躍動感があって、とても生き生きとしています。展開部の第二主題はテンポを少し落として演奏しました。色彩感もとても濃厚で温度感が高く熱い演奏です。

三楽章、豊かに鳴り響くホルン。生き生きとした第一主題。とても濃厚な色彩。瑞々しい木管。伸び伸びと鳴り響く金管。展開部はゆっくりとしたテンポで入って次第にテンポを上げました。再現部でも豊かに鳴り響くホルン。音に力があって、キリッと立っています。メジャー・レーベルでは聞いたことの無いオケの名前ですが、伸び伸びと鳴るすばらしいオケです。

四楽章、ここでも音量を抑えずに、無理なく響かせています。大きく捉えて歌う演奏で、音に力があってとても熱い演奏が続きます。内面から湧き出してくるような音楽はとても豊かです。

五楽章、色彩感豊かな序奏。ゆっくりとガリガリ確実に刻む第二主題。次第に熱気を帯びて盛り上がるクライマックスは圧巻です。すばらしいエネルギー感です。

熱気に溢れるすばらしい演奏でした。濃厚な色彩感と伸び伸びと鳴る圧倒的なエネルギー感。そして湧き上がるような音楽。どこをとってもすばらしい演奏でした。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番2

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

ジュゼッペ・シノーポリ/フィルハーモニア管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、つんのめった感じで三連符を吹く指定になっているトランペットが本当につんのめっている。
表現は淡白な感じがします。それとマスの響きが寄ってこないのもちょっと気になります。トランペットの付点をテヌートぎみで甘く演奏している。意図的にはずまないようにしている部分があります。後で出てくる付点はしっかりはずんでいました。
木管群が美しいアンサンブル。

二楽章、「巨人」を聴いた時に感じた、小さくまとまった感じはなく、十分熱い演奏をしています。
シノーポリのマーラー独特の対旋律をクローズアップしているので、他の演奏では聞こえない楽器がいろいろ聞こえてきて面白いです。また、シノーポリの唸り声も随所に収録されています。
オケは十分に鳴っていて気持ちが良いのですが、音楽自体はねばることなくサラリと流れて行く感じで、演奏に釘付けにされるようなことがありません。音楽を押し付けてくるようなずうずうしさはないので、下品さは全く無いのですが、反面あっさりと美しい音が流れすぎて、マーラーを聞いているとは思えないような不思議な演奏です。これは、ある意味ではシノーポリが切り開いた新しいマーラーの境地なのかもしれません。

三楽章、とても速い出だしです。シノーポリのマーラーは他の曲でも同じ傾向なのですが、非常にタッチが柔らかくて、ギンギンバリバリしたところがありません。むしろフワッとした感触すらあって、従来のマーラー感からは全く違う面を聴かせてくれます。このようなマーラー像を切り開いたことは高く評価されるべきでしょう。
ただ、これだけ従来のマーラーとは違う演奏をすることは大きな賭けでもあるわけで、好き嫌いは分かれるでしょう。
この楽章でも、聴きなれない音が頻繁に顔を出します。
終結部もかなりテンポが速かった!

四楽章、この楽章はシノーポリの演奏スタイルにピッタリです。淡雪のような、すぐに溶けてなくなるようなロマンチックな演奏になっています。中音域が厚い弦楽合奏でうるさくなることがないので、つかの間の癒しの時間を与えてくれます。

五楽章、四楽章から続けて演奏されるので、まだ夢の中のような始動です。とても上手いつなげ方だと思いました。途中に金管がバーンと入ってきて、次第に眠りから覚めて行く様な、少しずつ少しずつ現実へと戻されていくように、シノーポリによって誘われて行きます。なかなか見事な演出です。
ここでも、聴きなれない楽器が登場してきます。私は音楽を聴くときにスコア片手にというような聴き方はしません。スコアを見ることによって作品に対する理解はもっと深まるかもしれません。しかし、聞き手は聞き手であって、受動的な立場なので、感じるままを感じることにしています。スコアを見て理解を深めて、通常はスコアなしで聴くのなら分かります。しかし、私は常にスコア片手だと、音楽に没頭できなくなってしまうのです。
例えば、歴史的建造物を見に行くとしましょう。その時に設計図面を片手に見に行く人がどれだけいるでしょうか?
夢見心地のまま終わったような、とても不思議なマーラーでした。こんなマーラーの5番は初めての経験です。4楽章~5楽章への流れは予想外で、シノーポリマジックとでも言うべきか。良い体験ができました。5楽章は当然激しい演奏を想像していましたが、本当に最後の最後で起こされた感覚で、それまでは、ず~っと夢の中にいたような感じでした。

これまでのマーラー解釈とは一線を画すものですが、これはこれでかなり説得力がありました。
この演奏を受け入れられない人も多いのではないかと思います。でも数あるマーラーの5番の名演奏の中にこの演奏を提起する(主張する)シノーポリに惜しみない拍手を送りたいと思います。

ラファエル・クーベリック/バイエルン放送交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、陰鬱な響きのトランペットのファンファーレ。低音域があまり分厚くないので、全体の響きが薄く感じます。一つ一つの旋律に克明な表現を付けて演奏されています。とても表情豊かでクーベリックが作品に込めたものが伝わってきます。テュッティでも激しい部分は凄い激しさで、輪郭のはっきりくっきりの演奏です。

二楽章、テンポは少し遅めですが、いくつものうねりとなって音楽が湧き出してきます。第二主題が大きく歌われました。展開部でも遅めのテンポを維持しています。チェロの途切れ途切れの音型にすごい静寂感がありました。金管のコラールも輝かしいものでした。クーベリックがオケを見事に統率して一体感のある音楽を作り出しています。聴き手をグイグイと引き込む演奏です。

三楽章、一転して速めのテンポです。表情豊かで楽しそうな雰囲気に溢れています。ソロを吹く管楽器も非常に上手いです。表情豊かで楽しそうなのですが、音色は引き締まって、緊張感もしっかりと維持しています。ライヴとは思えない程の演奏精度ですばらしいです。

四楽章、遠くから自然に聞こえてくるような開始でした。優しい演奏なのですが、残響をあまり伴わないので、ちょっとキツく聞こえます。この楽章でも微妙な表情付けが魅力的です。強奏部分でもムリにがなり立てることもなく美しい演奏でした。

五楽章、美しいホルン。チャーミングな表情の木管楽器。生き生きとした弦楽器群。集中力の高い演奏が続きます。最後の爆発を残して抑え目に演奏しているのでしょうか。全曲を通じて、輪郭のはっきりした彫りの深い演奏です。最後の咆哮も少し余力を残して美しい演奏でした。とても人間味があり表情豊かな演奏でした。作品には十分共感して感情移入もされていますが、ドロドロになる手前で踏みとどまって、作品のディテールなども聞かせてくれるバランスの良い演奏だったと思います。

レナード・バーンスタイン/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★☆
一楽章、ふくよかな響きのトランペットのファンファーレです。ホールに残響が響き渡ります。すごく遅いテンポで演奏される主要主題。一音一音に魂を込めるように丁寧な演奏です。一音一音に表情を付けるような異様な演奏。 さらにテンポを落として濃厚な表現です。もう完全にバーンスタインの世界です。即興なのか緩急自在に表現します。トランペットの突き抜けた時の輝かしい響きが印象的です。すごいアゴーギク。マーラーが乗り移ったかのように音楽に感情を思いっきりぶつけてきます。壮絶怒涛のテュッティ!もの凄く濃厚な一楽章でした。

二楽章、全開の冒頭です。ウィーンpoらしい木管の繊細な表現。この楽章ももの凄く遅いテンポ。体が引きちぎられそうな感覚になる激しいクレッシェンド!こんな曲だったか?と思うほど遅いテンポ。激しいテンポの変化と金管の咆哮と深々とした弦の響き。この演奏をしながらバーンスタインは正気だったのだろうか?一種の錯乱状態になりながら指揮をしていたのではないかと思うほど正常な演奏とはかけ離れています。聴いているこちらも違う世界へ連れて行かれたような錯覚さえ覚えます。

三楽章、この楽章も遅めのテンポです。一音一音に何か意味合いを持たせているかのように重い。スケルツォとは思えないほど重い。もうこの演奏はマーラーを逸脱してバーンスタインの音楽だと思う。それにしてもここまで自分自身をさらけ出して音楽にすることは凄いことだ!自在な音楽。

四楽章、遅いテンポの中でテンポが揺れて濃厚な表現です。美しい音楽なのですが、バーンスタインの内臓をぶちまけて見せられているようなグロさも感じてしまいます。それほど強烈な主張のある演奏なのです。マーラーの病的な部分も強烈に認識させられます。

五楽章、冒頭からアゴーギクいっぱいです。あまりの重さに疲れてきました。これだけ強烈な主張のある演奏は合う人にとってはたまらない演奏でしょう。しかし、合わない人にとっては苦痛かもしれません。

ズービン・メータ/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★★☆
一楽章、安定した輝きのある響きのファンファーレ。思いっきりの良いブラスセクションの咆哮。速めのテンポで進む葬送行進曲。一見、淡々と進むようですが、強い意志が働いているようで、前へ前へと進む音楽は、ウィーンpoとの復活を思い起こさせるものです。メータの絶頂期が蘇ったような豪快な演奏です。音の洪水のように激しく次々と音楽が押し寄せてきます。

二楽章、ここでも激しい咆哮が聞かれます。とても良く鳴るブラスセクションを前面に押し出した演奏になっています。テンポを揺らしたりアゴーギクを効かせたりすることもなく、一直線に突進してくるような表現で、圧倒されます。マーラーのオーケストレーションが克明に表出されて行きます。メータが表現すると言うより、作品に語らせるような演奏になっています。速いテンポで激しさを表現しました。

三楽章、弦だけの部分ではもう少し艶やかな響きと表情が欲しい気もしますが、ブラスセクションが登場するとどっしりとした堂々とした安定感に変化します。テンポの速い部分は豪快で生き生きとしています。本当に気持ちよく鳴るブラスセクションです。

四楽章、この楽章も速めのテンポであまり濃厚な表現はないようです。淡白でした。もう少し踏み込んだ表現があっても良かったのではないかと思います。

五楽章、ホルンに続く木管も美しい演奏でした。津波のように音の洪水となって次から次へと音楽が押し寄せてくるのは圧巻です。メータが鳴りの良いニューヨーク・フィルを利して速めのテンポで一気に描ききった豪快な快演だったと思います。

クラウディオ・アバド/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、暗闇の中から浮かびあがるようなトランペットのファンファーレが次第にクレッシェンドして、テュッティで轟きます。すごく抑えられた主要主題が次第に明確になってきます。とても激しい第一トリオ。全体を通じてトランペットが輝かしくとても力強いです。線は細いのですが、とても強い音楽が続きます。

二楽章、とても濃厚な色彩で強い音楽です。第一主題の周りで演奏される金管がとても激しい。少し落ち着くチェロの第二主題。金管が遠慮なく炸裂します。展開部のティンパニの弱いロールの上で演奏されるチェロは無表情です。金管の上手さは見事と言う他ないくらい凄いです。コラールも非常に輝かしい。

三楽章、勢いの良いホルン。くっきりとした木管の第一主題。合間に入る金管も生き生きとした表情です。ゆったりと落ち着いたヴァイオリンの第二主題。どの楽器も屈託なく良く鳴ります。展開部は次々と楽器は受け継がれて行きますが、流れるように滑らかです。金管はかなり強奏しますが、ひっかかることなくスムーズに流れて行きます。

四楽章、遠くから次第に近づいてくるように次第にはっきりする冒頭でした。かなり抑えられた演奏です。アバドの演奏の場合、感情をぶつけてくるようなことはないので、この楽章も感情が込められて、マーラーと一緒に没入するようなことはありません。こちらも演奏にあわせて感情が高ぶるようなことはありません。非常に美しい音が通り過ぎて行くだけです。遠くへ去って行きました。

五楽章、どの楽器も非常に美しい。第二主題もアクセントは付けられていますが、引っかかるような強いアクセントにはなりません。ブラスセクションの強奏はありますが、絶叫するような咆哮はありません。極めて整った演奏です。感情移入することなく、マーラーのスコアを整然とした音楽として再現するのがアバドの意図したところなのか。

すばらしく美しい演奏でしたが、聴いていてこちらが熱くなるような演奏ではありませんでした。造形としてはすばらしいものでした。

ダニエル・バレンボイム/シカゴ交響楽団

icon★★★★☆
一楽章、ハーセスの艶のあるファンファーレ。強弱の振幅の大きな主要主題。主要主題の入りはゆっくりと入ります。激しい第一トリオですが、シカゴsoもショルティ時代の吹きまくるような金管ではなく、ほどほどに節度のある演奏です。非常に感情の込められた木管の主要主題。第二トリオから頂点へ向けて少しテンポを速めているか?

二楽章、荒れ狂うような序奏ではありません。大きく歌う第二主題。金管の上手さはさすがです。ダイナミックな演奏で、色彩感もとても濃厚です。金管のコラールも輝かしく美しい。登場してくる楽器が生き生きとしていて、とても有機的です。

三楽章、気持ちよく鳴るホルン。生き生きとした木管の第一主題。登場する楽器がくっきりと浮かび上がり次々に強い自己主張をして存在感をアピールします。一転して穏やかな第二主題。展開部に入って豪快に鳴る金管。繊細ですが、僅かに金属的な響きのヴァイオリンがシカゴsoらしいです。バレンボイムは細かな指示はせずにオケの自発性に任せているようです。

四楽章、遠くから聞こえてくるような幻想的な雰囲気で始まりましたが、ガリガリと鳴る弦によって次第に現実に連れ戻されます。この楽章では金属的な響きのヴァイオリンがちょっとキツくて愛を奏でるような雰囲気ではありません。押し寄せる波が次第に引いて行くように終わりました。

五楽章、かなり強く吹くホルン。続く木管もくっきりとしています。テンポも微妙に動いています。低弦の第二主題も金属的な響きです。再現部の前のクライマックスはテンポを速めてあっさりと演奏しました。最後の金管の鳴りはさすがにシカゴsoだと思わせるものでした。

特に、強調された表現などはありませんでしたが、ハーセスのトランペットやクレヴェンジャーのホルンなど見事に鳴るオケの演奏はすばらしく、聴いていてとても気持ち良いものでした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番3

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

テンシュテット/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1984年大阪ライブ

icon★★★★
一楽章、気候のせいか、ロンドンでのライブに比べるとオケの鳴りが今ひとつです。
響きが少し重い感じがします。暗く沈んで行く感じはとても良く表現されています。
強弱などの表現が豊かです。

二楽章、積極的な表現と、暗く沈む部分の対比が見事です。表情はとても豊かです。

三楽章、やはり、スカッとした鳴りではないのが残念です。

四楽章、穏やかで優しい演奏です。慈しむような音楽です。

五楽章、じっくりとした冒頭部分です。オケも乗ってきたようで、積極的な表現になってきました。

テンポも動いて元気なクライマックスでした。でも、テンシュテットの演奏としては整然としていたような感じがします。

ヘルベルト・フォン・カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

icon★★★★
一楽章、タンギングが分かるほど近いとトランペット。悲鳴にも似たファンファーレ。静かにゆったりと奏でられる主要主題。切々と悲しみを表現しています。トランペットだけが近いセッティングのようです。開始5分30秒ぐらいのところのトランペットのファンファーレの部分はすごくテンポを速めました。テンポやバランスなど、他の指揮者とは違う独特のものがあります。第二の中間部の弦のメロディも最初は静かに丁寧に演奏されました。弱音とテュッテイの強弱の変化に大きな幅がありダイナミックです。ただ、強奏部分でも激しく荒々しい表現にはならず、節度ある範囲の演奏になっています。

二楽章、「嵐のように荒々しく動きをもって。最大の激烈さを持って」とマーラーが書いている楽章ですが、荒々しい表現ではありません。どんなに強く演奏しても美しさを維持していて、カラヤンの感情移入の余地は残されていないような演奏です。このあたりが「美しいだけ」と言われたりする所以でしょうか。オケも100%の力で咆哮することはありません。余力を残して美しい音色が維持できる範囲で演奏しているように感じます。整然と整った模範演奏を聴いているような感覚です。

三楽章、元気の良いホルン。快活な表現の冒頭でした。ホルンのソロの上手さに惹きつけられます。この演奏はカラヤンの感情移入を排して楽譜を客観的に音にすることに専念した演奏なのだと思います。とても冷静に演奏が進んで行きます。

四楽章、ゆったりとしたテンポで美しい弦の調べが聴けます。強弱の振幅も広く、愛情を感じる演奏です。このような音楽を演奏させるとカラヤンは上手いですね。永遠に続くのではないかと思わせました。

五楽章、一転して表情豊かな木管のソロでした。金管のffが地面に杭を打ちつけるようなガツンと来るような音ではなく、空へ向かって吹いているような軽さがあります。オケのアンサンブルも見事です。音響の構築物としては完璧だと思うのですが、マーラーの音楽の場合、多少音が汚くても、思いっきり感情をぶつけてくるような演奏の方が個人的には好きです。見事な頂点でした。すばらしい演奏ではあったのですが・・・・・。

ジェームズ・レヴァイン/フィラデルフィア管弦楽団

icon★★★★
一楽章、ビービー鳴るトランペット。強いティンパニの打撃。弦楽器の主要主題には最初ゆっくりと入りました。暖かい響きの弦楽合奏。第一トリオはビービー鳴るトランペットを筆頭に豊麗なサウンドが津波のように押し寄せて来て、とても豊かな雰囲気の演奏です。ティンパニは常に強調されています。葬送行進曲というイメージの重さや厳粛さはありません、むしろオケの技量を最大限に発揮した輝かしい演奏です。トロンボーンやテューバもとても良く鳴ります。第二トリオも陰鬱な雰囲気よりも華やかさがあります。

二楽章、激しさはありますが、見事に整った冒頭です。ヴァイオリンの第一主題に帯同する金管も激しい。とても落ち着いてチェロの第二主題。展開部でもティンパニが強調されています。展開部から行進曲調に至るまでのフィラデルフィアoならではのとろけるような美しい音色はすばらしい。再現部でも強調されているティンパニがとても効果的で胸がすくような打撃です。輝かしく美しい金管のコラール。

三楽章、とても勢い良く鳴りの良いホルン。続く木管の第一主題の響きも魅力的です。ちょっとメタリックな響きのヴァイオリンがとても活発です。一転してマットな響きになる第二主題。展開部の手前は黄昏て行くような独特の雰囲気でした。再現部はフィラデルフィア・サウンド全開の豪華絢爛な響きが凄かった。コーダも華やかでした。

四楽章、消え入るような音量から開始して、抑え気味で淡々とした演奏が次第に振幅が大きくなってきましたが、湧き上がる感情を作品にぶつけるような演奏ではなく、客観的で冷静な演奏です。この楽章のほとんどは抑えた音量の演奏です。少し表情が乏しかったような気がしました。

五楽章、ちょっと乱暴なホルンの第一主題の最初の音でした。あまり表情の無い第二主題。クライマックスは壮大なものでした。ただ、テンポも含めて少し間延びしているような感じがありました。

ディミトリ・ミトロプーロス/ニューヨーク・フィルハーモニック 1960年

ミトロプーロス★★★★
一楽章、かなり遠くにいるトランペット。録音はモノラルです。寂しげに演奏される弦の主要主題。オケはしっかりと豪快に鳴っています。二度目のファイファーレの後は、タメなのか?リズムが詰まっている部分がありました。引きずるように重い葬送行進曲です。第一トリオはすごい勢いで突っ走ります。縦に揺れる木管の主要主題。

二楽章、ゆっくりとした序奏。ヴァイオリンの第一主題にいろんな楽器が絡みつく。一転して落ち着いた第二主題。展開部の序奏の動機は対旋律のチューバが強調されていて、今まで聞いたことの無い音が聞けました。明るい行進曲調になる前の部分は、ねっとりと粘着質の濃厚な表現でした。再現部でも主題に絡む対旋律がかなり強めで、混沌としていて荒々しい雰囲気です。

三楽章、モコモコとこもったホルン。これまでの喧騒から解放されるような第二主題。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。集中力が高く、エネルギー感も強い演奏はなかなか魅力的です。

四楽章、間を取って歌います。ゆったりとしたテンポで切々と歌います。内へ内へと感情を込めるような演奏で、外へは発散しません。響きは温度感が低く、どこか冷たい感じです。中間部でも響きは厚くはなりませんが冷たく美しい響きです。

五楽章、第一主題に入る前に少し間をあけました。遅めのテンポでがっちりと地に足を付けて進みます。途中でテンポを落とすところもあります。テンポは動きますが、濃厚な表現ではなく、鉄のような強い意志が働いているような強固な重たい演奏です。再現部の前のクライマックスはかなり余力を残して抑制された演奏でした。再現部はゆっくりとしています。コーダの前のクライマックスはトランペットがかなり強く吹きますが、感情を叩きつけるような演奏ではなく、冷徹な感じの演奏でした。コーダはかなりゆっくりから僅かにテンポを速めました。

重く強い演奏で、地面にしっかりと爪痕を残しながら前に進むような力のある演奏でした。終始冷たい響きの演奏には好き嫌いが分かれるでしょう。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

ヴァーツラフ・ノイマン/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

ノイマン★★★★
一楽章、奥まったところからちょっと詰まった感じのトランペットが次第に鮮明に聞こえてきます。ホルンは軽く鳴り響きます。速めのテンポでリズミックな主要主題。二度目のファンファーレは鋭い響きでした。主要主題はやはり速めでさっさと進みます。第一トリオは伸びやかなトランペットに引っ張られるように他のパートも激しい演奏です。基本的には速めのテンポでサクサク進む音楽です。

二楽章、ゆっくり目で端正な序奏。第二主題では僅かにテンポが動いて歌っています。展開部の序奏も大暴れすることは無く、制御された演奏です。暗闇に沈み込むような第二主題。再現部は速めで強奏部でもあっさりと進みます。金管のコラールの後はテンポをグッと落としています。

三楽章、控えめな第一主題。控えめですが、美しい歌の第二主題。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。この演奏は決して爆発はしませんが、その分弱音の美しさや静寂感がとても良い演奏で、肌を撫でるような弦の弱音の美しさはすばらしいです。コーダもゆっくりとしたテンポで落ち着いた演奏でした。

四楽章、控えめながら切々と歌います。感情が込み上げてくるように、少しずつ少しずつ音楽が湧き上がります。再び主部が戻ると安堵感のある安らぎに満ちた音楽が演奏されます。

五楽章、歌う第一主題。テンポも動いて良く歌います。金管の短い音がかなり短く、完全に息を吹き込んでいないような感じがするのが若干不満です。クライマックスではかなりトランペットが強く吹きましたが、それでも全開とまでは行かなく。抑制されたものでした。

抑制の効いた演奏は歌もあり美しかったのですが、音楽の振幅があまり大きく無かったのが、少し残念です。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

オスモ・ヴァンスカ/香港フィルハーモニー管弦楽団

ヴァンスカ★★★★
一楽章、倍音を含んで美しく鳴るトランペット。淡々と演奏される主要主題。第一トリオでもトランペットは伸びやかです。ひっかかるところが無く流れの良い演奏です。第二トリオは抑揚が付けられて歌っています。トゥッティのパワー感は今ひとつです。

二楽章、一音一音大切に刻むような序奏。第一主題の周りにちりばめられた楽器の存在感が大きいです。ほとんど歌わず淡々と進む第二主題。展開部では強奏されますが、美しい響きです。静かな第二主題。ゆっくりと静かに進みます。美しく有機的な演奏なのですが、頂点でのエネルギー感があまり感じられないのが、難点です。

三楽章、香港poはなかなか上手いオケです。濃厚な色彩感はありませんが、サラッとした爽やかな肌触りの響きはとても心地良いものです。ヴァンスカの指揮は余計な感情移入などは避けて、作品のありのままの美しさを表現しようとしているようです。展開部はゆったりとしています。ホルツクラッパーの部分でもテンポはあまり早くなりませんでした。やはりコーダでも爆発的なパワーは感じませんでした。

四楽章、大きく歌うことはありませんが、過不足なく美しい演奏です。呼吸を感じる中間部。

五楽章、かなり強めに入ったホルン。たっぷりと歌う序奏。オケの限界なのか、金管が絶叫するほどの激しい強奏は無く、振幅の狭い音楽になっています。とても美しい演奏なだけにとても残念です。コーダの前のクライマックスでは少しパワーを感じることができました。

とても美しい演奏で、余計な感情移入も排除して、作品の美しさを伝えようとした演奏だったと思います。全体を通して美しい演奏で、ヴァンスカの目的は達せられたと思いますが、トゥッティでのパワー感の無さはとても残念なところで、音楽の振幅が狭い演奏になってしまったのは本当に惜しいところです。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー

マーラー 交響曲第5番4

たいこ叩きのマーラー 交響曲第5番名盤試聴記

クラウス・テンシュテット/北ドイツ放送交響楽団

テンシュテット/NDR★★★☆
一楽章、客席で録音したものか?音が少し篭っています。
色分けがはっきりしていて明確な演奏です。
強弱のメリハリもはっきりしていて押しの強い演奏です。一連のテンシュテットの演奏の中でも最も激しい演奏だと思います。

二楽章、ゆったりとした部分では濃厚な表現を聴かせます。オケをせきたてるようにテンポを煽るところなども独特です。

三楽章、比較的強めに演奏された冒頭のホルン。集中度の高い熱い演奏が続きます。

四楽章、倍音成分があまり収録されていないので、豊かさを感じることはできません。

五楽章、ゆったりとしたテンポで始まりました。録音の問題もあるのか、金管の咆哮もあまり感じられず・・・・・。ただ木管の豊かな表情が良いです。

録音が良ければすばらしい演奏だっただろうと思います。

サー・ゲオルグ・ショルティ/シカゴ交響楽団

icon★★★☆
一楽章、ハーセスの明るく鋭いファンファーレ。とうとうと流れるような主要主題。エッジの立った弦。思いっきりの良いブラスセクション。強奏部分でもいろんな音が聞こえます。金管の咆哮が非常に激しい!ショルティの指揮は作品に没入するような表現主義ではないと思いますが、金管の咆哮が激しいので、聴いているこちらが熱くなるような演奏です。

二楽章、速いテンポで激しい演奏です。落ち着いた表現の第二主題。シカゴsoのヴィルトオジティを前面に押し出してオーケストラの機能美を追及した演奏のようです。当時、世界最高と言われたシカゴsoの面目躍如の演奏になっています。

三楽章、クレヴェンジャーのホルンが冒頭かなり大きめに入りました。ショルティの指揮はテンポの揺れもなく速いテンポで曲を一気に聞かせます。音楽が前へ前へと進もうとする推進力があります。 打楽器のインパクトに録音が一瞬歪ます。

四楽章、微妙な表情付けとバランスの良い弦の演奏です。録音年代の問題か弦の音の木目が若干粗いのが気になります。

五楽章、この楽章も速めのテンポの演奏です。それぞれの楽器の音が立っていて生き生きした表情が印象的です。金管のffは遠慮なく思い切って入ってくるのがとても気持ち良い。このような演奏スタイルはマーラーの作品を聴く一つの醍醐味を味わわせてくれます。クライマックスで少しテンポを落としました輝かしい頂点です。テンポを速めて一気呵成に終りました。この曲を一気に聞かせた豪快な演奏でした。
ただ、表面的な演奏に終始し、内面の深いところから湧きあがった音楽ではなかった気がします。

ルドルフ・バルシャイ/ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニー

icon★★★☆
一楽章、輝かしく明るい響きのトランペット。速めのテンポで付点の音符に力点を置いた主要主題。第一トリオでも強いトランペットが他のパートをかき消すくらいに強烈です。主要主題が木管に出るところではそんなに付点に力点を置いた感じではありませんでした。第二トリオは陰影に満ちた表現です。トランペットの強さに比べるとトロンボーンやホルンは明らかに弱いです。

二楽章、少し遅めのテンポで一楽章では感じなかったホールの残響を含んだ豊かな響きです。強弱の変化がある独特の第二主題です。展開部もテンポが少し遅いのもあって、すごく激しいと言うほどではありません。金管のコラールは輝かしく堂々としたものでした。静まる直前のドラも強烈でした。主役の楽器はきっちりと前に出てきますがなぜか色彩感はあまり感じません。

三楽章、可愛く愛らしい表現の第一主題。テンポの動きもあり、押すところと引くところがある独特の第二主題。弦だけになるとホールの響きが美しいです。展開部のティンパニはそんなに強打はしていませんが、とても印象に残る広がりのある響きです。再現部に入って、凄く音楽が生き生きとしてきました。コーダはやはりトランペットが強く、それに比べるとホルンは弱かったです。

四楽章、浅い響きのハープ。独特な歌いまわしで振幅の大きな歌です。モノトーンのような渋い色彩感。

五楽章、豊かな響きを伴ったホルンと木管の掛け合い。ゆったりとしたテンポの第二主題。再現部の前のクライマックスもトランペットが凄いエネルギー感で迫って来ます。コーダに入ってもゆったりとしたテンポで、壮大なクライマックス。最後だけ少しテンポを上げました。

バルシャイが作品の深いところから何かを引き出そうとする意図は良く伝わってきました。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

ブルーノ・ワルター/ニューヨーク・フィルハーモニック

icon★★★
一楽章、ヒスノイズの中から、近い位置のトランペット・ソロがトゥッティでは奥に引っ込みました。金管の音は全体に短めです。弦の主要主題は速めのテンポであっさりしています。再びファンファーレが現れる部分では激しく濃厚な表現でした。第二トリオもテンポは速めで陰鬱な雰囲気をことさら強調することは無く、淡々と進みます。

二楽章、ワルターの演奏としては非常に激しい荒れ狂うような表現です。少し穏やかにはなりますが、動きのある第二主題。一転して静かな展開部の第二主題。輝かしい金管のコラールも一部音を短く演奏しています。最近の演奏では聴いたことのない表現です。

三楽章、速めのテンポで元気の良いホルン。チャーミングな木管の第一主題。複雑に楽器が絡み合うところは上手く表現されています。少し穏やかになった第二主題。第三主題部の前の金管はそんなに大きくは鳴らしませんでした。後半のホルンなどはかなり抑えて演奏しました。展開部などでもティンパニも控え目で、マーラーが指定している「力強く」とは違うような感じがします。コーダはかなり盛大に盛り上がりました。

四楽章、スクラッチノイズのようなチリチリとしたノイズも聞こえます。間接音をほとんど伴わないナローレンジの録音からは美しさを想像するしかなく、聞こえてくる音だけだと、すごく現実的で夢見心地とは程遠い演奏になります。ヴァイオリンの高音が痛いような感じがします。

五楽章、すごく抑えた音量で短く演奏するホルン。ファゴットも音が短い。この楽章では、金管もかなり激しく演奏しています。速めのテンポですが、ワルターの内面から溢れ出す感情をストレートにぶつけてくるような激しさがあります。この楽章は大熱演でした。

ワルターの思いのこもった演奏だったと思うのですが、録音の古さがいかんともしがたいところです。

ベルナルト・ハイティンク/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

icon★★★
一楽章、シャープな響きのトランペットのファンファーレ。朗々と鳴り響くホルン。冒頭の騒々しさから一転してとても静寂な主要主題。第一トリオでもシャープなトランペットの響きが印象的です。コンセルトヘボウ独特の美しく濃厚な色彩がとても良いです。第二トリオ冒頭の静寂感もすばらしい。

二楽章、ゆっくり目のテンポで一音一音描き分けるような冒頭でした。第二主題も静寂の中に響きます。潤いのある木管が美しい。展開部もゆっくり目のテンポで丁寧な演奏です。続くチェロの途切れがちの音型もすごい静寂感があります。再現部も荒れ狂うような強奏ではなく、抑制の効いた演奏です。極端な表現やテンポの動きはありませんが、コンセルトヘボウの深みのある美しい響きがとても心地良い演奏です。金管のコラールも鋭い響きでした。

三楽章、登場する楽器がくっきりと色彩感豊かに浮かび上がります。コンセルトヘボウは1970年代の響きが一番美しいと思います。テンポも動かさず自然体の演奏ですが、静寂感とオケの響きの美しさが際立った演奏です。展開部に入っても演奏を荒げることはありません。ホルツクラッパーも控え目でした。コーダも落ち着いたテンポで穏やかでした。

四楽章、かなりはっきりと入った冒頭です。音の動きもはっきりしていて、夢見るような幻想的な雰囲気ではありません。中間部に入っても音の変わり目がはっきりしているので、現実的な雰囲気です。内面から湧き上がるような共感は感じられませんでした。

五楽章、豊かな残響を伴ったファゴットが美しい。ゆっくりとした足取りで一音一音丁寧に演奏して行きます。軽々と鳴り響くホルン。トロンボーンが短い音で強く入って来ても、飛びぬけることは無く、全体の響きに包まれてフワッとした音です。クライマックスで他のパートとは明らかに音量の大きなトランペットが爽快ですが、テンポが一貫して遅く、スピード感が無いのがちょっと残念です。

美しい演奏でしたが、無難な安全運転と言う感じがしました。聴いていてドキドキするようなスリルなどは全くありませんでした。
このリンクをクリックすると音源再生できます。

ダニエレ・ガッティ/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

ガッティ★★★
一楽章、三連符を急がずに正確に演奏するトランペット。控え目なトウッティ。感情の込められた主要主題。マイクポジションのせいか、同じオケでもアバドの演奏の時の吹きまくるような金管ではありません。ゆったりとテンポも動きながら変奏される主要主題。第一トリオに入る前には少し間を空けました。主要主題はたっぷりとしていますが、トウッティはあっさりと淡白で涼しげな演奏です。第二トリオもあっさりとした表現です。

二楽章、非常に遅い序奏。ヴァイオリンの第一主題も遅く、マーラーの「最大の激烈さを持って」の指定とはいささか違う演奏になっています。第二主題はこの遅さがとても良い効果を出しています。とても微妙な表現もなかなか良いです。展開部の序奏でも金管はあまり前には出てきません。弱音部の静寂感はすごくあります。チェロの途切れがちの音型も微妙な歌があってなかなか聞かせます。再現部に入っても金管の強奏は意識して避けているような感じがします。金管のコラールもトランペットがヴェールをかぶったような控え目な響きです。最後もゆったりとしたテンポで刻み込むように弱音部を強く印象付ける演奏でした。

三楽章、奥まったところで響くホルン。アゴーギクを効かせたり、テンポを大きく動かして表現するようなことはありませんが、僅かにテンポを動かして微妙な表現をします。第二主題でも途中で少しだけ間を開けて歌いました。ガッティの演奏は弱音部がとても美しいのが特徴です。展開部へ入ってもオケは全開にはなりません。全体的に遅めのテンポでがなりたてることはなく、優雅な演奏です。コーダに入って急激にテンポを速めました。

四楽章、この楽章は少し速めのテンポです。弦は清涼感のある美しい響きですが夢見るような優しさではありません。とても現実的な音楽です。ここまでの楽章で弱音がとても良かったので、この楽章には期待したのですが、ちょっと裏切られたような感じがします。

五楽章、序奏でもテンポが動いています。再現部の前で急激にテンポを上げましたが、クライマックスはやはり抑えた感じで、金管が突き抜けてはきません。コーダも美しいクライマックスでした。最後はゆっくりとしたテンポから時間をかけてテンポを速めて行きました。

弱音部分は総じて美しい演奏でしたが、トゥッティの爆発が無く欲求不満になるような演奏でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

クラウディオ・アバド/ルツェルン・祝祭管弦楽団 2004年

icon★★★
一楽章、力強いファンファーレからこれまた力強いトゥッティ。注意深く、弱音で開始される主要主題。二度目のファンファーレは輝かしく艶のある響きでした。第一トリオはかなり余裕を持って演奏しています。そっと撫でるように柔らかく一体感のある第二トリオ。最後のファンファーレの前のトゥッティは巨大な響きでした。いつものアバドの演奏と同じく、極端な表現は無く、流れの良い演奏で、楽譜に書かれていることをストレートに表現しています。

二楽章、大きく暴れることの無い、落ち着いた序奏。第二主題もほとんど歌いません。展開部は序奏よりもフワッとした響きで柔らかい演奏でした。第二主題はとても静寂感があり、集中力の高さを感じさせます。とても美しい演奏なのですが、流れが良すぎて音楽の起伏があまり大きくなく、模範演奏を聴いているような退屈な感じがあります。

三楽章、無表情に演奏される第一主題。弱音でとても美しく演奏される第二主題。世界中から名人を集めただけのことはあり、響きはとても美しいですが、内面に深く迫って来るような演奏ではありません。ホルンも伸び伸びと鳴り響きます。

四楽章、弱音の美しさはこの演奏で特筆すべき点です。淡々と非常に美しい演奏が続きますが、どうしても演奏に浸ることができません。

五楽章、この楽章の冒頭は僅かにテンポが動いて歌いました。この楽章は今までの演奏とは違い楽しそうに歌っています。テンポも動いてとても有機的な音楽です。普段はあまり聞かれない、対旋律を強調したりして、この作品の違う一面を聴かせてくれます。表情も引き締まって、これまでの楽章の演奏とはかなり違います。トゥッティでの輝かしい響きもすばらしいです。

フィナーレはすばらしい演奏でした。しかし、そこまで至る楽章の燃焼度が低く無表情で、ただ美しく流れてしまったのが残念でした。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

ジョルジュ・プレートル/RAI国立交響楽団

プレートル★★☆
一楽章、詰まった三連符のファンファーレ。ゆったりとしたテンポで歌う主要主題。第一トリオはその前の静寂を破るようにダイナミックで激しい演奏です。主要主題には独特の節回しがあります。第二トリオの後怒涛の頂点でした。

二楽章、意外と柔らかい序奏。第一主題の周りを彩る楽器が激しい演奏をしました。静かな第二主題ですが、ここでも周りの楽器がとても主張します。展開部の序奏の動機はホルンも激しく、冒頭の柔らかさとは違いました。第二主題はゆっくりと静かに演奏されます。コラールは金管があまり前に出てこなくて、あまり輝かしい響きではありませんでした。

三楽章、楽しそうな第一主題。穏やかに歌う第二主題。多くの方が絶賛されているプレートルのマーラーですが、私には中途半端な演奏に聞こえてしまいます。深く感情移入するわけでもなく、また明晰な演奏でもなく、色彩感が豊かなわけでもなく、振幅の激しい演奏でもないので、何が良さなのか分かりません。

四楽章、消え入るような弱音から始まりました。夢見るような遥か彼方の世界へいざなってくれるような演奏です。テンポも動いて愛を深く表現しています。中間部はかなり現実世界へ引き戻された感じの演奏になります。次第に遠ざかって終りました。

五楽章、速いテンポの第一主題。第二主題もそのままのテンポで速めです。奥行き感が無く浅い音場感です。途中、テンポを落とす部分もありました。クライマックスでもオケを爆発させることは無く、抑制の効いた演奏です。コーダの前のクライマックスはテンポを落として大きな表現ですがやはりオケの絶叫は無く、かなり余裕のある演奏でした。

私には、プレートルの主張があまり分かりませんでした。何となく漫然と流れているような感じがしてしまいました。
このリンクをクリックすると動画再生ができます。

ヴァレリー・ゲルギエフ/ワールド・オーケストラ・フォア・ピース

icon★★
一楽章、輝かしいトランペットのファンファーレ。感情を内に込めたような抑えた表現の主要主題。脱力しているような穏やかな演奏です。トゥッティでもエネルギーを爆発させるような表現はありません。第二トリオも非常に静かです。穏やかで、静かな演奏でした。

二楽章、序奏も荒れ狂うような表現ではありません。第一主題はマットな響きでした。第二主題も非常に穏やかです。展開部は少しエネルギー感がありました。チェロの途切れがちの音型もとても静かでした。再現部でも第一主題に割って入るような金管を極力抑えているようで、マーラーの多彩なオーケストレーションを殺しているようにも感じます。違った見方をすれば、これまでの演奏様式とは全く違ったアプローチをしているとも言える演奏なのかも知れません。

三楽章、篭ったようなホルンの音で始まりました。木管の第一主題も感情を込めて歌うということはありません。展開部に入ってからも金管が絶叫するような場面は皆無です。テンポが動いたりアゴーギクを効かせるということもありません。コーダでやっと全開に近い音が聴けました。

四楽章、速いテンポであっさりと始まりました。音楽の深みに入り込んでは行かず、表面をなぞっているような感じがします。

五楽章、この楽章でもテンポもほとんど動かず、オケのエネルギーを抑えた演奏が続いています。

とてもあっさりした演奏でした。私には、ゲルギエフが意図したものは理解できませんでした。
このリンクをクリックすると動画再生できます。

リボール・ペシェク/チェコ・ナショナル交響楽団

icon★★
一楽章、柔らかい表現のファンファーレ。主要主題の前はスタッカートぎみの演奏でした。二度目のファンファーレの後の主要主題は速めのテンポです。第一トリオはそんなに激しくはなく、大人しい冷静な演奏です。第二トリオは静寂な演奏でしたが、心に迫ってくるものは感じませんでした。

二楽章、音が短く詰まり気味に聞こえる金管の序奏。音がとても浅いところから出ているように感じる第一主題。非常に静かな第二主題。第二主題は美しく歌いました。展開部の第二主題も静寂感があり美しい演奏でした。再現部でも首が締ったような苦しい音のトランペットが気になります。

三楽章、ちょっと乱暴な感じを受ける冒頭のホルン。スタッカートが強調されている木管の第一主題。第二主題は美しいです。弦楽器を主体にした弱音部はとても美しいのですが、トゥッティでは固くなっているようなノイズを含んだような響きの浅い硬直した演奏になってしまいます。スタッカートが多用されています。ウッドブロックのようなホルツクラッパー。再現部のテンポは速いです。

四楽章、弦の息遣いがとても心地よい美しい演奏です。ゆっくりと揺られるような心地よさ。さすがにチェコの弦と言われるだけのことはあります。

五楽章、ここのホルンも非常に音を短く演奏します。テンポの速い第一主題には、抑揚が付けられています。ホルンの音が短く変にアクセントを付けたりするので、幼稚な演奏に聞こえます。クライマックスのトランペットの浅い響きにはがっかりさせられます。

基本的には客観的に作品のありのままを再現した演奏だったと思いますが、弱音の弦の美しさに対して、金管の強奏部分が全く魅力の無い響きだったのがとても残念です。また、ホルンが短く音を切って演奏した部分も不自然でした。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

ヘルマン・シェルヘン/フランス国立管弦楽団

シェルヘン
一楽章、さらっとしたテンポであっさりと進むファンファーレ。第一トリオもすごく速いテンポで駆け抜けます。ホルンも早いパッセージはかなり怪しい。こんなに速いテンポの演奏は初めてです。第二トリオもすごく速いです。緩急の差はかなりあって、テンポを落とすところでは、しっかりとテンポを落として演奏しています。

二楽章、この楽章も異常に速いです。一転して第二主題はゆっくりとしたテンポで歌います。展開部に入ると突然、最初のテンポになりますが、かなりテンポ設定に無理があるように感じます。ここの第二主題も遅いテンポでたっぷりと歌います。再現部の第二主題は速いテンポのまま進みます。金管のコラールも速いテンポで、ちょっと滑稽な感じさえします。テンポの動きは非常に大きく、シェルヘンの感情のままに演奏されているようです。

三楽章、この楽章もかなり速いです。第二主題は非常に遅いです。この演奏は設計などは無く、シェルヘンの感情の赴くままに演奏されているような感じです。大胆なカットがあって、ホルツクラッパーの登場も無く、アッと言う間に終わりました。

四楽章、一転して非常に感情のこもった丁寧な演奏です。テンポも遅く、作品を慈しむような感じを受けます。透明感があって涼やかな演奏です。中間部はややテンポを速めたようですがそれでも揺れ動くような濃厚な表現です。

五楽章、ゆったりとした序奏ですが、第一主題に入るとまた速いテンポです。テンポは速いですが、豊かな表現です。この楽章も大胆なカットがあります。コラールの前は少しせわしない印象でした。

四楽章は非常に美しい演奏でよかったのですが、ほかの楽章はすごく速いテンポの演奏に違和感を感じました。また、大胆なカットもちょっと・・・・と言う感じです。
このリンクをクリックすると音源の再生ができます。

巨匠たちが残したクラシックの名盤を試聴したレビュー ・マーラー:交響曲第5番の名盤を試聴したレビュー